Aimé Leon Dore(エメレオンドレ)は、2014年にアメリカ・ニューヨークのクイーンズで生まれたブランドです。創業者のTeddy Santis(テディ・サンティス)は、ギリシャからの移民である両親のもとに育ち、家業の食堂を手伝いながら青春時代を過ごした人物です。ファッションの専門教育を受けたわけではありませんが、クイーンズの移民文化とニューヨークのストリートの空気を自分の身体で吸収し、そこにギリシャの記憶を重ねることで、独自の服づくりを築いてきました。ニューバランスとの継続的な協業や、老舗メゾンとの一連のコラボレーションを通じて世界的な支持を集め、2022年にはLVMH Luxury Venturesから出資を受けながらも独立経営を保っています。この記事では、Teddy Santisの生い立ちからブランド名の由来、ニューバランスとの関係の実際の始まり、そして中古市場での位置づけまで、一次情報を確認しながら順を追ってお伝えします。
クイーンズの食堂と、若きTeddy Santisの日々
Teddy Santisは1986年、ニューヨーク・クイーンズでギリシャからの移民の両親のもとに生まれました。少年時代を過ごしたのは、フラッシングやアストリアといった、ギリシャ系コミュニティの色濃く残るクイーンズの街並みです。両親は小さな食堂を営んでおり、Teddyは学校が終わるとその厨房やカウンターを手伝う生活を送っていました。
10代のころのTeddyは、決して優等生ではありませんでした。伝えられるところでは、5つもの高校を転々としたといいます。それでも彼が居場所を見つけたのは、地元のナイトクラブでした。ハウスミュージックのDJとして深夜まで回し、そのまま朝の食堂のシフトに直行するという生活を、若いうちから重ねていたそうです。
もう一つ、Teddyの感性を形づくったのが、毎年の夏をギリシャの故郷の村で過ごす習慣でした。両親はTeddyを毎夏ギリシャへ連れて帰り、家族のルーツや土地の伝統に触れさせています。ニューヨークの喧騒と、地中海の穏やかな夏。この対照的な二つの世界を行き来した経験こそが、のちのAimé Leon Doreの世界観の土台になったと見てよいでしょう。
ファッションを専門的に学んだ経歴は確認されていません。Teddyの最初のビジネスは、2010年に幼なじみとマンハッタンで開いた、メガネの専門店でした。当時は両親が営むアッパーイーストサイドのコーヒーショップでも働きながら、この店を軌道に乗せる日々を送っていたといいます。服づくりの前に、まず小さな商いを経営する経験を積んでいた点は、Aimé Leon Doreの堅実な立ち上がり方を理解するうえで見逃せません。
Teddy Santisは1986年、ニューヨーク・クイーンズでギリシャからの移民の両親のもとに生まれました。
メガネ店から服づくりへ — 名前に込められた家族の物語
Aimé Leon Doreの構想が動き出したのは2014年のことです。Teddyは当初、ブランド名を「Aimé」だけにしようと考えていました。フランス語で「愛された」を意味するこの一語は、しかし一般的すぎて商標として登録するのが難しいという壁にぶつかります。そこで妻とともに名前を練り直し、父親のギリシャ語のニックネームであった「Leon(獅子の意)」と、Teddy自身の本名「Theodore」を短くした「Dore」を組み合わせ、「Aimé Leon Dore」という名前にたどり着きました。
つまりこのブランド名は、響きのよさだけで選ばれたものではなく、Teddy自身の家族と個人の名前をそのまま織り込んだ、いわば自己紹介のような名前だということになります。祖父の名前とフランスの家系に由来するという説明が広まっていることがありますが、公式に語られている由来はあくまで父親のニックネームと自身の本名の組み合わせであり、この記事では確認できる一次情報にもとづいてこちらを採用します。
ブランドが掲げたのは、1990年代のニューヨークのストリートウェアと、ポロ・ラルフローレン的なプレッピーの美意識、そこにギリシャ系移民としての記憶を重ねる、独自の方向性でした。のちに「New Prep」と呼ばれるようになるこの佇まいは、当時のニューヨークのストリートシーンを牽引していたSupremeやKITHとは、明らかに違う温度感を持っていました。
Mott通りの小さな店から、Mulberry通りの旗艦店とカフェへ
Aimé Leon Doreが最初に構えた実店舗は、2016年にオープンしたノリータ地区のMott通りの小さなショップでした。当初はごく限られた常連客に向けた、コンセプトショップに近い規模だったといいます。
