マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)は、ファッション界において極めて革新的で影響力のあるデザイナーです。彼のキャリアは多くの時代にわたっており、その独自のアプローチは、ファッションの美学と実践に深い変革をもたらしました。この記事では、マルジェラのキャリアを年代ごとに追い、各時代の代表的なコレクションや重要な出来事を紹介します。
Martin Margiela の歴史
1980年代:デビューと初期のキャリア
1957年にベルギーで生まれたマルジェラは、アントワープ王立芸術学院でファッションを学びました。彼は、1980年代初頭に卒業し、すぐにパリに渡り、ジャン=ポール・ゴルチエの下で働くようになります。この時期、彼はゴルチエから多くの影響を受け、ファッションの概念を解体し、再構築するスタイルの基盤を築きました。
1988年:自身のブランド設立
1988年、マルジェラは自身の名前を冠したブランド「Maison Martin Margiela(メゾン・マルタン・マルジェラ)」を設立します。彼の初期のコレクションは、その前衛的なデザインとアヴァンギャルドなアプローチで瞬く間に注目を浴びました。特に1989年春夏コレクションでは、オーバーサイズのシルエットや再利用素材の使用、エッジの効いたカッティングが話題を呼び、従来のファッションの枠を打ち破る存在として評価されました。
1990年代:前衛ファッションの旗手
1990年:パリでの成功
1990年代は、マルジェラがその独自の美学をさらに進化させ、国際的な評価を確立した時期です。彼のショーはしばしばパリの伝統的なファッション会場ではなく、廃工場や空き地などで行われ、その実験的なスタイルは多くの評論家やデザイナーに影響を与えました。1990年秋冬コレクションでは、既成概念を超えたドレスや、ペイントされたジーンズなどが登場し、従来のファッションショーの常識を覆す演出が話題となりました。
1997年:エルメスのクリエイティブディレクター就任
1997年、マルジェラはエルメスのクリエイティブディレクターに就任します。エルメスはその時点で、伝統的なラグジュアリーブランドとして知られていましたが、マルジェラの独自の美学を取り入れることで、クラシックでありながらもモダンな新しいコレクションを展開しました。彼のエルメスでの作品は、ミニマリズムと洗練されたエレガンスが融合したもので、従来のエルメスとは一線を画すものとなり、多くのファッション評論家から高い評価を受けました。
1998年:代表作「タビブーツ」
1998年のコレクションで、マルジェラは彼の最も象徴的なアイテムの一つである「タビブーツ」を発表します。このブーツは、日本の足袋にインスパイアされたデザインで、つま先が二つに分かれた独特の形状が特徴です。このブーツは、今でもファッションの象徴的なアイテムとして知られており、マルジェラの名前を世界的に広める一因となりました。
2000年代:変革と継承
2000年代に入っても、マルジェラは自らのブランドで実験的なコレクションを展開し続けましたが、彼の匿名性へのこだわりも強まりました。マルジェラは、ほとんどメディアの前に姿を現さず、ショーの後の挨拶すらもしないことで知られていました。ブランドのオフィスも、住所を公開せず、デザインチーム全員が白い作業着を着用し、共同作業を行っていたと言われています。この徹底した匿名性は、彼のブランドのミステリアスなイメージを強化し、ファッション業界の注目を集め続けました。
2009年:マルジェラの退任
2009年、マルジェラは自身のブランドのクリエイティブディレクターを退任します。彼が退任した理由については公にはされていませんが、ファッション界での長年のプレッシャーや、自らの美学と業界の商業主義との葛藤が一因であると考えられています。彼の退任後も、「Maison Martin Margiela」は続けられ、彼のデザイン哲学はブランドのDNAとして受け継がれています。
2010年代:リブランディングと新たな展開
2014年:ジョン・ガリアーノの就任
2014年、ジョン・ガリアーノがMaison Margielaのクリエイティブディレクターに就任しました。このニュースはファッション業界に大きな驚きをもたらしました。ガリアーノは、ディオールでの華やかで劇的なデザインで知られており、ミニマリズムと前衛的なアプローチを持つマルジェラの世界とは一見対照的でした。しかし、ガリアーノは自身のドラマティックなデザインと、マルジェラの概念的な美学を融合させ、新しい方向性を打ち出しました。
2015年春夏:ガリアーノのデビューコレクション
2015年春夏コレクションで、ガリアーノは初めてMaison Margielaのクリエイティブディレクターとしてショーを開催しました。このコレクションは、ガリアーノの独自の美学とマルジェラの哲学を見事に融合させたもので、特に裁断やシルエットにおいて、マルジェラの実験的な要素を取り入れながらも、ガリアーノらしい華やかさと大胆さが感じられるものでした。このコレクションは多くのファッション評論家から称賛され、マルジェラの新しい時代の到来を示すものでした。
マルジェラの代表的なコレクションとその影響
1992年秋冬「デコンストラクション・コレクション」
このコレクションは、マルジェラが「デコンストラクション」というコンセプトを前面に押し出したもので、服の裏地を表に出したり、未完成のようなディテールを取り入れたりすることで、従来のファッションの概念を根本から覆しました。このアプローチは、以後のファッション業界に大きな影響を与え、多くのデザイナーが追随しました。
1997年秋冬「レプリカ」
1997年のコレクションで、マルジェラは「レプリカ」というコンセプトを導入しました。これは、ヴィンテージの衣服やアイテムを再解釈し、現代的な視点から再構築するというものでした。このアプローチは、サステナビリティの視点からも評価され、現代のファッション業界においても重要なテーマとなっています。
2006年春夏「Artisanal(アルチザナル)」
2006年に発表されたこのコレクションは、マルジェラの実験精神が最も明確に表れたものでした。「アルチザナル」は、職人技術を駆使して作られた一点もののアイテムを指し、リサイクル素材や古着を再構築して新たな作品を生み出すというアプローチが特徴です。このコレクションは、ファッションとアートの境界を曖昧にし、マルジェラの革新性を再確認させるものでした。
マルタン・マルジェラは、ファッション界において極めて重要な存在であり、その革新的なブランドです。