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ファッションと音楽 — 音楽が育てるスタイルセンス

ファッションと音楽 — 音楽が育てるスタイルセンス

音楽とファッションは、ほとんど同じ言語で語られてきた。ステージで歌われる一曲が街の景色を変え、レコードのジャケットが翌シーズンの古着屋の棚を染める。ロックの黒革、パンクの安全ピン、ヒップホップのオーバーサイズ、ジャズのシルクスーツ、グランジのネルシャツ。どれも音だけでは完結せず、身にまとう布や金属やシルエットによって完成する文化だった。音楽ジャンルは、聴くものであると同時に着るものを生み続けてきた装置でもある。本稿では、20世紀後半から現代までの主要ジャンルを取り上げ、それぞれが街の装いに残した痕跡をたどる。さらに、現代のワードローブに音楽由来のニュアンスをどう落とし込むかという視点で、編集部の試着・取材から得た所感を交えて整理していく。古着で買えるアイテムが多いことも、このテーマの醍醐味だ。

ロック&グラム — David BowieとMick Jaggerが残した装いの磁場

1960年代後半から70年代にかけて、ロックは音楽のサブジャンルから視覚文化全体へと拡張した。象徴的なのはDavid Bowieだ。Ziggy Stardust期の鮮烈なジャンプスーツ、Aladdin Sane期の稲妻メイク、Thin White Duke期の白シャツと黒ベスト。アルバムごとにペルソナを切り替えた彼は、衣装が音楽の一部であることを証明した最初期のアーティストのひとりだった。グラムロックという潮流は、男性が華やぎを身にまとう自由を一般化させ、ラメ、サテン、プラットフォームブーツ、フリルシャツを街着の語彙に組み込んだ。

同時代のMick Jaggerはまた別のアプローチだ。スカーフを腰に巻き、シルクのシャツをはだけ、細身のフレアパンツで歩くその姿は、ロックが持つ官能性をストリートに翻訳した。Keith Richardsの重ね着、Anita Pallenbergのボヘミアンな装い。Rolling Stones周辺のスタイルは、テーラードを崩し、ジェンダーの境界をぼかし、古着で再現可能なヴォキャブラリーを大量に残した。レザージャケットにフリルシャツを重ね、ペイズリーのスカーフを首に巻き、ヒールのあるブーツで足元を引き締める半世紀を経たいまもヴィンテージショップの定番だ。

編集部が古着の現場で観察する限り、グラムやクラシックロックの遺産は単に派手な服ではなく、日常の服に一点だけ過剰を足すというレシピとして機能している。シンプルな黒Tにスタッズベルト、無地のデニムにサテンシャツ、グレーのスーツにレザーグローブ。レコードを掘る感覚で一枚ずつ服を選ぶと、自然と一着のヒーローピースが浮かび上がる構成になっていく。

本稿では、20世紀後半から現代までの主要ジャンルを取り上げ、それぞれが街の装いに残した痕跡をたどる。

パンク — Vivienne WestwoodとSex Pistolsが切り裂いた美意識

1970年代後半のロンドン、キングス・ロード430番地。Vivienne WestwoodとMalcolm McLarenが営んだショップ「SEX」(後のSeditionaries)は、パンクという美学のラボラトリーだった。破かれたTシャツ、安全ピンで留められた布、ボンデージパンツ、タータンチェックのキルトを再構築したスカート、性的・政治的なメッセージを直接プリントしたグラフィック。それまで完成された服が前提だったファッションに対し、パンクは壊し、縫い直し、書き加えるという能動性を持ち込んだ。

Sex PistolsのJohn LydonやSid Viciousがステージで身につけた装いは、その思想を最も鋭利に体現した。レザージャケットの背中にバンド名や挑発的なスローガンを白ペイントで描き、襟元にチェーンを巻き、ボロボロのジーンズに重いブーツを合わせる。スタッズは単なる装飾ではなく、既製品の表面を侵犯する身振りだった。同時代のThe Clash、Buzzcocks、X-Ray Spexといったバンドも、それぞれの解釈でレザー、タイ、サスペンダー、ミリタリー古着を再編集していった。

