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Nasomatto — オランダ発・抽象芸術のような独創的ニッチ香水

Nasomatto — オランダ発・抽象芸術のような独創的ニッチ香水

Nasomatto(ナーゾマット)は、2007 年にオランダ・アムステルダムで誕生したニッチフレグランスブランドです。創設者は調香師 Alessandro Gualtieri。彼は香水を「商業的に売れる商品」ではなく「ひとつの抽象芸術作品」として位置付け、揮発性のあるアルコール濃度を極端に高めたエクストレ・ド・パルファムのみで構成するという、業界の常識から外れた手法でブランドを立ち上げました。瓶は古文書を思わせる重厚な丸型で、ラベルには鏡文字風のロゴだけが刻まれ、製品名や成分表示はほぼ伏せられています。古着・古道具・アートブックと並べても違和感のないこの佇まいは、ヴィンテージ嗜好の読者層と非常に相性がよく、編集部でも継続的に取り上げてきた銘柄です。本稿では Nasomatto の世界観と代表作、そして姉妹ブランド Orto Parisi までを横断的に整理します。

Nasomatto と Alessandro Gualtieri という存在

Nasomatto を理解するうえで欠かせないのが、創設者であり調香師でもある Alessandro Gualtieri(アレッサンドロ・グアルティエリ)の経歴と思想です。イタリア出身の彼は、若い頃に商業フレグランス業界の大手で修行を積み、その後オランダへ移住。商業香水のマーケティング駆動な作り方に強い違和感を抱き、自ら独立して Nasomatto を立ち上げたと各種インタビューで語られています。ブランド名の由来は、イタリア語の「naso(鼻)」と「matto(狂気)」を組み合わせた造語で、「狂った鼻」「鼻が常軌を逸している」というニュアンスです。命名からして、調香を理性的なプロダクト設計ではなく、衝動と直感に近い創作行為として捉えていることがわかります。

Gualtieri が一貫して掲げるのは、香りを抽象芸術として扱う姿勢です。Nasomatto の各作品には、香水ピラミッド(トップ・ミドル・ベース)の公式説明がほぼ存在しません。「これはどの花の香り」「主役のノートはこれ」といった説明的なマーケティングは意図的に避けられ、ユーザーは自分の鼻と感覚で香りに向き合うことを求められます。これは現代香水業界では非常に珍しいスタンスで、合理的にスペックを比較したい層には不向きな一方、香りを物語として受け取りたい層には強烈に刺さります。

Gualtieri はまた、後述する Orto Parisi をはじめ複数のブランドプロジェクトを並走させており、各ブランドで明確にコンセプトを分けています。Nasomatto は「抽象芸術」、Orto Parisi は「身体性とエッセンス」、というように、ひとりの調香師の中にある複数の人格を、ブランドという形で外に切り出していると読むこともできるでしょう。古着でいえば、同じデザイナーが別ラインを立ち上げて表現の幅を広げるイメージに近く、ファッションカルチャー側からも入りやすい構造になっています。

瓶は古文書を思わせる重厚な丸型で、ラベルには鏡文字風のロゴだけが刻まれ、製品名や成分表示はほぼ伏せられています。

抽象芸術的なボトル設計 — 古文書のような瓶のはなし

Nasomatto のもうひとつの個性は、ボトルそのものが作品として完結している点にあります。共通仕様は、直径 6 cm 前後の丸型ガラス瓶に重量感のある木製キャップを乗せた構造で、容量は 30 ml。サイズだけ見るとコンパクトですが、手に取るとずっしりとした密度感があり、香水瓶というよりはアートピース、あるいは古い薬瓶や錬金術の道具を思わせます。ラベルは紙ではなく金属プレート風のシール、もしくは直接ガラスにプリントされ、ロゴだけが極小サイズで配置されているため、棚に置いたときの「物体としての存在感」が圧倒的に強いのが特徴です。

編集部が古着・インテリア文脈で Nasomatto を勧める理由は、まさにここにあります。たとえば真鍮の燭台、革装の古書、ヴィンテージのカメラといったオブジェと並べて棚に置いたとき、Nasomatto のボトルはまるで最初からそこにあったかのように馴染みます。一般的な香水ブランドが採用するクリスタルカット瓶や派手なキャップとは対照的に、装飾を極限まで削ぎ落としたミニマルな造形は、室内の景色を壊さないという実用面でも優れています。

