ノブユキ マツイ(Nobuyuki Matsui)は、デザイナーの松井信之が2016年に東京で立ち上げた日本のファッションブランドです。手仕事による伝統的なテーラリングを土台にしながら、毎シーズン自由なテーマを掲げて、コンセプチュアルで一点ものの存在感を放つ服をつくり続けてきました。仕立ての確かさと、発想の自由さ。その両方を一着のなかに同居させる姿勢が、このブランドを語るうえでの出発点になります。
「ノブユキ マツイとはどんなブランドか」を一言で言えば、職人的な仕立てとアートのような発想が出会う、コンセプチュアルなテーラリングのブランドです。流行のかたちをなぞるのではなく、その時々のテーマから服を立ち上げていく。だからこそ一着ごとに物語があり、長く大切に着るほど愛着が深まっていく。その奥行きが、感度の高い層から静かに支持されてきた理由です。
本記事では、デザイナーである松井信之の歩みをたどったうえで、ブランドの設計思想、ビスポークから始まった独特の歴史、そして代表的なアイテムの見方と中古で探すときの視点までを順に紹介します。比較的新しいブランドでありながら、確かな仕立てと自由な発想で独自の存在感を築いてきたノブユキ マツイを、その始まりから丁寧に見ていきます。
手仕事のテーラリングと、コンセプチュアルな作風
ノブユキ マツイの服づくりの根幹にあるのは、手仕事による伝統的なテーラリングです。型紙を起こし、布を裁ち、縫い上げていくという、服づくりの基礎となる技術を大切にしながら、そこに独自の発想を重ねていく。きちんと仕立てられた服が持つ、体に沿う美しさや経年で増す味わいを土台にしているからこそ、どれほど発想が自由でも、服としての完成度が揺らぎません。仕立ての確かさが、コンセプトを支える屋台骨になっているのです。
その一方で、ノブユキ マツイの服は、単に美しく仕立てられただけのテーラードにはとどまりません。松井信之は、好奇心からくる探究心をもとに、毎シーズン自由なテーマを掲げて服を考えます。日常的なモチーフや、思いがけない素材を出発点にしながら、それを服へと昇華させていく。たとえば過去には、配送に使われる梱包の緩衝材をテーマに据えたコレクションを発表したこともありました。身の回りのありふれたものを服の発想源に変えてしまう。その視点の自由さが、ノブユキ マツイをコンセプチュアルなブランドたらしめています。
作風としては、テーラリングという確かな文法を踏まえながら、そこに一ひねりの発想を効かせる方向です。一見するとクラシックで端正な仕立てに見えても、よく見ると素材の選び方やディテール、シルエットの取り方に、思いがけない工夫が潜んでいる。端正さと意外性が同居する、その絶妙な立ち位置が、ほかにはない個性を生んでいます。声高に奇抜さを主張するのではなく、着る人だけが気づく仕掛けを忍ばせる。その控えめな知性が、ブランドの魅力です。
松井信之が一貫して大切にしているのが、長く大切に着られる服をつくるという姿勢です。一着を、シーズンが過ぎれば消費されるものとしてではなく、時間をかけて育てていくものとして考える。だからこそ、手仕事の確かさにこだわり、流行に左右されにくい普遍性を服に宿そうとします。一点ものの存在感を持ちながら、日々の暮らしのなかで長く寄り添ってくれる。その両立が、ノブユキ マツイの服の価値を確かなものにしています。
こうしたものづくりの背景には、服を一つの表現の場として捉える、作家的なまなざしがあります。テーマを立て、それを素材と仕立てによって形にしていく過程は、絵を描いたり、彫刻を彫ったりする作業にも似ています。だからノブユキ マツイの服は、機能や流行を満たすためだけのものではなく、作り手の思考がにじむ作品としての一面を持っています。その奥行きこそが、長く愛されるブランドの土台になっています。
だからノブユキ マツイの服は、機能や流行を満たすためだけのものではなく、作り手の思考がにじむ作品としての一面を持っています。
松井信之というデザイナー
ノブユキ マツイを率いる松井信之は、少し変わった経歴の持ち主です。もともとファッションの道を志していたわけではなく、海を渡って学んだのは心理学の分野でした。人の心の動きや行動を学ぶなかで、やがて表現への関心が高まり、ファッションの世界へと進路を切り替えていきます。心理学からものづくりへという異色の歩みは、その後の作風にも静かに影響を落としているように見えます。人がなぜその服に惹かれるのか、という問いを、作り手として持ち続けているからです。
