Sasquatchfabrix.(サスクワッチファブリックス)は、横山大輔が2003年に立ち上げた日本のファッションブランドです。日本の伝統的な意匠や文化を、アメリカのワークウェアやストリートの感覚と掛け合わせるという独特の作風で知られてきました。羽織のような和の衣服の記憶を現代の服へ翻訳したり、伝統的な文様を大胆にグラフィックへ落とし込んだり。古いものと新しいもの、東洋と西洋を一着のなかで衝突させ、そこから新しい表情を生み出すことに、ブランドの個性があります。
「Sasquatchfabrix. とはどんなブランドか」を一言で言えば、日本人であることを起点に、失われかけた日本の文化を現代のストリートへ蘇らせるブランドです。創業者の横山大輔は、自分が日本人だからこそできる表現とは何かを問い続け、過去数十年のあいだに薄れてしまった日本らしさを、服を通じて再発見しようとしてきました。その姿勢が、和とストリートを融合させるという、ほかにはない方向性を生み出しています。
本記事では、横山大輔の歩みとブランド創業の経緯から、設計思想、デザイナー像、代表的なアイテム、日本の伝統や工芸との結びつきまでを順にたどります。和の伝統を現代に蘇らせるという挑戦を続けてきた、Sasquatchfabrix. というブランドの輪郭を、その背景にある考え方とともに追っていきます。
和とストリートの融合 — Sasquatchfabrix. の設計思想
Sasquatchfabrix. の哲学を一言で要約するなら、日本の伝統とアメリカのストリートの融合です。羽織や着物といった和の衣服が持っていた形や感覚、伝統的な文様や染めの技術。そうした日本の文化的な蓄積を、アメリカのワークウェアやストリートウェアの語彙と組み合わせることで、どちらにも似ていない独自の服が生まれます。和の要素を表面的な飾りとして使うのではなく、その背景にある文化への理解を踏まえて再構築する点に、ブランドの深さがあります。
この姿勢の根にあるのは、横山大輔の問題意識です。彼は、自分が日本人だからこそできることは何かを問い続け、過去の数十年のあいだに失われてしまった日本らしさを取り戻したいという思いから、ブランドの方向性を定めてきました。海外の流行をそのまま追うのではなく、自分たちの足もとにある文化を掘り起こす。その内省的なまなざしが、Sasquatchfabrix. を単なる和柄ブランドとは異なる、思想を持った存在にしています。
ブランドは、自らの仕事を「ハイパフォーマンス・ヴァンダリズム」と表現してきました。直訳すれば、高い完成度を持った破壊行為とでもいうべき言葉です。伝統や既存の枠を、敬意を持ちながらも大胆に壊し、組み替える。その破壊と再構築のあいだに、新しい美しさを見いだすという姿勢が、この言葉には込められています。アバンギャルドな実験性と、確かな着られる服としての完成度。その両方を併せ持つことが、ブランドの目指すところでした。
デザインには、横山大輔と、創業時の相棒であった荒木克記の、それぞれの専門性が生きています。横山は大学で建築を、荒木は染色を学びました。建築的な構造への理解と、染めや色彩への深い知識。この二つの異なる視点が出会ったことが、Sasquatchfabrix. の独特の作風を生む土台になりました。立体としての服の構築と、日本の伝統的な染めや文様。その融合が、ブランドの服に厚みを与えています。
色や柄の使い方にも、和の感覚が息づいています。藍をはじめとする日本の伝統的な色や、着物に用いられてきた文様を現代的に再解釈した柄が、ストリートウェアのかたちのなかに大胆に取り入れられます。一見すると派手で前衛的でありながら、その根には日本の美意識への敬意が流れている。この二面性こそ、Sasquatchfabrix. の服を一目で見分ける手がかりになります。
和の要素の扱い方には、繊細な配慮があります。日本の伝統的な意匠は、一歩間違えると観光地のお土産のような、表面的で安っぽい印象になりかねません。Sasquatchfabrix. がその罠に陥らないのは、文様や色を単独で見せるのではなく、現代のストリートウェアの文脈のなかに巧みに溶け込ませているからです。和を主張しすぎず、しかし確かに感じさせる。その絶妙な距離感の取り方が、ブランドの洗練を支えています。伝統を扱うことの難しさを知り尽くしているからこそ、こうした繊細なバランスが可能になっているのです。
同時に、Sasquatchfabrix. の服はあくまで日常的に着られることを大切にしています。アバンギャルドな実験性を持ちながらも、決して着る人を選びすぎる難解な服にはなりません。和の意匠を取り入れたアイテムであっても、普段の装いのなかで自然に着こなせる。前衛と実用、その両方を成立させていることが、ブランドが幅広い層に支持されてきた理由の一つです。思想の深さと、着やすさ。その両立こそが、Sasquatchfabrix. の懐の深さを物語っています。