もう一点見落とせないのが、ボトルが「情報を伝えないデザイン」になっていることです。一般的な香水パッケージには、ブランド名、香水名、ノート構成、容量、成分などが明示されますが、Nasomatto のボトルから読み取れる情報はほぼロゴと香水名のみ。これは Gualtieri が掲げる「香りそのものに集中してほしい」という思想の物理的な現れであり、テキスト中心の現代マーケティングに対するアンチテーゼとも読めます。古文書や錬金術書の体裁を借りながら、内容物については一切説明しないというこの姿勢は、ニッチフレグランス愛好家から「秘密のレシピを手にしている感覚」と評され、所有体験そのものをひとつのストーリーに昇華させています。

代表作 1 — Black Afgano と China White

Nasomatto のラインナップの中で、最も語られる頻度が高いのが Black Afgano(ブラック・アフガノ)と China White(チャイナ・ホワイト)の 2 本です。どちらもブランドの「抽象芸術」というコンセプトを最も端的に体現しており、ニッチ香水入門の通過儀礼として扱われることもあります。

Black Afgano は 2009 年頃にリリースされた作品で、ダーク・レジン系の重厚な香りを軸にした構成です。樹脂、土、煙、湿った木材を思わせる印象が幾重にも折り重なり、ひと吹きで部屋の空気の質感が変わるような濃密さがあります。Nasomatto 公式は具体的なノート公開を避けていますが、ユーザーレビューやフレグランスコミュニティでは、グリーン・レジン、オーク、樹脂、煙草といった単語が頻出します。万人受けする軽やかな香りではなく、嗜好品としての香水を強く意識した一本で、初めて嗅いだときに「これは香水なのか、儀式の道具なのか」と戸惑う読者も多いはずです。2025 年のフレグランストレンドでもダーク・レジン系の再評価が続いており、Black Afgano は時代の追い風を受けている銘柄と言えます。

もう一本の China White は、対照的に白く清廉な印象をもつ作品です。ホワイトフラワーやパウダリーなノートが感じられ、肌に乗せると体温と混ざりながら静かに展開していきます。Black Afgano が「外向きの存在感」を発する香りだとすれば、China White は「内側に潜るような静けさ」を持ち、官能性とミニマリズムが共存する稀有なバランスを成立させています。ヴィンテージのシルクシャツや、シンプルなホワイトリネンといった素材と組み合わせやすく、編集部としてはミニマル系のスタイリングを好む読者に強く推したい一本です。

この 2 本を起点に Nasomatto の世界に入っていくと、「香り=商品スペック」ではなく「香り=物語と質感」として受け取る感覚が育ちます。なお、いずれも 30 ml のエクストレ濃度で、1 プッシュあたりの持続力が非常に高いため、強くつけすぎないことが鉄則です。

代表作 2 — Pardon・Silver Musk・Hindu Grass

Black Afgano と China White に続いてチェックしたいのが、Pardon(パードン)、Silver Musk(シルバー・ムスク)、Hindu Grass(ヒンドゥー・グラス)の 3 本です。それぞれ趣向が異なり、Nasomatto の表現幅を示す好例になっています。

Pardon は、メンズフレグランスの王道を Nasomatto 流に再解釈した一本です。ウッディかつスパイシーな構造を持ち、伝統的な男性香水の文脈を踏襲しながらも、抽象的な深みを残しているのが特徴です。スーツやレザーといったクラシックなワードローブとも相性がよく、ヴィンテージのテーラードジャケットや古いトレンチコートに重ねたときに、香りと服が共鳴するような感覚があります。日常使いの「自分の名刺になる香り」を探している読者には、最初に試してほしい一本です。

Silver Musk は、ムスク好きにとって外せない選択肢です。一般的な動物的ムスクとは異なり、金属的・鉱物的な冷たさを帯びたムスクで、肌の上でやや乾いた質感に展開していきます。「ムスクは甘くて重い」という先入観を持っている読者ほど驚かされる構成で、ジェンダーレスに使える点もポイントです。シグネチャーセント選びの文脈でも、Silver Musk のような「自分の体温と混ざって匿名性が高まる香り」は強い候補になります。

