PERFUME

Memo Paris — 旅と地理を香りで巡るブランド

Memo Paris(メモ パリ)は、フランス・パリを拠点に2007年から続くニッチフレグランスブランドです。クリエイティブディレクターのClara Molloyと夫のJohn Molloyが設立し、ブランドのコンセプトは一貫して「旅と地理を香りで巡る」こと。実在する土地や文化、風景をモチーフに、香水という形で一冊の旅日記を編むようなアプローチを取っています。アイリッシュレザー、ロシアンレザー、イタリアンレザー、アフリカンレザー、ケドゥ、ラリベラといった代表作のタイトルからも分かるとおり、地名や土地由来の素材名がそのまま香りのテーマになっており、ボトルを開けるごとに別の景色へ連れて行かれる感覚が魅力です。本記事では、ブランドの成り立ちと哲学、Cuirs Nomades(クワール ノマド)シリーズを軸とした代表作、編集部の使用感までを一通り押さえます。レザー系フレグランスを好む方、あるいは香水を通じて世界を旅したい方に向けて、Memo Parisという地図帳の読み方をまとめました。

Memo Paris の歴史 — 2007年創業、Clara Molloy & John Molloy

Memo Parisが誕生したのは2007年、舞台はパリです。創業者のClara Molloyは出版業界出身で、本や言葉、物語に親しんできた人物。夫のJohn Molloyは香水ビジネスに通じており、二人が出会ったときに「旅をテーマにした香水ブランド」という構想が生まれました。社名の「Memo」は、英語のmemo(覚え書き)に通じる短い言葉で、訪れた土地の記憶を一本のボトルに留めるという発想を端的に表しています。初期コレクションは、世界各地の風景や文化からインスピレーションを得たフレグランス群で、ボトルやパッケージにも旅情を漂わせるアートワークが採用されました。

ブランド設立当初から、Memo Parisは「ニッチフレグランス」というカテゴリーの中でも、文学的・地理的な切り口を強く打ち出していたのが特徴です。香りのテーマだけでなく、ラベルに描かれるイラスト、フレーバーごとのストーリーテキスト、そしてシリーズ構成までもが「旅の章立て」として設計されており、一本のブランドというよりは一冊の地理アンソロジーに近い感触があります。Clara Molloyは公の場で度々、ヘミングウェイやケルアックといった旅をめぐる文学への愛着を語っており、その読書体験がブランドの世界観を支える土台にもなっています。

2010年代に入ると、Memo Parisは「Cuirs Nomades(さすらいのレザー)」という横断的なテーマでヒット作を連ねます。中でもアイリッシュレザーはブランドを代表する一本に成長し、レザー系フレグランス愛好家の間で確固たる地位を築きました。日本市場への本格的な紹介は他のメゾンと比べてやや遅めでしたが、近年は百貨店のニッチフレグランスコーナーや並行輸入を通じて入手しやすくなっており、レビューサイトやSNS上で話題に上る機会も増えています。

ブランドの規模感としては、いわゆる大手フレグランスハウスではなく独立系メゾンの立ち位置を保ち続けているのもポイントです。ラインナップを必要以上に膨張させず、シリーズごとにまとまった世界観を提示する作り方は、量よりも編集の質に重きを置く姿勢の表れと読めます。新作リリースのペースも穏やかで、各フレグランスにじっくり時間をかけて向き合えるブランドだと言えるでしょう。

夫のJohn Molloyは香水ビジネスに通じており、二人が出会ったときに「旅をテーマにした香水ブランド」という構想が生まれました。

哲学 — 旅と地理を香りで巡る、Cuirs Nomades シリーズ

Memo Parisの世界観を読み解く鍵は、「旅」「地理」「物語」という三つのキーワードです。ブランド側のテキストでも繰り返し語られているのは、香水とは単なる装いではなく「目には見えない旅の同伴者」だという考え方。香りを身にまとうことで、訪れたことのある土地を再訪したり、まだ知らない場所を想像で巡ったりする体験を設計しています。

