オールドマネースタイルは、声高にロゴを主張しないことを身上とする着こなしです。ロゴやトレンドの符号で語るのではなく、生地の落ち感やシャツの襟元、靴の磨かれ方といった細部に持ち主の時間が表れる——そうした静かな美学が、ここ数年若い世代のあいだで再評価されています。古い邸宅の図書室や夏の別荘地、テニスコートの白いラインを連想させる装いには、流行を追わずに済むだけの理由があります。本稿では、その輪郭と主要アイテム、素材選び、ブランドの捉え方、生活シーンまで、編集部の視点で整理しました。
オールドマネースタイルの輪郭 — TikTokで広まった旧家の美学
「オールドマネー (Old Money)」という言葉そのものは、何代にもわたって資産を継承してきた一族や、その文化的な振る舞いを指す古い表現です。ファッションの文脈では、新興層を表す「ニューマネー」との対比で使われ、誇示的な消費を避け、長く受け継がれてきた服や所作を尊ぶスタイルを指します。2023年頃からTikTokの#oldmoneyaestheticタグを起点に若年層へ広がり、Pinterestやインスタグラムでも保存数の多いキーワードになりました。
背景にあるのは、ロゴで階層を示す消費に対する疲弊感です。ストリート系のハイブランド競争が一巡し、SNS上では「派手に見せない」「説明しなくても伝わる」装いに価値を見出す流れが目立ちます。プレッピー、アイビー、トラッドといった既存ジャンルと地続きでありながら、英国のカントリーハウスや北米東海岸の旧家のムードを下敷きにしている点が独特です。
もっとも、これは「金持ちのふり」をするためのドレスコードではありません。むしろ手入れの行き届いた服を長く着る、サイズと姿勢を整える、過度に飾らない——そうした生活態度の表れとしての服装に近いと捉えると、自分のワードローブに引き寄せて考えやすくなります。中古市場や古着の文脈とも親和性が高く、年代物のラルフローレンやアクアスキュータム、Brooks Brothersのシャツなどが好まれているのもこの流れです。
ジェンダーレスな視点とも相性が良く、メンズの定番アイテムを女性が、レディースの仕立てを男性が取り入れる事例も増えています。詳しくはジェンダーレスファッションのまとめもあわせてどうぞ。
誤解されやすいのが、「英国貴族風」「アメリカ東海岸風」という単一のドレスコードではない、という点です。北イタリアのカントリーハウス、フランスのリヴィエラ、ニューイングランドの夏の家——参照される文化圏は複数あり、それぞれに違ったムードを持ちます。たとえばイタリア系はリネンのスーツと裸足にローファー、北米系はクリケットセーターとチノパンツ、英国系はツイードジャケットとフラットキャップ、というように地域ごとの肌感が異なります。自分のワードローブに引き寄せるときは、どの地域の空気が好みかを最初に意識しておくと、買い物の方向性がぶれにくくなります。
誤解されやすいのが、「英国貴族風」「アメリカ東海岸風」という単一のドレスコードではない、という点です。
主要なアイテム — ニット・ポロ・ローファー・テーラー
オールドマネースタイルの土台は、特別な服ではなく「定番をきちんと選ぶ」ことにあります。なかでも頻出するのが、上質なニット、襟付きのポロシャツ、革底のローファー、そして仕立ての良いジャケットです。それぞれが一着でスタイル全体の印象を決めるだけに、選び方の比重が大きいアイテムでもあります。
ポロシャツはコットンの鹿の子編みが基本。胸のロゴが控えめで、襟が硬すぎず柔らかすぎないものが扱いやすい選択肢です。ラルフローレンのポニー刺繍は象徴的ですが、サイズが合っていることのほうが優先順位は高く、肩線が落ちすぎていないかを試着でよく確認したいところです。
ニットは、デイリーに着回せるクルーネックやVネックのカシミア、メリノが核になります。1枚で着てもジャケットの下に仕込んでも機能するゲージ感を選ぶと、コーディネートの幅が広がります。色は後段で触れる通り、ネイビー、キャメル、オフホワイトなどの中間色が扱いやすい傾向です。
