PERFUME

Comme des Garcons 2 深掘り — インセンス系コンセプチュアル香水

Comme des Garcons 2 は 1999 年にリリースされた、Comme des Garcons Parfums の二作目にしてブランドの方向性を決定づけた一本だ。調香は Mark Buxton。アルデヒドの透明な光、インクの金属的な乾き、そしてインセンスの神秘的な煙が同居する構造は、当時の主流であったフルーティフローラル路線への明確な反論として読まれた。本稿では香りの構造と時間軸での体験、そして同ブランド Avignon との対比を軸に、Comme des Garcons 2 を一本のコンセプチュアル香水として読み解いていく。Rei Kawakubo の前衛性が香りという媒体でどう翻訳されたか、その筋道を辿るための一冊として読んでもらえれば。香水を「気分を上げる装置」として扱う層と、「概念の翻訳」として扱う層の境界が、この一本のなかに明確に引かれている。

Comme des Garcons 2 — インセンス系コンセプチュアル香水

Comme des Garcons 2 は、香水を「美しい香り」ではなく「概念の翻訳」として提示した点で異質な存在だった。1999 年というタイミングは、CK One が席巻したユニセックス・フレッシュ路線の終盤であり、香水産業全体が次の語彙を模索していた時期にあたる。その文脈で Mark Buxton が選んだのはアルデヒドとインセンス、そして「インク」というアコードだった。紙にペンを走らせたときの金属的でやや埃っぽい乾いた質感を、香水の素材として中心に据えるという発想は、当時としても今読んでも独特だ。香水がファッションハウスの延長線で語られるとき、Comme des Garcons 2 は「服の補助線」ではなく「服と並走する別言語」として作られている。ボトルは透明なガラスに番号「2」が刻印されるだけのミニマルな造形で、視覚情報を極限まで削ぎ落とした上で、中身の異質さを浮かび上がらせる設計だ。1999 年当時、この一本を最初に試した嗅覚は驚きと戸惑いを同時に受け取ったはずだが、その違和感こそがブランドの提示したかったものだとも読める。

Comme des Garcons 2 は、香水を「美しい香り」ではなく「概念の翻訳」として提示した点で異質な存在だった。

Comme des Garcons Parfums の哲学 — Rei Kawakubo の前衛性

Comme des Garcons というブランドが香水事業を始めたのは 1994 年、第一作 Comme des Garcons Eau de Parfum からだった。Rei Kawakubo が掲げた方針は明確で、「既存の香水産業が美しいと定義してきたものの外側を探る」というものだ。1994 年の一作目は、お香とスパイスとローズを掛け合わせた、当時としては奇妙としか言いようのない構造を持っていた。Comme des Garcons 2 はその五年後、その路線を一段抽象化した形で提示された。素材の選定は香水としての「美味しさ」を意図的に外し、視覚や触覚を喚起する方向にシフトしている。インクという素材選択はその象徴で、嗅覚を別の感覚と接続する試みだ。Comme des Garcons の香水群全体の系譜と立ち位置を踏まえると、この二作目が後の Series シリーズや Synthetic シリーズへの橋渡しになっていることが見えてくる。素材を抽象的なコンセプトとして扱う姿勢は、服の構築主義と地続きで、ブランドが何をしているかを一冊で示す入門書のような役割を果たしている。Mark Buxton は後に独立して自身の名を冠したレーベルを立ち上げる調香師だが、その作家性の核となる「素材を抽象的にレイヤーする」手法は、この Comme des Garcons 2 でほぼ完成された形を取っている。ブランド側の哲学と調香師側の作家性が稀に見る精度で噛み合った結果、結果として一本の香水が思想表明として機能している点が、二十五年経った現在もこの作品が語られ続ける理由でもある。

香りの構造 — アルデヒド/インク/インセンス

トップノートはアルデヒド、マグノリア、インク、マンダリンで構成される。アルデヒドはシャネル N°5 で知られる古典素材だが、ここでの使われ方は石鹸的な華やかさを引き出すためではなく、空間そのものを白く照らすための光源として機能している。マグノリアの花弁の質感がそこに重なり、マンダリンが一瞬だけ柑橘の輪郭を与える。そしてインクのアコードが、その透明な光景に金属的な乾きを差し込む。紙にペン先を立てたときの、あの少しだけ鉄分を含んだ匂いだ。トップ五分の時点で、ここが普通の香水ではないことが分かる構造になっている。

ミドルではインセンス、ローズ、オークモス、レザーが立ち上がる。インセンスは煙そのものではなく、煙が壁に染み込んだあとの記憶のような形で現れる。寺社の堂内で長く焚かれてきた木質の残り香に近い。ローズは華やかさを担うのではなく、インセンスの煙に体温を与える役割で、ぎりぎり花であることが分かる程度の輪郭で配置されている。オークモスが地面の湿り気を、レザーが布や革の擦れた感触を加えることで、ミドル全体は「人が長く生活した室内」のような陰影を獲得する。

ラストはアンバー、ラブダナム、シダーへと収束する。アンバーが甘やかさの輪郭を作り、ラブダナムが樹脂的な深みとほのかな苦味を加え、シダーが木の構造を残す。ここでも甘さは前面に出ず、煙と樹脂と木のバランスで肌に留まる。Mark Buxton の手つきは一貫して抑制的で、どの素材も主役にはならない。代わりに素材同士の関係が前景化し、香りを嗅ぐという行為が空間を読む行為に近づく。香水を「成分の足し算」ではなく「素材の配置による空間設計」として組み上げる、その方法論が最も鮮明に出ている一本だと言える。注目すべきは、ノートピラミッドのどの段階にもいわゆる「華やかさ」を担う中心人物がいない点だ。フローラルもグルマンも、明確な甘さも前景化しないまま、素材の関係性だけで香りが立体を保つ。これは調香の経済性としても極めて高度で、引き算の設計でこれだけの厚みを出せる作家性が、後の Comme des Garcons Parfums の方向性を決定づけた。