その思想を最も明確に体現するのが、Cuirs Nomades(クワール ノマド/さすらいのレザー)シリーズです。直訳すれば「遊牧するレザーたち」となるこのシリーズは、レザーノートを共通言語にしつつ、舞台となる土地ごとに表情を変えていく構成を取ります。アイルランドの湿った草原、ロシアの白樺の森、北イタリアの皮革職人の工房、アフリカ大陸の乾いた大地、エチオピアの岩窟教会群──そのどれもが「レザー」という太い軸を持ちながら、土地ごとに異なる素材や植物、空気の質感によって描き分けられています。

香水としての構成も興味深く、Memo Parisのレザーは、いわゆる古典的な動物的レザーとは少し距離を置いています。スエードのような柔らかさ、ジャスミンやアイリスなどフローラルの介在、スパイスやウッディノートとの組み合わせを通じて、レザーを「重さ」ではなく「奥行き」として表現するのが基本姿勢です。そのため、レザー系を着けたことがない人でも入りやすく、しかしレザー好きが嗅ぐと確かにレザーの輪郭を見つけられる、というバランス感に仕上がっています。

シリーズの位置付けとしては、Cuirs Nomadesは旅の章立ての中心パートで、それ以外にもグレデュエート系、グラフィック系、より日常寄りのラインなど複数のシリーズが併走しています。ただし「どのコレクションから入るのが分かりやすいか」と聞かれれば、ブランドの哲学が最も濃いCuirs Nomadesを起点に試香するのが筋の良い選び方です。

Cuirs Nomades 代表作 — Irish Leather / Russian Leather / Italian Leather

ここからは、Cuirs Nomades の中でも特に語られることの多い三本を取り上げます。いずれも「地名 + Leather」というシンプルなネーミングでありながら、嗅ぐと風景の解像度がまるで違うのが面白いところです。

Memo Paris Irish Leatherは、アイルランドの濡れた草原と森の空気をテーマにした一本。一般的な「重いレザー」のイメージを覆す、グリーンで湿度を感じさせる香り立ちが特徴で、ジュニパーやマテといったフレッシュなノートにレザーの輪郭を組み合わせています。トップは爽やかさ、ミドルから残香にかけてスエード調のレザーが立ち上がり、晴れた日の朝の散歩道を思い出させる空気感。レザー系の入門としても評判が高く、Memo Paris の中で最も知名度のある銘柄の一つです。

Memo Paris Russian Leatherは、ロシアの白樺林と乾いた寒気をモチーフにしています。歴史的に「ロシアンレザー」と呼ばれてきた製革法は、白樺樹皮油によるスモーキーな香り付けが特徴ですが、Memo Paris の解釈はそこにバーチタールのドライさとサフラン的なスパイス感を重ね、男性的でありながら知的な印象を持たせています。秋冬の厚手のコートに似合うタイプで、Irish Leather と並べて試すと、同じレザーでも気候が違うとここまで表情が変わるのかという発見があります。

Memo Paris Italian Leatherは、北イタリアの皮革工房をモチーフにした一本で、よりスエード寄りの柔らかいレザーを軸にしています。フローラルな膨らみとミルキーなニュアンスが加わり、肌に乗ると上質な革張りの内装に座ったときのような落ち着きを連想させる仕上がりです。ジェンダーレスに着けやすく、レザー初心者がいきなり Russian Leather に進むのが不安、というケースで橋渡し的に薦めやすい銘柄でもあります。

三本を並べて感じるのは、Memo Paris における「レザー」が革そのものの匂いというより、革を取り巻く土地の空気・植物・気候の総体として描かれていることです。シリーズで揃えなくとも、一本でも十分にその哲学を味わえます。

アフリカン編 — African Leather / Kedu

Cuirs Nomades の旅は、ヨーロッパからアフリカ大陸へと続きます。土地が変われば植生も気候も変わり、レザーの上に重ねられる素材もまったく別物になります。

