設計思想 — ニューヨークで生まれ、ストックホルムで育った「静かなる贅沢」
Totêmeは、2014年に米国ニューヨークでElin Kling(1983年スウェーデン・マリエスタード生まれ、元ファッションブロガー)とKarl Lindman(1981年スウェーデン・ブロンマ生まれ、アートディレクター)の夫妻が共同で立ち上げたハウスです。2016年に拠点をスウェーデンのストックホルムへ移し、以後は北欧発のハウスとして広く知られるようになりました。国際都市ニューヨークで生まれ、北欧という出自の地で育て直されたという二段階の成り立ちは、Totêmeという名前が背負う「複数の土地をまたぐ物語」をそのまま体現しています。
ハウスを象徴するのは、北欧ならではの静かな感性を欧米の高級婦人服の世界に持ち込む世界観です。Elin Klingは2007年に開設したブログ「Style by Kling」でスウェーデンを代表するファッションブロガーとなり、2011年にはブロガーとして初めてH&Mとのカプセルコレクションを手がけた人物です。夫のKarl Lindmanは、ニューヨークの広告代理店Baron & Baronでシニア・アートディレクターを務めた後、Interview Magazineのデザインディレクターを歴任した人物で、Totêmeのロゴとヴィジュアル・アイデンティティの構築も手がけています。二人はニューヨークで働くなかで共通の友人を通じて出会い、ハウスを立ち上げたのと同じ2014年に結婚しました。
ハウスの服作りは、北欧ミニマリストの姿勢として欧米とアジアの愛好家のあいだで認知されています。控えめな単色(ベージュ、黒、白、グレー、深い茶色)、目立たないが質の高い仕立て、長く着られる飽きの来ない意匠――こうした姿勢は、2020年代に欧米とアジアの服飾業界誌で広まった「Quiet Luxury」(静かなる贅沢)という思潮の代表的な事例として、繰り返し参照されてきました。大きなロゴや派手な装飾で「誰のものか」を主張するのではなく、素材と仕立ての質そのものでハウスの価値を語るという姿勢が創業以来一貫して貫かれています。
ハウスの代名詞は、襟元に長いスカーフのような布を縫い付けたウールのジャケット「Toteme Scarf Jacket」です。2021年ごろに登場し、2022年秋のシーズンには大きな話題を呼ぶ看板商品に育ちました。ほかにも柔らかな革質のレザージャケット、大きなシルエットのデニムなどが、欧米とアジアの女性愛好家のあいだで「北欧の上質な日常着」の代表として支持を集めてきました。
創業から現代まで — Totêmeの歩み
1981-2014 二人がニューヨークで出会うまで
Elin Klingは1983年にスウェーデンのマリエスタードで生まれました。早くから服飾の世界への関心を持ち、2007年に開設したブログ「Style by Kling」でスウェーデンを代表するファッションブロガーとなります。2011年には、ブロガーとして初めてH&Mとのカプセルコレクションを手がけ、北欧の服飾業界の内側で商業的な現場の経験も積みました。ブログという個人発信の場から出発し、企業とのコラボレーションを経て自身のハウスを持つに至った歩みは、2000年代後半から2010年代のインターネット発の服飾キャリアの一つの典型例といえます。
Karl Lindmanは1981年にスウェーデン・ストックホルム郊外のブロンマで生まれました。ニューヨークの広告代理店Baron & Baronでシニア・アートディレクターを務め、その後Interview Magazineのデザインディレクターを歴任しています。広告とカルチャー誌の双方でヴィジュアル表現の現場を経験したことが、後にTotêmeのロゴやブランディング全般を自ら手がける土台になったと考えられます。二人はニューヨークで働くなかで共通の友人を通じて出会い、それぞれの立場で服飾とビジュアル表現の業界の内側を知り尽くした二人となりました。
2014 創業 — ニューヨークで始まる
2014年、Elin KlingとKarl Lindman夫妻は米国ニューヨークでTotêmeを共同で立ち上げ、同じ年に結婚しました。ハウス名「Totême」は、フランス語の「Totem」(図像、象徴)から派生した造語で、創業者の姓を使わずに新しいハウスを始める姿勢を象徴する命名でした。個人の名前ではなく普遍的な象徴を意味する言葉を選んだ点にも、二人が目指した「誰か個人を主役にしない」というハウスの姿勢が表れています。