ファッションへ転向した松井は、ロンドンの教育機関であるロンドン・カレッジ・オブ・ファッションで、メンズウェアを学びました。世界中から集まる才能のなかで、デザインと仕立ての技術を磨いていきます。在学中には若手デザイナーのコンテストで評価を得たとも伝えられており、早い段階からその才能が注目されていたことがうかがえます。ロンドンという、伝統的なテーラリングとストリートカルチャーが共存する街で過ごした時間は、松井の服づくりの素地を形づくりました。サヴィル・ロウに代表される仕立ての伝統と、既成概念にとらわれない自由な発想とが、同じ街のなかで隣り合っている。その両方を肌で感じながら学んだことは、確かな技術の上に自由なテーマを重ねるという、後のノブユキ マツイの作風に直結しています。型にはまった端正さだけでも、奇抜さだけでもない、その間を行き来できる感覚が、この時期に養われたのだと考えられます。
2015年に帰国した松井は、翌2016年の秋冬シーズンから、自らの名を冠したブランド「ノブユキ マツイ」をスタートさせます。自分の名前をそのままブランド名にするという選択には、作り手としての覚悟と、服に対する責任感がにじんでいます。借り物のコンセプトではなく、自分自身の感覚と技術で勝負する。その姿勢が、ブランドの一貫した個性につながっています。心理学を学び、ロンドンで仕立てを身につけた松井ならではの視点が、ノブユキ マツイの服には溶け込んでいます。
松井信之のデザインには、流行を上から借りてくるような借り物の感覚がありません。自分が面白いと感じたテーマや、美しいと思う仕立てを、自分の言葉として服に落とし込んでいく。だからこそ、その服には作り手の思考の体温が宿っています。早く大量に消費される服ではなく、作り手の発想にゆっくりと共感していく服。その姿勢が、息の長いファンを育ててきました。なお、松井の生年や出身地については確かな情報が確認できなかったため、本記事では触れていません。
ビスポークから始まったブランド
ノブユキ マツイの歴史には、ほかのブランドにはあまり見られない特徴があります。それは、既製服の量産からではなく、一人ひとりに合わせて仕立てるビスポーク、つまりオーダーメイドから始まったという点です。2016年の立ち上げから当初の数シーズンは、お客さま一人ひとりの体や要望に向き合いながら、一着ずつ服を仕立てるところからスタートしました。最初から大きな流通を狙うのではなく、仕立ての確かさを起点に、地に足のついた形でブランドを築いていったのです。
このビスポークからの出発は、ブランドのものづくりの姿勢を決定づけました。一人のために一着を仕立てるという経験は、服の構造や素材、着る人の体との関係を、深いところで理解することにつながります。その積み重ねがあったからこそ、後にプレタポルテ、つまり既製服へと展開してからも、ノブユキ マツイの服には手仕事の確かさが宿り続けています。出発点に仕立てがあるブランドと、量産から始まったブランドとでは、服に対する向き合い方がおのずと変わってきます。
2018年の春夏シーズンから、ノブユキ マツイは本格的にプレタポルテの展開へと踏み出します。一人ひとりへの仕立てで培った技術と発想を、より多くの人に届けられる形へと広げていったのです。それでもなお、一点ものの存在感や、コンセプチュアルなテーマ性は失われませんでした。むしろ、ビスポークで磨いた感覚を既製服に注ぎ込むことで、ノブユキ マツイならではの、仕立ての良さと作家性が両立した服が生まれていきます。この歩み方そのものが、ブランドの誠実さを物語っています。
TOKYO FASHION AWARD と、その先の歩み
着実に評価を重ねてきたノブユキ マツイは、2019年に「TOKYO FASHION AWARD」を受賞します。この賞は、世界に羽ばたく可能性を持つ東京発のデザイナーを後押しするもので、受賞は国内外への大きな足がかりになりました。受賞をきっかけに、松井はパリでの展示会にも参加し、海外のバイヤーやプレスへと活動の場を広げていきます。比較的新しいブランドが、確かな仕立てと独自の発想によって、国際的な舞台で存在感を示していったのです。
その後もノブユキ マツイは、シーズンごとに自由なテーマを掲げながら、コレクションを発表し続けてきました。あるシーズンには身近な素材を主役に据え、別のシーズンには独自の物語を服に織り込む。毎回テーマが大きく変わるため、シーズンごとに表情が一新されるのも、このブランドならではの面白さです。同じデザインを繰り返すのではなく、常に新しい問いから服を立ち上げていく。その探究の姿勢が、ブランドを飽きさせない魅力につなげています。
派手な仕掛けで一気に有名になったのではなく、一着ずつ丁寧に仕立て、テーマを掘り下げてきた結果として支持が広がっていった。その順番が、ノブユキ マツイの土台を確かなものにしています。ブランドの成長と、松井信之個人の作り手としての成熟が、ゆっくりと並走してきた。その歩み方こそが、このブランドの誠実さを表しているように感じられます。今も活動を続け、新しいテーマのコレクションを世に問い続けています。
