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身軽に旅する装い — 旅行ファッションの考え方と、着回す一着の選び方

スーツケースに少数の服を詰めた身軽でクリーンな旅装のイメージ

旅の荷づくりは、ちょっとしたパズルです。限られたスーツケースのなかに、移動の快適さも、観光の動きやすさも、少しあらたまった食事の場の品も、すべて詰め込まなければなりません。あれもこれもと不安になって詰め込んだ結果、重いスーツケースを引きずるはめになり、しかも半分は一度も着なかった。そんな経験を持つ人は、少なくないはずです。

けれども、旅慣れた人ほど、荷物は驚くほど少なく、それでいて毎日きちんと素敵に見えます。その秘密は、たくさん持っていくことではなく、少ない服を賢く着回すことにありました。何を持っていくかを上手に絞れる人は、旅先での身のこなしも軽やかです。本記事では、身軽に旅するための装いの考え方を、古着という入り口も交えながら、編集部の視点で書いていきます。荷物が軽くなれば、旅そのものも、ずっと軽やかになります。重い荷物から解放されると、心まで自由になるから不思議です。

旅装の核心 — 一着で複数の場面に

旅の装いを考えるうえで、もっとも大切な原則があります。それは、一着でできるだけ多くの場面に対応させる、ということです。

たとえば、シンプルで品のある一着を選べば、長い移動でも楽に過ごせて、観光地でも様になり、夜の少しあらたまった食事の席にも対応できます。一着が三つの場面をこなせれば、持っていく服の数は、半分以下に減らせます。逆に、一つの場面でしか使えない服は、旅の荷物のなかでもっとも非効率な存在です。一度しか着ないかもしれないドレスや、特定のコーディネートでしか使えないアイテム。それらを思い切って減らすことが、身軽な旅装の第一歩になります。

具体的に考えてみましょう。たとえば、無地のニットと一本のきれいめのパンツがあれば、ニットはシャツに重ねても一枚でも着られ、パンツは観光にも食事にも使えます。そこに軽い羽織りものと、歩きやすい靴を一足加えれば、数日の旅はじゅうぶんに回せます。同じ服でも、合わせる小物を変えるだけで印象は変わります。スカーフを一枚足す、アクセサリーを変える。そうした小さな工夫で、少ない服から多くの表情を引き出せるのです。一着を選ぶときに、「この服は、ほかにどんな場面で着られるだろう」と問いかけてみる。その視点を持つだけで、旅の荷物は自然と絞られていきます。これは、ふだんの暮らしで触れたカプセルワードローブの考え方を、旅というかぎられた条件のなかで突き詰めたものだといえます。荷物という制約があるからこそ、本当に使える一着が見えてくる。旅は、自分の服を見つめ直すよい機会でもあります。

一着を選ぶときに、「この服は、ほかにどんな場面で着られるだろう」と問いかけてみる。

引き算のパッキング

身軽な旅装の鍵は、足し算ではなく引き算にあります。何を持っていくかと同じくらい、何を持っていかないかが大切になるのです。引き算のパッキングには、いくつかのこつがあります。

まず、色を統一することです。黒、白、ベージュ、紺といった、互いに合わせやすい二、三色で全アイテムをそろえると、どれとどれを組み合わせても破綻しません。色をそろえるだけで、少ない枚数から生み出せる組み合わせの数が、ぐっと増えます。たとえば三着のトップスと二本のボトムスが、すべて同系色でそろっていれば、その掛け合わせだけで何通りもの装いが生まれます。逆に、色も柄もばらばらだと、せっかく持っていっても、合わせられる組み合わせは限られてしまいます。色の統一は、荷物を減らしながら着回しを増やす、もっとも効果的な工夫です。

次に、靴を絞ることです。靴はかさばり、重さもあるので、旅装でもっとも数を抑えたいアイテムです。歩きやすくて、かつそれなりにきちんと見える一足を選べば、観光から食事まで一足で通せます。どうしても二足必要なときも、一足は履いていけば、荷物に入れるのは一足だけですみます。そして、重ね着を前提にすることです。分厚いアウターを一着持っていくより、薄手のニットやシャツ、軽量の上着を重ねて温度を調整するほうが、寒暖差にも柔軟に対応でき、荷物もかさばりません。

そして、いちばん効くのが、「使うかもしれない」を手放すことです。念のために、と入れた服は、たいてい一度も使われずに帰ってきます。旅から戻ったとき、一度も着なかった服があれば、それは次回から外してよい服です。この見直しを繰り返すうちに、自分にとって本当に必要な旅の装いが、はっきりと見えてきます。引き算のパッキングは、一度で完成するものではなく、旅を重ねるごとに研ぎ澄まされていく技術なのです。

ひとつ、心強い考え方があります。たいていの旅先では、現地でも服は買えるということです。本当に足りないものがあれば、現地で調達すればよい。そう考えると、「念のため」の不安はずいぶん軽くなります。むしろ、旅先で出会った一着を持ち帰ることは、その土地の記憶を装いに刻む、旅ならではの楽しみにもなります。完璧に備えようとするより、少し足りないくらいの身軽さを楽しむ。そのくらいの気持ちが、旅の装いにはちょうどよいのです。

素材を味方につける

旅装では、素材の選び方が、快適さを大きく左右します。同じデザインの服でも、素材が違うだけで、旅の使い勝手はまるで変わります。

旅に向く素材の条件は、軽いこと、シワになりにくいこと、そして温度の調整がきくことです。たとえば、リネンは通気性がよく、多少シワになってもそれが味になるため、暑い土地の旅に向いています。メリノウールは、軽くて暖かく、汗のにおいがこもりにくいので、寒暖差のある旅で頼りになります。スーツケースのなかで小さくたためて、出してもシワが目立ちにくい素材を選べば、到着してすぐに気持ちよく着られます。

