ニッチ香水の話題になると、まず名前が挙がるのは韓国発のブランドや、中東の伝統を色濃く受け継ぐアラビアン系の香水です。一方で、北欧という地域はどうでしょうか。スウェーデン発のバイレードはすでに世界的な知名度を獲得し、日本の大手美容メディアでも繰り返し特集されています。けれども、その陰に隠れて、デンマークやノルウェー、アイスランドといった土地から生まれた小規模な調香ハウスが、日本ではほとんど紹介されずに眠っています。
この記事では、バイレードのような既に有名なブランドはあえて外し、スウェーデンの19-69、デンマークのZARKOPERFUMEとFRAMA、ノルウェーのSon Venïn、アイスランドのAndrea Maackという5つのブランドから、それぞれの代表作を1本ずつ選びました。いずれも日本国内で正規に購入できる一方、国内の大手香水メディアで体系立てて紹介される機会はまだ少なく、知っている人自体が限られています。人と香りが被りたくない方、次に来る潮流を早めに押さえておきたい方に向けて、香りの特徴と購入時のポイントをまとめます。
| 香水名 | 香調 | 持続性 | おすすめシーン | 編集部評価 |
|---|---|---|---|---|
| 19-69 – Kasbah19-69 | ホワイトハニー、オレンジ、ライム | — | 秋冬・夜・ユニセックス | ★4.1 |
| ZARKOPERFUME – YouthZARKOPERFUME | 桃、メロン、洋梨 | — | 春夏・デイリー・ユニセックス | ★4.0 |
| FRAMA – St. PaulsFRAMA | レモングラス、ベルガモット | — | 通年・在宅・ユニセックス | ★3.9 |
| Son Venïn – Post-HumeSon Venïn | シナモン | — | 秋冬・夜・ユニセックス | ★4.3 |
| Andrea Maack – MagmaAndrea Maack | マダガスカルペッパー、レモン、インセンス | — | 秋冬・夜・ユニセックス | ★4.2 |
19-69 カスバ — マラケシュの夜を再構成したスウェーデンの香り
オレンジやライムの爽やかな立ち上がりから、レザーやウッドの厚みへと移り変わる構成に奥行きがあります。甘さと土っぽさが同居する香り立ちは他にあまり例がありません。ラストの主張が強めに出ることがあるため、つける量は控えめから試すとよいでしょう。
19-69は、スウェーデンのアーティスト、ヨハン・ベルゲリンが手がけるジェンダーニュートラルな香水ブランドです。2017年にパリのコンセプトショップ「コレット」で最初のコレクションが発表され、日本には2020年に上陸しました。代表作の一つであるカスバは、1960年代から70年代にかけてイヴ・サンローランやミック・ジャガー、ヴェルーシュカといった顔ぶれがマラケシュで繰り広げていたパーティーシーンに着想を得た一本です。トップにはホワイトハニーとオレンジ、ライムが軽やかに香り立ち、ミドルではアンバーとパチョリ、ゼラニウムが折り重なります。ラストにかけてバニラとトンカビーン、グアイヤックウッド、レザー、サンダルウッドが厚みを増し、甘さと土っぽさが同居する余韻を残します。国内では楽天市場の正規代理店や伊勢丹新宿店メンズ館でも取り扱われており、手に取りやすい環境が整っています。
2017年にパリのコンセプトショップ「コレット」で最初のコレクションが発表され、日本には2020年に上陸しました。
ZARKOPERFUME ユース — コペンハーゲン発、フルーティーな若さの気配
桃やメロンといったフルーツの瑞々しさと、白い花の華やかさが軽やかに重なる構成です。性別を問わず日常づかいしやすい設計で、北欧ニッチに触れる最初の一本としても選びやすい仕上がりです。持続時間はやや控えめなので、こまめな重ねづけが向いています。
ZARKOPERFUMEは、デンマーク・コペンハーゲンを拠点とする調香師ザルコ・アールマン・パブロフが手がけるブランドです。2022年に発表されたユースは、桃やメロン、洋梨、青リンゴといったフルーツがトップを彩り、ジューシーで瑞々しい立ち上がりを見せます。ミドルでは白い花々やプラム、ジャスミン、ブルガリアンローズが重なり、フローラルな厚みが加わります。ラストにサンダルウッドとムスク、パウダリーノートが続き、名前の通り若さや透明感を思わせる余韻でまとめられています。ユニセックスに設計されているため、性別を問わず日常使いしやすい一本です。国内では正規取扱店を通じて楽天市場でも購入でき、北欧ニッチの入り口としても試しやすい価格帯にあります。