素材選びと、縫製のディテール
ノブユキ マツイの服を語るうえで欠かせないのが、素材選びと縫製への深いこだわりです。テーマから服を立ち上げるブランドですが、その発想を支えているのは、布そのものに対する確かな目利きです。同じシルエットの服でも、どの生地で仕立てるかによって、表情も着心地もまったく変わってきます。松井信之は、コンセプトを最も雄弁に語ってくれる素材を選び抜き、そこから一着を組み立てていきます。だからこそ、ノブユキ マツイの服には、写真だけでは伝わりきらない手触りの豊かさがあります。
縫製の面でも、ビスポークから出発したブランドならではの丁寧さが息づいています。表からは見えない裏地の始末や、芯地の入れ方、縫い代の処理といった、服の土台となる部分にまで神経が行き届いています。こうした目に見えない部分の作り込みは、着たときの体への沿い方や、長く着たときの型崩れのしにくさとなって表れます。仕立ての良い服が、年を重ねるほどに味わいを増していくのは、こうした基礎が確かだからです。手仕事の確かさは、派手なディテールよりも、むしろこうした地味な部分にこそ宿ります。
素材と縫製への姿勢は、長く大切に着られる服をつくるという、ブランドの理念とも深くつながっています。流行のかたちを安価に量産するのではなく、確かな素材を選び、丁寧に仕立てる。その積み重ねが、一着を長く着続けられるものにしてくれます。コンセプチュアルな発想の自由さと、こうした地に足のついたものづくりが両立しているからこそ、ノブユキ マツイの服は、作品としての面白さと、日常着としての信頼性を同時に備えているのです。
代表的なアイテムの見方
ノブユキ マツイのアイテムは、手仕事のテーラリングと、コンセプチュアルな発想がそのまま形になったものばかりです。ここでは、代表的な領域を順に見ていきます。中古や古着で出会ったときに、それがノブユキ マツイらしい一着かどうかを見分ける手がかりにもなります。
テーラードジャケット
ブランドの核となるのが、テーラードジャケットです。ノブユキ マツイの出発点が仕立てにあることを、最もよく体現する領域だと言えます。クラシックなジャケットの構造を踏まえながら、素材やシルエット、ディテールに独自の発想を効かせることで、端正でありながら一目で個性が伝わる一着に仕上げられています。手仕事の確かさは、肩のおさまりや襟の返り、縫製の丁寧さといった細部に表れます。中古で選ぶ際は、仕立ての美しさと素材の状態を合わせて見ると、このブランドらしさを感じ取りやすくなります。
コートとアウター
コートやアウターにも、ノブユキ マツイらしい仕立てと発想が宿ります。クラシックなかたちを土台にしながら、素材や色、ディテールに意外性を持たせることで、定番でありながら新鮮な印象の一着に仕上げられています。一枚羽織るだけで装いの主役になり、それでいて派手すぎず日常になじむ。その絶妙なバランスが、長く着られる理由です。重さや落ち感のある素材を生かした立体的なシルエットも見どころで、着るほどに体になじんでいきます。中古で選ぶときは、素材の状態と全体のシルエット、留め具の具合を確認すると安心です。
シャツとカットソー
シャツやカットソーは、ノブユキ マツイの仕立ての確かさを、より身近に感じられる領域です。クラシックなかたちを土台にしながら、衿や袖、身頃のバランスに独自の工夫を効かせることで、一枚で着ても様になる存在感が生まれます。派手さはないのに、よく見ると素材の良さと仕立ての丁寧さが伝わってくる。その控えめな上質さが、大人の普段着として頼りになります。ジャケットの下に重ねても、一枚で着ても映える懐の深さも魅力です。中古で選ぶ際は、生地の状態と縫製のきれいさを確認すると安心です。
パンツとボトムス
パンツやボトムスは、テーラリングを軸にするブランドだからこその完成度が光る領域です。きれいなシルエットを保ちながら、はき心地や動きやすさにも配慮されており、ジャケットと合わせてもカジュアルに着てもバランスが取りやすく仕上げられています。落ち着いた色味のものが多く、手持ちの服になじみやすいのも使いやすさにつながっています。仕立ての良いボトムスは、着こなし全体の印象を引き締めてくれます。中古で選ぶときは、裾や膝の状態、シルエットの崩れがないかを見ておくと安心です。
ニット
ニットにも、ノブユキ マツイならではの感覚が表れています。編み地の質感や色合い、シルエットの取り方に細やかな工夫が行き届いており、一見ベーシックに見えても、近くで見ると独特の奥行きがあります。一枚で着ても、ジャケットの下に重ねても活躍する汎用性の高さも魅力です。素材そのものの良さが伝わるつくりなので、シンプルに着るほど服の質が引き立ちます。中古で選ぶ際は、毛玉や編み地の伸び、色の褪せがないかを確かめると、状態を見極めやすくなります。
