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北欧家具の選び方 — ヒュッゲと機能美が宿る名作と素材選び

北欧家具の選び方 — ヒュッゲと機能美が宿る名作と素材選び

北欧家具という言葉を聞いて思い浮かべるのは、淡い木肌のチェア、すらりと伸びた脚、過剰な装飾をそぎ落とした輪郭、そして冬の長い夜を温める間接照明だろうか。デンマーク語の「ヒュッゲ(hygge)」は、居心地のよい時間と空間そのものを指す言葉として知られているが、その精神は北欧の家具づくりに深く刻まれている。冬が長く、家で過ごす時間が圧倒的に多い北の国々では、家具は単なる道具ではなく、暮らしの質を決める同居人のような存在だ。

本稿では、北欧家具を選ぶうえで知っておきたい四つの国の流儀と、避けて通れない名作チェア、そしてオークやビーチといった木材選びの視点を編集部目線で整理する。価格帯はリプロダクションから正規ヴィンテージまで幅広く、入り口の作り方ひとつで暮らしの印象は大きく変わる。「どれを買うか」よりも「どう選ぶか」を持ち帰ってもらえるような構成を目指したい。

北欧家具の哲学 — 自然・民主性・機能美の三層構造

北欧家具を理解するうえで欠かせないのが、自然・民主性・機能美という三つのキーワードだ。まず自然について。スカンディナヴィアの森林資源は豊かで、家具に使われる樹種もオーク、ビーチ、バーチ、パイン、チーク(輸入材)と多彩である。長く厳しい冬と短い夏という気候は、木材をゆっくり育て、年輪を細かく詰まらせる。結果として、しなやかさと強度を兼ね備えた素材が生まれ、薄く削ぎ落とした成形合板や繊細なスピンドルといった意匠が成立する土壌になった。

次に民主性。北欧諸国は二十世紀半ばに福祉国家としての性格を強め、デザインも「一部の富裕層のためのもの」から「市民の暮らしを底上げするもの」へと舵を切った。デンマークの建築家カーレ・クリント(Kaare Klint)が王立芸術アカデミーで人間工学的な寸法研究を進めたこと、スウェーデンで「美しき日用品(vackrare vardagsvara)」という標語が掲げられたこと、フィンランドのアルヴァ・アアルト(Alvar Aalto)が公共建築から家具まで一貫して設計したこと。いずれも「暮らしの道具をいかに広く、いかに上質に届けるか」という同じ問いに向き合っていた。

そして機能美。北欧家具に共通するのは、機能を満たした結果として現れる美しさである。装飾のための装飾はほとんど見られない。座面の角度、背もたれの曲線、脚の太さ、すべてが「座る」「置く」「組み合わせる」という用途から逆算されている。だからこそ、数十年単位で使い続けても古びにくく、住まいの様式が変わっても馴染んでくれる。価格に対する「長期コスパ」という発想で家具を選びたい人にとって、北欧家具は理にかなった選択肢になる。

座面の角度、背もたれの曲線、脚の太さ、すべてが「座る」「置く」「組み合わせる」という用途から逆算されている。

デンマーク — Carl Hansen & Søn と Wegner のYチェア

デンマークは北欧家具のなかでも特に「家具大国」として語られる国だ。ハンス・J・ウェグナー(Hans J. Wegner)、フィン・ユール(Finn Juhl)、アルネ・ヤコブセン(Arne Jacobsen)、ボーエ・モーエンセン(Børge Mogensen)、ポール・ケアホルム(Poul Kjærholm)といった巨匠が二十世紀半ばに同時多発的に活躍し、いまも世界中のインテリア誌の表紙を飾り続けている。

そのデンマーク家具の入り口として象徴的なのが、Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)が一九五〇年から生産を続ける「CH24」、通称Yチェアだ。ウェグナーが中国・明代の椅子から着想を得てデザインしたといわれ、背もたれのY字フレームと、職人がペーパーコードを手で編み上げる座面が最大の特徴である。約一二〇メートルのコードを一脚あたり一時間ほどかけて編む工程は、機械化が難しく、いまも熟練の手仕事に支えられている。

