PERFUME

Amouage — オマーン王室発の高級ニッチフレグランス

香水の世界に「ニッチ」という言葉が定着した今、その極北として静かに存在感を放つのが Amouage(アムアージュ)である。オマーン王室の肝煎りで 1983 年に産声を上げ、フランキンセンス(乳香)という土地固有の遺産と、グラース由来の調香技術を掛け合わせた。デザイナーズや量産ニッチでは到達できない密度・体温・余韻を持ち、一本に数万円という価格が示すのは香料原価と職人工程の双方の重さである。本稿は Amouage というメゾンの来歴と思想、メンズ・ウィメンズの代表作、節目の Jubilation 25 までを編集部の視点で読み解き、最初の一本にどこを選ぶかの判断材料を提示する。

Amouage の歴史 — 1983 年オマーン王室発、David Crickmore による再生

Amouage の創業は 1983 年、オマーンのスルタン(君主)が「アラビアの香りの遺産を、現代の高級香水として世界に届ける」ことを目的に発意したプロジェクトに遡る。設立にあたっては、フランスの調香家 Guy Robert にコミッションが渡され、最初の作品 Gold が世に出た。Guy Robert は Hermès Calèche や Madame Rochas を手掛けた往年の名手であり、その彼が乳香・没薬・ローズといった中東素材を惜しみなく投入したことで、Amouage は誕生時点から「中東的素材 × フランス的構築」というユニークな立ち位置を確立した。

1980 年代から 1990 年代にかけての Amouage は、オマーン国内の VIP ギフトや限られた免税店流通が中心で、世界のニッチ香水市場ではまだ「噂のメゾン」だった。転機が訪れたのは 2000 年代半ば、英国出身の David Crickmore が CEO として迎え入れられた時期である。同氏はそれまでの王室御用達というブランド像を温存しつつ、世界の高級小売チャネルへ流通を拡大し、コレクションをコンテンポラリーへ書き換えるという二正面作戦に着手した。

2007 年に発表された Jubilation 25(ウィメンズ)と Jubilation XXV(メンズ)は、創業 25 周年記念であると同時に、新生 Amouage の旗印だった。続く 2008 年の Lyric、2009 年の Epic、2010 年の Memoir、2012 年の Interlude、2014 年の Journey と、調香家 Daniel Maurel・Bertrand Duchaufour・Karine Vinchon・Pierre Negrin らを巻き込んだコレクションが矢継ぎ早に発表され、ニッチフレグランス界における Amouage の地位は決定的なものとなった。

2010 年代後半以降は、Renaud Salmon がクリエイティブディレクターに就任し、Library Collection・Opus シリーズや Odyssey・Exceptional Extraits といったハイエンドラインを通じて、メゾンの語彙を抽象芸術・文学・建築の領域へ広げてきた。2020 年代の現在、Amouage は王室所有という出自を守りつつ、世界 60 か国以上で展開されるグローバルなラグジュアリーニッチへと変貌している。ボトルにあしらわれたハンジャル(オマーンの儀礼短剣)モチーフや、ドーム型キャップは創業以来のアイコンであり、見た目の段階で他のニッチとは一線を画す。

Amouage の創業は 1983 年、オマーンのスルタン(君主)が「アラビアの香りの遺産を、現代の高級香水として世界に届ける」ことを目的に発意したプロジェクトに遡る。

哲学 — Frankincense Heritage と最高級素材

Amouage を理解する鍵は、メゾンが繰り返し掲げる「Frankincense Heritage(フランキンセンスの遺産)」という言葉にある。フランキンセンスは乳香樹(Boswellia 属)の樹脂から得られる香料で、古代から宗教儀式や王権の象徴として珍重されてきた。とりわけオマーン南部 Dhofar(ドファール)地方で採れる Hojari と呼ばれるグレードは世界最高品質とされ、Amouage はその一部を自社で確保している。創業から 40 年以上にわたり、ほぼすべてのコレクションにフランキンセンスの音色がどこかに織り込まれているのは、このメゾンが自らの出自を香りで証明し続けてきた証左である。

