民藝とクラフトの町に根づく、古着とものづくりの店
長野県松本市は、松本城の城下町として栄えた歴史を持ちながら、民藝運動の思想が今も色濃く残る「クラフトの町」としても知られています。北アルプスを望む盆地に広がるこの街は、観光地としての顔と、ものづくりの拠点としての顔をあわせ持つ、全国的にも珍しい存在です。1947年に松本民芸館の創設者・丸山太郎氏が開いたちきりや工芸店を起点に、木工や陶芸、染色といった手仕事の文化が街に根づき、1985年から続く「クラフトフェアまつもと」は今では全国から作り手が集まる一大イベントに成長しました。松本城を訪れる観光客と、クラフトフェアを目当てに全国から集まる作り手・買い手が同じ町を歩く光景は、この街ならではのものです。中町通りや大手通りといった古い町並みが残るエリアには、そうした手仕事の店と並んで、独立系の古着店も点在しています。
松本の古着店は、東京のように密集したエリアを形成しているわけではありませんが、中央・大手・深志といった松本駅から徒歩圏のエリアに散らばっており、地元にUターンした店主や、この街の空気に惹かれて移り住んだ店主が、それぞれの感性で棚をつくっています。都市部で古着の仕入れやセレクトの経験を積んでから松本に戻ってくる店主も多く、地方でありながら都心と遜色ない目利きが息づいているのも特徴です。アメリカ古着を軸にしながらも、量産に頼らない一点一点の手仕事や、日本人の体型に合わせた補修を大切にする店が多いのも、クラフトの町らしい特徴だと言えるでしょう。東京の大規模な古着エリアとは違い、一軒一軒の密度は高くありませんが、そのぶん店主の顔が見える距離感で買い物ができるのが松本の古着巡りの魅力です。
今回GUZ編集部は、松本市内で営業を確認できた独立系の古着店5店と、民藝・クラフトの老舗2店をあわせた7店を、Web上の公式情報とメディア掲載記事をもとに検証してまとめました。全国チェーンの大型リユース店も松本市内には出店していますが、今回はあえてそれらを外し、店主の個性がそのまま棚に表れる独立系の店に絞り込んでいます。古着とクラフトという二つの文化が同じ町の中でどのように息づいているのか、実際に歩きながら感じてもらえたらと思います。営業時間や定休日は季節や店主の都合で変わりやすい分野でもあるため、訪問前に最新情報を確認してから足を運ぶことをおすすめします。
長野県松本市は、松本城の城下町として栄えた歴史を持ちながら、民藝運動の思想が今も色濃く残る「クラフトの町」としても知られています。
中央・大手・深志、古着とクラフトの7店
Monique vintage store — 幼馴染2人が育てる、Uターン開業の古着店
Monique vintage storeは、松本出身の幼馴染2人が2006年にUターンして開いた店です。1960年代から90年代のアメリカ古着を中心に扱っており、買い付けてきた古着は自分たちの手で丁寧に洗濯・補修し、日本人の体型に合わせたサイズ直しまで施してから店頭に並べています。古着買取にも対応しており、地域で古着が循環していく仕組みを大切にしている姿勢が印象的です。地元出身の店主だからこそ持てる、松本という街への愛着が、店づくりの端々から伝わってきます。二人三脚で店を切り盛りしてきた歩みそのものが、この店の一番の物語になっています。開業から20年近くが経った今も、Instagramでの更新を欠かさず続けており、日々の入荷情報を楽しみにしている常連客の多さがうかがえます。買い付けたアイテムを一度クリーニングしてから並べるという丁寧な工程を経ているため、状態の良さを重視する人にも安心して勧められる店です。地方都市でありながら、都心の古着店に引けを取らない品揃えの厚みを持っているのも特筆すべき点です。
Petrichor -ペトリコール- — 松本城近くの路地裏、古着と焼き菓子の店