古いものと新しいもの、東洋と西洋を一着のなかで衝突させ、そこから新しい表情を生み出すことに、ブランドの個性があります。
創業から現在まで — 歩みをたどる
創業前夜 — 長岡造形大学での出会い
Sasquatchfabrix. の物語は、横山大輔と荒木克記という二人の出会いから始まります。二人は長岡造形大学の同窓で、横山は建築を、荒木は染色を専攻していました。ファッションの専門教育からではなく、建築と染めというそれぞれの分野から服づくりへと向かったことが、後のブランドの独自性を決定づけます。立体や構造への感覚と、色や文様への知識。異なる素養を持つ二人が手を組んだことが、和とストリートを融合させる土台になりました。
建築を学んだ横山にとって、服もまた、身体を包む一種の構造物として捉えられるものでした。一方、染色を学んだ荒木は、日本の伝統的な色や柄に深い造詣を持っていました。この二つの視点が交わるところに、Sasquatchfabrix. の発想は芽生えます。ファッションの王道とは異なる道を通ってきたからこそ、既存の枠にとらわれない自由な発想が可能になったとも言えます。
創業期(2003年)— ブランドの始動
二〇〇三年、横山大輔と荒木克記はSasquatchfabrix. を立ち上げました。掲げたのは、日本の伝統とアメリカのストリートを融合させるという、当時としては珍しい方向性でした。和の意匠を取り入れた服は当時もありましたが、それを観光土産的な和柄としてではなく、思想を持って現代のストリートへ翻訳しようとした点に、ブランドの新しさがありました。
創業からしばらくのあいだ、Sasquatchfabrix. は日本のストリートウェアに通じた一部の愛好家のあいだで知られる存在でした。派手なプロモーションで急速に広まるのではなく、その独自の作風に惹かれた人々が、静かに支持を広げていきます。和とストリートという、ほかにはない掛け合わせは、感度の高い層の心を確実に捉えていきました。
この時期に確立された作風は、その後のブランドの土台になりました。建築と染色という二つの専門性を持ち寄り、和の伝統を現代のストリートへ翻訳するという方向性は、創業当初から明確でした。多くのブランドが立ち上げ期に方向性を模索するなかで、Sasquatchfabrix. は最初から確かな思想を持っていたと言えます。その芯のぶれなさが、急がずとも着実に支持を広げていく原動力になりました。流行に乗って一気に広まるのではなく、独自の世界観に共感する人を一人ずつ増やしていく。そうした地道な歩み方が、ブランドの信頼を厚いものにしていったのです。
横山によるソロ体制(2011年〜)
二〇一一年、共同創業者であった荒木克記が福岡へと拠点を移し、ブランドを離れます。それ以降、Sasquatchfabrix. は横山大輔が一人で率いる体制となりました。二人で築いてきた和とストリートの融合という方向性を、横山が一人で受け継ぎ、深めていくことになります。創業の精神を保ちながらも、横山の個人的なまなざしがより色濃く反映されるようになり、ブランドの表現はさらに研ぎ澄まされていきました。
横山は、日本の文化を再発見するという主題を、ますます明確に打ち出していきます。失われかけた日本らしさを、現代の服のなかにどう蘇らせるか。その問いに向き合い続けることで、Sasquatchfabrix. の服は、単なるストリートウェアを超えた、文化的な奥行きを持つものになっていきました。
飛躍と国際的な認知(2016年〜現在)
長く一部の愛好家に知られる存在だったSasquatchfabrix. にとって、二〇一六年は大きな転機の年になりました。世界的なストリートブランドであるシュプリームとの協業が実現し、それを機に、ブランドの名は一気に国際的な広がりを得ます。日本の伝統を現代のストリートへ翻訳するという独自の作風が、世界の舞台で注目を集めることになりました。
その後もSasquatchfabrix. は、海外のセレクトショップでの取り扱いを広げ、さまざまな分野との協業を通じて、表現の幅を更新し続けています。音楽レーベルとの取り組みなど、ファッションの枠を超えたコラボレーションも、ブランドの世界観を豊かにしてきました。創業から二十年を超えてなお、和とストリートの融合という一貫した軸を保ちながら、Sasquatchfabrix. は現在も独自の道を歩み続けています。
デザイナー — 横山大輔という存在
横山大輔(創業者)
