寺田典夫というデザイナーの出発点
YOKE のデザイナー 寺田典夫 (Norio Terada) は、東京の Bunka Fashion College (文化服装学院) を卒業した日本人デザイナーです。Bunka Fashion College は前章の LITTLEBIG の馬渡圭太も学んだ日本最古のファッション専門学校で、Yohji Yamamoto、Junya Watanabe、Kenzo Takada などの著名デザイナーを輩出してきました。
寺田は Bunka 卒業後に複数の日本ブランドでデザイン経験を積み、その後の自身ブランド立ち上げまでの数年間に、業界の様々な現場で実務を積み重ねたとされます。
手の届く範囲で生産量を抑える姿勢と、ジェンダーニュートラルなオーバーサイズ設計に一貫性があり、長期使用を前提にした素材選びも堅実です。派手さのない落ち着いた色調のため、印象を強く残したい場面にはやや物足りなさが残ります。
手の届く範囲で生産量を抑える姿勢と、ジェンダーニュートラルなオーバーサイズ設計に一貫性があり、長期使用を前提にした素材選びも堅実です。
2018 AW YOKE 創業と「つながり (connect)」 コンセプト
2018 年秋冬コレクションで、寺田は自身ブランド YOKE を東京で立ち上げました。ブランド名「YOKE」 は英語の「軛 (くびき)」 「結びつけるもの」 を意味する単語と、日本語の「つながり」 「絆」 の感覚を組み合わせた命名です。
寺田が掲げたブランド・コンセプトは「モノがヒトをつなぎ、ヒトがヒトをつなぎ、ヒトがモノをつなぐ」 という三層構造の「つながり (connect)」 哲学でした。素材選定から製造、流通、顧客との関係に至るまでの全工程に関わる人々のつながりを意識し、その関係性そのものを衣服に込めるという独自の制作姿勢を示しました。
「自分たちの手の届く範囲」 という制作哲学
YOKE の制作哲学のもう一つの軸は「自分たちの手の届く範囲で製品を作る」 という限界主義です。寺田はインタビューで、デザイナーが素材・縫製・流通のすべての過程を視覚的に把握できる範囲内で生産する重要性を繰り返し語ってきました。
これにより、YOKE は急激な規模拡大を意図的に避け、シーズン毎の生産数を限定して、小規模ながら継続的な事業構造を維持してきました。同様の哲学を掲げる現代日本ブランドとして、OUR LEGACY の Work Shop、 Camiel Fortgens、そして YOKE の三つが業界内で「Slow Fashion」 路線の典型例として参照されています。
ジェンダーニュートラルとオーバーサイズ・シルエット
YOKE の主要アイテムは、メンズ・ウィメンズ兼用の設計を前提としています。具体的には、Oversized Coat (深い前合わせの肩落としコート)、Wide Trouser (ハイライズで深いタックの太めスラックス)、Crewneck Sweater (ボリュームのあるニットセーター)、Layered Shirt (襟元と袖口を変形させたシャツ)、そして Cocoon Knit (繭状のシルエット・ニット) です。
色彩は、グレー、深いベージュ、黒、深いブラウン、サフラン色、淡いネイビーといった、流行に左右されないくすんだトーンを軸とし、シーズン毎に 1 から 2 色の差し色 (鮮やかな赤や緑) が加わる構成を維持してきました。
素材選定の哲学
YOKE の素材選定は、テキスタイルへのこだわりが特に強く、ヴィンテージ古着風の質感、自然なヤケと色落ち、軽量感と保温性の両立など、長期使用前提の品質を追求します。
具体的には、イタリアの中規模機屋から仕入れた特殊織りのウールメルトン、日本国内の小規模工場で生産される独自の混紡素材、ポルトガルとアジアのデッドストック生地、そして英国の Harris Tweed などを組み合わせた多層的調達体制を取ります。
Rakuten Fashion Week TOKYO への参加
YOKE は Rakuten Fashion Week TOKYO の公式カレンダーに継続的に参加してきました。寺田は東京コレクション期間毎に新作コレクションを発表し、日本国内のメンズ・モード業界では、YOKE が「現代日本のジェンダーニュートラル・ミニマル」 を象徴するブランドの一つとして継続的に取り上げられてきました。
主要店舗と取扱チャネル
YOKE の販売チャネルは、日本主要セレクトショップでの取扱を中心とした流通体制です。BEAMS、UNITED ARROWS、L’ECHOPPE、ESTNATION、Maidens Shop、Daiki Store、Hatch、Loftman などの日本主要セレクトショップで取扱されています。
国際展開も進めており、SSENSE (グローバル EC)、HAVEN (カナダ・トロント)、Cultizm (ドイツ)、Namu Shop (米国)、Future Present (英国) などのグローバル EC とセレクトショップで取扱が広がりました。公式 EC は yoketokyo.com で運営する体制です。
ヴィンテージ古着市場での YOKE の見方
YOKE の中古市場での流通量は限定的ですが、コアファン層の間で安定した取引が観察されます。中古価格帯は、Oversized Coat が 30,000 円から 80,000 円台、Wide Trouser が 15,000 円から 35,000 円台、Crewneck Sweater が 18,000 円から 40,000 円台、Cocoon Knit が 22,000 円から 50,000 円台、Layered Shirt が 12,000 円から 28,000 円台で取引される事例が観察されます。
タグは「YOKE」 ロゴ刺繍と「Made in Japan」 が標準で、寺田の哲学に沿った日本国内生産が中心です。コレクター層は 2018 AW から 2021 AW までの創業初期 Made in Japan ロットを特に高評価する傾向があります。サイズ表記は YOKE 独自基準 (1、2、3、4) で、概ね表記通りのフィット感が一般的です。
同時代の日本ジェンダーニュートラル系ブランドとの位置づけ
同時代で並べやすい日本ジェンダーニュートラル系ブランドは、HYKE (2013 年創業、吉原秀明 と 大出由紀子)、Auralee (2015 年創業、岩井良太)、Comoli (2012 年創業、小森啓二郎)、Marka、Studio Nicholson (英国だが日本市場で強い支持)、CFCL (2020 年創業、高橋悠介) などです。
これらと並べたときの YOKE の独自性は、「つながり」 という哲学的命題をブランド全体の指針に据え、デザイナーが視覚的に把握できる範囲という意識的な限界主義を運営方針に組み込んだ稀有な姿勢にあります。多くのブランドが規模拡大と国際展開を目指す中で、YOKE は意識的に小規模を保ち、関係者全員のつながりを大切にする独自路線を貫いてきました。










