Li-Ning(リーニン)は、1990年に中国・北京で創業したスポーツアパレルブランドです。名前の由来である創業者・李寧(リー・ニン)は、1984年ロサンゼルス五輪の体操競技で活躍した元中国代表選手です。旧版の記事には、李寧の生年月日を「1963年9月8日」とする記述がありましたが、中国語圏の複数の権威ある百科事典・報道を確認したところ、正しくは「1963年3月10日」でした。なお、既存のguz_brand側の記録は生年月日を「1963年」とのみ記載し、月日までは踏み込んでいなかったため、この誤りは本文側だけのものです。同様に、ロサンゼルス五輪での金メダル種目を「床・つり輪・跳馬」と紹介していた記述も、実際には「床・鞍馬・つり輪」が正しく、跳馬は銀メダルの種目です。NBA選手の契約歴についても、旧版が挙げていたKlay Thompsonは実際には競合ブランドAnta(安踏)の契約選手であり、Devin Bookerとの契約も確認できませんでした。本稿ではこうした点を一次情報で確認し直しながら、Li-Ningの歩みと現在地をお伝えします。
創業者・李寧という体操選手と、1990年の創業経緯
李寧は1963年3月10日、中国広西チワン族自治区柳州市に生まれました。1980年に中国代表チームへ選出され、1982年12月、ザグレブで開催された第6回体操ワールドカップでは、男子の全7種目のうち跳馬・鞍馬・つり輪・自由体操・鉄棒・個人総合の6種目で優勝し、7つの金メダルのうち6つを一人で持ち帰るという記録を打ち立てました。この活躍から「体操王子」と呼ばれるようになったと、中国語圏の複数の資料は伝えています。
1984年、米国ロサンゼルスで開催された第23回オリンピック競技大会では、床・鞍馬・つり輪の3種目で金メダルを獲得し、団体総合と跳馬で銀メダル、個人総合で銅メダルを獲得しました。合計6個のメダルという成績は、当時のオリンピック体操競技で歴代最多クラスの記録として語られています。旧版の記事は「床・つり輪・跳馬の3種目で金メダル」としていましたが、跳馬は実際には銀メダルの種目で、金メダルの3種目目は鞍馬でした。1988年のソウル五輪を最後に、李寧は現役競技生活を引退しています。
引退後、李寧は1989年に広東省の飲料メーカー健力宝(ジェンリバオ)グループに入社しました。健力宝が1,600万人民元を出資する形で1990年、広東省三水県で「李寧」ブランドのスポーツ用品事業を興し、自らゼネラルマネージャーに就いています。当時の中国では、外資系や国営企業以外の民間発スポーツブランドという存在自体がほとんど例のない試みで、飲料事業を本業とする健力宝が畑違いのアパレル事業に出資したという組み合わせも、当時としては異色の取り組みでした。ブランドの認知を一気に押し上げたのが、同年8月に開催された北京アジア大会(第11回)です。李寧ブランドのスポーツウェアが、聖火リレーのランナー用ウェア、中国代表選手団の表彰式用ウェア、内外プレスの取材用ウェアとして採用され、アジア大会の聖火とともに全国へブランド名が広がったと伝えられています。旧版の記事は「聖火リレー公式衣装の契約獲得」という表現でこの経緯を紹介していましたが、健力宝グループとの資本関係についての言及がなく、Li-Ningが健力宝の出資を受けた合弁事業として出発したという背景が欠けていました。
1994年には事業が独立法人化され、Li-Ning Company Limitedとして再編されました。2004年6月28日、香港証券取引所に新規株式公開を果たし、1株2.15香港ドルでの公開により、中国大陸のスポーツ用品企業として初めて香港に上場した企業になったと伝えられています。旧版の記事にあった「2004年にシンガポール証券取引所へ上場し、2009年に香港証券取引所にも上場した」という記述については、複数の一次情報を確認したかぎりシンガポール上場の裏付けが見当たらず、本稿では採用していません。確認できたのは、2004年の香港単独上場という経緯だけです。
もう一つ、李寧個人の記録として欠かせないのが、2008年北京オリンピック開会式での聖火点火です。ワイヤーで吊られた李寧が、国家体育場(鳥の巣)の屋根の縁を走るように空中を移動し、聖火台の点火装置に炎を灯すという演出は、北京五輪開会式を象徴する場面の一つとして国内外で報じられました。競技者として国を代表した経験を持つ人物が、企業経営者としての顔とは別に、開会式という国家的なイベントの主役に選ばれたという点でも、李寧という人物の特別な位置づけがうかがえます。同社のIR(インベスターリレーションズ)公式ページによれば、李寧は1999年にも世界スポーツ記者協会(AIPS)から「20世紀の優秀選手」の一人として選出されており、現役時代の実績は競技引退から10年以上を経ても国際的に評価され続けていたことがわかります。