もうひとつの軸は、グラース由来の天然原料へのこだわりである。ブルガリアのダマスクローズ、トルコのローズ、インドのジャスミン・サンバック、マダガスカルのイランイラン、ハイチのベチバー、ラオスのウードといった、各地の最良ロットが投入される。フローラル・ウッディ・スパイシー・アロマティックといった伝統的な香水構造を踏まえながら、中東的なオピュランス(豪奢さ)で再構築するのが Amouage の手癖と言ってよい。

調香面では、Karine Vinchon・Pierre Negrin・Daniel Maurel・Bertrand Duchaufour・Cécile Zarokian・Quentin Bisch・Maurice Roucel ら、現代を代表する調香家が継続的に名を連ねる。複数の調香家を起用しつつも、メゾン全体としてのトーン — 重さの中に背筋の通った気品、東洋と西洋のあわい、儀礼的な静けさ — が崩れないのは、ディレクションの強度の表れである。価格帯がオードパルファン 100mL で 5 万円台〜という水準にあるのは、こうした原料グレードと調香家のフィー、ハンドメイドに近い充填工程を反映したものだ。

Amouage が「ラグジュアリー」と「ニッチ」の両方の言語を話せるメゾンであるという特徴は、最初の一本を選ぶうえでも重要だ。フォーマルにもパーソナルにも振れ、量産デザイナーズには出せない密度がある。これを理解しておくと、代表作の見立てが楽になる。

メンズ代表作 — Interlude Man / Reflection Man / Lyric Man

メンズで最初に名前が挙がるのは Interlude Man(インタールード マン)である。2012 年発表、Pierre Negrin と Karine Vinchon の共作で、オレガノ・ベルガモットの上に、煙を孕んだインセンス・アンバー・レザー・ウードを積層する。トップから揺らぐような重量感が立ち上がり、ミドル以降は枯れた木材と樹脂が長く尾を引く。「都市の夜と乾いた砂漠が同居する」と評されることが多く、夜の食事会や深い色のテーラードと相性が良い。重さに対する耐性が試される一本でもあり、最初の一プッシュで「これは違う」と感じる人と、唯一無二と感じる人にはっきり分かれる。詳細レビューはAmouage Interlude Man ディープガイドで扱っている。

対照に置きたいのが Reflection Man(リフレクション マン)である。2007 年発表、調香は Lucas Sieuzac。ローズマリー・ネロリ・ジャスミン・イランイランをサンダルウッドが支える構成で、メンズ香水にしばしば付きまとう重さを脱ぎ、透明感のあるフローラルウッディに仕上げている。日中・オフィス・春夏でも違和感がなく、Amouage のオピュランスをそのままに、軽やかな表情を見せてくれる。「最初の Amouage」として推されることが多いのも頷ける汎用性で、メンズフローラルへの抵抗が薄い人ほど刺さりやすい。詳細はAmouage Reflection Man ガイドを参照されたい。

三本目に挙げたいのが Lyric Man(リリック マン)である。2008 年発表、Daniel Maurel による調香。ローズ・インセンス・ウード・スパイスを軸に、男性向けローズフレグランスの古典として位置付けられる作品で、トップのベルガモット・カルダモンからすぐにダマスクローズの重い花弁が立ち上がり、サンダルウッド・ベチバー・ムスクの土台へと沈んでいく。メンズローズというカテゴリ自体が一般化した現在も、Lyric Man の濃度と均整は基準点として参照され続けている。Interlude Man の煙よりは穏やか、しかし Reflection Man よりは確実に重い。中庸の重さを探しているならまずここに帰ってくるとよい。

ウィメンズ代表作 — Honour Woman / Reflection Woman

ウィメンズでまず挙げたいのが Honour Woman(オナー ウーマン)である。2011 年発表、調香は Alexandra Carlin と Violaine Collas。トゥベローズ・ジャスミン・ガーデニアの白い花を中心に据え、ピンクペッパー・カーネーション・パチョリ・ムスクで支える、白フローラルの圧倒的な作例である。トゥベローズ系特有の濃密さがありつつ、Amouage らしい儀礼的な静けさが同居する点が他メゾンの白フローラルと一線を画す。香りの密度に対して攻撃性が低く、ホール・劇場・夜の式典といった場で力を発揮する。詳細はAmouage Honour Woman ガイドでも掘り下げているので併読されたい。

