TYPE BEAT

Fantasy Type Beat の機材構成|ハープとシンセで神秘の音響を組む編集部ノート

Fantasy Type Beat が描くのは、現実から半歩浮いた音響のレイヤーだ。ハープが弧を描き、ベルが粒立ち、パッドが霧のように地平を覆う。ハリーポッターの図書館やゼルダの伝説の森に流れていそうな響きを、Trap や Lo-fi Hip Hop のグルーヴへ落とし込む。Joji の「Slow Dancing in the Dark」が湛えていた寂しさと、Russ や Powfu のチル系が持つ生活感。その両方を抱えながら、ビートだけは現代の 808 とハイハットで地面を打つ。本稿はそういう Fantasy Type Beat を作るために、現編集部が実機ベースで組み直した制作環境の覚書である。音楽カテゴリの他記事と読み合わせると、ジャンル横断の関係が見えてくる。

Fantasy Type Beat という音響の輪郭

Fantasy Type Beat を「ゲーム音楽の真似」と片付けると、輪郭を見誤る。ジャンルの骨格はあくまでヒップホップで、テンポは 70-90 BPM 前後、ドラムは Trap 寄りの 808 サブベースとハイハットのロールが基準になる。そこに上モノとしてハープ、グロッケン、チャイム、クリスタルパッド、グランドピアノといった「映画劇伴で耳に残る音色」を重ねていく構造だ。骨はストリート、装飾は中世ファンタジーや東欧民謡、あるいは日本のアニメ劇伴。この二層構造を意識しないと、ただの「ゲーム BGM 風 Lo-fi」に着地してしまう。

参照点として有効なのは三系統ある。第一に、Joji の「Slow Dancing in the Dark」(2018) に代表される薄明のバラード系。コードはマイナー基調で、リバーブとディレイで空間を広く取り、ボーカルチョップやハミングをパッド代わりに差し込む。第二に、Russ の初期作品や Powfu の「death bed」(2019) 系の Lo-fi チル。アコースティックギターやピアノのループに、軽い 808 とブラシ風スネアを重ねて、生活の中で再生し続けられるテクスチャを作る。第三が、Howard Shore の「ロード・オブ・ザ・リング」や近藤浩治の「ゼルダの伝説」劇伴に通じる旋法的アプローチで、ドリアンやリディアン、ハーモニックマイナーといったスケールを上モノに採用することで、メジャー/マイナーの二択では出ない「異界感」を確保する。

音色設計のキーワードは「ベル系の硬質なアタック」と「パッドの長い減衰」のコントラスト、そして「中域の空白」だ。Trap が中域をハットとボーカルで埋めるのに対し、Fantasy Type Beat は中域をあえて開け、低域の 808 と高域のベル群のあいだに霧のような空白を作る。この空白を埋めるのがリバーブのテール、フォーリースト系のフィールド録音、そして時折差し込むストリングスのロングトーンになる。ここから先のセクションで触れる機材は、すべてこの「空白の設計」を実装するための道具立てだ。

周波数帯で言えば、ハープとグロッケンは 2-6kHz の倍音が肝で、ここを EQ で 2-3dB 持ち上げるだけで「ファンタジー感」が立ち上がる。一方ピアノは 200-400Hz の中低域に厚みを置きつつ 800Hz 付近をやや削ると、ベルやチャイムとの干渉が抜ける。Yung Bae のフューチャーファンク的な明るさと、Joji の薄明系メランコリーは、この帯域処理の按配で行き来できる。グランドストリングスは 100-200Hz の Sub 帯ではなく 300-500Hz の胴鳴り帯を主役にし、低域は 808 に明け渡すと住み分けが綺麗だ。Powfu や Russ がやっている「アコギ + ピアノ + 808」の三角形を、本ジャンルではハープ + ベル + 808 に置き換える、と考えると配置が見えやすい。

周波数帯で言えば、ハープとグロッケンは 2-6kHz の倍音が肝で、ここを EQ で 2-3dB 持ち上げるだけで「ファンタジー感」が立ち上がる。

編集部が組み直した制作環境

制作環境の構成

シンセの選択 — アナログ系とデジタル系の役割分担

Fantasy Type Beat におけるシンセの役割は、大きく分けて三つある。第一が温度感のあるパッド、第二が粒立ちのよいベル/プラック、第三が物語の起伏を作るリードだ。これを一台で賄おうとすると音が痩せるので、編集部ではアナログ系とデジタル系を併走させている。アナログ側ではポリフォニックの暖かさを担う機種を主軸に、コードパッドと「呼吸する」ベースを作る。一方デジタル側は、FM やウェーブテーブルを使ったベル、グロッケン、クリスタル系の硬質な倍音を担当させる。両者を同じトラックに重ねたとき、アナログのうねりがデジタルの硬さを溶かし、デジタルの倍音がアナログの曇りを抜く。この相補関係が、ファンタジー特有の「光と霧」の質感を支える。

