TYPE BEAT

クラウドラップとは — 浮遊感のあるビートの作り方

クラウドラップとは — 浮遊感のあるビートの作り方

霧の中を漂うような、夢うつつのサウンド。深いリバーブに包まれた幻想的なビートに、メランコリックなムードが漂う。それがクラウドラップ(Cloud Rap)です。2010年前後のインターネット文化とともに生まれたこのジャンルは、現実から少し浮遊したような独特の浮遊感が魅力で、いまも多くの作り手を惹きつけています。ここではクラウドラップの特徴と歴史、音を構成する要素、作り方の基本、必要な機材、後世への影響までを順に見ていきます。聴くのが好きな人にも、これから自分でこの幻想的なビートを作ってみたい人にも、ジャンルの全体像と魅力をつかむ手がかりになるはずです。

クラウドラップとはどんな音楽か

クラウドラップは、2000年代後半から2010年代初頭にかけて生まれたヒップホップのサブジャンルです。その名のとおり「雲(クラウド)」のような、ふわふわと漂う幻想的なサウンドが最大の特徴です。深くかけたリバーブ、霞んだアンビエントなサンプル、ゆったりとしたテンポが組み合わさり、現実から少し離れた夢のような空間を作り出します。

歌詞のテーマには、現実逃避や憂鬱、そしてインターネット文化が色濃く反映されることが多く、その内省的な雰囲気もジャンルの個性です。きらびやかに作り込むのではなく、ローファイで霞んだ質感をあえて残すことで、独特の浮遊感と切なさを生み出します。明確なメロディや派手な展開よりも、空気感とムードで聴かせるスタイルは、聴く人を内面的な世界へと誘います。この「音で空間や感情を描く」という発想は、ビートメイクを学ぶうえでも示唆に富んでいます。派手なテクニックを競うのではなく、いかに雰囲気を作り、聴き手の心を動かすか。その本質的な問いに向き合えるのが、クラウドラップというジャンルの奥深さです。

その名のとおり「雲(クラウド)」のような、ふわふわと漂う幻想的なサウンドが最大の特徴です。

歴史と起源

クラウドラップを語るうえで欠かせないのが、ニュージャージーのプロデューサー Clams Casino です。彼は、知られざる幻想的なサンプルを、間延びしたヒップホップのドラムの上に乗せる手法で、このジャンルの礎を築きました。彼が手がけた Lil B の楽曲「I’m God」は、Imogen Heap の楽曲を切り刻んで多幸感のある音の壁を作り上げた、クラウドラップ初期の傑作とされています。

Lil B 自身も、「based(ベースド)」という、自分自身に正直であることを意味する哲学とともに、ジャンルの精神的な象徴になりました。その後、A$AP Rocky とその一団、そしてスウェーデンの Yung Lean が登場します。Yung Lean は、若くして発表した楽曲が YouTube で拡散し、憂鬱や不安をテーマにした「サッドボーイ(Sad Boys)」と呼ばれるムーブメントを牽引しました。こうしてクラウドラップは、インターネットを通じて世界中の若い世代に広まっていったのです。

このジャンルが象徴的なのは、レコード会社や既存の流通に頼らず、ブログや動画サイト、音楽共有サービスといったインターネットの場から自然発生的に広まった点です。地理的な距離を越えて、感性の近い作り手とリスナーが直接つながり、ひとつのムーブメントを形作りました。ニュージャージーのプロデューサーと、スウェーデンの若者が同じ空気感を共有できたのは、まさにインターネット時代ならではの現象です。クラウドラップは、音楽そのものだけでなく、その生まれ方や広まり方においても、時代を映す鏡のような存在でした。

音を構成する要素

クラウドラップの音は、いくつかの特徴的な要素でできています。まず核となるのが、深くかけられたリバーブです。ボーカルにもサンプルにもたっぷりと残響を加えることで、音が空間に溶けていくような浮遊感が生まれます。次に、霞んだアンビエントなサンプルです。アニメのサウンドトラックやニューエイジ音楽など、意外な音源から取った素材を、ピッチを変えたり加工したりして使うのが特徴です。

ドラムは、ゆったりとしたテンポで、間を活かした余白の多い構成が好まれます。全体にローファイなノイズや歪みを加え、輪郭をあえてぼかすことで、夢の中のような質感に仕上げます。きれいに整えるのではなく、霞ませ、漂わせることが、このジャンルの音作りの肝です。これらの要素を理解すると、クラウドラップらしいビートの方向性が見えてきます。

作り方の基本

クラウドラップは、ムードと質感で聴かせるジャンルなので、技術的な複雑さよりも雰囲気づくりが大切です。基本の流れは、幻想的なサンプルやシンセを選び、それにリバーブをたっぷりかけて空間を作り、ゆったりしたドラムを乗せることです。まず土台となる音を選び、ピッチを下げたりリバーブで霞ませたりして、漂うような質感を作ります。

その上に、間を活かしたゆったりしたドラムを組みます。詰め込みすぎず、余白を残すのがクラウドラップらしさです。仕上げに、ローファイなノイズや、さらにリバーブやディレイを重ねて、全体を夢のような空気に包みます。複雑なメロディは不要で、シンプルなコードやループに質感を足していくだけで、それらしい雰囲気が出ます。まずは短いループにたっぷりリバーブをかけて、漂う感覚を作ってみるとよいでしょう。

制作に必要な機材とツール

クラウドラップを作るのに、大がかりな機材は必要ありません。パソコンと制作ソフト(DAW)、ヘッドホンがあれば始められます。とくに重要なのが、質の良いリバーブとディレイのエフェクトです。これらは音に空間と奥行きを与える、このジャンルの生命線とも言える要素です。多くの DAW には標準で備わっているので、まずはそれを使いこなすところから始めましょう。