対になるのが Reflection Woman(リフレクション ウーマン)である。2007 年発表、調香は Lucas Sieuzac。グリーンフローラルにジャスミン・マグノリア・イランイランを重ね、ピンクペッパーとサンダルウッドで骨格を整える。Reflection Man と兄弟関係にある構成で、白い光が差し込むような透明感が特徴である。Honour Woman の濃密さとは対照的に、日中・オフィス・春夏といった「香らせすぎたくない」場面でも違和感なく機能する。Amouage 初心者の女性に対して、現場で最も多くリピートを生んでいるのが Reflection Woman であるという肌感覚は、編集部内でも一致している。

アニバーサリー — Jubilation 25

Amouage を語るうえで外せないのが Jubilation 25(ジュビレーション 25)である。2007 年、創業 25 周年を記念して発表されたウィメンズ作品で、調香は Lucas Sieuzac。ベルガモット・タンジェリン・ブラックベリーのフルーティトップから、ローズ・フランキンセンス・ミルラ・ダバナへと進み、ベースにパチョリ・ベチバー・ラブダナム・ムスクが控える。フルーティシプレに分類されつつも、フランキンセンスとミルラが効くことで、果実と樹脂の境界をまたぐ独特の質感を獲得している。

Jubilation 25 の重要性は、単なる節目作以上にある。それまで「中東素材のヘリテージブランド」という側面で語られがちだった Amouage が、フランス的シプレ構造の現代的な再解釈を提示したことで、世界のニッチ評論家に「現役のメゾンとして批評対象になる」と認識させた転換点だった。同時に発表されたメンズの Jubilation XXV も、フランキンセンス・ミルラ・ウードを軸とした重量級で、両者がペアとして語られ続けている。発売から 15 年以上を経た現在も廃番にならず、リフォーミュレーションを経つつ生産が続いている事実そのものが、このメゾンにおける Jubilation 25 の位置付けを物語っている。

香りの体験としては、最初の数十分に立ち上がるベリーとシトラスの瑞々しさ、続いてフランキンセンスがゆっくり姿を現し、ローズと交わりながら樹脂質のベースへ沈んでいく。展開の各局面で「これも同じ香水か」と思わせる転調があり、4 時間・8 時間と経過したあとの残り香こそが Jubilation 25 の真骨頂である。秋冬の夜、深い色のドレスやニットに合わせる場面を最も得意とし、強い記憶のシグネチャーとして長く付き合える設計になっている。

編集部の見立て

Amouage は、最初に手を伸ばすニッチとしては明らかにヘビー級である。それでも編集部が繰り返し勧めるのは、安価なデザイナーズや量産ニッチでは到達できない「密度・体温・物語性」の三点を、一本で同時に味わえる希有な存在だからだ。最初の一本を選ぶなら、メンズは Reflection Man から入り、合うと感じたら Lyric Man、夜の重さを欲したら Interlude Man へ進むのが安全な経路である。

ウィメンズは Reflection Woman を起点に、夜の式典用に Honour Woman、節目の一本として Jubilation 25 を持つと、季節と場面の主要なグリッドを覆える。いずれも一プッシュの密度が高く、量を控えるだけで近距離に座る相手への配慮が成立する点も、現代の生活様式にむしろ合っている。

価格は気軽ではないが、100mL を年単位で使う前提なら一日あたりのコストは予想ほど高くない。「使い切るまで関係を結ぶ」体験こそが Amouage の真価を引き出す近道である。本稿の六本はメゾンの語彙を凝縮した作品ばかりだ。検索リンクから現在の流通価格と在庫を確認したうえで、次の一本を選んでほしい。

編集方針について — この記事は GUZ FASHION 編集部のPERFUMEカテゴリの編集方針に沿って制作されています。

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