ノブユキ マツイが似合う人と、着こなしのヒント
ノブユキ マツイは、流行をそのまま追いかけるよりも、仕立ての良さと発想の面白さの両方を求める人に似合うブランドです。きちんとしたテーラリングを土台にしながら、どこかに知的な遊び心が効いている服は、端正に見せたいけれど人とは少し違う雰囲気を出したい、という気持ちに静かに応えてくれます。大ぶりのロゴで主張するのではなく、よく見るほどに作りの良さと発想の妙が伝わる服を好む人にとって、これほど心地よいブランドはそう多くありません。
着こなしの面では、一着の完成度が高いぶん、合わせる相手はシンプルなもので十分に映えます。テーラードジャケットを主役に据えるなら、無地のパンツやシャツで端正にまとめると、仕立ての美しさが際立ちます。逆に、コンセプチュアルな一着を取り入れるときは、ほかを落ち着いた色で抑えると、その存在感が嫌味なく生きてきます。素材や仕立てに表情があるため、引き算の着こなしほど服の良さが伝わるのも、このブランドならではの面白さです。
初めての一着としては、まず仕立ての確かさを感じやすいジャケットやコートから入るのがおすすめです。一着持っておくと、手持ちの服の格を引き上げ、着こなしの幅を広げてくれます。そこからシャツやニット、ボトムスへと少しずつ広げていくと、ブランドの世界観を無理なく日常に取り入れていけます。一点ものの存在感を持ちながら、長く着られる普遍性も備えた服だからこそ、急がず、自分の気分に合う一着から選ぶのがおすすめです。
中古・古着でノブユキ マツイを探すときの視点
ノブユキ マツイは比較的新しいブランドですが、独自の作風から、中古市場でも探す価値のある一着に出会えることがあります。新品で手に入れる選択肢もありますが、過去のシーズンのコレクションや、すでに店頭では見かけなくなった一着を探すなら、中古や古着が頼りになる出会いの場になります。毎シーズンテーマが大きく変わるブランドだけに、過去の印象的な一着を探す楽しみもあります。
選ぶときにまず確かめたいのが、仕立てと素材の状態です。ノブユキ マツイは手仕事のテーラリングが魅力の中心にあるため、縫製のきれいさや、肩や襟といった仕立ての要となる部分が崩れていないかを見極めることが大切です。仕立ての良い服は、状態さえ整っていれば長く着られるため、気に入った一着に出会えたときが手に入れどきだと考えておくと、後悔のない選び方ができます。フリマアプリや中古の専門店、デザイナーズブランドを扱う店舗など、流通の場は少しずつ広がっています。
もう一つ知っておきたいのが、シーズンごとに表情が大きく異なるという点です。ノブユキ マツイは毎シーズン、自由なテーマからコレクションを立ち上げてきたため、同じデザインが再び作られることはほとんどありません。そのため、もう手に入らない過去の一着を探すコレクター的な面白さがあります。とくにコンセプトが際立ったシーズンのアイテムは、中古でも根強く探されています。自分の心に響くテーマや雰囲気に出会えたら、それが一期一会だと考えて選ぶと、より愛着の湧く一着になります。
価格帯は、アイテムと状態によって幅があります。シャツや小物といった領域は比較的手に取りやすく、仕立ての込み入ったジャケットやコートは、それなりの帯で取引されることもあります。相場は出品状況によって動くため、あくまで目安として捉え、購入の時点で確認してください。気になるアイテムがあれば、下記の各モールからまとめて探してみてください。
まとめ — 手仕事と発想が出会う服
ノブユキ マツイは、松井信之が2016年に東京で立ち上げ、手仕事のテーラリングとコンセプチュアルな発想を両立させてきた日本のブランドです。心理学を学び、ロンドンで仕立てを身につけた松井の歩みは、確かな技術の上に自由な発想を築いた作り手の物語でもあります。一人ひとりへのビスポークから始まり、プレタポルテへと展開しながらも、一点ものの存在感を保ち続けてきたその姿勢は、2019年のTOKYO FASHION AWARD受賞という形でも評価されました。
ブランドを選ぶ視点で見れば、ノブユキ マツイは「仕立ての良さと、発想の面白さの両方を大切にしたい人」に向いた存在です。テーラードジャケットをはじめ、コートやシャツ、ニットに至るまで、その一着には手仕事の確かさと、自由なテーマから生まれた作家性が宿っています。新品でも中古でも、どんな入口から出会っても、その奥には松井信之の確かな技術と、服を作品として捉えるまなざしがあります。一着を長く着るほどに、そこに込められた発想と、手仕事で仕立てられたことの確かさが、静かに伝わってくるはずです。流行に追われず、自分の感覚で選んだ一着は、年を重ねるほど愛着を増していきます。気になる一着があれば、まずは下記の各モールから探してみてください。