パンクの遺産は、現代のストリートにも生き続けている。Junya Watanabe、Chopova Lowenaといったブランドが定期的に立ち返るアイデアの源泉であり、ハイブランドのランウェイにも頻繁に引用される。重要なのは、パンクのスタイリングがヴィンテージとDIYの相性が良いことだ。古着のレザージャケットにスタッズを自分で打ち、ヴィンテージのバンドTを切り抜いて縫い直す。完成された商品を買うのではなく、自分の手で介入した痕跡を残す。この姿勢はサステナビリティが語られる現代において思想としても説得力を増している。スタッズベルトを一本足す、無地のスウェットにDIYのバッジを一つ留める。それだけで、コーディネートに音楽由来の体温が宿る。

ヒップホップ — Run-DMCからPharrell、Kanyeまでの拡張史

1980年代のニューヨーク・クイーンズで生まれたRun-DMCは、ヒップホップがストリートの服装そのものをユニフォーム化した最初期の事例だ。adidasのスーパースターを紐なしで履き、LeeLevi’sの直線的なジーンズ、Kangolのバケットハット、太いゴールドチェーン。スポーツウェアとストリート古着の組み合わせは、それまでのショウビズが要求していたステージ衣装らしさを拒絶し、観客と地続きの装いをそのまま舞台に持ち込んだ。adidasとの正式契約は、ミュージシャンとスポーツブランドのコラボレーションという現代的なビジネスモデルの原型でもある。

90年代に入ると、Wu-Tang Clan、Notorious B.I.G.、Tupac Shakurといったアーティストが、Carhartt、Timberland、Polo Ralph Lauren、Tommy Hilfigerをヒップホップの語彙に取り込んだ。ワークウェアと米国アイビーが、ストリートで全く別の意味を獲得した時期だ。サイズはオーバーに、レイヤードは厚く、足元はブーツかバスケットシューズで固める。このボリュームでシルエットを語る感覚は、現代のオーバーサイズトレンドの直接の祖先と言える。

2000年代以降は、Pharrell WilliamsがBAPEやBillionaire Boys Clubを通じてストリートとハイファッションを接続し、Kanye West(Ye)はNikeとadidasを横断しながらYeezyという独自の言語を作った。Virgil AblohのOff-WhiteとLouis Vuitton、A$AP Rocky周辺のミニマルかつジェンダーレスな振る舞い。ヒップホップは音楽のジャンルであることを越え、現代のラグジュアリーとストリートを往復する翻訳機として機能している。古着で触れるなら90sの大きめのスウェット、ワッペンの効いたスタジャン、ワークパンツ、レザーのバスケットシューズが入り口になる。

ジャズ — Miles DavisとFrank Sinatraが定義した大人の制服

ジャズは、20世紀のメンズスタイルにスーツの再解釈をもたらし続けたジャンルだ。1950年代のFrank Sinatraは、ナローラペルの黒スーツ、白シャツ、細いネクタイ、フェドーラ帽というRat Pack的なフォーマルを大衆化した。ステージでも酒場でも崩れない大人の制服というコンセプトは、現代のテーラリングが立ち返る基準点になっている。

Miles Davisはまた別の革新者だ。Kind of Blue期のシンプルなブルックスブラザーズ的スーツから、70年代のBitches Brew期にはサイケデリックなプリントシャツやベルボトム、革のチョッキ、サングラスへと装いを変化させた。彼の興味深さは、音楽の様式を変えるたびに装いまでアップデートしていた点にある。同時代のChet Baker、John Coltrane、Thelonious Monkも、それぞれ独自のスタイル領域を持っていた。Bakerの抜けた白Tとカーディガン、Coltraneの実直なネクタイ、Monkの個性的な帽子コレクション。ジャズミュージシャンの装いは、テーラードを軸にしながらも、シャツの色、帽子の角度、メガネのフレームといった細部に個性を宿す技術の見本市だ。古着で取り入れるなら、ヴィンテージのウールスーツ、シルクタイ、フェドーラ、メタルフレームのアイウェアが入り口になる。