横山大輔のものづくりを特徴づけるのは、日本人としての自覚に根ざした、文化への深い問いです。彼は、海外の流行を追うのではなく、自分が日本人だからこそ作れるものは何かを問い続けてきました。過去の数十年のあいだに薄れてしまった日本らしさを、現代の服のなかに蘇らせる。その内省的な姿勢が、Sasquatchfabrix. の表現に思想的な深さを与えています。単に和柄を使うのではなく、なぜ和なのかという問いから出発している点に、横山のデザイナーとしての誠実さがあります。
大学で建築を学んだ経歴も、横山のデザインを特徴づけています。服を、身体を包む立体的な構造として捉える発想は、建築的な思考と地続きです。平面の布をどう立体へと組み上げるか、どう身体との関係を設計するか。その構造への意識が、Sasquatchfabrix. の服に、ただのグラフィックものにとどまらない造形的な強度を与えています。文化への問いと、構造への感覚。この二つが、横山のものづくりを支える両輪になっています。
荒木克記と、二人の専門性
創業時の相棒であった荒木克記の存在も、Sasquatchfabrix. を語るうえで欠かせません。染色を学んだ荒木は、日本の伝統的な色や文様に深い知識を持っていました。建築出身の横山と、染色出身の荒木。この異なる専門性の組み合わせが、和とストリートを融合させるという独自の方向性を生む土台になりました。荒木が二〇一一年にブランドを離れた後も、創業期に築かれたこの和と構造の融合という核は、横山によって受け継がれ、深められています。
代表的なアイテム
Sasquatchfabrix. のアイテムは、和とストリートの融合という思想がそのまま形になったものばかりです。ここでは、ブランドを象徴する代表的なものを順に見ていきます。
羽織や和を感じさせるアウター
Sasquatchfabrix. を象徴するのが、羽織のような和の衣服の感覚を取り入れたアウターです。日本の伝統的な上着が持っていた、ゆったりとした身幅や、前を打ち合わせる構造、独特の袖の作りといった要素を、現代のジャケットやコートへと翻訳しています。和の衣服の記憶を宿しながらも、街で着られる現代的な一着に仕上げられている点に、ブランドの真骨頂があります。伝統文様を用いた生地や、藍を思わせる色使いが添えられることもあり、羽織るだけで装いに和の奥行きが生まれます。洋装が当たり前になった現代に、羽織という日本固有の衣服の感覚を自然なかたちで取り戻させてくれる点も、このアイテムの面白さです。古着や中古で探す場合も、こうした和の要素と現代的なシルエットの融合が、Sasquatchfabrix. らしさを見分ける手がかりになります。
シャツ
シャツもまた、Sasquatchfabrix. の作風がよく表れる領域です。アメリカンワークウェアの定番であるワークシャツやネルシャツを土台にしながら、和の文様を用いた生地や、伝統的な色使い、独特のディテールを加えることで、ほかにはない一枚に仕上げています。西洋の定番に東洋の感覚を忍ばせるという、ブランドの融合の手法がもっとも分かりやすく表れたアイテムです。一枚で着ても羽織っても、装いに独特の個性を加えてくれます。遠目には普通のワークシャツに見えても、近づくと和の文様や独特の生地使いに気づく。その発見の楽しさが、Sasquatchfabrix. のシャツの魅力です。日常的に着やすいかたちでありながら、よく見ると作り手のこだわりが随所に潜んでいます。
ジャケットとセットアップ
テーラードの要素を取り入れたジャケットやセットアップにも、Sasquatchfabrix. ならではの解釈が施されています。西洋の仕立ての形を踏まえながら、和の素材や文様、ゆとりのあるシルエットを取り入れることで、堅苦しくない、独自の洒落感を生み出します。建築を学んだ横山大輔の構造への感覚が、立体的な仕立てのなかに生きている領域でもあります。フォーマルとストリート、東洋と西洋の境界を軽やかに越える一着です。きちんとした場にも対応しながら、どこか着崩した余裕を感じさせる。その緊張と緩和のバランスが、Sasquatchfabrix. のテーラードならではの味わいになっています。和の素材を用いたセットアップは、ほかのブランドにはない特別な存在感を放ちます。
Tシャツとグラフィックアイテム
Tシャツやスウェットといったグラフィックアイテムは、Sasquatchfabrix. の和への眼差しがもっとも直接的に表れる領域です。伝統的な文様や、和の文化に着想を得たモチーフが、現代的なグラフィックとして大胆に落とし込まれます。一見すると派手なストリートのグラフィックでありながら、よく見ると日本の伝統に根ざした図像が潜んでいる。その二重性が、見る人に発見をもたらします。ブランドの世界観を手軽に取り入れられる入口として、人気の高いアイテムです。日本の文化に根ざしたモチーフは、海外の人にとっては新鮮なエキゾチシズムとして、日本の人にとっては再発見の驚きとして映ります。同じ一枚が、見る人の背景によって異なる意味を持つ。その奥行きが、グラフィックアイテムにも宿っています。