幻想的なシンセの音源や、アンビエントなサンプル集があると、雰囲気づくりが一気に楽になります。コードやメロディを打ち込むなら MIDI キーボードがあると効率的です。サンプルを加工して霞ませるための、ローファイ系のエフェクトも役立ちます。最初は手持ちのツールで始め、表現の幅を広げたくなったところで足していくのが、無駄のない進め方です。

参考にしたいアーティスト

クラウドラップを学ぶなら、まずジャンルの礎を築いた Clams Casino のビートを聴くのがおすすめです。彼のサンプルの選び方や、リバーブの使い方、空間の作り方は、いまも制作の手本になります。あわせて、Lil B や Yung Lean、A$AP Rocky の初期の作品を聴くと、ジャンルの空気感や精神性が体感できます。

これらの作品を聴き込むことで、クラウドラップ特有の浮遊感や、霞んだ質感の作り方が見えてきます。気に入ったトラックがあれば、どんなサンプルが使われ、どのくらいリバーブがかかっているかを意識して聴くと、自分の制作に活かせるヒントが見つかります。ムードが命のジャンルなので、たくさん聴いて、その独特の空気を耳に染み込ませることが何より大切です。

後世への影響

クラウドラップの存在は、その後のヒップホップに大きな影響を残しました。リバーブを深くかけた幻想的な質感や、内省的でメランコリックなムードは、2010年代半ば以降に台頭した、ネット発のさまざまなスタイルへと受け継がれていきます。憂鬱や感情を前面に出すサウンドや、ローファイで霞んだ質感を好む流れは、クラウドラップが切り開いた地平の延長線上にあると言えます。

また、意外な音源を大胆にサンプリングし、加工して新しい意味を与えるという発想は、ジャンルを問わず現代の制作に浸透しています。アンダーグラウンドのインターネット文化から生まれ、世界中の若い世代の感性に影響を与えたという点で、クラウドラップは音楽史的にも興味深い存在です。いま改めてその手法を学ぶことは、現代的なムードの作り方を理解することにもつながります。流行の中心からは少し離れても、その美学はさまざまな形で生き続けています。

制作でつまずきやすい点と対策

クラウドラップは雰囲気が命のジャンルですが、それゆえの難しさもあります。よくあるのが、リバーブをかけすぎて音が濁り、何が鳴っているのか分からなくなってしまうケースです。空間を作るのは大切ですが、すべての音を霞ませると芯がなくなります。ボーカルや主役の音は適度に残し、背景の音をぼかすなど、メリハリをつけると聴きやすくなります。

もうひとつ、余白を活かすジャンルだけに、何もなさすぎて間が持たない、という悩みもあります。これは、低音やドラムでさりげなくリズムの土台を支えたり、効果音やボーカルの断片を空間に散りばめたりすることで解決できます。漂うようでいて、聴き手を飽きさせない絶妙なバランスを探るのが、このジャンルの腕の見せどころです。まずは一曲を仕上げ、聴き返しながら、足りない部分と過剰な部分を調整していきましょう。

クラウドラップについてよくある質問

Q. 初心者でも作れますか?

A. 作れます。複雑なメロディよりムードと質感で聴かせるジャンルなので、リバーブのかけ方と雰囲気づくりさえつかめば、形にしやすいです。

Q. リバーブはどのくらいかければいいですか?

A. たっぷりかけるのが基本ですが、すべてに濃くかけると濁ります。主役の音は適度に残し、背景を霞ませるなど、メリハリをつけると浮遊感と聴きやすさが両立します。

Q. どんなサンプルを使えばいいですか?

A. アンビエントや幻想的な音、意外な音源からの素材が好まれます。ピッチを下げたりリバーブで加工したりして、霞んだ質感に仕上げるのがコツです。

Q. テンポはどれくらいですか?

A. ゆったりめが基本です。間を活かした余白の多い構成が、浮遊感を生みます。速さよりも、漂うような空気感を優先して設定するとよいでしょう。テンポを少し落とすだけでも、一気に幻想的な雰囲気が増すので、いろいろ試してみてください。

Q. サンプルは自由に使えますか?

A. 既存曲をそのまま使うのは権利の問題があります。ロイヤリティフリーのサンプル集や自分で作った音を使うのが安心で、配信時は権利関係の確認が欠かせません。

Q. 特別なプラグインは必要ですか?

A. 必須ではありません。質の良いリバーブとディレイがあれば、DAW 標準のものでも十分です。まずは手持ちのエフェクトで空間づくりを試してみましょう。リバーブの残響の長さや量を少し変えるだけでも、音の表情は大きく変わるので、いろいろ試して好みの空気感を探してみてください。

クラウドラップのまとめ

クラウドラップは、深いリバーブと霞んだサンプル、ゆったりしたドラムが生む、夢のような浮遊感が魅力のジャンルです。Clams Casino や Lil B が築き、Yung Lean らがインターネットを通じて世界に広めました。ムードと質感で聴かせるため、技術よりも雰囲気づくりが鍵になります。まずは制作ソフトとヘッドホンを用意し、幻想的なサンプルにたっぷりリバーブをかけた短いループから、その浮遊する世界に踏み出してみてください。空間と感情を音で描く感覚は、一度つかめば、他のどんなジャンルの制作にも生きてくる財産になります。

編集方針について — この記事は GUZ FASHION 編集部のTYPE BEATカテゴリの編集方針に沿って制作されています。

「TYPE-BEAT」で読まれている

あなたへのおすすめ