松本城からほど近い路地裏にひっそりと佇むPetrichorは、「古着と焼き菓子の店」という珍しい組み合わせで営業しています。メンズ・レディースを問わずアメリカ古着を扱っており、年代を問わず幅広くセレクトされているのが特徴です。週末限定で店頭に並ぶ手作りの焼き菓子は、古着を選んだ後の楽しみとしてもちょうどよく、買い物のついでにひと息つける貴重な場所になっています。駐車場が4台分完備されているため、車で松本を訪れる観光客にも利用しやすい立地です。松本城観光の合間に立ち寄れる距離感も、旅の計画に組み込みやすいポイントだと言えるでしょう。路地裏という立地ゆえに、初めて訪れる際は少し迷うかもしれませんが、その分だけたどり着いたときの静かな満足感があります。焼き菓子は数量限定で用意されることが多いため、目当てにしている場合は早めの時間帯に訪れるのがおすすめです。
panagorias — 2002年開業、定番アメカジとスポーツヴィンテージの老舗
松本駅お城口から徒歩約6分の場所にあるpanagoriasは、2002年の開業から20年以上にわたって営業を続ける老舗です。Levi’sやLee、Wranglerといった定番のアメリカ古着に加え、ミリタリーやChampion、patagonia、Nike、adidasといったスポーツヴィンテージまで幅広く扱っているのが特徴です。オンラインストアも運営しており、Instagramのフォロワー数からも根強い人気がうかがえます。松本駅から徒歩圏という立地の良さもあって、松本の古着巡りの起点として最初に訪れやすい店です。長年にわたって蓄積されたセレクトの層の厚みは、老舗ならではの魅力だと感じます。定番ブランドを軸にしているため、古着初心者でも比較的手に取りやすいアイテムが多く、松本で古着を選ぶ最初の一軒として安心しておすすめできます。スポーツヴィンテージのコーナーは特に充実しており、古着とスポーツウェアの両方が好きな人には見逃せない品揃えです。
FLOW. -フロー- — 動物好き夫婦が営む、柄物古着とオリジナルブランドの店
動物好きの夫婦が営むFLOW.は、80年代から90年代の個性的な柄物、特に動物柄のアイテムに強みを持つ、小規模ながら個性の際立つ古着店です。2024年1月には、リメイク品やオリジナルサルエルパンツを展開する「moon by FLOW」というブランドをローンチし、既製の古着を仕入れて売るだけにとどまらない、独自のものづくりにも力を入れています。夫婦二人の好みが色濃く反映された品揃えは、他の店では見つからない一枚に出会える可能性を高めてくれます。駐車場はないため、公共交通機関や自転車での来店が向いています。柄物古着が好きな人にとっては、松本で特に見逃せない店のひとつです。動物好きという店主の人柄がそのまま店の空気に表れており、初めて訪れる客にも気さくに接してくれる雰囲気があります。既製の古着とオリジナルブランドの両方を扱っているため、探し方次第でいく通りもの楽しみ方ができる店です。柄合わせのセンスに定評があり、他の人とは被りにくい一枚を求める人にも自信を持っておすすめできます。
古着屋かいと — 深志の隠れ家的な、変則営業の古着店
松本駅お城口から徒歩約10分、深志エリアの住宅街にひっそりと店を構える古着屋かいとは、「隠れ家的古着屋」と評されることの多い店です。営業日が日・月・木・金と変則的で、火・水・土は定休となっているため、訪問前にInstagramで最新の営業状況を確認しておくことをおすすめします。決済方法は現金だけでなく、クレジットカードのタッチ決済や各種QRコード決済にも幅広く対応しており、キャッシュレス派の旅行者にも安心して利用しやすい環境が整っています。公式サイトを持たない分、SNSでの発信が店の雰囲気を知る一番の手がかりになります。松本駅からやや距離があるぶん、訪れる人を選ぶ静かな佇まいの店です。「隠れ家」という評判に違わず、あえて目立たない場所に店を構えることで、じっくりと古着に向き合える空間をつくっているようにも感じられます。松本駅からのバスや自転車を使えば、深志エリアへのアクセスも思ったより苦になりません。
ちきりや工芸店 — 松本民芸館創設者が開いた、民藝運動の老舗