ボトムスも、素材が快適さを決めます。少し伸縮性のあるパンツは、長い移動でも体を締めつけず、観光で歩き回るのにも向いています。きれいに見えて、なおかつ楽に動ける。その両立が、旅のボトムス選びの理想です。見た目はきれいめでも、中身は動きやすい。そんな一本があると、観光からディナーまで一日中はき続けられます。

上着では、小さくたためる軽量のダウンやウインドブレーカーが重宝します。かさばらず、急な冷え込みや雨に対応できる一枚は、旅の心強い相棒になります。そして、重ね着の発想が、旅の温度管理の要になります。分厚い一着で備えるのではなく、薄手のものを重ねて調整する。シャツの上にニット、その上に軽い上着、という三層があれば、暑い昼から冷える夜まで、脱ぎ着で柔軟に対応できます。重ねた一枚一枚は単体でも使えるので、組み合わせの幅も広がります。一着で大きく備えるより、薄く何枚かを重ねるほうが、軽さと柔軟さの両方で勝るのです。荷物の総量を抑えつつ、あらゆる気温に対応できる。重ね着は、身軽な旅装のもっとも賢い戦略でした。

旅先に合わせる

旅装を考えるうえで、行き先の文化や習慣に目を向けることも大切です。土地によって、ふさわしい装いの感覚は少しずつ違うからです。

たとえば、ヨーロッパの街なかでは、観光地でもややきちんとした装いが好まれる場面があり、教会など格式ある場所では、肌を見せすぎない配慮が求められることもあります。肩や膝が隠れる一枚を持っておくと安心です。アジアの寺院や宗教施設でも、同様に肌の露出を控える配慮が必要な場合があります。靴を脱いで上がる場所も多いので、脱ぎ履きしやすい靴や、きれいな靴下も気にかけたいところです。一方で、リゾートやアメリカの都市では、より自由でカジュアルな装いがなじみます。

行き先のドレスコードや習慣を、事前に少し調べておくだけで、現地で気まずい思いをせずにすみます。また、気候も忘れてはなりません。同じ季節でも、土地によって寒暖は大きく違います。出発前に現地の気温を確かめ、それに合わせて重ね着を調整すれば、寒さや暑さで困ることも減ります。とはいえ、難しく考えすぎることはありません。品のある一着を一枚忍ばせておけば、たいていのあらたまった場面には対応できます。その土地の習慣に敬意を払い、気候に備える。その小さな心づかいが、旅の装いを快適にし、現地での体験を豊かにしてくれます。装いが土地になじむほど、旅はより深く楽しめるものになります。

古着で組む旅の装い

ここで、古着の話に入ります。旅の装いと古着は、思いのほか相性のよい組み合わせです。なぜなら、旅装に求められる「丈夫で、長く使えて、味のある一着」という条件に、良い古着はぴったり当てはまるからです。

かつて丁寧に作られた古着は、いまの大量生産品よりも生地が丈夫なことが多く、旅の多少の酷使にも耐えてくれます。長時間の移動で座りっぱなしでも、観光で動き回っても、しっかりした生地はへたれません。天然素材の古着は、シワになっても風合いとして楽しめるものが多く、旅装の気楽さにも合っています。きっちりプレスを保たなければならない服は、旅には窮屈です。その点、もともと味のある古着は、多少のシワも気にせず着られます。

また、もし旅先で汚れたり傷んだりしても、高価な新品ほど神経質にならずにすむのも、古着の気楽な利点です。気兼ねなく着られて、しかも様になる。その懐の深さが、旅の装いに向いています。色を抑えた古着の定番を数着そろえておけば、それだけで身軽で味のある旅装が組めます。旅の写真に写る一着が、量産品にはない自分らしい風合いを持っているのも、古着ならではの楽しみでした。そして旅から帰れば、その服には旅の記憶も重なって、いっそう愛着のある一着になります。あの街で、この一着を着て歩いた。そんな記憶をまとえるのも、長く着る服ならではのことです。

身軽さがくれる自由

旅行ファッションの本質は、たくさんの服でおしゃれをすることではありません。少ない服を賢く選び、軽やかに動けるようにすることです。一着で複数の場面に対応させ、色をそろえ、重ね着で調整し、「使うかも」を手放す。そうして荷物が軽くなると、旅そのものが自由になります。重いスーツケースを引きずる代わりに、身軽な足取りで、思いがけない路地に入っていける。

これは、ふだんの暮らしの装いにも通じる考え方です。本当に必要なものを見極め、少ないもので満ち足りる。旅は、その練習の場でもあります。一週間を数着で過ごしてみると、実は人はそれほど多くの服を必要としていないことに気づきます。その気づきは、帰宅後のクローゼットを見直すきっかけにもなります。旅の荷づくりで身につけた引き算の感覚は、ふだんの暮らしにも、きっと生きてくるはずです。

旅の装いに、唯一の正解はありません。行き先も、季節も、旅のスタイルも、人それぞれだからです。けれども、少ない服を賢く着回し、身軽に動くという原則は、どんな旅にも通じます。次の旅では、いつもより一枚少なく、けれど着回しの効く一着を選んでみる。古着屋で見つけた、丈夫で味のある一着を旅の相棒にしてみる。身軽な装いがくれる自由を、ぜひ一度味わってみてください。荷物が軽いほど、心は遠くまで自由に動けるのです。そして、よい旅の相棒になった一着は、きっと日常でも、長く愛せる一着になっているはずです。

編集方針について — この記事は GUZ FASHION 編集部のFASHIONカテゴリの編集方針に沿って制作されています。

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