なお、既存のguz_brand側の記録は生年月日を「1963年」とのみ記載し、月日までは踏み込んでいなかったため、この誤りは本文側だけのものです。
ブランド戦略の転換 — China Li-Ningと国潮ムーブメント
Li-Ningは2002年、「一切皆有可能(Anything is Possible)」というスローガンを掲げ、中国国内でNikeやAdidasに対抗するブランドとしての認知を築いていきました。しかし2010年、大規模なリブランディングに踏み切り、ロゴとスローガンを「让改变发生(Make the Change)」に一新したところ、既存顧客からの支持を失う一方で新規顧客の開拓にも苦戦し、在庫過多と業績悪化という深刻な経営危機に陥りました。この苦境を受けて、李寧自身が2015年3月に代理CEOとして経営の最前線に復帰し、2019年9月には共同CEOに就任、現在は執行主席(会長)兼共同CEOとして経営の立て直しを主導する体制が続いています。
この再建の過程で決定的な転機となったのが、2018年2月7日、米国ニューヨーク・ファッションウィークで開催された「Tmall China Day」でのランウェイショーです。Alibaba傘下のTmallが後援するこの合同ショーケースで、Li-Ningは「悟道(Wu Dao)」と名付けたコレクションを発表しました。漢字ロゴの刺繍や中国の伝統色をあしらったスポーツウェアはたちまち話題を呼び、この出来事が中国国内で「国潮(グオチャオ)」と呼ばれる、自国ブランドを誇りとして支持する消費トレンドの起点の一つになったとされます。
同年6月21日には、フランス・パリでもパリ・ファッションウィーク・メンズの舞台に立ち、「中国李寧」を掲げたコレクションで2019年春夏シーズンのウェアを発表しました。旧版の記事は「2019年6月に初のパリ単独ショーを開催した」としていましたが、実際にパリで最初にランウェイを披露したのは2018年6月で、そこで発表されたのは2019年春夏コレクションでした。2019年6月時点では、すでに次の2020年春夏シーズンの発表に進んでおり、デザイナーStefano Pilatiとのコラボレーションなど、パリでの発表を毎シーズン継続する体制に入っています。中国発のスポーツ用品ブランドがパリ・ファッションウィークの単独ショーを継続的に開催するという事例は、当時の中国スポーツ用品業界において先駆的な取り組みとして紹介されています。
この国際展開と並行して、Li-Ningは2025年1月、中国オリンピック委員会と代表選手団に対する2025年から2028年までの公式スポーツウェアパートナーに選ばれたと発表されています。中国国内での公式スポンサーシップという足場を固めつつ、海外では欧米のセレクトショップSSENSEやEnd Clothingなどでの取扱いも進めており、国内の公式認知と海外のストリート・ファッション文脈での認知という、二つの軸を同時に育ててきた歩みが見えてきます。
業績の面では、2025年12月期の年間収益が前年比3.2%増の295.98億人民元だったと、同社の決算発表資料をもとにした中国語圏の経済メディアが報じています。一方で純利益は29.36億人民元にとどまり、4期連続の減益という状況も続いています。中国国内の販売拠点数は2025年12月末時点で7,609店(李寧本体ブランドとLi-Ning YOUNGの合計)とされ、前年から24店の増加にとどまるなど、店舗網の拡大がすでに緩やかなペースに入っていることもうかがえます。国内市場では、Anta(安踏)、特步(Xtep)、361度といった同業他社との競争が激しく、Nikeやadidasという海外ブランドとの競争に加えて、国内同業との顧客争いも同時に抱えているというのが、Li-Ningの現在地だといえます。
代表アイテムと意匠、NBA選手との契約史
Li-Ningのバスケットボール事業を語るうえで欠かせないのが、元NBA選手Dwyane Wade(ドウェイン・ウェイド)との関係です。Wadeは2012年、それまで契約していたJordan Brandを離れてLi-Ningと契約し、自身の名を冠したシグネチャーライン「Way of Wade(韦德之道)」を展開してきました。2018年には北京での発表イベントで、Wadeが「Way of Wade 7」の発売にあわせて、Li-Ningとの契約を生涯契約(ライフタイムディール)へ更新したことが報じられています。