Hindu Grass は、ベチバーやハーバルなグリーンノートを軸にした、土と植物の匂いを抽象化した一本です。湿った夏草を踏みつけたときの青い香り、湿気を含んだ土の匂いが、まるで写真の一枚を切り取ったかのように立ち上がります。スパイシーさとグリーンが共存し、線の細い甘さも含まれているため、夏場のリネンシャツやワークウェアに合わせるとよくなじみます。古着的なスタイリングを好む読者には、Pardon と並んで日常使いの主力にしやすい銘柄です。

この 3 本に共通するのは、香りの輪郭が明確でありながら、ノート構成を理屈で説明させない懐の深さです。Nasomatto の他の作品同様、つけてから 30 分、1 時間、3 時間後と時間軸でまったく違う表情を見せるため、最初の数プッシュで判断せず、肌に乗せて一日付き合うつもりで試すのが向いています。

関連ブランド Orto Parisi という別人格

Nasomatto を深掘りしていくと、必ず行き当たるのが姉妹ブランド Orto Parisi(オルト・パリージ)です。こちらも Alessandro Gualtieri が手がけるニッチブランドで、2015 年前後にスタートしました。Nasomatto が抽象芸術寄りの表現を担当するのに対し、Orto Parisi は「身体の延長としての香り」「土壌としての人間」というコンセプトを掲げ、より直接的・身体的な香りを志向しています。ボトルも Nasomatto よりさらにごつごつした、化石や鉱石を思わせる造形で、視覚的にも対照的です。

たとえば Narcotic Venus(ナーコティック・ヴィーナス)は、Nasomatto 名義時代の旧 Narcotic V のレガシーを引き継ぐ系譜にあり、白い花とパウダリーさで官能を描く構成です。一方、Orto Parisi の世界では、より露骨に身体性を匂わせる作品群(土・骨・皮膚・煙といったキーワードで語られる作品)が並んでおり、Nasomatto よりさらに好みが分かれる傾向があります。「Nasomatto は気に入ったが、もう一歩踏み込みたい」という読者は、Orto Parisi 側に手を伸ばすと、世界観の地続き感を強く感じられるはずです。

もう一本紹介しておきたいのが Sucre Noir(シュクル・ノワール)です。タイトル通り「黒い砂糖」を抽象化したような、焦がしたカラメル、樹脂、煙、わずかなスパイスを思わせる構成で、Nasomatto のダーク・グルマン系統に位置付けられます。Black Afgano ほどの重厚さはないものの、甘さの中に煙と苦みを潜ませる作りで、ヴィンテージのレザーや古いウールとの相性が抜群です。秋冬のヘビーローテーション候補として、Black Afgano と Sucre Noir を二枚看板にする読者も少なくありません。

Nasomatto と Orto Parisi はあくまで別ブランドですが、両者を横断して楽しむことで、Gualtieri という調香師の世界観をより立体的に味わえます。Maison Crivelli のように物語性を前面に出すブランドとも、また異なる切り口で「香水=表現」という地平を見せてくれる存在です。

編集部の見立て — どこから入るか

Nasomatto を初めて手にする読者には、まず Black Afgano か Silver Musk から入るのが向いています。Black Afgano はブランドの世界観を最も濃く体現した一本で、共通言語を読者の中に作ってくれます。一方、Silver Musk はより日常に馴染ませやすく、香水を「自分の輪郭をうっすら拡張するもの」として使いたい読者向きです。

高単価帯に属するため、購入前にデキャント(小分け)サンプルで肌に乗せてから判断するのが現実的です。古着やヴィンテージ家具と同じく、香水も「実物を試してから決める」が原則で、Nasomatto のように個性の強い銘柄ほどその差は顕著に出ます。エクストレ濃度ゆえに 1 プッシュの満足度が高く、長く付き合える買い物になるはずです。

編集方針について — この記事は GUZ FASHION 編集部のPERFUMEカテゴリの編集方針に沿って制作されています。

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