80s ファンタジー映画やゲーム劇伴を意識するなら、当時の DX7 系 FM ベルと Jupiter-8 系ポリシンセを参照したリード/パッドの組み合わせが効く。現代の実機・ソフトでこの系譜を辿るなら、ポリフォニック・アナログモデリング系のシンセでハーモニック・マイナーやドリアンのコードを鳴らし、そこへ FM ベルをオクターブ上で重ねるアプローチが分かりやすい。小型のモノシンセを「実験音」として併用すると、フィルや効果音の引き出しが一気に増える。Korg NTS-1 のような卓上機を 1 台置いておくと、ノイズや FM ベルのワンショットをすぐに録れて Sampler へ流せる。役割分担としては、アナログ系がコードパッド + ベース、デジタル FM 系がベル + プラック + リード、モノシンセが効果音 + ワンショット、という三層構造で組むと、トラック数が増えても音像が破綻しない。各レイヤーで「誰がコードを鳴らすか」「誰が単音を担うか」を最初に決めておくと、ミックスの相談ごとが半分に減る。

サンプラーと音色加工

Fantasy Type Beat の上モノは、シンセ単体ではなくサンプラー経由で「素材化」してから扱うと制御が楽になる。具体的には、シンセで弾いた 4 小節のフレーズを WAV で書き出し、サンプラー側で 1 音単位に切って再構築する。これにより、元のフレーズに含まれていたグリッチや息継ぎが個別パッドにマッピングされ、リアルタイムで叩いて打ち込み直せる。Maschine 系のグリッドコントローラーは、この「切って再構築」のワークフローを物理的に最適化していて、フィンガードラム的にハープのアルペジオを叩き直すと、人力ならではの揺らぎが入る。

もう一つ、OP-1 Field のような全部入りのスケッチ機材を 1 台持っておくと、移動中や深夜の発想を逃さずに済む。FM、シンセ、サンプラー、テープ、エフェクトが全部内蔵されていて、思いついたメロディをその場で 4 トラックに重ねられる。後で DAW に取り込むと「現場の空気」がそのまま素材になる。Fantasy Type Beat の核は「異界の記憶」だから、机に座って整然と打ち込んだ音より、ベッドサイドや喫茶店で衝動的に録った音のほうが説得力が出ることが多い。

DAW とエフェクトチェーン

DAW は最終的な編成と空間設計の場になる。Ableton Live 系のセッションビューを使うと、4-8 小節のループを並べて A/B 比較しやすく、Fantasy Type Beat のように「同じコード進行のまま音色だけ差し替えて 8 ビートを伸ばす」構造を組みやすい。コア・エフェクトは三つ。一つ目はコンボリューションリバーブで、教会や石造ホールの IR を読み込ませて上モノに長い残響を与える。二つ目はテープ系サチュレーションで、デジタル素材の角を落として 80s 劇伴の質感に寄せる。三つ目はピッチシフター/ハーモナイザーで、ハープの 5 度上やオクターブ上を生成し、ファンタジー特有の重層的な響きを作る。無料プラグインのまとめ側で具体的な銘柄を扱っているので、エフェクト系の補強はそちらを参照すると早い。

音作りのアプローチ

ハープ・ベル・チャイムの重ね方

上モノの黄金比は、編集部の経験則では「ハープ 1 : ベル 0.6 : チャイム 0.3」くらいに収めると喧嘩しない。ハープはアルペジオで縦に流し、ベルはコード進行のルート音だけを点で置き、チャイムはセクションの境目に 1 音だけ落とす。三者すべてを同じ密度で鳴らすと「ゲームの店内 BGM」的なやかましさになるので、必ず役割分担を決める。ハープは下から上へ昇るアルペジオ、ベルは小節頭のアクセント、チャイムは 8 小節ごとの転換点、というルールを最初に書き出してから打ち込むと、ミックス段階で迷子にならない。

