Studio Nicholson(スタジオニコルソン)は、2010年にロンドンで創業したミニマルウェアブランドです。旧版の記事には「創業者Nick Wakemanの父の名前からブランド名を取った」「2018年に米国J.Crewとコラボした」「2022年に米国Gapと戦略的パートナーシップを結んだ」といった記述がありましたが、公式サイトや英米の複数メディアを確認したところ、いずれも裏付けとなる一次情報が見当たりませんでした。ブランド名の由来は父親ではなく母方の祖母の姓であり、確認できる協業はZaraやASICS、Yoshida & Co.のバッグブランドPOTRなど、まったく別の相手先でした。また、既存のguz_brand側の記録(商品ラインの一覧)には文字化けと思われる誤記も見つかっています。本稿ではこうした点を一次情報で確認し直しながら、Studio Nicholsonの歩みと現在地をお伝えします。
創業者Nick Wakemanと創業経緯
Nick Wakemanは、ロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アーツ(旧チェルシー・スクール・オブ・アート)でテキスタイルデザインを学んだ人物です。カルチャー誌Kinfolkのインタビュー(Studio Nicholson公式ブログに転載)によれば、卒業後はDieselやMarks & Spencerといった英国の複数ブランドで約20年にわたってデザイナーとしての経験を積みました。The Gentleman’s JournalやMonocleのインタビューでは、この期間を30年としている記述もあり、媒体によって数え方に幅があります。Studio Nicholsonを立ち上げる直前には、自身が別に手がけていたブランドを日本の企業グループへ売却したものの、その会社がブランドを特に展開しなかったという経緯があったとThe Gentleman’s Journalは伝えています。しばらくヨガに没頭する時間を取ったのち、ファッションの世界に戻る決心をしたのが2010年でした。
Studio Nicholsonは、ロンドン東部ショーディッチのカルバート・アヴェニュー(Calvert Avenue)にある小さなオフィスから始まりました。当初は自宅のキッチンテーブルで一人で運営していたといい、最初のコレクションはウィメンズウェアのみで、シャツやニット、パンツを自由に組み合わせられる「モジュラー・ワードローブ」という考え方を軸にしていました。The Gentleman’s Journalのインタビューによれば、Wakemanが自身のためにあつらえていたメンズウェア風のワードローブ、シャツやジーンズ、テイラードジャケットを女性向けに翻案し、コーディネートしやすい一群として発表したのが最初のコレクションで、2011年春夏シーズンとして展開されました。旧版の記事は「創業時からMenswearとWomenswearの両方を並行展開した」としていましたが、公式サイトや複数のインタビューを確認するかぎり、当初はウィメンズウェアのみで、メンズウェアの正式ローンチは2017年でした。この点は本稿で訂正しています。
創業直後のコレクションは、なかなか売れずに苦戦していたといいます。転機になったのは、東京の知人がこの最初のコレクションを見て、自ら買い付けて日本国内で流通させると申し出たことでした。The Gentleman’s Journalのインタビューで、Wakeman自身は「日本のお客様がいなければ、私たちは今日この場所にいなかった。本当に生き残れなかった」と語っています。この申し出をきっかけに、Studio Nicholsonはすぐに日本国内の主要15店舗で取り扱われるようになりました。旧版の記事には「日本の主要セレクトショップ(Beams、Tomorrowland、United Arrows)での取り扱い」という具体的な店名が挙げられていましたが、これを裏付ける一次情報は確認できなかったため、本稿では採用せず、確認できた経緯にとどめています。
ブランド名の由来についても、旧版の記事とは異なる事実が確認できました。Studio Nicholson公式ブログのインタビューによれば、「Nicholson」はWakeman自身の母方の祖母の姓(旧姓)にちなんだもので、「フォーミダブルで、いつも隙のない装いをした女性だった」と紹介されています。さらに、Wakeman自身の呼び名である「Nick」も、もとはこの祖母の呼び名を受け継いだものだといいます。旧版の記事にあった「父親の名前から取った」という説明は、この一次情報と一致しないため、本稿では採用していません。
さらに、Wakeman自身の呼び名である「Nick」も、もとはこの祖母の呼び名を受け継いだものだといいます。