日本の伝統と工芸との結びつき
Sasquatchfabrix. を論じるうえで欠かせないのが、日本の伝統や工芸への深い結びつきです。ブランドの根には、染色を学んだ共同創業者の存在もあり、日本の伝統的な染めや文様への理解が早くから息づいていました。藍をはじめとする伝統的な色や、着物に用いられてきた文様を、現代のストリートウェアへと翻訳する。その作業には、表面的な引用にとどまらない、文化への敬意と知識が求められます。
横山大輔が掲げてきた、失われかけた日本らしさを取り戻すという主題は、こうした伝統工芸との結びつきによって、具体的なかたちを得てきました。日本の染めや織り、文様といった技術や意匠は、過去のものとして博物館に収めるのではなく、現代の服のなかで生かしてこそ受け継がれていきます。Sasquatchfabrix. は、伝統を懐古的に扱うのではなく、現代の感覚で更新し続けることで、それを生きた文化として次の世代へとつなごうとしてきました。日本のものづくりが持つ伝統の厚みを、ストリートという現代の文脈のなかで蘇らせる。その試みは、日本発のブランドにしかできない独自の貢献だと言えます。
海外での評価
Sasquatchfabrix. は、日本発のブランドでありながら、海外でも高い評価を獲得してきました。長く日本国内の愛好家に知られる存在でしたが、二〇一六年のシュプリームとの協業をきっかけに、その名は一気に国際的な広がりを得ます。日本の伝統を現代のストリートへ翻訳するという独自の作風は、画一化しがちなグローバルなストリートウェアのなかで、際立った個性として受け止められました。
世界各地のセレクトショップが取り扱い、和の感覚を取り入れたその服は、日本ならではの表現を求める海外の客に響いています。海外のブランドが表面的に和の要素を取り入れる例は少なくありませんが、文化への深い理解に裏打ちされたSasquatchfabrix. の表現は、その本物さによって一線を画してきました。派手な話題づくりではなく、独自の思想と作風の完成度によって評価を積み上げてきた点に、ブランドの歩みの一貫性があります。日本人だからこそできる表現を追い求めた結果が、かえって世界に通用する個性になったという事実は、横山大輔の問いの正しさを物語っています。
アーカイブ市場での価値
Sasquatchfabrix. は、古着や中古の市場でも独自の地位を持っています。和の文様や独特の構造を持つアイテムは、ほかにはない個性として中古でも探される傾向があります。流行に左右されない独自の作風ゆえに、過去のシーズンのアイテムでも古びにくく、むしろ時間を経て味わいを増すものも少なくありません。
中古でSasquatchfabrix. を選ぶ際は、和の意匠と現代的なシルエットの融合、生地の質感、そして縫製の丁寧さに目を向けると、ブランドらしさを読み取りやすくなります。シーズンごとにテーマや文様が異なるため、どの時期の表現に惹かれるかで選ぶ楽しみもあります。一点ものに近い個性を持つアイテムが多く、それを求めて中古を探す面白さがあるのも、Sasquatchfabrix. という独創的なブランドならではの魅力です。とりわけ、過去のシュプリームとの協業アイテムや、特徴的な和柄のシーズンものは、再び手に入れることが難しいため、根強く探される傾向があります。独自の表現を持つブランドだからこそ、中古市場でもその個性が価値として評価されているのです。
まとめ — 日本の伝統を、現代のストリートへ
Sasquatchfabrix. は、横山大輔が2003年に共同創業者とともに立ち上げ、日本の伝統とアメリカのストリートを融合させてきたブランドです。建築と染色という異なる専門性の出会い、失われかけた日本らしさを取り戻すという問い、そして伝統工芸への深い敬意。これらが重なり合って、ほかにはないブランドの個性をかたちづくってきました。日本人だからこそできる表現とは何かを追い求めるという真摯な姿勢が、創業以来一貫して貫かれ、ブランドの背骨であり続けています。
ブランドを選ぶ視点で見れば、Sasquatchfabrix. は「日本の伝統と、現代のストリートの両方を愛する人」に向いた存在です。和の意匠を思想とともに現代へ翻訳した服は、流行が過ぎても古びにくく、着るほどにその文化的な奥行きが感じられます。古着や中古でSasquatchfabrix. に出会うことは、横山大輔が追い求めてきた、日本文化の再発見という試みに触れることでもあります。一枚の服のなかに、日本の歴史と現代のストリートが共存している。その奥行きを、ぜひ手に取って確かめてみてください。気になるアイテムがあれば、まずは下記から探してみてください。