単体でもジャケットの下でも様になる汎用性の高さがあり、控えめな艶感が上質さを添えてくれます。原毛のグレードによって毛玉のできやすさや復元力に差が出るため、価格だけで選ぶと後悔しやすい点は留意したいところです。
足元はローファーが象徴的存在です。コインローファー、ペニーローファー、タッセルローファーなど形のバリエーションは複数ありますが、ソールが薄すぎず、アッパーの革質が良いものを選ぶと、デニムにもスラックスにも合わせられます。靴擦れを避けるためにハーフサイズの試着は必須です。
ジャケットは、ネイビーブレザーが一着あると守備範囲が広がります。金属ボタンの紺ブレはアイビーの典型ですが、現在はくるみボタンや艶を抑えたものを選ぶと、よりオールドマネー寄りに見えます。肩パッドが薄く、ラペルが広すぎない英国的なシルエットが汎用的です。革靴全般の比較は高級レザーシューズの比較記事も参照してみてください。
素材と色 — リネン・コットン・カシミア・キャメル
このスタイルが「上質に見える」最大の理由は、素材選びにあります。化学繊維の比率を抑え、リネン、コットン、ウール、カシミアといった天然素材を中心に組み立てるのが基本線です。夏はリネンとコットン、冬はウールとカシミアという季節の住み分けがそのまま色とテクスチャーの設計につながります。
夏のキーマテリアルはリネンです。皺をある程度許容するのが前提の素材で、その皺感こそが「気負わず長く着ている」雰囲気をつくります。ジャケットやシャツ、トラウザーまで幅広く展開されており、ベージュ、オフホワイト、ネイビーあたりが組み合わせやすい色です。
冬はウールとカシミアの比率が上がります。カシミアは肌に直接触れる場面でも快適で、ニットだけでなくコート、マフラーにも展開されます。同じカシミアでもゲージや原毛のグレードによって耐久性が変わるため、毛玉のできにくさや復元力で見極めるとよいでしょう。シャツはコットンのオックスフォードが軸になります。
コットン特有の張りがカシミアやウールのニットと重ねても崩れにくく、季節をまたいで軸になる一枚です。落ち着いた色柄が前提の装いのため、華やかさを求める場面ではやや物足りなく感じられるかもしれません。
色のパレットは、ベージュ、キャメル、ネイビー、オフホワイト、ボトルグリーン、ボルドーといった中間色〜深い色が中心です。鮮やかな原色や蛍光色はほぼ使わず、彩度を落としたトーンで揃えると、ワードローブ全体の互換性が高まります。柄物は無地のなかにストライプ、ヘリンボーン、グレンチェック、千鳥格子をスパイス的に混ぜる程度がバランスを取りやすい配分です。
テクスチャーの掛け合わせも重要な要素です。同じベージュ系でも、リネンのざらつき、コットンの平滑さ、カシミアの起毛感、スエードのしっとりした表面では光の反射がまったく違います。色を絞った装いでも、素材の表情差が複数あることで、立体感のある見え方になります。逆に色のばらつきが多い装いでは、テクスチャーまで揃えにくく、結果として落ち着きを欠く印象につながりやすい点に注意したいところです。
素材と色を整えるだけで、同じシルエットでも見え方は明確に変わります。買い足しのときは「素材の名前で説明できるか」を一つの基準にすると、衝動買いを抑えやすくなります。
ブランドの選び方 — Ralph Lauren / Brunello Cucinelli / The Row
ブランドは、価格帯や哲学が幅広く分かれるカテゴリです。象徴的な存在として挙がるのは、Ralph Lauren、Brunello Cucinelli、The Rowの3つで、それぞれ立ち位置が異なります。
Ralph Laurenは、北米東海岸の旧家のイメージを最も分かりやすく現代に翻訳したブランドです。Polo Ralph Laurenのラインは比較的入手しやすく、古着市場でも玉数が多いため、最初の一着を探すには取り掛かりやすい選択肢です。チノパンツ、オックスフォードシャツ、ケーブルニットなど、定番の完成度が高いことに定評があります。