転機となったのが2019年2月です。Mott通りの店を閉じたブランドは、同じノリータ地区のMulberry通り224番地に新たな旗艦店をオープンし、同時に併設のカフェ「Café Leon Dore」を開きました。ミッドセンチュリーの家具となつかしさを感じさせる内装でまとめられたこの旗艦店は、2021年にGQ誌からその年のベストメンズウェアストアの一つに選ばれています。カフェにはパリ風のインテリアと絨毯が敷かれ、単なる物販の場ではなく、ブランドの世界観そのものを体験できる場所として機能してきました。
なお、この旗艦店は一部メディアで隣接するSoHo地区の店として紹介されることがありますが、公式サイトの表記ではノリータの店舗とされています。ニューヨークの街区は隣り合うエリアの境界があいまいなことも多く、この種の表記のゆれ自体は珍しくありません。日本では東京への直営旗艦店の出店がたびたび噂として報じられていますが、本稿の執筆時点で開業を一次ソースで確認するには至っていません。
Café Leon Doreの内装は、白木を基調にした落ち着いたトーンでまとめられ、床には絨毯が敷かれています。ニューヨークのストリートウェアの店というより、どこか年季の入ったヨーロッパの喫茶店を思わせる空間です。買い物のついでに立ち寄れるカフェを併設するという発想は、当時のストリートウェアブランドとしては珍しく、服だけでなく生活そのものを提案するブランドだという印象を、多くの客に強く残しました。
ニューバランスとの12年 — 始まりは997のミスマッチペア
Aimé Leon Doreを世界的なブランドに押し上げた最大の要因は、ニューバランスとの協業です。2016年に協業が始まったという紹介を見かけることがありますが、実際に最初の共同モデルが発売されたのは2019年4月のことでした。左右で配色を変えた「997」のミスマッチペアが、まずAimé Leon Dore限定で発売され、続いて一般発売もされています。当時230ドルという価格ながら、発売直後から即座に話題を集めました。
この997をきっかけに、Aimé Leon Doreとニューバランスの関係は一度きりのコラボレーションでは終わりませんでした。990v3や990v4、827といった主要モデルへと協業の対象は広がり、アメリカ製にこだわるニューバランスのものづくりと、Teddyが培ってきたプレッピーな配色感覚が組み合わさることで、スニーカーファンのあいだで根強い人気を獲得していきました。
そして2021年の夏、Teddy Santisはニューバランスの上位ラインである「Made in USA」のクリエイティブディレクターに就任します。ストリートウェアの新世代を担ってきたデザイナーが、老舗スポーツブランドの中核ラインの舵取りを担うという、当時としては異色の人事でした。2026年に入ってからも991やRC56、Gator Runといった新作が続けて発表されており、Teddyは現在もこの役割を担い続けています。
LVMHの出資を受けてなお、独立を手放さない経営
2022年1月、LVMH Luxury Venturesが、Aimé Leon Doreの少数株式を取得したことが発表されました。この出資は、当時LVMHグループの要職にあったAlexandre Arnault(アレクサンドル・アルノー)が仲介したと報じられています。出資額や出資比率そのものは公表されていません。LVMH Luxury Venturesが過去に手がけてきた案件では、数百万ユーロから1,500万ユーロ程度、出資比率にして5%から25%程度のレンジが多いとされていますが、これはあくまで同社の出資傾向についての一般情報であり、Aimé Leon Dore個別の数字を示すものではない点は留意が必要です。
実際、この出資後もAimé Leon Doreの経営はニューヨークを拠点にTeddy Santis自身が担い続けており、ブランドの独立性は保たれています。デザインやコレクションの方向性についても、引き続きTeddyが最終的な判断を下していると伝えられています。ストリートウェア発のブランドが、老舗ラグジュアリーコングロマリットの支援を受けながらも自分たちのペースを崩さない。この距離の取り方こそ、Aimé Leon Doreがここまで支持を集めてきた理由の一つといえるでしょう。
ポルシェ、Drake’s、Woolrich — 積み重ねてきた協業の歴史
Aimé Leon Doreは、Teddy Santis自身がコラボレーションの依頼を簡単には受けないタイプのデザイナーだと評されています。そのぶん実現した協業は一度限りで終わらず、長く続く関係性に育っていることが多いのが特徴です。イギリスの伝統的なネクタイメゾンDrake’sとは2019年から、アメリカのアウターブランドWoolrichとは2018年の秋冬コレクションから、それぞれ協業を重ねてきました。とりわけWoolrichとの関係は毎シーズンのように継続しており、2023年秋冬発表の時点で、すでに7度目のコラボレーションを数えています。
