White Mountaineering(ホワイトマウンテニアリング)

DOMESTIC BRAND

ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)は、2006年にデザイナーの相澤陽介によって設立された、日本を代表するファッションブランドです。ブランドコンセプトに掲げる「服を着るフィールドは全てアウトドア」という言葉の通り、都市生活における洗練されたデザインと、過酷な自然環境にも耐えうる圧倒的な機能性を高次元で融合させています。

ヘルムート・ラングがかつてナイロン素材をモードに持ち込み、ジュンヤ ワタナベがワークウェアを再構築したように、ホワイトマウンテニアリングは「アウトドア」というカテゴリーを、現代的な知性と技術によって再定義しました。単なる「山登りのための服」ではなく、アスファルトの上でも、雪山の中でも、着る人のスタイルを際立たせるその美学は、世界中のファッショニスタから熱烈な支持を得ています。ここでは、このブランドが築き上げた「アーバン・アウトドア」の深層を詳述します。


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1. 相澤陽介の軌跡:コム デ ギャルソンから独自の山頂へ

ホワイトマウンテニアリングの成功を語る上で、デザイナー相澤陽介が歩んできたキャリアを欠かすことはできません。彼は、日本のファッション界の巨星たちの傍らで、その哲学を自らの血肉としてきました。

  • ジュンヤ ワタナベの愛弟子として多摩美術大学を卒業後、相澤はコム デ ギャルソンに入社しました。そこで彼は、ジュンヤ ワタナベ・マン(Junya Watanabe MAN)の立ち上げに携わり、パタンナーとしての技術を磨きました。「既存の服を解体し、新しい価値を吹き込む」という渡辺淳弥のストイックな姿勢は、後のホワイトマウンテニアリングの「複雑なパターンメイキング」と「素材への執着」に多大な影響を与えました。
  • ブランドの誕生:市場にないものを求めて2006年に独立した相澤が求めたのは、自分が本当に着たいと思える、機能的でいて美しい服でした。当時のアウトドアウェアは、機能性は高くてもデザインが野暮ったいか、あるいはデザインが良くても機能性が不十分なものが大半でした。彼はその「隙間」を埋めるべく、自らのブランドを始動させました。

2. 三柱の哲学:Design, Utility, Technology

ホワイトマウンテニアリングのすべてのプロダクトは、「Design(デザイン)」「Utility(実用性)」「Technology(技術)」という3つの要素が完璧なバランスで保たれています。

  • Design:複雑なパターンの幾何学美ホワイトマウンテニアリングの服を一目見て気づくのは、そのカッティングの複雑さです。複数のパネルがパズルのように組み合わされたパターンは、単なる装飾ではなく、身体の動きを極限までスムーズにするために設計されています。この「機能から生まれる幾何学的な美しさ」は、他のどのアウトドアブランドにも真似できない特筆すべき点です。
  • Utility:フィールドを選ばない汎用性彼らが考えるアウトドアとは、エベレストに登ることだけではありません。雨の日の通勤、風の強い公園での散歩、そして週末のキャンプ。あらゆる「外」の環境において、ストレスなく過ごせるための工夫が随所に施されています。ポケットの配置、ジッパーの操作性、そして着脱のしやすさ。これらすべてが、日常をより快適にするための「道具」として機能しています。
  • Technology:最先端素材の実験場ゴアテックス(GORE-TEX)をはじめ、プリマロフトやコーデュラなど、世界中の最先端素材を惜しみなく投入します。しかし、相澤はそれらの素材を単に使うだけでなく、独自のジャガード織りや特殊なプリント技術と組み合わせることで、素材そのものに「新しい表情」を与えます。ハイテク素材が持つ無機質な印象を、ファッションの温もりへと変換する技術こそが、ブランドの真骨頂です。