90sグランジ — Kurt CobainとNirvanaが脱力を肯定するまで

1990年代前半、シアトルから広がったグランジは、それ以前の80年代の華美なロックに対するアンチテーゼとして登場した。Nirvana、Pearl Jam、Soundgardenといったバンドが鳴らした厚く歪んだギターと、ステージ上の脱力したMC。Kurt Cobainがまとっていたのは、古着屋で買ったオーバーサイズのカーディガン、色落ちしたジーンズ、ボロボロのコンバース、無地のTシャツ、そしてネルシャツ。完成されたファッションではなく家から出てきたままに見える装いを意図的に選ぶ姿勢が、グランジの核心だった。

このスタイルは、Marc Jacobsが1992年にPerry Ellisで発表した有名なコレクションによってハイファッションの文脈に取り込まれた。古着のフランネルシャツ、ニットキャップ、Doc MartensやConverseといった足元のラインアップは、それ以降の30年間、繰り返しトレンドの底流として浮上している。現代のワードローブに取り入れるとき、ポイントになるのはサイズの余白と色のトーンを落とすことだ。完璧に整えないことが、結果としてもっとも美しく見えるという逆説を、グランジは今でも教えてくれる。

音楽が育てるスタイルセンス — 聴き方と装いの相互作用

音楽からファッションを学ぶ、というのは比喩ではなく具体的な方法論だ。編集部が日々取材で意識している手順を、いくつか共有しておく。

第一に、好きなアーティストのライブ映像とアルバムジャケットを分けて見る。ライブ映像は動きと汗と光の中で完成する装いを、ジャケットは静止画として構築された装いを記録している。両者を比較すると、その人物が実際に着る服と、世界観として演出する服の差分が見えてくる。第二に、年代別にプレイリストを組み、その年に流通していたであろう古着のシルエット感を意識しながら街を歩く。70年代のフレア、80年代の肩幅、90年代のオーバーサイズ。耳が時代を覚えていると、目も連動して時代を選び始める。

第三に、装いにBGMを持つこと。ロックを聴きながら出かける日と、ジャズを聴きながら出かける日では、自然と選ぶ靴が違ってくる。これは気のせいではなく、テンポと音色が身体の動きに作用しているからだ。第四に、古着屋とレコード屋を同じ感覚で巡る。どちらも一点もので、入荷のタイミングが命で、店主のセレクトに個性が出る。アルバムを掘るときの集中力で服を選ぶと、自分の引き出しが目に見えて増えていく。

編集部総評 — 音楽は装いの参考書として機能し続ける

ロックの過剰、パンクの破壊、ヒップホップのリズム、ジャズの抑制、グランジの脱力。本稿で扱った5つのジャンルは、それぞれに対極的な美意識を持ちながら、いずれも音楽が装いを生んだという事実を共有している。流行はジャンルを横断しながら参照され、世代を超えて再編集されていく。今この瞬間に古着屋の棚に並ぶ一着は、必ずどこかのアーティストの背中とつながっている。

装いに迷ったとき、トレンドの記事を読むよりも、自分が好きな一枚のアルバムを思い出してほしい。そのジャケットで誰が、何を、どう着ていたか。そこから一つ、自分のワードローブに翻訳できる要素を取り出す。それを繰り返すうちに、流行に振り回されない自分なりの軸が立ち上がってくる。古着というメディアは、その翻訳作業に最も向いた素材であり続けている。関連記事として、音楽カテゴリのトップページ https://guzclothes.com/music/ と、現代アーティストの装いを扱った ファッション×アート 現代アーティストのスタイル も併せて読まれている。

編集方針について — この記事は GUZ FASHION 編集部のOTHERカテゴリの編集方針に沿って制作されています。

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