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Lalique — クリスタル工芸の名門が作るアートピース香水

Lalique — クリスタル工芸の名門が作るアートピース香水

Lalique(ラリック)の香水は、単なる香りの製品ではなくクリスタル工芸の延長線上に置かれたアートピースである。1888 年にルネ・ラリックがパリで創業したガラス・宝飾工房の系譜を引き継ぎ、1992 年から本格的に香水部門が立ち上がった。フラコンは透明感のあるクリスタルに彫り込まれた植物や動物のモチーフで知られ、香り自体もウッディやアンバー、フローラルを軸に骨格のはっきりした構成が多い。古着・ヴィンテージ文脈で扱われる香水ブランドの中でも、フランスの装飾芸術を背景に持つ稀有な存在として位置づけられる一本だ。

Lalique と René Lalique — 1888 創業のクリスタル名門

Lalique のルーツは、創業者ルネ・ラリック(René Lalique, 1860-1945)がパリで興した宝飾・ガラス工房に遡る。1888 年にパリのヴァンドーム広場近辺に自身の工房を構え、当時アール・ヌーヴォーの最盛期にあって植物・昆虫・女性像をモチーフにしたジュエリーで頭角を現した。1900 年のパリ万博では宝飾部門で大きな評価を集め、サラ・ベルナールの舞台衣装の装身具を手掛けたエピソードも残る。

20 世紀に入るとルネはガラス工芸へと軸足を移し、1909 年にはコティ(François Coty)の香水瓶のデザインを引き受けて香水フラコンの世界に足跡を残した。これが Lalique の香水フラコン史の起点であり、機械成型と手仕上げを組み合わせた半量産型のクリスタル容器という新しいカテゴリーを切り開いた。1921 年にはアルザス地方のヴァンジュ=シュル=モデールにガラス工場を設立、現在もここが Lalique のクリスタル製造拠点として稼働している。

1925 年のパリ装飾芸術博覧会(アール・デコ博)では Lalique はガラスのファサードや噴水で会場を彩り、アール・ヌーヴォーからアール・デコへの転換期を象徴する作家としての地位を確立した。1945 年にルネが没した後は息子マルクが指揮を執り、素材を従来のガラスから鉛クリスタルへ切り替えて、現在に続く透明度と重みを併せ持つ作風が確立された。1977 年に孫娘のマリー=クロード・ラリックが経営を引き継ぎ、1992 年に香水部門「Lalique Parfums」を正式に立ち上げる。

つまり Lalique は「香水ブランドが工芸品としてのフラコンを作る」のではなく、「クリスタル工芸の名門が自社香水を出す」という逆向きの成り立ちを持つ。香水撮影ガイドでも触れているとおり、フラコンの造形が香水ブランド全体の世界観を決定づける例は多いが、Lalique はその極端な事例として位置づけられる。

ヴァンジュの工場では現在も 250 名前後の職人が手作業による研磨・彫刻・サンドブラスト処理を担っており、これは香水容器メーカーとしては異例の体制である。原料となる鉛クリスタル(鉛含有率 24% 以上)は重く、屈折率が高いことで知られ、光をふんだんに取り込む装飾性は他のガラス素材では再現が難しい。香水フラコンとしては質量・原価ともに重い選択だが、ハウスのアイデンティティを守るために維持されている工程と言える。

1977 年に孫娘のマリー=クロード・ラリックが経営を引き継ぎ、1992 年に香水部門「Lalique Parfums」を正式に立ち上げる。

香水部門 — 1992 開始の歴史

Lalique の香水部門 Lalique Parfums は、ハウスのルーツに比べると比較的新しい 1992 年のスタートである。第一作は女性向けの「Lalique de Lalique」で、ノワール調のフローラルウッディを纏ったクリスタルフラコンが特徴的だった。以降、毎年あるいは数年おきに新作が登場し、メンズ・レディース双方のラインを徐々に充実させていく。

