Chloe(クロエ)

IMPORT BRAND

クロエ(Chloe)は、1952年にギャビー・アギヨンによってパリで設立された、フランスを代表するラグジュアリー・メゾンです。このブランドがファッション史において果たした最大の功績は、それまで主流だった堅苦しい「オートクチュール(高級仕立服)」の時代に終止符を打ち、高品質な既製服である「ラグジュアリー・プレタポルテ」という概念を世界で初めて提唱したことにあります。

ヘルムート・ラングやルメール、スタジオニコルソンがミニマリズムや機能性の純粋さを追求する一方で、クロエが追求し続けてきたのは、女性の解放と、自由でロマンティックな精神性です。重苦しい構造から女性の身体を解き放ち、軽やかでエレガント、かつ「エフォートレス(努力を要しない)」な美しさを提示するクロエのスタイルは、設立から70年以上が経過した今もなお、世界中の女性たちの憧れであり続けています。ここでは、歴代の天才デザイナーたちが紡いできたクロエの華麗なる歴史と、そのデザイン哲学について圧倒的なボリュームで詳述します。


スポンサーリンク

ギャビー・アギヨンの革命:プレタポルテの誕生

クロエの物語は、エジプト生まれのパリジェンヌ、ギャビー・アギヨンの自由な発想から始まりました。1950年代初頭のパリ・ファッション界は、クリスチャン・ディオールの「ニュールック」に代表されるような、コルセットで締め付けられた窮屈なオートクチュールが支配していました。

  1. 自由を求めた名前の選択ギャビーは、自身の名前ではなく、友人の名前である「クロエ」をブランド名に選びました。そこには、デザイナーの個性を押し付けるのではなく、女性たちが自分らしく、温かみのあるスタイルを楽しんでほしいという願いが込められていました。また、「クロエ」という響きが持つ、春の芽吹きのような若々しさと柔らかさも、ブランドの方向性を象徴していました。
  2. プレタポルテという新しい選択肢彼女は、オートクチュールのような完璧な仕立てを持ちながら、その場で購入してすぐに着ることができる、高品質な既製服のラインを発表しました。1956年にパリの老舗カフェ「カフェ・ド・フロール」で披露された最初のコレクションは、当時のファッションの常識を覆し、働く女性や知的な若者たちから絶大な支持を得ました。この「プレタポルテ」の確立により、クロエは現代ファッションの基礎を築いたといっても過言ではありません。

歴代デザイナーたちが描いた「クロエ・ガール」の変遷

クロエの魅力は、創業者の精神を継承しつつも、その時代の空気感を反映した個性豊かなデザイナーたちがブランドをアップデートし続けてきた点にあります。

カール・ラガーフェルドの黄金時代(1960年代 – 1980年代)

1960年代から20年以上にわたってクロエを支えたのが、若き日のカール・ラガーフェルドでした。彼は、クロエに「ボヘミアン・ロマンティシズム」というDNAを刻み込みました。流れるようなシルクのドレス、繊細なレース、そして自由奔放なレイヤードスタイル。彼が描いたクロエ・ガールは、知的でありながらも遊び心を忘れない、当時の自由な空気感を体現するアイコンとなりました。

ステラ・マッカートニーとフィービー・ファイロ(1990年代 – 2000年代)

1997年、わずか25歳のステラ・マッカートニーがクリエイティブ・ディレクターに就任すると、クロエは爆発的な人気を博しました。彼女は、ヴィンテージの要素とロンドンらしいエッジ、そしてストリートの感覚をミックスし、より若々しくセクシーなクロエ・ガールを定義しました。

2001年に後を引き継いだフィービー・ファイロは、クロエを「世界で最も欲しいブランド」へと押し上げました。彼女が生み出した、マスキュリンな要素とフェミニティを融合させたスタイルや、伝説的な「パディントン」バッグは、現在も語り継がれるITバッグ・ブームを巻き起こしました。

現代:ガブリエラ・ハーストからシェミナ・カマリへ

近年、ガブリエラ・ハーストは、ラグジュアリー・ブランドとしていち早く「B Corp(社会や環境に配慮した企業)認証」を取得するなど、エシカルでサステナブルなラグジュアリーを追求しました。そして2024年、新たに就任したシェミナ・カマリは、クロエの原点である1970年代のボヘミアン・シックを現代的にリバイバルさせ、2026年の現在においても「最も注目すべきトレンド」として世界中を熱狂させています。