Brunello Cucinelliは、イタリア・ソロメオを拠点とするブランドで、カシミアの取り扱いに強みを持ちます。価格帯は高めですが、ニットの落ち感や色出しに独自性があり、ラグジュアリーでありながら派手さを抑えた佇まいがオールドマネー文脈で頻繁に引用されます。
The Rowはオルセン姉妹が手がける米国ブランドで、無駄を削ぎ落としたミニマルな仕立てを軸にしています。ロゴはほぼ用いず、シルエットと素材だけで価値を伝える姿勢が、近年の「静かな高級」志向と強く共鳴しました。Loro Piana、Hermèsのライフスタイルラインなども同じ系譜で語られることが多い存在です。
とはいえ、これらのブランドだけが正解ではありません。ユニクロやMargaret Howell、Aquascutum、J.Press、Brooks Brothers、Drake’sといった価格帯の異なる選択肢を組み合わせるほうが、現実的なワードローブとして機能します。古着で年代物のラルフローレンを探し、デニムだけは新品の定番モデルを足す——そうした構成も十分にスタイルとして成立します。
メンズの定番アイテム全般のリストはメンズ必須アイテムのまとめに整理しています。あわせて参照すると、ブランド選びの当たりがつけやすくなります。
シーンとライフスタイル — ヨット・テニス・乗馬
オールドマネースタイルが面白いのは、特定のスポーツや余暇文化と結びついた服が多いことです。ヨットでのデッキシューズ、テニスでの白いポロとプリーツスカート、乗馬のジョッパーズやハッキングジャケットなど、それぞれの起源を持つアイテムが日常着として吸収されてきました。
テニスは特に取り入れやすい題材で、白を基調にしたポロ、プリーツスカート、ケーブルニットのVネックといった組み合わせは、コートに出なくても夏の街着として機能します。スコートやテニススカートを普段のワードローブに混ぜるだけで、清潔感のあるアクセントになります。
ヨット由来のものとしては、デッキシューズ、ボートネックのカットソー、ネイビーのダブルブレストブレザーが代表的です。乗馬まわりではジョッパーズ、ライディングブーツ、ハッキングジャケットなどが挙げられますが、これらは普段着に直訳するよりも、シルエットや色の参照点として捉えるほうが扱いやすいでしょう。
重要なのは、スポーツの真似事をすることではなく、それぞれの服に染み込んでいる「機能から生まれた美しさ」を借りる視点です。デッキシューズの滑りにくいソール、テニスウェアの動きやすさ、乗馬服の腰回りの構造——機能性に裏打ちされた服は、流行から離れても残り続けます。
編集部の見立て — 「さりげなさ」を学ぶ
オールドマネースタイルを取り入れるうえで最も難しいのは、「ロゴで説明しない」という前提を引き受けることです。SNSで分かりやすく差別化されるアイテムを身につけたくなる場面でも、サイズ・素材・手入れの三点に意識を向けるほうが、結果としてこのスタイルに近づきます。
編集部としては、まずワードローブの「色のばらつき」を点検することをおすすめします。ベージュ、ネイビー、オフホワイト、キャメル、ボトルグリーンといった中間色のなかから3〜4色を軸に決めて、それ以外の彩度の高い服を一旦オフローテーションに回すだけで、コーディネートの説得力は大きく変わります。
次に、靴とニットの素材を一段引き上げる投資をすると、費用対効果が高い印象です。ローファーとカシミアのクルーネックが揃うだけで、シンプルな白シャツとデニムの組み合わせがまったく違って見えます。古着で年代物のラルフローレンを足す、リネンのシャツを夏用に一枚追加する——そうした段階的な更新が、無理のない取り入れ方になります。
そして最後に、これは「他人より上に立つための制服」ではないという感覚を保つこと。さりげなさを身に着ける過程そのものを楽しめるかどうかが、このスタイルを長く続けられるかの分岐点になります。
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