音色の選択では、ベルとチャイムを「同じ FM ベルの倍音違い」で揃えると、ミックスの一体感が出やすい。逆にハープだけは生っぽいサンプルライブラリかアコースティックなフィジカルモデリングで取ったほうが、生命感のコントラストになる。すべてをデジタル FM で揃えると、音響的には整っても「現実から半歩浮いた」感じが出ず、ただのエレクトロニカに着地する。

パッドとリバーブのレイヤリング

パッドは 2 層構成が基本だ。下層に低域寄りのストリングス系ロングトーンを置き、上層にハイパスをかけたクリスタル/ガラス系パッドを乗せる。下層は「霧」、上層は「光の粒」と捉えると役割が分かりやすい。リバーブはパッドにそれぞれ別系統を当てると音像が崩れるので、共通の Send リターンに集約して、同じ残響空間で鳴らす。ここに先述のコンボリューションリバーブを使うと、ベルやハープと同じ「教会」の中でパッドも響き、楽曲全体の場所感が統一される。具体的なレシピとしては、下層パッドにプレートリバーブ的な短めの密度高い残響を当てつつ、上層パッドはホール系の長尺リバーブで尾を伸ばす。プリディレイは 40-60ms 程度確保し、原音と残響の輪郭を分ける。さらに上層パッドの Send 経路にショートディレイ (1/8 dot) を薄く差し込むと、ベルの粒立ちと干渉せずに「空間がもう一段奥に開く」感覚を作れる。

低域はサブベースかピアノ左手か

Fantasy Type Beat の低域設計は、ジャンルの分岐点になる。Trap 寄りに振るなら 808 サブベースで小節頭をスライドさせ、Lo-fi/叙情寄りに振るならグランドピアノの左手オクターブで支える。両方を同時に鳴らすと低域が濁るので、楽曲のサビ前で 808 へ切り替え、A メロは左手ピアノだけにする、といった「時間軸の役割分担」を採るのが現実的だ。Russ や Powfu の叙情系を参照するなら左手ピアノ寄り、Joji の薄明バラード系を参照するなら 808 とピアノを 1 オクターブずらしてレイヤー、Howard Shore 的な劇伴寄せなら低弦のコントラバスサンプル、と参照点ごとに低域設計を変えると迷いが減る。Trap カテゴリ側の記事で 808 周りの実装を別途扱っている。

編集部の見立て — Fantasy の系譜と現代的拡張

Fantasy Type Beat は、表面上は「ゲーム/映画劇伴 × ヒップホップ」という分かりやすい混血ジャンルに見える。しかし系譜を辿ると、2010 年代後半の Lo-fi Hip Hop ムーブメントが ChilledCow (現 Lofi Girl) の YouTube ライブ配信で広まった頃から、参照素材としてジブリ作品やゲーム劇伴のサンプル使用が増えていった流れと連動している。ここに 2020 年前後の Powfu/Joji 経由のメランコリック・ラップが合流し、さらに TikTok 時代の短尺映像 BGM としての需要が積み重なって、現在の形に近づいた、というのが編集部の見立てだ。

系譜の文脈で重要なのは、Fantasy Type Beat が単一の出自を持たない混血ジャンルである点だ。Howard Shore のロード・オブ・ザ・リング劇伴、近藤浩治のゼルダ系オーケストレーション、Studio Ghibli における久石譲の旋律設計、FromSoftware の Dark Souls / Elden Ring の合唱を伴う重厚劇伴。これらが Lo-fi Hip Hop のフォーマットで圧縮され、Hans Zimmer 的なシネマティック語彙で味付けされる。参照する作曲家を 1 人決めて深掘りすると、自分のビートの設計図が固まる。

今後の拡張として注目しているのは三点ある。第一が、ハーモニックマイナーや旋法スケールの常用化で、コード進行の手癖が西洋ポップスから離れていく傾向。第二が、フィールド録音と AI 生成音源のハイブリッドで、森の環境音や石造建築の残響をそのまま素材化する流れ。第三が、ボーカルチョップの「異言語化」で、英語/日本語ではない架空言語のサンプルを用いて、リスナーに「どこでもない場所」の感覚を提示する手法だ。いずれも、本稿で取り上げた機材構成の延長線上で実装できる。Fantasy Type Beat は完成したジャンルではなく、まだ拡張の余地が大きい領域である、と編集部は捉えている。

編集方針について — この記事は GUZ FASHION 編集部のTYPE BEATカテゴリの編集方針に沿って制作されています。

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