Eckhaus Latta(エクハウス・ラッタ)は、2011年にアメリカ・ニューヨークで、Mike Eckhaus(マイク・エクハウス)とZoe Latta(ゾーイ・ラッタ)の二人が立ち上げたデュアル体制のファッションブランドです。プロのモデルだけでなく、自分たちの創作圏にいる実在の友人やアーティストを起用する独自のキャスティング手法と、性別や年代を横断するシルエットで知られ、2018年にはニューヨークのホイットニー美術館で単独の展覧会「Possessed」を開催するなど、ファッションとアートの境界を行き来してきました。旧版の記事には、この展覧会名を「Possibilities」と記した箇所や、著名人の着用歴、American Eagleとの協業といった、一次情報では裏付けが取れない記述が含まれていました。本稿ではこうした点を一つずつ確認し直しながら、二人の歩みとブランドの現在地をお伝えします。
生い立ちと出会い、RISDから始まった創業までの道のり
Mike Eckhausは1987年ごろにアメリカ・ニューヨークで、Zoe Lattaは同じく1987年ごろにアメリカ・カリフォルニア州サンタクルーズで生まれたとされています。Forbesが2016年に掲載した紹介記事では二人とも当時28歳と表記されており、複数の媒体で伝えられる生年とも矛盾しません。二人が出会ったのは、アメリカ・ロードアイランド州プロビデンスにあるRhode Island School of Design(RISD)でのことです。RISDの公式サイトによれば、Mike Eckhausは彫刻(Sculpture)を専攻し、Zoe Lattaはテキスタイルを専攻しており、2010年にそれぞれの分野を卒業しています。ファッションそのものを専門的に学んだわけではなく、身体と素材への関心を軸に、それぞれ別の角度から服作りに近づいていったという点は、のちのEckhaus Lattaの実験的な方向性を理解するうえで欠かせない背景です。
卒業後、二人はすぐに共同でブランドを始めたわけではありませんでした。Mike Eckhausはニューヨークに拠点を移し、Marc by Marc Jacobsでアクセサリーデザイナーとして働き始めます。一方のZoe Lattaは、自身のテキスタイル事業「Prince Ruth」を立ち上げ、Calvin KleinやProenza Schoulerといったブランドに生地を卸しながら、同時にセレクトショップOpening Ceremonyのニットウェアデザイナーとしても働いていました。取引先には他にもMarc JacobsやVera Wangといった名前が挙がっており、当時すでにニューヨークのファッション業界のなかで一定の信頼を得ていたテキスタイルデザイナーだったことがうかがえます。ファッション業界での実務経験を積みながら、それぞれ独立したキャリアを歩んでいた時期がまずあったことになります。旧版の記事はこの前職の期間にほとんど触れておらず、RISD卒業から創業までを一足飛びに結びつけてしまっていましたが、実際には数年にわたる下積みの期間があったことがうかがえます。
ブランド創業の直接のきっかけとして、RISDの公式サイトが紹介しているのが、ある国際的なファッションコンペティションへの応募です。二人はブルックリンのウィリアムズバーグに小さなスタジオを借り、軽い気持ちでこのコンペティションに参加を決めました。課題は1着のルックと、それに続く8着の合計9着を制作するというもので、二人は72時間というごく短い時間のなかでこの課題をやり遂げています。この経験がきっかけとなり、せっかく作った9着をコンペティションのためだけに終わらせず、自分たちでファッションショーを開いてみようという流れが生まれました。これが2011年、Eckhaus Lattaという名前でのブランド立ち上げにつながっていきます。RISDで築いた人間関係がそのまま創作の土台になっているという点は、Mike Eckhaus自身も後年のインタビューで振り返っており、在学中に培ったコミュニティが今も実践の核であり続けているようです。
創業当初のEckhaus Lattaは、ファッション業界の慣習にとらわれない実験的な姿勢を持ちながらも、二人とも「自分たちはファッションデザイナーだと思っている、ただ服を売る仕事をしているから」という言い方で、自分たちの立ち位置を語っていたと2015年のW Magazineの記事に紹介されています。アートの文脈で語られることの多いブランドでありながら、あくまで実際に着られる服を作る仕事として自分たちの活動を位置づけていたことが読み取れる発言であり、この姿勢はブランドが大きくなった現在に至るまで変わっていないようです。
