服を一着買うとき、その向こう側にある作られ方や、捨てられ方まで思いを巡らせる人は、そう多くないかもしれません。けれども近年、安く速く大量に作られる服のあり方が、環境にも、作る人にも大きな負担をかけていることが、世界的に問い直されています。サステナブル・ファッションとは、その問いに対するひとつの答えとして広がってきた考え方です。
そう聞くと、何か特別な我慢や、意識の高い取り組みを求められるように感じるかもしれません。けれども実は、その実践のなかでもっとも身近なもののひとつが、古着を選ぶことでした。古着を着るという、すでに多くの人が楽しんでいる行為が、実はそのまま地球に優しい選択につながっている。そう考えると、サステナブル・ファッションは、ぐっと身近なものに見えてきます。本記事では、この考え方がどこから来たのかをたどりながら、古着という入り口から、服と長く付き合う暮らしを編集部の視点で書いていきます。
サステナブル・ファッションとは何か
サステナブルとは、持続可能という意味です。サステナブル・ファッションは、地球の環境や、服を作る人々、そして資源の循環に配慮した服のあり方を指します。単に「環境に優しい素材を使う」ことだけを意味するのではありません。服が作られ、使われ、やがて手放されるまでの一連の流れ全体を、どう持続可能なものにするか。その視点に立った考え方です。
この考え方には、大きく三つの側面があります。ひとつは環境です。服を作るために使われる水やエネルギー、生まれる廃棄物をどう減らすか。もうひとつは、人です。服を縫う労働者が、安全で公正な環境で働けているか。そして三つ目が、循環です。一着の服を、できるだけ長く使い、役目を終えたあとも再び生かせるか。これらすべてに配慮しようとする姿勢が、サステナブル・ファッションの根っこにあります。
注意したいのは、「サステナブル」と名のつく新品を買えば解決する、という単純な話ではない点です。どれほど環境に配慮した素材で作られた服でも、新しく作り、すぐに手放してしまえば、負荷は生まれます。逆に、どんな服であっても、長く大切に着続ければ、それだけで負荷は小さくなります。つまり、何を買うか以上に、どう使うかが問われているのです。難しく聞こえるかもしれませんが、その出発点は、一着の服を大切にするという、ごくシンプルな心がけにあります。気負わず、できることから始められる。それが、この考え方の入りやすさでもありました。
単に「環境に優しい素材を使う」ことだけを意味するのではありません。
ファストファッションが残したもの
サステナブル・ファッションが注目される背景には、ファストファッションの広がりがありました。流行の服を、安く、速く、大量に供給するこの仕組みは、多くの人が手軽に服を楽しめるようにした一方で、大きな影が指摘されるようになります。
環境への負荷は、その代表です。さまざまな推計があり、出典によって数字には幅がありますが、毎年大量の衣類が埋め立てられ、服づくりが世界の温室効果ガスのかなりの割合を占め、水資源を大量に消費しているとされます。たとえば、綿のTシャツ一枚を作るのに、人ひとりが何年も飲む量に相当する水が使われるという推計もあります。綿花の栽培には大量の水と農薬が必要で、染色の工程でも多くの水が使われ、排水が河川を汚す問題も各地で指摘されてきました。
加えて、化学繊維の問題もあります。安価な服に多く使われる合成繊維は、土に還りにくく、洗濯のたびに微細なプラスチックが水に流れ出て、海の生態系に影響を与えることが懸念されています。これらの数字や因果には議論もありますが、大量に作って大量に捨てる仕組みが、地球に小さくない負担をかけていること自体は、広く共有された認識になっています。流行が短いサイクルで移り変わり、まだ着られる服が次々と手放される。その速さこそが、負荷を生む大きな要因でした。
そして、忘れてはならないのが、人への負荷です。2013年、バングラデシュのサバールで、複数の縫製工場が入った八階建ての建物が崩落し、千人を超える労働者が亡くなる痛ましい事故が起きました。ラナ・プラザの悲劇と呼ばれるこの出来事は、私たちが安く手にする服の裏側に、過酷な労働環境があるかもしれないという現実を、世界に突きつけました。安い服の価格は、どこかで誰かが負担しているのかもしれない。そう考えるきっかけを、この事故は与えたのです。