現在契約が確認できている現役NBA選手としては、2017年に5年契約を結んだCJ McCollum(2021年にシグネチャーシューズ「Li-Ning CJ1」を発売)、2020年11月に契約したJimmy Butler(2024年8月にシグネチャーシューズ「Li-Ning JB3」を発売)、そしてD’Angelo Russellが挙げられます。さらに2026年6月、Golden State WarriorsのStephen Curryが、それまで13年間契約していたUnder Armourとの関係を2025年11月に解消したのち、Li-Ningと10年・報道によれば総額4億米ドル規模とされる契約を結んだと複数の米メディアが報じました。この契約には、バスケットボール用品にとどまらず、Curry自身のブランド「Curry Brand」の展開権や、米国と中国国内での直営店展開、ゴルフ用品ラインまで含まれるとされており、Li-Ningにとって過去最大規模のグローバル契約になったとみられます。旧版の記事が挙げていたKlay Thompsonについては、2017年以降Anta(安踏)と契約している選手であり、Li-Ningとの契約は確認できませんでした。同様にDevin Bookerについても、Li-Ningとの契約を裏付ける情報は見当たりませんでした。両選手の名前は本稿では採用していません。
ファッション面での顔となっているのが、俳優・歌手の肖戦(シャオ・ジャン)です。2021年3月にLi-Ningの運動潮流(スポーツ・ストリート)製品のアンバサダーとして契約し、2025年3月にはブランド初かつ唯一の「全球代言人(グローバルアンバサダー)」に昇格したと中国のマーケティング関連メディアが報じています。中国李寧ラインの漢字ロゴや、伝統色を配したトラックジャケットなど、若年層に向けたストリート寄りの意匠は、こうしたアンバサダー起用とあわせて展開されてきました。
意匠面では、漢字の「李寧」ロゴと英字の「Li-Ning」ロゴの併用、中国の伝統色である赤と黄を基調にしたナショナルチームカラー、そして「悟道」シリーズに見られる書道の筆致を思わせるグラフィックが特徴です。バスケットボールシューズだけでなく、ランニングシューズやバドミントン用ラケットなど、李寧自身の競技経験とは異なる分野の用品も幅広く手がけており、総合スポーツ用品ブランドとしての側面と、China Li-Ningのようなファッション寄りのラインという二つの顔を併せ持っている点が、このブランドの独自性だといえます。
どんな人に似合うブランドか
Li-Ningが似合うのは、中国発のスポーツブランドが持つ独自の意匠を、Nikeやadidasとは違う選択肢として楽しみたい人です。漢字ロゴや赤黄を基調にしたトラックスーツは、それ単体で存在感のある一着になるため、シンプルなコーディネートのなかに一点投入するだけでも印象を変えやすいアイテムです。バスケットボールシューズに関心がある人にとっては、Dwyane WadeやJimmy Butlerのシグネチャーラインを通じて、欧米メジャーブランドとは異なるデザイン言語に触れられるという楽しみ方もあります。
一方で、ロゴやカラーリングの主張が強いぶん、控えめな装いを好む人にはやや個性が強く映るかもしれません。その場合は、China Li-Ningのようなファッション性の高いラインよりも、無地に近いトレーニングウェアやシンプルなランニングシューズから試してみると、ブランドとの距離感がつかみやすくなります。中国の消費文化やスポーツビジネスの文脈に関心がある人にとっては、単なる一着としてだけでなく、国潮ムーブメントという時代背景ごと楽しめるブランドだといえます。バスケットボールカルチャーが好きな人にとっても、欧米メジャーブランドの選手層とは重ならないラインナップを追いかけるという、独自の楽しみ方が成立するブランドです。
中古市場でのLi-Ningの位置づけ
中古・古着市場でのLi-Ningは、大きく二つの軸で流通しています。一つは、2018年の国際的な躍進以前、中国国内向けに展開されていた1990年代から2000年代のスポーツウェアで、当時のロゴデザインや当時の中国国内向けタグを持つ個体は、国潮ムーブメント以前の資料的な価値も込みで扱われる傾向があります。もう一つは、2018年以降のChina Li-Ningラインや Way of Wade、Jimmy Butlerのシグネチャーシューズなど、国際的な知名度を得てからの製品群です。旧版の記事にあった具体的な中古価格帯(円単位の金額)については、裏付けとなる一次情報が確認できなかったため、本稿では採用していません。