ブランド美学 — ミニマルとユニセックスの設計思想
Studio Nicholsonのデザインを貫く軸は、「普段の、ありふれた服を、例外的に美しく、揺るぎなくモダンなものにする」というWakemanの言葉に集約されています。公式サイトの紹介文では、装飾よりも目的性を優先し、定番のシルエットを研ぎ澄ますために1着あたり4回から5回のフィッティングを重ねる、という開発プロセスが説明されています。日本建築、とりわけ建築家・安藤忠雄の光とコンクリートの使い方から強い影響を受けていることも、公式サイトで紹介されている特徴のひとつです。Wallpaper*の15周年特集によれば、Wakeman自身は5歳のころから自宅のリビングの配置替えやクッションカバーの掛け替えに没頭していたと振り返っており、母親が仕立ててくれた服を通じて生地そのものへの関心を育んだといいます。こうした幼少期からの積み重ねが、のちの「素材と縫製で語る」という設計思想の土台になっているとみることができます。
もうひとつの軸が、性別を前提にしないユニセックスな発想です。KinfolkのインタビューでWakemanは「自分の服が女性だけでなく男性からも求められることこそ、良いデザインへの最大の賛辞だ」と述べています。実際に、創業当初はウィメンズウェアのみでしたが、顧客の中心が男性に寄っていたことを受けて2017年に小さなチームを編成し、メンズウェアを正式にラインアップへ加えました。現在は売上比率がメンズとウィメンズでほぼ半々になっているとWallpaper*の15周年特集記事は伝えています。ボクシーなデニムや、彫刻的なアウターの構築、レイヤリングを前提にしたモジュラー・ワードローブという発想は、性別の区分よりも「着る人自身の組み合わせ方」を優先する姿勢の表れといえます。
素材選びについても、Studio Nicholsonらしい一貫性があります。The Gentleman’s Journalのインタビューによれば、生地の調達比率はおよそ日本の織元が2割、イタリアの織元が8割で、世界的に評価の高い工場から仕入れているといいます。あわせて、Kinfolkのインタビューでは、日本文化や日本建築からの発想に加えて、実際に一部の製品を日本国内で生産している点にも触れられています。ロゴを大きく主張するタイプのブランドとは対照的に、生地そのものと縫製、パターンの精度で語るという姿勢が、創業から一貫して保たれてきたことがうかがえます。
代表アイテム「ボリュームパンツ」と日本での展開
Studio Nicholsonを象徴するアイテムが、ハウス側が「モジュラー・ワードローブの支柱」と位置づける「ボリュームパンツ(Volume Pant)」です。公式サイトの特集記事「The Importance of the Volume Pant」によれば、脚のシルエット、生地、フィットという3つの変数の組み合わせで毎シーズン展開される継続的な定番アイテムで、女性向けの代表的なスタイルは「Dordoni」という名で、ハイウエスト、フロントの片ひだ、深いサイドポケットを備え、100%のピーチスキン加工コットンで作られた、女性向けトラウザーの中で最も売れているスタイルだと紹介されています。男性向けの代表スタイルは「Sorte Pant」で、100%のブラッシュド・コットンツイルを使い、ダブルプリーツと縦横のポケットを備えた、しっかりとしたワークウェア的な一着として位置づけられています。旧版の記事は「発表年」や具体的な中古価格帯を断定的に紹介していましたが、これらを裏付ける一次情報は確認できなかったため、本稿ではあえて年代や金額を断定していません。
日本市場との関わりは、Studio Nicholsonというブランドの成り立ちそのものに深く組み込まれています。前述のとおり、創業初期に東京の知人が最初のコレクションを買い付けたことが転機となり、Kinfolkのインタビューでは、現在では売上のおよそ3割が日本によるもので、国内の取扱先はおよそ60店にまで広がっているとされています。実店舗の展開も着実に進み、2023年には東京・青山にブランドとして初のアジア店舗をオープンし、Wakeman自身は「本当に感情がこみ上げた」とWallpaper*の取材で振り返っています。さらに2026年3月には、金属工芸の工房として使われていた京町家を改装した京都店を開業し、地域の建築を丁寧に読み込んだ初めての店舗としてHypebeastなどで紹介されました。現在はロンドン、東京、京都、ソウルに直営店を構え、世界で300以上の取扱先を持つブランドに成長しています。