この経験がきっかけとなり、せっかく作った9着をコンペティションのためだけに終わらせず、自分たちでファッションショーを開いてみようという流れが生まれました。
ブランド美学 — 実在の人々を起用するキャスティングという方法論
Eckhaus Lattaを語るうえで欠かせないのが、いわゆる「リアルキャスティング」と呼ばれる独自の起用方針です。ホイットニー美術館が公開している展覧会エッセイによれば、二人はプロのモデルと非プロのモデルを区別なく起用し、単に多様性を演出するための起用にとどまらず、実際に自分たちの創作に影響を与えてきた人物を選んでいます。アーティストのJuliana HuxtableやMaia Ruth Leeをはじめ、ギャラリスト、コレクター、パブリシストといった、二人の交友関係のなかにいる人々がランウェイに立ってきました。「Eckhaus Lattaの顧客は、標準化された美の基準や、サイズ、性別、人種の規範に対するもう一つの選択肢を、私たちがどう提示しようとしているかに共感してくれているのだと思う」という趣旨の発言も、このエッセイのなかで紹介されています。旧版の記事は「街中で見かけるような一般人、年配者、妊婦」といった漠然とした描写にとどまっていましたが、実際にはブランドと直接つながりのある、顔の見える人々を起用する方法論だという点は、より正確に理解しておきたいところです。この方法論は一時的な話題作りではなく、現在まで一貫して続けられています。業界誌WWDが伝えた2026年秋冬コレクションのレビューでは、ぎこちなさと洗練の間を漂うような感情的な緊張感をテーマに掲げつつ、今回も友人たちとプロのモデルを並べてキャスティングしたと紹介されており、続く2026年春夏コレクションのレビューでも、ジェンダーにとらわれない構成と、実際の身体や人柄が服を通して伝わってくるような親密な雰囲気が評されています。創業から15年近くが経った現在も、二人がこの方法論を看板だけのものにせず、シーズンごとに実践し続けていることが見て取れます。
この方法論が広く知られるきっかけの一つが、美術展での紹介です。2015年、二人はMoMA PS1が開催したニューヨークの現代美術を横断する大規模なグループ展「Greater New York」に参加し、ファッションデザインの領域から出展しています。2016年にはハマー美術館(UCLA Hammer Museum)関連の企画でも取り上げられ、美術の文脈でEckhaus Lattaを紹介する動きが積み重ねられていきました。そして2018年、ニューヨークのホイットニー美術館で単独の展覧会「Eckhaus Latta: Possessed」が、8月3日から10月8日にかけて開催されます。これはホイットニー美術館にとって21年ぶりとなるファッション関連の展覧会でした。会場は写真作品のセクション、実際に手に取り試着し購入できる小売店のような空間、そして監視カメラの映像を流す薄暗い部屋という3部構成で、ファッションの広告、消費体験、そして視線にさらされる感覚までを扱う内容だったと複数の美術メディアが伝えています。旧版の記事はこの展覧会名を「Possibilities」と記していましたが、ホイットニー美術館の公式サイトや複数の展覧会評を確認したかぎり、正しい展覧会名は「Possessed」です。
受賞歴についても、旧版の記事には出典の確認できない記述がありました。確認できたかぎりでは、二人は2018年のLVMH Prize for Young Fashion Designersのファイナリストに選ばれています。これはグランプリの受賞者ではなく、最終候補まで残った複数組のうちの一組という位置づけです。その後2021年には、CFDA/Vogue Fashion Fundのファイナリストにも名を連ねました。この年は例年と異なり、最終候補に残った10組すべてに資金援助とメンタリングの機会が提供される形式が取られています。さらに2025年のCFDA Fashion Awardsでは、アメリカン・メンズウェア・デザイナー・オブ・ザ・イヤー部門にノミネートされましたが、受賞したのはThom Browneでした。旧版の記事にあった「2018年CFDA Fashion Fund受賞」という記述は、年も賞の種類も、受賞かノミネートかという点でも事実と食い違っており、本稿では採用していません。
代表アイテムと意匠、そしてスニーカーブランドとの協業
Eckhaus Lattaの服作りの中心にあるのは、素材そのものへの実験的なアプローチです。編み込みの構造を大胆に見せるニットウェアは、二人の美術的な発想がもっとも色濃く表れるアイテムの一つで、ジェンダーにとらわれないシルエットで仕立てられています。