Yチェアの魅力は、軽さと丈夫さの両立にある。座面高は四五センチ前後と日本人の体格にも合いやすく、ダイニングテーブルとの相性が良い。素材はオーク、ビーチ、ウォルナット、チェリーなどから選べ、仕上げもオイル、ソープ、ラッカー、塗装と幅広い。ソープフィニッシュは経年でやさしく色づき、ヴィンテージのような表情を育てやすい。リプロダクションも市場に多く出回るが、フレームの座り心地と編みの均一性は正規品と差が出やすい部分なので、長く付き合うなら型番の刻印とシリアルを確認したい。

デンマーク モダン — Fritz Hansen と Jacobsen のエッグチェア

同じデンマークでも、Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)の系譜はやや異なる表情を持つ。創業は一八七二年、ウェグナーが手仕事の延長で名作を生み出していた時期に、Fritz Hansenは成形合板の量産技術を磨き、モダン家具の工業化を牽引した。とりわけアルネ・ヤコブセンとの協業で生まれた「アントチェア」「セブンチェア」「エッグチェア」「スワンチェア」は、二十世紀デザイン史を語るうえで外せない作品群だ。

その中でも、エッグチェア(Egg™)は一九五八年に発表された。ヤコブセンがコペンハーゲンのSASロイヤルホテルを総合設計した際、ロビーで宿泊客のプライバシーを守るために生み出された一脚で、卵の殻のように人を包み込むシルエットが特徴である。当時としては革新的だった硬質ウレタンフォームと布張りの組み合わせにより、立体的な曲面と座り心地を両立させた。スイベル機構を備え、足元には四つ又のスター脚が伸びる。

エッグチェアはホテルやオフィスのラウンジで採用されることも多いが、家庭のリビングに一脚だけ置く使い方も洗練されている。リーディングチェアとしてフロアランプと組み合わせれば、長い夜を過ごす読書スペースに変わる。レザーとファブリックでは表情がまったく違い、レザーは経年でツヤを増し、ファブリックは色のバリエーションで遊びやすい。本格的に検討するなら、座面のクッションが交換可能であることや、生地張り替えのサポートが続いている点も評価したい。

フィンランド — Aalto と Artek の「曲げる」発明

フィンランドの家具を語るときに必ず登場するのが、建築家アルヴァ・アアルトと、彼が一九三五年に妻アイノ、美術史家ニルス=グスタフ・ハール、芸術収集家マイレ・グリクセンとともに設立したArtek(アルテック)である。Artekは「Art(芸術)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語で、芸術と工業を切り離さずに統合するという理念が、そのまま社名になっている。

アアルトの代表的な発明が、L字脚(L-leg)と呼ばれる成形合板の脚部だ。バーチ材を蒸して曲げ、座面の裏に直接ネジ留めできるシンプルな構造によって、Stool 60(スツール60)やChair 66、Tea Trolley 901といった名作が生まれた。Stool 60は一九三三年の発表以来、構造をほぼ変えずに生産が続いており、三本脚で省スペース、座面を取れば飾り棚にもなる多用途性が魅力である。北欧家具のなかでも比較的手の届きやすい価格帯で、入り口としても優秀だ。

フィンランドの家具は、デンマークの彫刻的な曲線とは少し性格が異なり、直線と緩やかなカーブが共存するプロダクトデザイン寄りの表情を持つ。素材はバーチ材が中心で、淡い色味と素直な木目が空間を明るく見せてくれる。テキスタイル分野ではマリメッコ(Marimekko)が一九五一年に創業し、Artekの家具と組み合わせるとフィンランド的なインテリアの定型ができあがる。住まいに余白を確保したい人や、北欧家具をまず一台試したい人には、Stool 60から始める入り方をすすめたい。