FRAMA セント・ポールズ — コペンハーゲンのデザインスタジオが手がけた最初の香り
レモングラスの清涼感からハーブ、サンダルウッドへと移り変わる構成に、インテリアブランドらしい端正な佇まいが表れています。落ち着いた香りを求める方に向いていますが、華やかさを求める場面にはやや大人しく感じられるかもしれません。
FRAMAは、コペンハーゲンを拠点にインテリアやライフスタイルプロダクトを手がけるデザインスタジオで、創業者のニルス・ストロイヤー・クリストファーセンが2010年に立ち上げました。セント・ポールズは、そのFRAMAが「アポセカリー コレクション」として最初に発表した香水で、調香を手がけたのはレナ・ノーリングです。トップにはレモングラスとベルガモットが香り立ち、ミドルではコリアンダーやローマンカモミール、ラベンダーが続きます。ラストにかけてマイソール産サンダルウッドとベチバー、シダーウッド、フランキンセンスが重なり、土っぽさと落ち着きを兼ね備えた余韻に着地します。家具やインテリアの分野で培われたミニマルな美意識が、香りづくりにもそのまま表れている一本です。国内ではセレクトショップのBEAMSが取り扱っています。
Son Venïn ポストヒューム — 極寒のノルウェーが刻んだ、煙とレザーの記憶
煙とレザー、スパイスが折り重なる構成は、他の北欧ブランドにはない土着的な力強さを持っています。受賞歴のある実力派の一本ですが、香りの主張が強いため、初めての方はまず少量から試すことをおすすめします。
Son Venïnは、2016年にノルウェーの首都オスロで設立されたニッチフレグランスメゾンです。代表作のポストヒュームは、2020年のジ・アート・アンド・オルファクション・アワードを受賞し、ブランドの名を一躍広めた一本だと伝えられています。人類が極寒と向き合ってきたノルウェーの千年の歴史を香りで表現したというコンセプトで、トップにはシナモンが香り、ミドルではタバコとクローブが続きます。ラストにかけて煙やレザー、ベチバー、バニラ、トンカビーンが折り重なり、たき火のそばで過ごす夜を思わせる、スモーキーで温もりのある余韻を残します。北欧というと爽やかで清潔な香りを想像しがちですが、この一本はむしろ土着的で骨太な表情を持っており、他の4本とは異なる方向性を味わえます。国内ではニッチフレグランス専門店のノーズショップで取り扱われています。
Andrea Maack マグマ — アイスランドの火山地帯を描いたウッディフローラル
ペッパーとインセンスの立ち上がりから、ミルラやローズを経てパチョリとスエードへ着地する構成に、火山地帯という着想の深みが表れています。個性の強い一本なので、他のブランドと吟味しながら好みを見極めたい方に向いています。
Andrea Maackは、アイスランドの首都レイキャビクを拠点にするビジュアルアーティスト、アンドレア・マーク自身の名を冠したブランドです。2009年、ギャラリーのインスタレーションの一部として香りを制作したことが出発点になったと伝えられており、アートと調香の境界を意識的にぼかした作品づくりが特徴です。2022年に発表されたマグマは、アイスランド南西部レイキャネス半島の火山地帯からインスピレーションを得た一本で、トップにはマダガスカル産ペッパーとレモン、インセンスが香り立ちます。ミドルではミルラとローズ、サフランが重なり、ラストにかけてトンカビーンとパチョリ、スエードが続く、ウッディとフローラルが同居する構成です。地熱と静けさが同居するアイスランドの風景を、そのまま瓶に閉じ込めたような一本だと言えるでしょう。国内ではノーズショップを通じて購入できます。
選び方 — 国と気候で香りの方向性が変わる
5本を並べてみると、同じ「北欧」という括りでも、国によって香りの方向性がはっきりと分かれていることに気づきます。スウェーデンの19-69とデンマークのZARKOPERFUMEは、比較的華やかでフルーティー・オリエンタルな要素が強く、初めて北欧ニッチに触れる方でも扱いやすい傾向にあります。一方でデンマークのFRAMAはハーブとウッドを軸にした落ち着いた構成で、ノルウェーのSon Venïnはさらに踏み込んで煙やレザーといった土着的な要素を前面に出しています。アイスランドのAndrea Maackは、火山という土地の記憶を抽象的に表現する、アート寄りの立ち位置です。華やかさを求めるなら19-69かZARKOPERFUMEから、落ち着いた深みを求めるならFRAMAやSon Venïnから、個性的な一本を探しているならAndrea Maackから試してみるとよいでしょう。
