PERFUME

Boadicea the Victorious — 英国発・古代戦士の名を冠したラグジュアリーニッチ

Boadicea the Victorious(ボアディシア・ザ・ヴィクトリアス)は、2004 年にロンドンで誕生した英国発のラグジュアリーニッチフレグランスである。ブランド名に冠されているのは、紀元 1 世紀のローマ帝国に反旗を翻した古代ブリトン人イケニ族の女王ブーディカ。戦車を駆り、ロンディニウム(現ロンドン)を炎上させたとも伝わる伝説的な女性戦士の名を、現代の香水ハウスがそのまま自社の旗印として掲げているという構図そのものが、このブランドの個性を端的に物語っている。英国王室や中東の王族向けカスタムフレグランスの文脈で名を聞く機会が多く、日本での流通量はけっして多くないものの、ニッチ愛好家のあいだでは「英国らしさを濃く纏える一本」として独自の地位を築きつつある。本稿では編集部が、ブランドの成り立ち、代表作、ボトル意匠、そして実際に手に取るうえでの注意点までを通しで読み解いていく。

Boadicea という女性戦士の名 — 古代ブリトン人の女王

ブランドを理解する前提として、まず「Boadicea(ブーディカ/ボアディシア)」という人物像を押さえておきたい。彼女は西暦 1 世紀、現在のイースト・アングリア地方に勢力を持っていたケルト系部族イケニ族の女王であり、夫プラスタガスの死後にローマ帝国の苛烈な収奪に直面した。ローマの歴史家タキトゥスや、後のディオ・カッシウスによる記録によれば、彼女は近隣部族を糾合してローマに対する大規模な反乱を起こし、コルチェスター(カムロドゥヌム)、ロンドン(ロンディニウム)、セント・オールバンズ(ヴェルラミウム)を次々と焼き払ったとされる。最終的には西暦 60 年あるいは 61 年頃、ローマ総督スエトニウス・パウリヌス率いる軍団との会戦で敗北し、伝説では自ら命を絶ったと伝わる。

ヴィクトリア朝以降、彼女は「自由を求めて巨大帝国に立ち向かった英国の女傑」として神話化され、ウェストミンスター橋のたもとにはトーマス・ソーニクロフトによる戦車像「Boadicea and Her Daughters」が今も鎮座している。つまりブーディカは、単なる古代の戦士ではなく、英国人の自己イメージのなかで「凛として屈しない女性像」の象徴として長く読み替えられてきた人物なのである。

このブランドが自社の名にあえて「ボアディシア」を選んだ理由は、単なるエキゾチシズムや語感の良さではない。創業者夫妻はインタビューの中で、英国に根ざしながらも世界に通用するハイエンドフレグランスを作るうえで、英国史のなかでも特に強靭で誇り高い女性像を象徴する人物の名を冠したかったと語っている。フランス系・中東系のニッチが市場を席巻していた 2000 年代前半において、「英国らしさ」を真正面から打ち出す戦略は、結果として後発ブランドの輪郭をくっきりと際立たせることになった。香りの方向性も、軽やかなコロンというよりは、戦士の凱旋を思わせる重厚で持続性の高いコンポジションが多く、ブランド名と中身が一貫している点はニッチ愛好家から見ても好感が持てる部分である。

なお「Boadicea」というスペルは、後年の歴史学において「Boudica」「Boudicca」と表記されることが増えており、現代の学術文献ではむしろ後者が一般的だ。ブランドが古い綴りを採用しているのは、ヴィクトリア朝以来の伝統的英語表記を意識した選択と読み取れる。日本語表記も「ボアディシア」「ボウディシア」「ボウディカ」など揺れがあり、店舗や流通によって異なるため、海外オンラインで検索する際は複数のスペルを試すのが実際的だ。

なお「Boadicea」というスペルは、後年の歴史学において「Boudica」「Boudicca」と表記されることが増えており、現代の学術文献ではむしろ後者が一般的だ。

英国王室との関わり — 2004 年設立、貴族・要人向けという出自

Boadicea the Victorious は 2004 年、ロンドンを拠点に設立された。創業当初から一般的なデパート流通を主戦場にはせず、王室関係者や中東の王族、富裕層クライアント向けのプライベートフレグランスを手掛ける路線でスタートしたとされている。一般販売向けのコレクションが整備されていく過程でも、この「ハウス・パフューマー」的な出自はマーケティングの軸として残り続けており、ブランド説明文には英国王室や貴族とのつながりが繰り返し言及されている。