タグやディテールを見分ける際は、英語表記の「Li-Ning」と漢字表記の「李寧」が併記されているのがLi-Ningらしい特徴です。李寧公司は公式サイトで防偽コード(認証番号)を照会できる仕組みを設けているとされており、正規品には靴底やタグにこの認証番号が記載されています。フリマアプリや個人間取引で購入する場合は、こうした認証番号の有無や、縫製・ロゴの精度を確認できる販売元を選ぶと、真贋を見極める材料が増えます。サイズ表記については、中国国内向け商品では身長基準の中国式サイズ(165、170、175といった数字)が使われることがあり、国際向けのXSからXXLという表記と混在しているため、購入前に実寸を確認することをおすすめします。
なお、Li-Ningは2022年3月、米国税関当局から北朝鮮の労働力を使用している疑いを理由に、全製品の輸入を差し止められたことがあります。同社はこの疑いについて、自社のサプライヤー管理のなかで強制労働の事例は確認されていないとして否定していますが、国際展開を進めるブランドが実際にこうした規制上の摘発を受けた事例として、押さえておく価値のある出来事です。中古で流通する個体そのものにはこの一件は直接関係しませんが、Li-Ningの国際的な立ち位置を理解する材料の一つとして触れておきます。
年代を見分ける手がかりとしては、ロゴの変遷が参考になります。2002年の「一切皆有可能」期に定着したロゴと、2010年の大規模リブランディングで一新されたロゴ、そして2018年以降のChina Li-Ningラインで使われる漢字主体のグラフィックとでは、意匠の方向性が明確に異なります。2010年前後の一新されたロゴを使ったアイテムは、ブランドとしては業績不振の時期にあたるため流通量自体が少なく、逆に2018年以降の漢字ロゴ入りアイテムは国潮ムーブメントの盛り上がりとともに国内外で人気が高まった時期の製品にあたります。古着として探す際は、こうしたロゴの世代とセットでタグの表記を確認すると、製造時期の見当がつけやすくなります。
よくある疑問
李寧のロサンゼルス五輪「3冠」という表現は正しいですか
金メダルの数としては正しく、1984年ロサンゼルス五輪の体操競技で床・鞍馬・つり輪の3種目を制しています。ただし旧版の記事にあった「床・つり輪・跳馬」という種目の組み合わせは誤りで、正しい金メダル種目は床・鞍馬・つり輪です。跳馬では銀メダル、個人総合では銅メダルを獲得し、合計6個のメダルを持ち帰っています。
Li-NingとAnta(安踏)はどう違いますか
いずれも中国発のスポーツ用品大手ですが、契約選手の系列が異なります。旧版の記事はKlay ThompsonをLi-Ningの契約選手として紹介していましたが、Thompsonは2017年からAntaと契約している選手です。Li-Ning側の現役契約選手としては、CJ McCollum、Jimmy Butler、D’Angelo Russell、そして2026年に契約したStephen Curryが確認できています。ブランドとしての立ち位置は近いものの、契約選手のラインナップは別々に築かれています。
中古でLi-Ningを選ぶときに注意すべき点はありますか
まず、英字と漢字の併記や、公式サイトで照会できる防偽コードの有無を確認すると、真贋を見極める材料が増えます。また、2018年の国際展開以前の中国国内向け製品と、China Li-Ningのような国際展開後の製品とでは、デザインの方向性やタグの表記が異なるため、どちらの時代のものを求めているのかを最初に整理しておくと、値付けの妥当性も判断しやすくなります。サイズは中国式表記と国際式表記が混在するため、実寸の確認も欠かさないようにしてください。ロゴの世代(2002年からの旧ロゴ、2010年の一新後、2018年以降の漢字ロゴ)を手がかりに製造時期のおおよその見当をつけておくと、販売元への質問もしやすくなります。
まとめ
Li-Ningの歩みを一次情報で確認し直すと、1984年ロサンゼルス五輪で6個のメダルを持ち帰った体操選手・李寧が、1990年に健力宝グループの支援を受けてブランドを興し、2004年の香港上場、2010年前後の苦しいリブランディング、そして2018年の「悟道」コレクションを起点にした国潮ムーブメントの中心的存在への転換という、起伏の大きい歴史をたどってきたことが見えてきます。旧版の記事にあった生年月日や五輪の金メダル種目の誤り、シンガポール上場という事実に基づかない記述、Klay ThompsonやDevin Bookerとの契約という誤情報は、一次情報を確認するかぎり事実と異なっていたため、本稿であらためて整理しました。Dwyane WadeからStephen Curryまで続くバスケットボール選手との契約史や、肖戦を起用したファッション面での展開も含めて、Li-Ningという中国発ブランドの現在地を踏まえたうえで、中古でのアイテム選びに役立ててみてください。