自動車の分野で組んできた相手は、ドイツのBMWではなくポルシェです。旧来の紹介ではBMWとの協業が語られることがありますが、これは同じくニューヨーク発のストリートウェアブランドKITHとポルシェのプロジェクトが混同された結果とみられ、Aimé Leon Dore自身がBMWと組んだ実績は確認できませんでした。2020年に発表された「911カレラ4(964型)」のレストア企画を皮切りに、2021年の「911 SC」、2023年の「356」、2024年の「944」、そして2025年秋冬のカプセルコレクションと、ほぼ毎年のように新しいクラシックポルシェのレストア企画を続けています。
これらのポルシェ企画は、単に車体を仕立て直すだけにとどまりません。ペルシャ絨毯を思わせる意匠のフロアマットや、手作業で仕立てたレザーシートなど、Aimé Leon Doreがカフェや旗艦店で見せてきたのと同じ趣味のよさが、車の内装にまで行き渡っているのが大きな特徴です。服づくりで培った素材選びの感覚を、車という異なる領域に持ち込む。その姿勢が、単なる企業タイアップにとどまらない独自性を生んでいます。
New Prepという美意識 — Aimé Leon Doreの佇まい
Aimé Leon Doreの服づくりを語るうえで欠かせないのが、「New Prep」と呼ばれることもある独自の美意識です。1990年代のニューヨークのヒップホップやストリートの空気と、ポロ・ラルフローレンに代表されるアイビー調のプレッピーらしさ。本来なら交わりにくいこの二つの要素を、Teddyは自分自身の生い立ちを通してごく自然に重ね合わせてきました。
さらにその土台には、Teddy自身のギリシャ系移民としての記憶が流れています。地中海の穏やかな色使いや、家族と過ごした夏の記憶が、派手さのない落ち着いた配色として服の随所に表れているのです。派手なロゴを前面に出すのではなく、素材と仕立て、色の重ね方で個性を伝える。この方向性は、2010年代後半のニューヨークで、それまでのストリートウェアとは異なる新しい選択肢として受け止められました。
ハイスノバイエティやGQといった業界メディアも、こうしたAimé Leon Doreの方向性を繰り返し取り上げ、ストリートウェアと伝統的なメンズウェアの境界を曖昧にしたブランドの一つとして紹介してきました。派手な露出戦略に頼らず、店舗とカフェという実体験を通じてファンを育ててきた点も、このブランドらしいところです。
2020年代の前半、ロゴを大きく主張するストリートウェアが一段落し、素材や仕立てのよさを静かに主張する「クワイエット」な服づくりが改めて評価されるようになった流れのなかで、Aimé Leon Doreはその代表的な存在として繰り返し名前が挙がってきました。ロゴを前面に出さずとも、生地の質感や配色だけでブランドだと分かる。そんな服づくりを、Teddyはニューバランスとの協業やDrake’s、Woolrichとの服づくりを通じて、地道に積み重ねてきたのです。
代表的なアイテム — スニーカーとプレッピーなニット
Aimé Leon Doreの製品に共通するのは、ネイビーやクリーム、バーガンディ、オリーブといった、地味だけれど深みのある色使いです。蛍光色や派手なグラフィックに頼らず、こうした落ち着いたパレットの組み合わせだけで季節感やムードを表現している点も、このブランドらしさをよく表しています。
Aimé Leon Doreを象徴するアイテムといえば、まずニューバランスとの協業スニーカーが挙げられます。990シリーズや997、827など、アメリカ製のランニングシューズをベースに、Teddyならではの落ち着いた配色とディテールを加えたモデルは、発売のたびにスニーカーファンのあいだで争奪戦になってきました。
もう一つの柱が、ポロ・ラルフローレン的なアメリカン・プレッピーを下敷きにしたニットウェアです。ケーブル編みやアーガイル柄のカーディガンやセーターは、クイーンズ育ちのストリートの感覚と、地中海性気候を思わせる配色が同居する、Aimé Leon Doreならではのアイテムです。
ロゴキャップやバケットハットといった小物も、ブランドを象徴する存在です。控えめなロゴ使いと、New Prepと呼ばれる落ち着いた色使いが、シーズンを問わず取り入れやすい理由です。
レザーのトートバッグやミニバッグも、旗艦店やCafé Leon Doreと同じ、なつかしさと上質さを両立させた世界観を体現するアイテムとして人気を集めています。
2026年 — ワールドカップに向けた新協業と、地中海の夏