近年の動きとしては、2023年11月のZaraとのコラボレーション(アパレルに加え家具にも展開)、Yoshida & Co.のバッグブランドPOTRとの協業、2025年9月のBEAMS PLUSとのコラボレーション、日本の生活雑貨ブランドÉchapperとの協業、そしてスポーツブランドASICSとの継続的なコラボレーションが挙げられます。ASICSとは2024年春に「GEL-QUANTUM 360 VIII」をイタリア製レザーで仕立て直した限定100足を発表し、2026年6月には韓国、日本、中国での展開を前提とした「GEL-KINETIC SP」を発売しました。旧版の記事にあった米国J.Crewや米国Gapとのコラボレーションは、これらの調査のなかでは一件も確認できなかったため、本稿では採用していません。あわせて、2026年1月には上海、6月29日には北京・太古里三里屯にも新店舗をオープンし、東アジアでの店舗網をさらに広げています。Hypebeastの報道によれば、この北京店は「ギャラリーと住宅の間」というコンセプトで、トラバーチンとチェリーウッド、新疆産の石材、黒いスレートを組み合わせ、Pierre Jeanneretが手がけたチャンディーガルのチェアやHans J. Wegnerのデイベッドを配した約158平方メートルの空間だといい、単なる物販店ではなく暮らしの提案としての店舗づくりが読み取れます。公式サイトによれば、2026年にはフレグランスの発売やパリでの初のランウェイショー(2027年春夏コレクション)も予定されており、日本とアジア圏を軸にした展開は今後も続いていきそうです。
2025年には創業15周年の節目も迎えました。Studio Nicholson公式ブログによれば、ロンドンのロッシェル・カンティーンで支援者や友人50人を招いた食事会を開き、あわせてロンドン・ファッション・ウィーク期間中には新しいレッドチャーチ・ストリート店で、音楽家Daniel Averyの選曲によるイベントも開催されたといいます。創業初期のキッチンテーブルから、東アジア各都市に直営店を構える規模まで拡大してきた歩みを、こうした周年イベントの内容からもうかがうことができます。
どんな人に似合うブランドか
Studio Nicholsonが似合うのは、性別にとらわれないシルエットで、シャツやニット、パンツを自由に組み合わせたい人です。ボリュームパンツを軸に、オーバーサイズのコートやニットを重ねるという着方は、体型を強調しないゆったりとしたラインを好む人にとって扱いやすい選択肢になります。ロゴの主張が控えめなぶん、素材そのものの質感や縫製の精度で満足感を得たい人にも向いているブランドです。
一方で、はっきりとしたロゴや装飾性を求める人にとっては、Studio Nicholsonの控えめな佇まいはやや物足りなく映るかもしれません。その場合は、ZaraやASICSとのコラボレーションアイテムのように、比較的手に取りやすい価格帯で個性を試せるプロダクトから入ってみると、ブランドとの距離がつかみやすくなります。日本の織元や日本建築から着想を得た背景に関心がある人、あるいはメンズとウィメンズを横断して着こなしを組み立てたい人にとっては、長く付き合えるブランドの一つになるはずです。
Studio Nicholsonの服は、単体で強く主張するタイプの一着ではなく、複数のアイテムを組み合わせたときに真価が出るように設計されています。そのため、シャツ一枚やパンツ一本から古着で試すよりも、コートやニットを含めて何点かをまとめて揃え、モジュラー・ワードローブという発想そのものを体感してみるという楽しみ方が向いています。Diesel やMarks & Spencerといった、量産寄りのブランドで経験を積んだWakemanらしく、極端なハイファッションというよりは、日常のなかで着倒せる実用性を重視する人にも相性のよいブランドです。
中古市場でのStudio Nicholsonの位置づけ
Studio Nicholsonは日本での知名度と流通量がもともと高いブランドのため、中古市場でも一定の需要が見込めます。中心になるのは、ハウスの代名詞であるボリュームパンツ(女性向けDordoni、男性向けSorte Pantを含む)と、オーバーサイズのコートやニットです。創業初期からモジュラー・ワードローブという発想で作られているため、単品を買い足すだけでも既存の手持ちと組み合わせやすいという実用面での利点があり、中古で一着ずつ揃えていく買い方にも向いています。
選ぶ際に押さえておきたいのは、Studio Nicholsonがウィメンズウェア中心で始まり、メンズウェアが2017年から本格化したという経緯です。2017年より前の個体はウィメンズウェアが主体になるため、メンズのオーバーサイズシルエットを探している場合は、比較的新しい年代のタグを確認すると探しやすくなります。また、ZaraやASICSとのコラボレーションアイテムは数量限定で展開されることが多く、通常ラインとは別の希少性を持つため、タグやラベルの表記で通常ラインかコラボレーションかを見分けておくと、価格の妥当性を判断しやすくなります。生地の8割程度がイタリア製、2割程度が日本製という調達比率も、素材表記を確認する際の目安になります。日本国内で60店近い取扱先があるという流通の広さもあり、フリマアプリや古着店、委託販売のセレクトショップなど、比較的複数の経路で見つけやすいブランドだといえます。