一見すると控えめなシャツやトップスも、Eckhaus Lattaの重要な語彙です。染めムラをそのまま生かした加工や、パーツを組み替えるようにして仕立てる再構築的な手法が随所に見られ、シンプルな一着に見えても、近くで見ると独自の工夫が施されていることが多いアイテムです。
デニムや長年培ってきたテキスタイルの知見を生かしたボトムスも、ブランドを象徴する存在です。Zoe Lattaが創業前から手がけてきたテキスタイル事業の経験は、既製の生地をそのまま使うのではなく、素材そのものを作り替えるようなアプローチとして、今もコレクションの随所に息づいています。
アパレル以外の分野では、スペインの靴ブランドCamperとの協業がとりわけ息の長い取り組みです。2016年の秋冬シーズンで最初のカプセルコレクションを発表し、翌2017年の春夏シーズンにも続編を展開するなど、複数シーズンにわたって継続されてきました。奇抜な色使いと、既存のCamperの型を組み替えるような発想の靴は、Eckhaus Lattaらしい実験精神を靴という異なるカテゴリーに持ち込んだ事例として、複数のファッションメディアで取り上げられています。スポーツブランドとの関わりも古く、2015年にはナイキが立ち上げたカスタマイズプログラム「Nike iD」の初期に参加したデザイナーの一組として、バスケットボールシューズをベースにしたスニーカーを手がけました。2019年には、シープスキンブーツで知られるUGGとの協業カプセルも発表しています。これらの協業を通じて、Eckhaus Lattaはアパレルの枠を越えて、素材への実験的な向き合い方を靴という領域にも広げてきたことがわかります。正規の販路としては、Comme des Garçonsグループが運営する複合セレクトショップDover Street Marketが、ニューヨーク店のオンラインストアでメンズ・ウィメンズ双方のEckhaus Lattaを継続的に取り扱っており、ハイファッションとストリートウェアの双方を扱うDover Street Marketの品揃えのなかでも、Eckhaus Lattaは実験的なコンテンポラリーブランドの一角として位置づけられています。
どんな人に似合うブランドか
Eckhaus Lattaが似合うのは、着る人自身の体型や個性をそのまま生かした服を探している人です。性別を強く意識させないシルエットや、あえて完璧に整えすぎない縫製の質感は、モデル体型を前提にした服にどこか窮屈さを感じてきた人にとって、心地よい選択肢になり得ます。二人が実在の人々をキャスティングしてきた背景には、既存の美の基準からの距離を保ちたいという姿勢があり、その考え方に共感できる人ほど、このブランドの服を長く着続けやすいと言えるでしょう。
一方で、左右対称できっちりと仕立てられたクラシックな服を求める人や、ロゴを前面に押し出したわかりやすい主張を好む人にとっては、Eckhaus Lattaの実験的な加工や非対称なシルエットは、やや扱いにくく映るかもしれません。その場合は、比較的シンプルなニットのトップスや、Camperとの協業スニーカーのように単体でも取り入れやすいアイテムから試してみると、ブランドの世界観に無理なく近づくことができます。
また、Eckhaus Lattaは素材そのものの質感や触感を重視するブランドとしても知られています。既存の生地をそのまま使うのではなく、思いがけない素材の組み合わせや、生地の裏表を逆にするような発想を随所に取り入れており、写真映えだけを意識した服というより、実際に袖を通して質感を確かめることで真価がわかる服だといえます。店頭やDover Street Marketのようなセレクトショップで実物に触れる機会があれば、写真では伝わりにくい生地の重みや伸縮性を確認してから選ぶことをおすすめします。
体型やジェンダーにとらわれない設計であるぶん、サイズ表記が一般的なブランドとは異なる場合があります。中古で購入する際は、着丈や身幅の実寸を必ず確認し、写真の印象だけで判断しないことが、失敗を避けるうえで重要なポイントになります。
中古市場で状態の良いEckhaus Lattaに出会うために、まずは比較的まとまった数が作られてきたニットのトップスやTシャツから探し始め、慣れてきたら一点物に近い加工が施されたシャツやアウターへと選択肢を広げていくという順番も、無理のない探し方の一つです。
一方で、ジェンダーの規範から距離を置きたいという価値観そのものに共感できるかどうかも、このブランドを長く楽しめるかを左右する要素です。単に見た目の実験性だけでなく、二人が繰り返し語ってきた「標準化された美の基準への代替案を提示する」という姿勢に共感できる人ほど、Eckhaus Lattaの服を自分の定番として取り入れやすいはずです。
中古市場でのEckhaus Latta — アート系ハウスとしての希少性