もっとも、英国王室御用達(ロイヤル・ワラント)の正式リストにブランド名が掲載されているわけではない、という点は冷静に押さえておきたい。ロイヤル・ワラントは王室公式サイトおよびロイヤル・ワラント・ホルダーズ協会の公開リストで確認できる制度であり、Boadicea the Victorious は現時点(編集部確認時点)でこの公式リストには含まれていない。ブランド側が打ち出している「王室や貴族向け」というニュアンスは、あくまでプライベートクライアントとしての関係性に基づく表現と理解するのが正確だろう。気になる読者は、王室公式サイトの Royal Warrant Holders ページや、Royal Warrant Holders Association(royalwarrant.org)の検索機能で一次情報を確認することをおすすめしたい。

とはいえ、ブランドが標榜する「英国ラグジュアリー」の世界観は、香りそのものや店頭体験にしっかり結実している。ロンドンの旗艦店ではコンサルテーション形式で香りを選ぶスタイルが取られ、フルボトルだけでなくカスタムのギフトセットや刻印サービスも用意されている。日本国内では正規取扱店舗が限られているため、現地での体験を経て購入するファンも少なくない。

同じく英国ラグジュアリーニッチを代表する Roja Parfums のブランドガイド と読み比べると、両者の立ち位置の違いが見えてくる。Roja が「クチュール×クラシック香水」の文脈で大きな批評的評価を得ているのに対し、Boadicea は「英国史×戦士の物語」を前面に押し出した、より物語性とアレンジ自由度を重視したハウスだと言える。

メンズ代表 — Pure / Glorious / Imperial の輪郭

Boadicea the Victorious のラインアップは膨大で、ユニセックス展開が中心となっているものの、いわゆる「メンズで人気が高い」括りで語られる定番がいくつか存在する。ここでは編集部視点で取り上げる頻度の高い 3 本を整理しておきたい。

まず「Pure」は、ブランドの中でも比較的すっきりとしたウッディ・アロマティック寄りの構成として語られることが多い。フゼア的な清涼感とウッディノートのバランスがとられており、オードパルファムでありながらビジネスシーンでも持て余しにくい点が、初めて Boadicea に触れる読者には入り口として勧めやすい。

続く「Glorious」は、ブランド名そのものが示すように「栄光」を意識した堂々たる構成で、スパイス感とウッディノートを軸に骨太な印象を残す。寒い季節のジャケットスタイルや、フォーマルめのナイトアウトで存在感を発揮するタイプであり、ニッチ初心者向けというよりは、ある程度濃いめの香りを着慣れたユーザーの「次の一本」候補になりやすい。

「Imperial」は、ブランドの中でもとりわけ「王の香り」をイメージさせる名前を冠した一本で、ウードや樹脂系ノートを軸にした重厚なコンポジションとして語られる。中東系ニッチを着慣れた層が Boadicea のウードラインを試す際の比較対象として、よく俎上に載せられる存在だ。深く沈むようなドライダウンに惹かれるなら、まず試してみたいラインナップである。

これら 3 本に共通するのは、いずれもオードパルファム濃度であり、肌の上で長く残る設計になっている点だ。ニッチ価格帯ゆえに気軽に大量噴霧する一本ではないが、1〜2 プッシュでも輪郭がしっかり残るので、結果としてコストパフォーマンスは悪くない。なお、各銘柄の細かいノート構成や濃度(パルファム展開の有無)はロット・年式によって異なる可能性があり、購入前にショップのバッチ表記や公式サイトの最新情報を確認することを編集部としては推奨したい。

レディース代表 — Heroine と Charisma の系譜

レディース向けと括られるラインも、ブランドの世界観に沿って「強さ」や「華やかさ」を意識した銘柄が並ぶ。なかでも Heroine と Charisma は、Boadicea の女性像を象徴する 2 本として言及される頻度が高い。

「Heroine」は、その名のとおり「ヒロイン=女主人公」を意識した銘柄で、フローラル・フルーティ寄りの華やかさと、ブランド特有の濃密なベースノートが組み合わされている。甘さに振り切るのではなく、香り全体に芯の通った印象を残すあたりがいかにも Boadicea らしい解釈で、可憐さよりも凛とした佇まいを演出したい場面に向いている。

