ブルガリアと英国、二人の創業者の出発点
Chopova Lowena は 2017 年にロンドンで産声を上げました。創業者の Emma Chopova はブルガリア人移民の二世として 1990 年代に米国オハイオ州で育ち、Laura Lowena は英国北部のヨークシャー地方出身です。Emma は祖母から伝わる Bulgarian の刺繍と織物の技法を幼少期から身近にし、Laura は英国地方都市の伝統的なテーラリング教育を受けた環境で育ちました。
二人は Central Saint Martins (CSM) の MA Fashion Knitwear コースで出会いました。Louise Wilson が率いた CSM MA は、Christopher Kane や Mary Katrantzou ら卒業生で知られた最高峰の修士課程です。Emma が織物と素材の文脈、Laura がパターンと量産対応の文脈を担当する役割分担は、出会った当初から自然に成立していました。
カラビナで着脱するプリーツスカートはブルガリアの民族衣装と登山用ハードウェアを組み合わせた稀有な発想で、修繕のしやすさなど工芸的な誠実さも備えています。意匠の主張が強いため、控えめな装いを好む方には使いどころが限られます。
二人は Central Saint Martins (CSM) の MA Fashion Knitwear コースで出会いました。
2017 年卒業制作と即時のブランド創業
二人は CSM MA 修了の翌週にあたる 2017 年夏、ブランド Chopova Lowena を正式に立ち上げました。修了制作のコレクションが業界バイヤーから即座に発注を受け、自身ブランドを立ち上げる以外の選択肢を持たないまま起業に踏み切った経緯です。
最初のスタジオはロンドン東部の Bethnal Green 地区にある、家具職人の共同アトリエの一角でした。創業翌年の 2018 年に Dover Street Market が彼らのコレクションを買い付け、同時に SSENSE と Browns も取り扱いを開始し、業界内での認知が一気に広がります。
代名詞となった Carabiner Pleated Skirt
ブランドを世界的に知らしめた象徴アイテムが、登山用のカラビナでウエストバンドとプリーツスカート本体を接続する「Carabiner Pleated Skirt」 です。Bulgarian の Bansko 地方や Pirin 山脈周辺の民族舞踊で着用される、フリンジ付きの羊毛フェルトスカートを下敷きにしつつ、米国 REI や Patagonia で売られる登山用ハードウェアを縫い合わせ、20 世紀後半の Bulgarian デッドストック生地で構成する手法です。
カラビナで簡単に取り外せる構造は、製品のモジュール化と修繕の容易さを担保しつつ、視覚的にも強烈なアクセントとして機能します。一着あたり 5 個から 12 個のカラビナが使われ、すべて実機の登山用品から流用されています。
Bulgarian の工房との協業と素材調達
ブランドが世界的展開を始めて以降も、Emma Chopova はブルガリア南西部の Pirin 山脈周辺の小規模工房との関係を保ち続けています。コレクションで使用される手刺繍と手織りの一部は、ブルガリア国内の女性職人による分散制作で、Emma 個人が定期的に現地を訪問して仕様を共有する体制です。
素材は Bulgarian と東欧諸国のデッドストック生地、英国の小規模工場の在庫余剰、米国スポーツウェアの廃番素材を組み合わせています。新規生地の発注は最小限に抑え、サステナビリティを商業価値と切り離した「設計思想の前提」 として運営しています。
2019 年 LVMH Prize Semi-finalist と業界の注目
2019 年に LVMH Prize の Semi-finalist (準決勝進出) に選出されました。同年の受賞は Thebe Magugu と Hed Mayner の Karl Lagerfeld Special Prize で決まりましたが、Chopova Lowena は Semi-finalist の称号を得て、Vogue Italia、Dazed、SSENSE Editorial といった主要媒体の集中的なカバレッジを獲得しました。
LVMH Prize 過程で得た助言とネットワークを受けて、二人はパリのショールーム展開と国際バイヤー向けプレゼンテーションの体制を強化しました。後年の BFC 関連賞の連続受賞へと続く下地が、この時期に固められました。
2021 年 BFC/Vogue Designer Fashion Fund 受賞
2021 年 12 月、British Fashion Council (BFC) と British Vogue が共同で運営する Designer Fashion Fund (DFF) を Chopova Lowena が受賞しました。同賞は英国新進ブランドに対する経営助成と編集メンタリングを提供する制度で、過去の受賞者には Erdem、Christopher Kane、Roksanda、Molly Goddard が名を連ねます。