3. 独自のテキスタイル:ジャガードとプリントの魔術

ホワイトマウンテニアリングを語る上で、オリジナルのテキスタイル(生地)は避けて通れません。

  • 民族的モチーフと現代性の融合ブランドのアイデンティティの一つに、ノルディック柄やネイティブ・アメリカンのパターンを現代的に解釈したジャガードニットがあります。これらは、山を愛する人々の歴史への敬意でありながら、都会の風景にも馴染むモダンな色彩で表現されています。
  • デジタル・カモフラージュの先駆カモフラージュ(迷彩)柄も、ブランドが長年進化させてきた要素です。植物の葉や幾何学模様を組み合わせた独自のカモフラージュは、アウトドアの文脈を持ちながらも、ストリートにおける強烈なアイデンティティとして機能します。

4. 広く世界を繋ぐコラボレーション

ブランドの知名度を世界的に押し上げたのは、数々の強力なコラボレーションです。

  1. Adidas TERREXとの共演スポーツブランドの王者アディダスとの長年にわたるパートナーシップは、ACGと並ぶテックウェアの指標となりました。アディダスの持つ膨大なアーカイブと、相澤の緻密なデザインが融合したコレクションは、スニーカー愛好家からも絶大な支持を得ています。
  2. Moncler Wモンクレールのハイエンドライン「Moncler W」のデザイナーを務めたことは、相澤の才能が世界最高峰のラグジュアリー界でも通用することを証明しました。ダウンジャケットにニットの質感を融合させるなどの革新的な試みは、現在の高級ダウン市場の礎となりました。
  3. UNIQLOとの民主的なデザインユニクロとのコラボレーションは、ホワイトマウンテニアリングの美学をより広い層へと届けました。ハイブランドの設計思想をそのままに、誰もが手に取れる価格で提供したこのプロジェクトは、日本における「テックウェアの普及」に多大な貢献をしました。

5. ヘルムート・ラングやジュンヤ ワタナベとの対比

本サイトで紹介している他のミニマル・ブランドと比較すると、ホワイトマウンテニアリングの立ち位置は非常に「高密度」です。

ヘルムート・ラングが冷徹なまでの知性と抑制を、ルメールがパリの詩的な静寂を追求しているとすれば、ホワイトマウンテニアリングは「情報量と機能の集積」を追求しています。ラングの服が都市という戦場へ向かうための鋭い武器であり、ルメールの服が穏やかな内省のための背景であるなら、ホワイトマウンテニアリングの服は、地球というフィールドを遊び尽くすための「高度な装備」です。

しかし、共通点もあります。それは「嘘のない素材選び」です。相澤は、ジュンヤ ワタナベから学んだ「モノ作りへの誠実さ」を失っていません。どれほど複雑なパターンの裏側にも、職人による確かな縫製と、過酷なフィールドテストに基づいた裏付けが存在します。この「技術への信頼」こそが、装飾的なファッションとは一線を画す、ブランドの真の価値なのです。


6. ホワイトマウンテニアリングの遺産:未来のアウトドアへ

ホワイトマウンテニアリングがファッション界に遺している最大の功績は、「アウトドアウェアを、単なる実用品から、高度な知性を持つファッションへと昇華させたこと」です。

現在、ファッション業界では「ゴープコア」や「テックウェア」といった言葉が一般的になりましたが、相澤陽介は20年以上も前から、その最前線を走り続けてきました。彼は、服をデザインすることを通じて、私たちの「自然との関わり方」そのものをデザインしていると言えます。

ホワイトマウンテニアリングのアイテムを身に纏うことは、自分の中に眠る冒険心と、現代的な知性を同時に肯定することです。雨の日の街歩きが、ゴアテックスの一枚によって冒険へと変わり、ジャガードニットの温もりが、都会の寒さを豊かな時間へと変えてくれる。

流行が去り、喧騒が静まった後も、あの精緻なパターンと、力強い素材感は、私たちの生活の道具として残り続けるでしょう。それは、相澤陽介が服に込めた「Design, Utility, Technology」という三柱の哲学が、時代を超えて普遍的な価値を持っているからです。

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