この事故をきっかけに、ファッション・レボリューションをはじめとする、作り方の透明性や公正さを求める運動が世界中に広がります。「だれがこの服を作ったのか」を問い直す動きは、いまも続いています。サステナブル・ファッションは、環境だけでなく、こうした人の問題への反省からも生まれてきたのです。地球に優しいということと、人に公正であるということ。その両方を見ようとするのが、この考え方の幅の広さでした。
三つのアプローチ — スロー、セカンドハンド、循環
では、私たちには何ができるのでしょうか。サステナブル・ファッションの実践には、大きく三つのアプローチがあります。
ひとつ目が、スロー・ファッションです。これは、ファストの反対の発想で、安いものをたくさん買うのではなく、良いものを少なく、長く着るという考え方です。流行を追って次々と買い替えるのをやめ、本当に気に入った一着を選び、手入れをしながら長く使う。一着あたりの使用回数を増やすことが、もっとも効果的な負荷の減らし方だとも言われます。前の記事で触れたカプセルワードローブのように、数を絞って質を上げる発想とも、この考え方は深くつながっています。
ふたつ目が、セカンドハンド、つまり中古を選ぶことです。すでに作られた服を選べば、新しく資源を使って作る必要がありません。一着の服が二人目、三人目の持ち主のもとで使われれば、その分だけ新しい服の生産を減らせます。海外では中古販売の仕組みが大きく成長し、オンラインで気軽に売り買いできる場も増えました。日本には、もともと古着やリユースの豊かな文化が根づいており、世界的に見ても充実した市場があります。中古を選ぶことが、我慢ではなく、むしろ宝探しのような楽しみになっているのが、日本の古着文化の成熟した一面でした。
三つ目が、循環、いわゆるサーキュラー・エコノミーの考え方です。これは、服を作って捨てるという一方通行ではなく、素材選びから、使用、そして手放したあとの再生までを、ひとつの輪としてつなげる発想です。古くなった服を回収して新しい繊維に生まれ変わらせたり、修理して使い続けたり、人から人へ受け渡したり。一着の命をできるだけ長く、何度も生かそうとする考え方です。作る、使う、捨てるという直線を、ぐるりとつないで輪にする。そのイメージが、循環という言葉に込められています。
これら三つのアプローチに共通するのは、新しく作る量を減らし、すでにあるものを大切に使うという姿勢でした。スローは使う期間を延ばし、セカンドハンドは作る量を減らし、循環は一着の命をつなぐ。アプローチは違っても、向かう先は同じです。そして、この三つすべてを、もっとも自然な形で含んでいるのが、次に見る古着という選択でした。
古着という、最も身近な実践
ここで、古着の話に入ります。これまで見てきた三つのアプローチ、スローもセカンドハンドも循環も、その多くが、古着を選ぶというひとつの行為のなかに自然と含まれています。古着は、サステナブル・ファッションのもっとも身近で、もっとも実践しやすい形なのです。
古着を一着選ぶことは、新しく服を作るための資源を使わずにすむということです。すでにこの世にある一着に、もう一度役目を与える。それは、循環の輪に参加するということにほかなりません。新しい服を一着買うのを、古着の一着で置き換える。その小さな選択が積み重なれば、生産と廃棄の両方を確かに減らしていきます。
しかも、古着には実用的な利点もあります。かつて作られた服の多くは、いまの大量生産品よりも丈夫な素材と仕立てで作られており、長く着られるものが少なくありません。天然素材がふんだんに使われ、縫製にも手間がかけられた服は、何度洗っても型崩れしにくく、繕いながら長く使えます。時間という審査をくぐり抜けて、いまも良い状態で残っている一着には、それだけの作りの良さがあるのです。安い新品を何枚も買い替えるより、丈夫な古着を一着長く着るほうが、家計にとっても、地球にとっても、結果として無駄が少なくなります。