購入する際は、可能であればまず小容量やサンプルで香りの変化を確かめることをおすすめします。ニッチブランドは一本あたりの価格が比較的高く、店頭で試せる機会も限られているため、ノーズショップのような専門店の店舗を訪れて実際に香りを確認してから選ぶと失敗が少なくなります。近くに店舗がない場合は、各ブランドの正規取扱店を通じてオンラインで購入する方法も選択肢になります。贈り物として選ぶ場合は、相手が普段どのような系統の香水を好むかを思い出しながら、華やかなグループと落ち着いたグループのどちらに近いかを基準に選ぶと、失敗が少なくなるでしょう。
なぜ北欧なのか — ミニマルな美意識と土地の記憶
北欧というと、家具やインテリアの分野で培われてきたミニマルで機能的なデザインを思い浮かべる方が多いかもしれません。今回取り上げた5ブランドにも、そうした美意識との地続き感があります。FRAMAはもともとインテリアやライフスタイルプロダクトを手がけるスタジオであり、香水もそのデザイン哲学の延長線上にあります。一方でSon VenïnやAndrea Maackのように、土地の歴史や自然そのものを主題に据え、装飾を削ぎ落としながらも土着的な物語性を強く打ち出すブランドもあり、一枚岩ではない多様さが北欧ニッチの面白さだと言えるでしょう。
日本の香水好きのあいだでも、バイレード以外の北欧ブランドはまだあまり知られていません。国内の大手美容メディアが体系立てて紹介する機会も少なく、情報源はブランド公式サイトや専門店のページ、海外の香水データベースが中心になっています。だからこそ、いま知っておく価値がある領域だと考えられます。
気候という観点からも、北欧という土地は香水づくりに独特の視点を与えているようです。日照時間が短く長い冬を過ごす地域だからこそ、煙やレザーといった温もりを感じさせる素材に向き合ってきたSon Venïnのような作り手が生まれる一方で、短い夏の透明感を丁寧にすくい取るZARKOPERFUMEのようなブランドも同じ土地から育っています。一つの気候風土から相反するような香りの方向性が同時に生まれてくるところに、北欧ニッチの奥行きがあると言えるでしょう。
よくある質問
Q. 北欧ニッチ香水はどこで購入できますか。
ブランドによって取扱窓口が異なります。19-69は楽天市場の正規代理店や伊勢丹新宿店メンズ館、ZARKOPERFUMEは楽天市場の正規取扱店、FRAMAはBEAMS、Son VenïnとAndrea Maackはニッチフレグランス専門店のノーズショップで購入できます。
Q. どの香りから試すのがおすすめですか。
初めて北欧ニッチに触れる方には、比較的華やかで親しみやすい19-69のカスバか、ZARKOPERFUMEのユースをおすすめします。落ち着いた香りを好む方はFRAMAのセント・ポールズから試すとよいでしょう。
Q. 男女どちらでも使えますか。
今回紹介した5本はいずれもジェンダーニュートラルな設計を意識しており、性別を問わず使いやすい香りです。香調の好みに応じて、パートナーとお揃いで使うという楽しみ方もできるでしょう。
Q. バイレードとの違いは何ですか。
バイレードもスウェーデン発のブランドですが、すでに世界的な知名度を獲得し、日本でも多くのメディアで紹介されています。今回紹介した5本は、バイレードほど広く知られていない、より小規模で個性の強い調香ハウスという位置づけです。知名度よりも、作り手の物語や土地の記憶を重視して選びたい方に向いています。
まとめ
北欧という地域は、家具やインテリアの分野では広く知られていますが、香水の分野ではバイレードの陰に隠れて、まだ多くのブランドが日本では紹介されずにいます。国ごとに気候も歴史も異なるからこそ、ひとくくりに語れない奥行きがこの地域の香水文化にはあります。スウェーデンの19-69、デンマークのZARKOPERFUMEとFRAMA、ノルウェーのSon Venïn、アイスランドのAndrea Maackという5本は、それぞれ異なる方向性を持ちながらも、装飾を削ぎ落とした北欧らしい美意識でつながっています。人と香りが被りたくない方、次に来る潮流を早めに押さえておきたい方は、この機会にじっくりと北欧ニッチの世界に触れてみてはいかがでしょうか。より広い視点でニッチフレグランスを知りたい方はニッチフレグランス10選 — 独創性で選ぶ隠れた名作香水ガイドや、ゴールドフィールド&バンクスのおすすめ6選もあわせてご覧ください。地域という切り口でニッチブランドを見比べてみると、香水選びの視野がまた一段と広がっていくはずです。