Memo Paris African Leatherは、サバンナや乾いた風、スパイス交易の記憶をテーマにした一本。レザーの土台にカルダモンやウードのようなスパイス、ジャスミン系のフローラル、そして温かいバルサミックノートが重なり、Irish Leather のグリーンとは正反対のドライで官能的な空気を作ります。日中は控えめでも、夜になるにつれて存在感が増していくタイプで、特別な席に向く銘柄です。

Memo Paris Keduは、ナイジェリア南東部の言語で「元気ですか」を意味する挨拶からタイトルが取られた、コミュニケーションと共同体をテーマとする一本。Cuirs Nomades の中ではレザーを軽めに置き、フルーティーで陽気なグリーン、フローラル、トロピカルな膨らみを前面に出した構成で、にぎやかな市場や人の往来を香りに翻訳しています。シリアスなレザーではなく、明るく親しみやすい一本を探している人に向く位置付けです。

African Leather と Kedu は、同じアフリカ大陸を扱いながらまったく違う角度から土地を描いている点が面白く、二本を並べて試すと「アフリカ=こうである」という単純な像が崩れていきます。地理を旅するというブランドのコンセプトが、最も直接的に体感できる組み合わせの一つです。

エチオピア編 — Lalibela

Cuirs Nomades のもう一つの注目作が、エチオピア北部の岩窟教会群で知られる聖地、ラリベラを名に冠した一本です。

Memo Paris Lalibelaは、世界遺産に登録されている岩窟教会群と、その地に流れる祈りの空気をテーマにしています。フランキンセンスやミルラといった樹脂系の香りを軸に、レザー、バニラ、スパイスが重なる構成で、教会内部に立ちこめる香煙と石の冷たさを同時に感じさせる作りです。系統としては明確にオリエンタル寄りで、Cuirs Nomades の中でも最も「神聖な空気」を担当している銘柄と言えます。

Lalibela は、レザー系というよりインセンス系として手に取られることも多く、Irish Leather や Italian Leather とは扱いが少し異なります。日中のカジュアルユースよりも、静かな夜や瞑想的な時間、あるいは寒い季節の屋内で深く楽しむ一本として位置付けるのが向いています。冬のニットやウールのコートとの相性が良く、レイヤリングのベースに置いても優秀です。レザー系を一通り試した後で、Memo Paris の世界観をさらに広げたい人にとって、Lalibela は次の章として最適の入口になります。

編集部の見立て

Memo Paris の魅力は、コレクション全体を地理アンソロジーとして読めるところにあります。一本だけを単独で評価することももちろん可能ですが、複数を並べて初めて見えてくる「地図感覚」がブランドの最大の価値です。最初の一本としては、知名度と入りやすさの両面で Irish Leather を選ぶのが順当で、そこから自分の好きな気候や土地に応じて Russian Leather、Italian Leather、African Leather、Lalibela と章を進めていくと、香水ライブラリーが小さな世界地図のように育っていきます。

レザーノートに対する苦手意識がある人にとっても、Memo Paris は比較的フレンドリーなブランドです。重さよりも空気感を描くアプローチのため、いわゆる古典的なレザーフレグランスで挫折した経験のある人でも、Irish Leather や Italian Leather から再挑戦してみる価値があります。逆に、より硬派でドライなレザーを探しているなら Russian Leather、官能的でスパイシーな方向なら African Leather、瞑想的な空気なら Lalibela と、行き先は十分に分岐します。

関連して、レザーノートそのものをもう少し体系的に押さえたい場合はレザーフレグランスの深掘り解説を、Memo Paris の代表作である Irish Leather をより詳しく知りたい場合はMemo Paris Irish Leather のガイドを併せて読むと、ブランドの位置付けがより立体的に見えてきます。旅と地理を一冊の本にまとめるように香水ライブラリーを編んでいきたい人にとって、Memo Paris は長く付き合える書架になるはずです。

編集方針について — この記事は GUZ FASHION 編集部のPERFUMEカテゴリの編集方針に沿って制作されています。

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