時間軸での体験

つけた直後の十五分は、アルデヒドとインクの対比が最も強く出る時間帯だ。白く明るい光のなかに金属的な線が一本入っているような感覚で、皮膚の上というよりは皮膚の少し上の空中に香りが浮いている。マンダリンの柑橘感はこの段階で素早く退き、アルデヒドの光だけが残る。ここで多くの人が「インクの匂いがする」と認識するはずだ。

三十分から一時間にかけて、インセンスが前景に押し出される。煙が部屋に染み込んでいくような遅さで立ち上がり、ローズとレザーがその下を支える。インセンス系フレグランス全般の構造と読み解き方を一度通読しておくと、この時間帯の輪郭がより鮮明に掴める。Comme des Garcons 2 のインセンスは寺院的・宗教的な重さに振り切らず、生活空間に染み込んだ煙の残り香として機能する点が特徴で、この距離感がブランド全体のトーンと一致している。

二時間以降はオークモスとレザーがミドルの中心を担い、香りは皮膚に近い場所で安定する。三時間から四時間でラストのアンバーとラブダナムへ移行し、肌の上に薄い樹脂の膜が残るような感覚へと収束する。持続時間は肌の質によって変動するが、五時間から七時間程度が目安で、シダーの木質感が最後まで構造を支える。残り香の段階でも甘さは前に出ず、煙と樹脂の中間的なニュアンスが続く。香水が時間とともに表情を変える「ピラミッド構造」を、Comme des Garcons 2 は教科書的に体験できる作品でもある。

似合う人と場面

Comme des Garcons 2 は、香水を「印象を強める道具」ではなく「自分の輪郭を整える道具」として使いたい人に向いている。香りの方向性が華やかさや甘さではなく、乾いた煙と樹脂と光のバランスにあるため、フローラルやグルマンに慣れた嗅覚にとっては最初は読みにくく感じられるかもしれない。ただし数回つけるうちに、肌の上で素材が配置を変えていく感覚が掴めてくるはずだ。性別を問わず使える設計で、服の素材としてはウール、リネン、コットン、ヌバックといった「乾いた質感」と相性が良い。

場面としては、屋内での読書や仕事、美術館や書店、夜の徒歩、雨上がりの散歩のような、空気が静かで自分のペースを保ちたい時間に最も力を発揮する。逆に、強い空調の効いたレストランや密閉された会議室では、インクとインセンスの輪郭がやや過剰に響くことがあるため、つける量を一プッシュ以下に抑える方が無難だ。香りの届く範囲は中程度で、半径一メートル前後を想定して使うと扱いやすい。季節は秋から冬にかけてが最も馴染むが、春先の肌寒い日や、夏の夜の冷房の効いた室内でも違和感はない。年齢層に縛られる作品ではなく、二十代の入門者から五十代以降のフレグランス愛好家まで同じ強度で響く設計になっており、長期的に付き合う一本として向いている。

同 Comme des Garcons Avignon との比較

Comme des Garcons Parfums のインセンス路線を語るうえで外せないのが、2002 年リリースの Comme des Garcons Avignon だ。Series 3: Incense の一本として発表され、フランスの教皇庁所在地アヴィニョンを題材にしたこの作品は、カトリック教会の堂内で焚かれる乳香と没薬を中心に据えた、宗教空間そのものの再現を志向している。Avignon の香りは縦に深く、空間としては高い天井の石造りの堂内、時間としては典礼が始まる直前の数分間に近い質感を持つ。

対して Comme des Garcons 2 のインセンスは横に広く、生活空間のなかにかすかに残る煙の記憶として機能する。Avignon が「特定の場所と時間の再現」を目指しているのに対し、Comme des Garcons 2 はアルデヒドとインクという非宗教的な素材を組み合わせることで、インセンスを抽象的な輪郭として扱っている。両者を並べて嗅ぐと、同じインセンスという素材が、文脈設計の違いでここまで別物として立ち上がることが分かる。Comme des Garcons Parfums の方法論を理解するうえで、二本セットで体験する価値のある対比だ。

編集部総評

Comme des Garcons 2 は、香水を一個の独立したコンセプチュアル作品として読みたい人に向けた一本だ。アルデヒドの光、インクの金属、インセンスの煙、樹脂と木の構造といった素材の配置は、二十五年以上経った今でも古びておらず、むしろ「香水は気持ち良いだけのものではない」という前提が再評価される現在のシーンで、改めて読み直す価値が増している。日常使いの香水を一本持ったうえで、二本目として迎え入れるとブランドの語彙が広がる作品だ。Comme des Garcons Parfums がその後展開していく Series シリーズ、Synthetic シリーズ、Wonderwood や Black などの代表作群を読み解くうえでも、この二作目を起点に置くと全体の見通しが格段に良くなる。一冊の香水が思想表明として機能した稀有な例として、所有しておく価値の高い作品である。

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編集方針について — この記事は GUZ FASHION 編集部のPERFUMEカテゴリの編集方針に沿って制作されています。

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