賞金 150,000 ポンドの活用先として、二人は Bulgaria の工房ネットワーク拡張と、ロンドン本店のショールーム設置を選びました。これにより 2022 年以降のコレクション規模拡大と、英国国内での直接接客体制が整います。
編み物と刺繍、二人の技法
Chopova Lowena のニットウェアと刺繍は、創業者二人の技術背景が直接反映されています。Emma が CSM 在学中に開発した「Bulgarian Style Pirot Knit」 は、Bulgaria の伝統的な絨毯織りパターンを応用した編み目で、現代の機械編みでは再現困難な凹凸感を生み出します。
Laura が担当する刺繍とアップリケは、米国 1980 年代のスポーツ刺繍 (大学のフットボールチームのロゴ刺繍) と、英国の Folk Embroidery (民族刺繍) のハイブリッドです。仕上がりは素朴な手仕事感を保ちつつ、各シーズンで主題を変える物語性を持っています。
ブルガリアの伝統的な絨毯織りを応用したPirot Knitなど、手仕事の質感を色濃く残すニットが持ち味です。凹凸のある独特な編み目は個性的な反面、汎用的なきれいめコーディネートにはなじみにくい場合があります。
「Carabiner Mini Skirt」 と派生アイテム
オリジナルの Carabiner Pleated Skirt から派生したアイテムは、長さ違い (Mini / Midi / Maxi)、素材違い (Tartan ウール、レザー、デニム、Bulgarian 民族刺繍生地)、装飾違い (フリンジ、メタリックスタッズ、皮ベルト) で展開され、各シーズンに 8 から 12 のバリエーションを生産します。
特に Mini 丈の Tartan ウール版は、Olivia Rodrigo が 2022 年の Met Gala 前夜のディナーで着用したことで世界的な注目を集めました。Bella Hadid、Lourdes Leon、Dua Lipa、Caroline Polachek、Hunter Schafer といった音楽・芸能分野のセレブが定期的に着用し、Z 世代と Y 世代後半に向けたブランド認知を加速させています。
登山用カラビナでウエストとプリーツスカートを接続する、ブランドを象徴する構造的なボトムスです。視覚的なインパクトは強い一方、金具部分の重さや着脱の手間があり、日常使いの気軽さを求める方には向き不向きが分かれます。
工芸性とサステナビリティの両立
二人の創業哲学は、工芸的な手仕事と環境負荷低減を両立させることに集約されます。デッドストック素材活用、修繕の容易さ、長期間の使用を前提とした構造設計、Bulgaria 地域経済への還元という四つの柱が、コレクションごとに具体的アクションとして翻訳されてきました。
二人は業界の早回しサイクルへの違和感をインタビューで繰り返し表明し、SS と AW の年 2 シーズン体制を守りつつ、Pre-collection と Resort コレクションへの拡大を意図的に拒否しています。代わりに同一アイテムを複数シーズンにまたいで継続生産する手法を取り、顧客が長期的な視点で買い揃えられる選択肢を提供しています。
ヴィンテージ古着市場での Chopova Lowena の見方
Chopova Lowena は創業から 8 年と歴史が浅く、二次流通市場での流通量は限られています。中古価格帯は Carabiner Pleated Skirt のオリジナルが 80,000 円から 200,000 円台、Tartan ウールの定番が 60,000 円から 150,000 円台、ニットウェアが 50,000 円から 120,000 円台で取引される事例が観察されます。
カラビナの状態 (摩耗、塗装剥げ、開閉の硬さ) は本物のアウトドア用品由来であるため経年で変化しますが、ブランドは正規顧客への部品交換サービスを提供しています。中古入手の場合、カラビナ本体は登山用品店で同等品が購入可能で、自己交換も技術的には可能ですが、ブランドの正規修繕に出すと一着の物語性が保たれます。
サイズ表記は英国式 (UK6 から UK16 程度) で、Carabiner Skirt はウエストアジャストの余地が大きいため、サイズ違いも比較的着用可能な構造になっています。
同時代の英国新進と Chopova Lowena の位置づけ
同時代で並べやすい英国新進は、Molly Goddard (2014 年創業、タルレットチュール)、Sinead O’Dwyer (2021 年創業、身体多様性のアプローチ)、Conner Ives (2022 年 LVMH Prize finalist、デッドストック再構成)、そして Aaron Esh (2023 年 BFC Newgen) です。
これらと並べたときの Chopova Lowena の独自性は、Eastern European の伝統工芸という他のロンドン新進が持たない地理的・文化的軸を持つ点と、登山具という産業デザイン領域のアイコンを衣服に組み込んだ視覚的識別性です。創業 8 年で確立したこのアイコンは、Loewe の Puzzle Bag や Bottega Veneta の Cassette Bag のように、ブランドの代名詞として機能しています。