「Charisma」は、その名のとおり「人を惹きつける魅力」をテーマにした銘柄で、よりオリエンタル寄り、あるいはアンバー・スパイス寄りの構成として語られる。仕事の夜の会食、観劇後のレセプションといった、ややフォーマルでありながら個性を求められる場面で映える方向性であり、レディース表記のなかでもユニセックス的に着られる柔軟さを持っている。

レディース代表の選び方を整理するなら、「凛とした華やかさ=Heroine」「ドラマ性のある引力=Charisma」と理解しておくとイメージしやすい。なお、ブランド自体がユニセックス前提でラインを設計しているため、ここで紹介した銘柄を男性が纏うこと、メンズ代表に挙げた銘柄を女性が纏うことは、いずれも自然な選択である。シグネチャーセントの育て方ガイド も合わせて読むと、自分にとっての一本を絞り込みやすくなるはずだ。

ボトル — クリスタル製の華麗な意匠

Boadicea the Victorious を語るうえで、ボトルデザインの存在感は無視できない。同ブランドのフラッグシップに位置づけられる多くの銘柄では、クリスタル製の重厚なボトルが採用されており、宝飾品のような側面装飾やメタルパーツがあしらわれている。「Regal」のようなプレステージラインでは、ボトルそのものがコレクションアイテムとして語られることもあり、ヴァニティの上に並べる楽しさはこのブランドならではの体験だ。

意匠面では、ブリティッシュ・ロイヤルな紋章モチーフや、戦士の盾を思わせるエンブレム、宝石をはめ込んだようなキャップが多用されている。これは Roja Parfums の重厚なフラコンや、Parfums de Marly のクラシカルな貴族モチーフとも違う、独自のテイストである。Parfums de Marly のブランドガイド と並べて眺めると、同じ「王侯貴族系」のニッチでも、ブランドが意識している時代と象徴がはっきり異なることが見えてくる。

ヴィンテージや並行輸入品を中古で入手する場合、ボトルの細部の意匠で年代やライン違いを判別できることがある。たとえばキャップの素材感、ボトル底面の刻印、外箱のロゴフォントの差などは、リセール市場でも個体差として語られるポイントだ。中古での購入を検討する際は、これらディテールの写真を販売者に確認することと、開封歴・残量・保管環境を文章でやり取りしておくことをおすすめしたい。クリスタルボトルは見た目の華やかさと引き換えに、輸送時の破損リスクも相応に高いため、配送方法と梱包仕様の事前確認も忘れずにおきたい。

編集部の見立て — どんな人に向くブランドか

編集部としての Boadicea the Victorious の位置づけは、「英国らしさを濃く纏いたいニッチ愛好家のための、ストーリードリブンなハウス」というものである。香りそのものは決して万人向けの軽やかな路線ではなく、ウッディ・ウード・スパイスを軸にした濃密な構成が多いため、シトラスやアクアティックを好む読者にはやや重く感じられる可能性がある。一方で、英国史やヴィクトリア朝文学のロマンに惹かれる読者、あるいは中東系ニッチを着慣れて「次の一本」を探している読者にとっては、検討候補に十分挙がる選択肢だろう。

購入チャネルとしては、ロンドン本店を含む海外正規ブティック、英国系のオンラインフレグランスショップ、そして日本国内では限られたセレクトショップや並行輸入品が中心になる。並行輸入は価格メリットがある反面、ロット差や保管環境による劣化リスクもあるため、初めて試す際は 1〜2ml のサンプル販売を行う海外ショップで複数銘柄を取り寄せ、自分の肌で比較してから本ボトルを判断する流れが現実的だ。

最終的に、このブランドを楽しむうえで大切なのは「物語ごと纏う」という姿勢だと考えている。ローマ帝国に立ち向かった女王の名を冠した香りを、自分の今夜の戦場(プレゼンでも、デートでも、夜の街でも)に向けて選ぶ。そう捉えると、Boadicea the Victorious のやや過剰なまでの世界観も、むしろ自分を奮い立たせるための装置として機能してくれるはずだ。

編集方針について — この記事は GUZ FASHION 編集部のPERFUMEカテゴリの編集方針に沿って制作されています。

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