なお、旧版の記事にあった「Volume Trousersは1万5千円から5万円」「Oversized Coatは4万円から12万円」といった具体的な中古価格帯の記述は、裏付けとなる一次情報が確認できなかったため、本稿では採用していません。価格帯は個体のコンディションやシーズン、コラボレーションの有無によって変動するため、購入前には販売元の説明とタグの表記を実際に確認しておくことをおすすめします。特に数量限定のコラボレーションアイテムは再入荷が期待できないため、状態のよい個体を見つけたタイミングで判断する必要があります。
よくある疑問
Studio NicholsonはGapやJ.Crewとコラボレーションしていますか
本稿の調査では確認できませんでした。旧版の記事には2018年の米国J.Crewとのコラボレーション、2022年の米国Gapとの戦略的パートナーシップという記述がありましたが、複数の検索と一次情報の確認を重ねてもこれらを裏付ける記事や公式発表は見当たりませんでした。実際に確認できる主な協業は、2023年のZara、Yoshida & Co.のPOTR、2025年のBEAMS PLUS、日本のÉchapper、そしてASICSとの継続的なコラボレーションです。
ブランド名の「Nicholson」は創業者の本名ですか
創業者の本名はNick Wakemanで、「Nicholson」はご本人の姓ではありません。Studio Nicholson公式ブログのインタビューによれば、母方の祖母の姓(旧姓)にちなんで名付けられたブランド名で、祖母は「フォーミダブルで、いつも隙のない装いをした女性」として紹介されています。「Nick」という呼び名自体も、もとはこの祖母から受け継いだものだといいます。旧版の記事にあった「父親の名前から取った」という記述は、この一次情報とは異なります。
創業当初からメンズウェアを展開していたのですか
いいえ、創業した2010年当初はウィメンズウェアのみでした。公式サイトやWallpaper*、The Gentleman’s Journalの取材を確認するかぎり、メンズウェアが正式にラインアップへ加わったのは2017年で、顧客の中心が男性であることを踏まえて小さなチームを編成したタイミングと重なります。現在は売上比率がメンズとウィメンズでほぼ半々になっているとされています。
Studio Nicholsonの直営店は現在どこにありますか
2026年時点で、ロンドン(ソーホーの旗艦店、2021年開業)、東京・青山(2023年開業、ブランド初のアジア店舗)、京都(2026年3月開業、京町家を改装)、ソウル、上海(2026年1月開業)、北京(2026年6月29日開業、太古里三里屯北エリア)に直営店を構えています。加えて世界で300以上の取扱先があり、日本国内だけでもおよそ60の卸先があるとKinfolkのインタビューでは紹介されています。店舗網は東京を起点に、京都、上海、北京と東アジアで広がりを続けている段階だといえます。
まとめ
Studio Nicholsonの歩みを一次情報で確認し直すと、Nick Wakemanという一人のデザイナーが、Dieselなど英国ブランドでの長いキャリアを経て、2010年にロンドンのキッチンテーブルからモジュラー・ワードローブという発想を持つブランドを立ち上げ、東京の知人との出会いを転機に日本市場で足場を築いてきたという経緯が見えてきます。旧版の記事にあった「父親の名前が由来」「米国J.Crewとのコラボレーション」「米国Gapとの戦略的パートナーシップ」という記述は、一次情報を確認するかぎり裏付けが見当たらなかったため、本稿ではあらためて整理しました。ボリュームパンツを軸にしたモジュラー・ワードローブという設計思想、日本の織元とイタリアの織元を組み合わせた素材選び、そしてZaraやASICSといった実在する協業の積み重ねが、現在のStudio Nicholsonというブランドの実像だといえます。
中古市場では、ウィメンズウェア中心だった時期とメンズウェアが本格化した2017年以降とで個体の傾向が異なり、ZaraやASICSとのコラボレーションアイテムには数量限定の希少性もあります。日本国内でおよそ60の取扱先を持つという流通の広さを踏まえつつ、タグの表記やコンディションを確認しながら、Studio Nicholsonというブランドとの付き合い方を探ってみてください。