1997 年には初のメンズライン「Lalique Pour Homme(ライオン)」を発表。ライオンの頭部があしらわれたクリスタルフラコンが象徴的で、エキゾチックなアンバー・スパイス調の香り立ちは現在も継続生産されているロングセラーである。2006 年にはモダンウッディの傑作と評される「Encre Noire(アンクル ノワール)」が登場し、ベチバーを主役に据えたミニマルで重厚な香り立ちが、ニッチフレグランス愛好家層からも支持を集めた。

2000 年代後半以降は「Crystal Collection」と称する限定エディションを毎年リリースする路線も定着している。これは香水としての中身よりもフラコン自体のコレクタビリティを前提とした製品群で、シリアルナンバー入りで数百本単位の限定生産がなされる。Lalique の香水部門が、嗅覚芸術と装飾芸術の二軸を等価に扱っている姿勢が読み取れる構成だ。

運営面では 2008 年にスイスの Art & Fragrance グループ(後の Lalique Group SA)の傘下に入り、ガラス工芸・香水・ホテル・インテリアを束ねるラグジュアリーコングロマリットの中核として運営されている。シグネチャーセント選びのガイドでも触れている通り、香水ブランドの背景を辿るとオーナーシップの変遷が嗅覚体験にも影響することがあり、Lalique は比較的その変動が穏やかなブランドである。

メンズ代表 — Pour Homme / Encre Noire

Lalique のメンズラインを語る上で外せないのが、1997 年の「Lalique Pour Homme(ライオン)」と 2006 年の「Encre Noire」の二本である。両者は性格が大きく異なるが、いずれも Lalique の香水観を端的に表す代表作だ。

Lalique Pour Homme(通称ライオン)は、ライオンの頭部をフラコンの肩にあしらった重厚感のあるクリスタル容器で知られる。香り立ちはアンバー・サンダルウッド・スパイス・ローズマリーなどが組み合わさったオリエンタルウッディで、開幕は柑橘とハーブの清涼感、ミドルからベースにかけてはバルサミックでウォームな質感が長時間続く。1990 年代後半のメンズフレグランスに共通する骨太な構造を持ちつつ、Lalique らしい貴族的な落ち着きを湛えている。

一方の Encre Noire(アンクル ノワール、フランス語で「黒インク」の意)は、ベチバーを主役に据えたミニマルな構成で 2006 年に登場した。マウロ・デ・ラ・ポルトとナタリー・ロルソンの調香で、ハイチ産とブルボン産のベチバーを重ね、サイプレスとカシュメランを背景に置く、土と樹脂と煙を思わせる重厚な香り立ち。フラコン自体も黒い磨りガラスの正方形ボトルで、それまでの Lalique 香水とは一線を画したミニマリスティックなデザインが採用された。

Encre Noire は発売当初から「コストパフォーマンスに優れたベチバーフレグランス」として、ニッチ系のレビュアー層からも高評価を得てきた。シプレやオリエンタルが主流だった当時のメンズ市場で、ベチバー単体を主役に据えたという点でも転換点となった一本だ。アクア・ディ・パルマガイドと比較すると、地中海的な明朗さに対して Lalique は北欧〜大陸的な静謐さを志向しており、メンズ香水の表現幅の広さを感じさせる。

2011 年には Encre Noire の派生作として「Encre Noire Pour Elle(女性向け)」と「Encre Noire Sport」も登場している。本流の Encre Noire の重さを残しつつ、より軽やかな展開を狙った構成で、シリーズとしての奥行きを広げる動きとなった。

Pour Homme 側にも「Lion Equus」「Lion Lalique Black Crystal」といった派生・限定エディションが断続的にリリースされており、ライオンモチーフを軸にしたメンズラインの世界観が拡張されている。中身の処方は時期によって細かく見直されることがあり、ヴィンテージボトルと現行品では多少の香り立ちの差が出ることもある。古着・ヴィンテージ市場で年代の古い Lalique 香水を入手する際は、ロット番号と外箱の表記を照合してから購入判断するのが安全だ。

レディース代表 — White / Le Parfum / Soleil

レディースラインでは、清涼感のある「Lalique White」、濃密なオリエンタルの「Lalique Le Parfum」、太陽的なフローラルの「Lalique Soleil」が代表的な三本として挙げられる。それぞれの個性が際立っており、Lalique の女性像の幅を示す構成になっている。