スウェーデン — IKEA と「民主的デザイン」の射程

スウェーデンの家具について話すとき、IKEA(イケア)を外して語ることは難しい。一九四三年にイングヴァル・カンプラードが文房具と家具の通信販売事業として創業したIKEAは、フラットパック輸送と組み立て式構造によって、世界の家具流通を塗り替えた。現在は世界四〇カ国以上に店舗を持ち、毎年カタログ的な役割を果たすウェブサイトと店舗体験を通して「民主的デザイン(Democratic Design)」を提唱している。

IKEAが掲げる民主的デザインは、フォルム、機能、品質、サステナビリティ、低価格の五つの軸で家具を評価する考え方だ。Carl Hansen & SønやFritz Hansenの一脚が数十万円のオーダーであるのに対し、IKEAのソファやチェアは数万円から手が届く。価格の桁が違うからこそ「妥協」と捉えられがちだが、近年は素材リサイクル比率の引き上げや、長く使えるカバー交換式ソファ(KIVIK、SÖDERHAMNなど)の充実が進み、単なる安さの代名詞ではなくなりつつある。

北欧家具を本格的に揃えていくときも、IKEAは賢い使い方ができる。たとえばダイニングは名作チェア+無垢材テーブル、ソファとTV台と収納はIKEAで揃え、ファブリックや照明で世界観を統一する。あるいは賃貸の最初の一台としてIKEAのソファを使い、数年後に北欧ブランドのチェアやサイドテーブルを足していく。完璧に揃え切ろうとせず、段階的に育てていく姿勢が北欧家具とは相性がよい。

木材の選び方 — オーク・ビーチ・ローズウッドの違い

北欧家具を選ぶうえで意外に見落とされがちなのが、樹種の違いがもたらす表情だ。同じYチェアでも、オークとウォルナットでは部屋に与える印象がまったく異なる。代表的な樹種の特徴を整理しておきたい。

オーク(楢)は、北欧家具の現代スタンダードと呼んでよい樹種だ。木目がはっきりとし、淡いベージュから黄味のある色味で、空間を明るく広く見せる。硬度が高く傷に強いため、ダイニングチェアやテーブル天板に向く。ビーチ(ブナ)はオークよりさらに淡く、木目が控えめで均一なため、量産家具やStool 60のような工業的プロダクトに多用される。柔らかい印象を出したいときに有効だ。

ウォルナット(クルミ)は深いチョコレートブラウンで、落ち着きと高級感が際立つ樹種である。アメリカ産のブラックウォルナットが主流で、ヴィンテージのフィン・ユール作品にも見られる。チェリーは時間とともに赤みを増し、十年単位で表情を育てる楽しみがある。そしてローズウッド(紫檀類)は、一九六〇年代までデンマーク家具を代表する高級材として珍重されたが、ワシントン条約(CITES)の規制対象になって以降、新規流通は厳しく制限されている。ヴィンテージ市場でローズウッド製品を見かけたら、輸出入の合法性を販売店に確認することが前提となる。

部屋全体の樹種を一種類に統一する必要はないが、二〜三種類に絞ると空間の落ち着きが格段に増す。床がオークなら家具もオークで揃えるのが最も安定するが、あえてウォルナットを一台差し込んで重心を作るのも有効だ。

編集部総評 — 一台目に何を選ぶか

北欧家具の世界は広大で、ブランドも名作も語り尽くせない。それでも一台目を選ぶときに編集部が手がかりにしているのは、「毎日座るか」「十年使うか」「他の家具と喧嘩しないか」というシンプルな問いだ。毎日座るならYチェアやセブンチェアのようなダイニングチェア、十年使うなら樹種と仕上げに少しだけ予算を上乗せして正規品を選ぶ、他の家具と喧嘩しないようまずは樹種を二種類以内に絞る。この三つを守るだけで、衝動買いの失敗は大きく減らせる。

北欧家具と相性のよい空間づくりについては、デザイナーズ住宅と家具選びの考え方や、ミラノ的なアパートメント・スタイルの記事も合わせて参照してほしい。家具単体ではなく、住まい全体の文法として北欧家具を捉え直すと、選び方の解像度がもう一段上がるはずだ。

編集方針について — この記事は GUZ FASHION 編集部のINTERIORカテゴリの編集方針に沿って制作されています。

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