デザイン哲学:エフォートレス・フェミニティ

クロエのデザインを貫くのは、常に「女性が自由であること」です。

  1. 身体を解放するシルエットクロエの服には、不自然な締め付けがありません。ふんわりとしたパフスリーブ、流麗なAライン、ゆったりとしたシルクのブラウス。これらは、女性の身体を美しく見せると同時に、最大限の快適さを提供します。この機能性と審美性の融合は、ヘルムート・ラングやルメールのファンが好む「知的な実用性」とも共通する部分があります。
  2. ニュアンスのあるカラーパレットクロエが愛するのは、砂漠のようなベージュ、柔らかなエクリュ、そして「ローズ・ポドレ」と呼ばれるくすんだピンクといった、自然界にある温かい色彩です。これらの色は、着る人の肌を明るく見せ、周囲に優しく自立した印象を与えます。
  3. クラフトマンシップへの敬意一見、軽やかに見えるドレスの裏側には、フランスの伝統的なレース技術や、繊細な刺繍、高度なドレーピング技術が隠されています。クロエの服が持つ「高級感」は、声高に主張するものではなく、細部に宿る職人の手仕事によって証明されています。

時代を彩るアイコニックなアイテム

クロエは、アパレルだけでなく、バッグやシューズにおいても数々の歴史的名作を生み出してきました。

・ パディントン(Paddington)バッグ

2005年に発表された、大きな南京錠(パドロック)が特徴のバッグ。発売前に予約だけで完売するという伝説を作り、現代のバッグ・デザインの歴史を塗り替えました。

・ マーシー(Marcie)バッグ

馬蹄のようなステッチが施された、70年代のフォークロアを感じさせるデザイン。2010年の発表以来、クロエの永遠のスタンダードとして、多くの女性に愛され続けています。

・ ウッディ(Woody)トート

ロゴがプリントされたリボンが特徴的なキャンバストート。カジュアルさと上品さを兼ね備えたこのバッグは、現代のライフスタイルに寄り添う「新しいラグジュアリー」の象徴となりました。

・ スザンナ(Susannah)ブーツ

スタッズを贅沢にあしらったアンクルブーツ。ボヘミアンなドレスにこのブーツを合わせるスタイルは、クロエ・ガールの制服とも言えるアイコン的な着こなしです。


ヘルムート・ラングやルメールとの対比:美学の交差

本サイトで紹介している他のブランドと比較すると、クロエの立ち位置は非常に「情緒的」です。

ヘルムート・ラングが冷徹な知性を、ルメールが静謐な日常を追求しているのに対し、クロエは「高揚感のある自由」を追求しています。ラングの服が都市というジャングルを生き抜くための装備であり、ルメールの服が知的な内省の背景であるなら、クロエの服は、自分自身の感情を解放し、風を感じて歩くための衣装です。

しかし、両者には深い共通点があります。それは「自立した女性像」の提示です。クロエの服を纏う女性は、誰かに守られる存在ではなく、自分の感性を信じ、自由を愛し、主体的に生きる女性です。装飾を排したミニマリズムの対極にあるようでいて、その根底にある「個の尊重」というテーマにおいて、クロエは他の革新的なブランドと同じ地平に立っています。


クロエの遺産と未来への展望

クロエがファッション界に遺している最大の功績は、ラグジュアリーという概念を「特権階級の特注品」から「自由を求めるすべての女性の日常着」へと開放したことにあります。

現在、ファッション業界では環境負荷の低減が大きな課題となっていますが、クロエはいち早くこの問題に取り組み、素材の透明性や生産工程の改善をリードしています。ギャビー・アギヨンが抱いた「自由への願い」は、現代においては「地球環境の自由と持続可能性」という形に進化し、ブランドの新しい使命となっています。

クロエのアイテムを身に纏うことは、自分の中にあるロマンティックな精神を肯定し、自由でいることを選ぶという宣言です。ふわりと揺れるシルクの裾、手に馴染む上質なレザー。クロエは、私たちの日常をより軽やかに、より美しく彩り続けてくれるでしょう。

流行が去り、時代が変わっても、風になびく長い髪とクロエのドレスが描くシルエットは、自由を愛する人々の記憶の中で永遠に輝き続けるはずです。

タイトルとURLをコピーしました