加えて、古着には一点ごとの個性があります。同じ型でも、着られ方によって表情が違う。新品では出せない風合いをまとった一着は、流行に左右されず、長く愛着を持って着られます。愛着があるからこそ、簡単には手放さず、大切に着続ける。この「長く着たくなる」という感覚こそ、実はサステナブルな暮らしを支えるいちばんの力でした。義務感からではなく、好きだから長く着る。古着の魅力は、その自然な循環を生み出すところにあります。
ここに、古着のいちばん大切な点があります。サステナブルな選択は、ともすると「我慢」や「制約」として語られがちです。地球のために、何かを諦める。そういう響きが、どこかついて回ります。けれども古着は違います。掘り出しものを探す楽しさ、一点ものに出会う喜び、人とかぶらない個性。古着を選ぶ動機は、まず何よりも楽しいからです。その楽しさの結果として、地球にも優しい。我慢ではなく喜びが循環を生むからこそ、古着は長続きする実践になります。サステナブルであろうと気負わなくても、好きな一着を古着で見つけて長く着る。それだけで、もう十分に意味のある選択になっているのです。
賢く、長く着るために
古着であれ新品であれ、一着を長く着るための心がけは、サステナブルな暮らしの土台になります。いくつかの視点を書いておきます。
まず、買うときに質で選ぶことです。安さや流行だけでなく、生地の丈夫さや縫製の丁寧さを確かめる。長く着られる一着は、結果として無駄な買い替えを減らします。一見すると高く感じても、何年も着られることを思えば、一回あたりの価値はむしろ安いことも多いものです。次に、手入れをすることです。正しい方法で洗い、必要なら休ませ、傷んだら繕う。ボタンが取れたら付け直し、ほつれたら直す。洗いすぎない、陰干しする、素材に合った方法で扱うといった基本だけでも、服の寿命は大きく変わります。こうした小さな手当てが、一着の寿命を大きく延ばします。かつては当たり前だった、繕って使うという習慣を、もう一度暮らしに取り戻すことでもあります。最近では、あえて繕いの跡を見せるお直しを、装いの個性として楽しむ人も増えてきました。
そして、手放すときも循環を意識することです。着なくなった服を、ごみとして捨てるのではなく、古着として次の人へ渡したり、リユースの仕組みに託したりする。まだ着られる服には、次の持ち主がいるかもしれません。一着の服を、自分のところで終わらせない。その意識が、循環の輪をつないでいきます。買うときも、使うときも、手放すときも、それぞれの場面に小さな選択がある。その一つひとつが、積み重なって大きな違いになっていくのです。
大切なのは、完璧を目指して気負うことではありません。すべてをサステナブルな選択でそろえるのは、現実には難しいものです。けれども、一着を長く着る、一着を古着で選ぶ、一着を繕って使う。そうした小さな選択の積み重ねが、確かな違いを生んでいきます。
一着を大切にすること
サステナブル・ファッションは、特別な誰かのための、難しい取り組みではありません。その核心は、一着の服を大切にするという、昔から受け継がれてきた感覚にあります。大量に作り、大量に捨てる時代のなかで、私たちは少しだけ、その当たり前を忘れていたのかもしれません。
良いものを選び、手をかけて長く着て、役目を終えたら次へ渡す。それは、これまでの記事でも繰り返し触れてきた、ものとの誠実な付き合い方そのものです。古着を選ぶことは、その付き合い方を、もっとも自然な形で実践する道でした。
考えてみれば、古着を着るという文化は、サステナブルという言葉が広まるずっと前から、人から人へものを受け渡し、長く使うという知恵を実践してきました。新しい言葉が生まれる前から、その精神はすでにそこにあったのです。だから、わざわざ難しく考える必要はありません。環境のため、と気負わなくてもかまいません。気に入った一着と長く付き合う。その先に、結果として持続可能な暮らしがある。古着屋で出会った一着に袖を通すとき、私たちはすでに、服と地球との新しい関係を、静かに選び取っているのです。一着を大切にすること。そのささやかな心がけから、サステナブル・ファッションは始まります。そしてその一歩は、決して我慢ではなく、自分の好きな一着と出会う、楽しい一歩でもあるのです。