1947年、松本民芸館の創設者である丸山太郎氏が実家を改装して開いたちきりや工芸店は、柳宗悦が提唱した民藝運動の思想に共鳴し、「用の美」を体現する店として長く親しまれてきました。大分の小鹿田焼や島根の出西窯をはじめとする全国各地の窯元の器、インド更紗、竹かごなど、日々の暮らしに根ざした手仕事の品々が丁寧に並びます。現在は丸山氏の家族が経営を引き継いでおり、松本の中町通りを象徴する老舗のひとつとして、今も変わらぬ落ち着いた佇まいを保っています。古着店とはまた違う文脈で、松本という街の手仕事への敬意を感じられる店です。80年近くにわたって同じ場所で商いを続けてきたという事実そのものが、この街の民藝文化がいかに根強く息づいているかを物語っています。器や小物を眺めるだけでも、日々の暮らしを見つめ直すきっかけになる店です。
GRAIN NOTE — 木工作家の器と家具を扱う、中町通りのクラフトギャラリー
「木目の音色」を意味する造語を店名に掲げるGRAIN NOTEは、1984年に始まった「クラフトフェアまつもと」の立ち上げとほぼ同時期に開業したクラフトギャラリーです。木工作家を中心に、木製のカトラリーやプレート、家具、そして松本在住の陶芸家による作品などを丁寧に展示販売しています。中町通りという松本のクラフト文化を象徴する通りに店を構えており、ちきりや工芸店と合わせて訪れることで、松本の手仕事の厚みをより深く感じることができます。古着とクラフトという異なる文脈を持つ店が同じ通り沿いに共存しているのも、この街ならではの光景です。木の質感を活かした作品が並ぶ店内は、見ているだけでも気持ちが落ち着く静かな空間で、旅の合間にふらりと立ち寄る休憩スポットとしても向いています。作家ものの器は一点ごとに表情が異なるため、じっくり時間をかけて選ぶ楽しみがあります。
松本を歩くなら
松本駅を起点にすれば、panagoriasやMonique vintage storeといった中央エリアの古着店、Petrichorのある大手エリア、そして深志エリアの古着屋かいとまで、いずれも徒歩圏内に収まります。午前中に松本城を観光し、そのまま城下町の路地を歩きながらPetrichorに立ち寄り、午後は中町通り沿いのちきりや工芸店とGRAIN NOTEで手仕事の品々を眺めるという流れが、松本らしい一日の過ごし方になるはずです。夕方にはpanagoriasやMonique vintage storeで一日の締めくくりに一枚を選ぶという組み立て方をすれば、無理のない周遊コースが自然と完成します。FLOW.は動物柄という独自のテーマを持つ店なので、時間に余裕があれば少し足を延ばして訪れる価値があります。古着屋かいとは変則営業のため、訪問日を先に決めてから他の予定を組み立てるのが確実です。松本は坂道が少なく、松本駅から中心部にかけて平坦な道が多いため、徒歩や自転車でもゆったりと移動がしやすい街でもあります。冬場は積雪や路面凍結もあるため、その時期に訪れる場合は歩きやすい靴を選び、時間にも余裕を持って計画するとよいでしょう。夏は北アルプスの涼しい風が吹き込む日も多く、季節ごとに異なる表情を見せてくれるのも松本の魅力です。
まとめ
松本は、民藝運動の思想を今に伝えるちきりや工芸店のような老舗と、地元出身やUターンの店主が営む個性的な古着店が、同じ町並みの中で共存している珍しい街です。量産に頼らないものづくりへの敬意は、クラフトの店だけでなく、古着を丁寧に補修して売る店の姿勢にも通じるものがあります。一枚の古着、一つの器に込められた手間を想像しながら選ぶという時間の使い方は、東京の密集した古着エリアではなかなか味わえない、松本ならではの贅沢だと感じます。古着屋エリアガイドや全国の古着屋・セレクトショップ1,492店データベースと合わせて、松本という街ならではの手仕事の厚みを感じに訪れてみてはいかがでしょうか。松本城観光だけで終わらせず、路地裏の一軒まで足を延ばしてみることをおすすめします。