Teddy SantisとAimé Leon Doreは、2026年に入ってからも精力的に新作を発表し続けています。ニューバランスとの協業では、2025年12月にまず「991」の先行販売が「Chocolate」と「Celery」の2配色で行われ、2026年2月には新モデル「RC56」が発売されました。さらに、アーカイブのシルエットを再解釈した「Gator Run」も2026年春の新作として予告されています。
同じ2026年には、北中米ワールドカップの開催を見据えて、ニューバランスのサッカースパイク「Furon」との協業も予告されました。ストリートウェアからスニーカー、そしてサッカーシューズへと、Teddyが手がける領域は着実に広がりを見せています。あわせて発表された2026年春夏コレクションでは、ネイビーのヘアリースエードにイエローのバックタブを添えた「1300」や「471」など、ニューバランスの定番モデルへの新しいアプローチも披露されました。
そして2026年春夏の主力コレクション自体は、Teddy自身のルーツである地中海の夏をテーマに据えています。クイーンズの食堂育ちの青年が幼いころに毎年通ったギリシャの夏の記憶は、ブランドが10年を超えてなお、繰り返し立ち返る創作の源であり続けているのです。
どんな人に似合うブランドか
Aimé Leon Doreが似合うのは、いわゆる過激なストリートウェアよりも、少し落ち着いた大人っぽいカジュアルを好む人です。派手なロゴを主張するのではなく、色と素材の組み合わせで個性を出したい人には、特にしっくりくるはずです。ニューバランスとのコラボスニーカーにデニムとカーディガンを合わせるような、きれいめとカジュアルの中間を狙うスタイリングと相性がよいブランドといえます。
一方で、はっきりとしたロゴやグラフィックを主役にしたい人にとっては、やや物足りなさを感じる場面もあるかもしれません。Aimé Leon Doreの魅力は、あくまで素材選びと配色の妙にあります。じっくり見て初めてよさが伝わるタイプのブランドだということは、手に取る前に知っておいてよいポイントです。
着こなしの入り口としては、まずニューバランスとのコラボスニーカーを一足選び、そこにベーシックなデニムとカーディガンを合わせる組み合わせが分かりやすいでしょう。秋冬であればウールのアウターに、夏場であればリネンのシャツにと、季節ごとの素材違いを楽しめる懐の深さも、このブランドが長く着続けられる理由の一つです。
中古市場でのAimé Leon Doreの位置づけ
Aimé Leon Doreは新作の発売直後から品薄になりやすいブランドのひとつで、日本の古着市場でも扱う店舗が増えてきました。とりわけニューバランスとのコラボスニーカーは、初期のカラーウェイほど相場が上がりやすく、状態のよい個体を見つけるのは簡単ではありません。一方でニットウェアやカーディガンといった定番アイテムは、比較的落ち着いた価格帯で流通していることが多く、古着ならではの狙い目といえます。
購入時に注意したいのが、サイズ感です。Aimé Leon Doreはアメリカンカジュアルをベースにしているため、日本人の体型にはやや大きめに感じられるサイズ設計のアイテムも少なくありません。可能であれば採寸を確認し、着丈や身幅を自分の手持ちの服と比較してから選ぶと失敗が減ります。また、人気のコラボレーションアイテムは類似デザインの模倣品も出回りやすいため、販売実績が確認できる店舗やプラットフォームで購入することをおすすめします。
2022年のLVMHの出資や、2026年に向けたニューバランスとの新協業の広がりを背景に、Aimé Leon Doreの認知度は今後もさらに上がっていくと見込まれます。認知度が上がるほど、中古市場での入れ替わりも活発になりやすいため、掘り出し物に出会える機会も増えていくはずです。焦らず定期的に古着店やオンラインの在庫をのぞいてみることが、状態のよい一着との出会いにつながります。まずは手に取りやすいニットや小物から探し始めるのも、値段的にも気負わない一つの近道といえるでしょう。
まとめ
Aimé Leon Doreの歩みは、クイーンズの食堂で育った一人の青年が、ギリシャ系移民としての記憶とニューヨークのストリートの空気を自分の手で編み直してきた記録です。2014年の創業から10年余りのあいだに、ニューバランスとの継続的な協業や、ポルシェ、Drake’s、Woolrichといった老舗との対話を重ね、2022年にはLVMHの支援を受けながらも独立経営を保ってきました。中古市場でこのブランドのアイテムに出会ったときは、Teddy Santisが歩んできたこうした背景を思い出しながら、自分に合う一着を見極めてみてください。ブランド名の由来ひとつをとっても、伝聞に頼らず一次情報にあたることの大切さが分かる、味わい深い題材だといえるでしょう。