Lalique White は 2008 年に登場した男女兼用寄りの軽やかな一本で、ジンジャー・ベルガモット・ピンクペッパーのトップから、シダーウッドとサンダルウッドの清潔感のあるベースへと展開する。グリーンとウッディの中間的な香り立ちで、ユニセックスで使いやすい構成だ。

Lalique Le Parfum は 2005 年発表で、ブランドの代表的なオリエンタルフローラルとして位置づけられる。ヘリオトロープ・ジャスミン・ヴァニラ・パチョリ・ブラックペッパーが層を成す濃密な香り立ちで、夜のシーンや秋冬での着用に向く重みを持つ。フラコンは深紅のクリスタルにシダの葉のレリーフがあしらわれており、見た目にも華やかである。

Lalique Soleil は 2019 年に登場した比較的新しい作品で、ベルガモット・ジャスミン・ローズ・ピーチ・パチョリを組み合わせたウォームなフローラルフルーティ。陽光をテーマにしたフラコンの黄金色も含めて、「太陽」というコンセプトを嗅覚と視覚の双方で表現している。発売当初から欧州を中心に話題となり、現代の Lalique レディースの代表格となった。

三作はいずれも調香・フラコン双方で完成度が高く、Lalique のレディース香水を語る際の起点として押さえておきたいラインナップである。Le Parfum や Soleil は重さを伴うため、夏場のオフィスや密室での着用は量を控えるなどの工夫が必要だが、Lalique の世界観を最も濃く感じられるのもこの濃密寄りの二作である。

クリスタルフラコン — アートピースとしての香水瓶

Lalique を Lalique たらしめている要素として、香水瓶そのもののアートピース性は外せない。1992 年のブランド立ち上げ以降、毎年もしくは数年おきに発表される「Crystal Collection」は、ヴァンジュ=シュル=モデールのガラス工場で職人が手作業で仕上げる限定品で、シリアルナンバーと製造証明書が付属する。生産数は多くて数百本、少ないものは数十本にとどまるため、コレクター市場でもプレミアが付くアイテムが多い。

レギュラーラインのフラコンも、ライオン、二匹の鳥、シダ、女性像、宝石カットなど、ルネ・ラリック時代のモチーフを継承するデザインで統一されている。製造はクリスタル成型・研磨・サンドブラスト・彫刻といった多工程を経るため、香水容器としては破格の手間がかけられている。

香水を「使い切ったら捨てる消耗品」とは異なる軸で扱うブランドであり、空瓶でもインテリア・装飾品として保管する層が一定数いる。古着・ヴィンテージ文脈で Lalique を扱う場合、香水の中身だけでなくフラコンの状態(傷・欠け・キャップの欠損)が査定に大きく影響することは押さえておきたいポイントだ。

編集部の見立て

Lalique は香水ブランドとしては 1992 年スタートと比較的新しい部類だが、母体のクリスタル工芸が 1888 年からの歴史を持つため、ハウス全体としての厚みは突出している。香り単体としても Encre Noire のように現代的な評価を得た作品があり、嗅覚芸術と装飾芸術の双方で語れる稀有な存在だ。

選び方としては、まずメンズなら Encre Noire か Pour Homme のいずれか、レディースなら Le Parfum か Soleil を起点に据えるのが分かりやすい。ニッチ寄りの軽さを求めるなら White、コレクタブル性を最優先するなら Crystal Collection の限定エディション、という棲み分けが現実的だろう。

古着・ヴィンテージ文脈で扱う際は、フラコンの状態と内容物の残量・色味の変化を必ず確認すること。クリスタル素材は経年で内側の香料成分と反応して色が変わることもあり、未開封でも保管環境次第で香質が変わっている可能性がある。視覚と嗅覚の双方を満たすブランドだからこそ、購入時のチェックポイントも多面的に持っておきたい。

編集方針について — この記事は GUZ FASHION 編集部のPERFUMEカテゴリの編集方針に沿って制作されています。

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