Eckhaus Lattaの中古市場は、量産型のブランドとは少し異なる軸で成り立っています。一つのシーズンで作られる数自体が多くないうえ、素材の組み替えや染めムラを生かした一点物に近い加工が施されたアイテムが少なくないため、同じ柄・同じ配色の個体に二度と出会えないケースも珍しくありません。日本国内では、フリマアプリやVestiaire Collectiveのような海外の委託販売プラットフォーム、原宿・渋谷・青山エリアの古着店での取り扱いが中心です。
中古で探す際にまず意識したいのは、ニットの編み込みやシャツの染めムラといった、意図的な加工とほつれや劣化との見分け方です。Eckhaus Lattaの服は仕立ての段階からあえて不揃いに見せる工夫が施されていることが多く、単に状態が悪いのか、それともブランドの意匠として最初からそう作られているのかを、写真や現物で丁寧に確認する必要があります。ホイットニー美術館での展覧会「Possessed」の時期に近い年代のアイテムは、ブランドの歴史的な節目と重なるという意味で、コレクター的な視点からも関心を持たれやすい部類です。CamperやNike iD、UGGといった協業アイテムは、アパレル本体とは別の探し方になりますが、いずれも生産数が限られており、状態の良いものは見つけ次第押さえておきたいという声もよく聞かれます。GUZ FASHIONの読者のなかには、実験的でアート寄りのブランドをあえて中古で探すことに面白みを感じる人も多く、Eckhaus Lattaはまさにその代表格として位置づけられるブランドだといえるでしょう。加えて、Zoe Latta自身が現在も「Rotting at the Vine」という名前のニュースレターでファッションやカルチャーについて発信を続けていることも、ブランドの背景を理解するうえで参考になる情報源です。デザイナー本人の言葉に触れながら中古のアイテムを選ぶことで、単なる古着としてではなく、二人が積み重ねてきた文脈ごと楽しむ選び方ができるはずです。
よくある疑問
Eckhaus Lattaはニューヨークのブランドですか、それともロサンゼルスのブランドですか
創業の地はニューヨークですが、現在はニューヨークとロサンゼルスの両方に拠点を持って活動しているとされています。Zoe Latta自身が20代後半でロサンゼルスに拠点を移したとする記述もあり、二人の活動範囲がアメリカ東海岸と西海岸にまたがっていることは、ブランドの現在地を理解するうえで押さえておきたいポイントです。
「リアルキャスティング」とはどのような取り組みですか
単に多様な体型や年齢の人を起用するというだけでなく、Mike EckhausとZoe Lattaの創作に実際に影響を与えてきたアーティストやギャラリスト、パブリシストといった、二人と直接つながりのある人々をランウェイに起用する方法論です。プロのモデルを排除しているわけではなく、プロと非プロを区別せずに起用している点も特徴です。
American Eagleとの協業はありますか
本稿の執筆時点で一次情報を確認したかぎり、American Eagleとの協業を裏付ける情報は見当たりませんでした。確認できた継続的な協業は、靴ブランドCamper(2016年秋冬から複数シーズン)、Nike iD(2015年)、UGG(2019年)です。今後新たな協業が発表された場合は、公式サイトや一次報道での確認が必要です。
まとめ
Eckhaus Lattaの歩みを振り返ると、RISDで彫刻とテキスタイルという異なる分野を学んだ二人が、卒業後にそれぞれ業界での実務経験を積みながら、あるコンペティションへの軽い気持ちでの応募をきっかけに、2011年、共同でブランドを立ち上げたことが見えてきます。実在の人々を起用するキャスティングの方法論を軸に、MoMA PS1やハマー美術館、そして2018年のホイットニー美術館での単独展「Possessed」まで、ファッションとアートの境界を行き来しながら活動を続けてきました。2018年のLVMH Prizeファイナリスト、2021年のCFDA/Vogue Fashion Fundファイナリスト、2025年のCFDA賞ノミネートといった評価も積み重ねています。旧版の記事にあった展覧会名の誤りや、出典の確認できない著名人の着用歴、確認できなかった協業についての記述は、本稿で一次情報をもとに整理し直しました。2011年の創業からおよそ15年、RISDの学生時代に築いた関係を土台に、それぞれの前職で得た経験を持ち寄りながら、二人は一貫して同じ方向を向いて活動を続けてきました。中古でEckhaus Lattaのアイテムを探すときは、意図的な加工とそうでない劣化を見分けながら、そしてサイズ表記が一般的なブランドと異なる場合がある点にも注意しながら、この二人が積み重ねてきた実験の跡を楽しんでみてください。