創業当初、Elinがデザインの中心を担い、Karlがロゴとヴィジュアル・アイデンティティを含む経営とブランディングの中心を担うかたちで、小さな体制からゆっくりと事業を広げていきます。ニューヨークという国際的な発信地で立ち上げながらも、二人のルーツである北欧の感性を軸に据えるという方向性は、創業当初から変わっていません。2016年には拠点をスウェーデンのストックホルムへ移し、北欧発のハウスとしての方向性を明確にしました。2019年には、ストックホルムに最初の直営旗艦店をオープンしています。
2021-2022 Toteme Scarf Jacketの誕生と世界的な認知
2021年ごろ、夫妻がデザインした「Toteme Scarf Jacket」(襟元に長いスカーフのような布を縫い付けたウールのジャケット)が登場します。翌2022年秋のシーズンには、SNSと業界誌の双方で大きな話題を呼び、ハウスの代名詞となる看板商品に育ちました。
ジャケットの襟元に長い布を縫い付けるという発想は、欧米の伝統的な高級婦人服の世界では珍しい意匠でした。襟元の布は、首にゆるく巻いてマフラーとして使うこともできれば、垂らしたままで装飾として残すこともできる汎用性が支持され、夫妻の名前を世界中に知らしめる契機となりました。街中でのスナップ写真やSNSでの着回し投稿が拡散のきっかけとなった点は、広告に多くを頼らずとも一着の意匠力だけで認知を広げられることを証明した事例でもあります。
2020年代のQuiet Luxury期と急成長
2020年代に入ると、Totêmeは欧米とアジアの服飾業界誌で「Quiet Luxury」(静かなる贅沢)という思潮の代表的な事例として繰り返し取り上げられる存在となります。大きなロゴや派手な意匠から離れ、控えめな単色と上質な仕立てで一目で本物と分かる服を求める動きのなかで、Totêmeは代表的なハウスの一つとして参照されるようになりました。派手さを競わないという方針そのものが、皮肉にも最も注目される潮流の中心に押し上げられたという逆説も、Totêmeを語る上で興味深い点です。
商業的な広がりに関しても、2020年代のTotêmeは北欧の中堅の独立系ハウスのなかで急成長を遂げる事例となりました。ストックホルム本店に加え、米国ニューヨーク、英国ロンドン、フランスのパリ、東京の主要な販売店で存在感を確保し、Elin KlingとKarl Lindman夫妻による独立経営を続けています。婦人服の領域で確立してきた「静かなる贅沢」の世界観をどこまで別の客層に広げられるかが、次の成長段階の焦点になっています。近年はメンズウェアへの参入も発表されており、デビューコレクションの発表が予定されるなど、ハウスの領域はさらに広がりつつあります。
Totêmeを作った人々
Elin Kling(共同創業者、デザインの中心、2014-現在)
1983年スウェーデン・マリエスタード生まれ。2007年開設のブログ「Style by Kling」でスウェーデンを代表するファッションブロガーとなり、2011年にはブロガーとして初めてH&Mとのカプセルコレクションを手がけました。2014年に夫のKarl Lindmanとともにニューヨークで Totême を共同で立ち上げ、デザインの中心を担う人物としてハウスを率いてきました。ブログ発の発信者から自身のハウスの創業者へという歩みは、北欧の服飾業界のなかでも早い時期の事例のひとつとして位置づけられます。
Karl Lindman(共同創業者、経営とブランディングの中心、2014-現在)
1981年スウェーデン・ブロンマ生まれ。ニューヨークの広告代理店Baron & Baronでシニア・アートディレクターを務めた後、Interview Magazineのデザインディレクターを歴任した人物です。2014年に妻のElin Klingとともにニューヨークで Totême を共同で立ち上げ、ロゴとヴィジュアル・アイデンティティの構築を含む経営の中心を担う立場でハウスを支えてきました。広告とカルチャー誌の現場で培った審美眼が、Totêmeの控えめながら統一感のあるヴィジュアル言語に直結しています。
代表アイテム — Totêmeの語彙
Toteme Scarf Jacket(スカーフ・ジャケット)
ハウスの代名詞となった代表作です。襟元に長いスカーフのような布を縫い付けたウールのジャケットで、首にゆるく巻いてマフラーとして使うこともできれば、垂らしたままで装飾として残すこともできます。2021年ごろの登場から2022年にかけて一気に認知が広がった、比較的新しい看板商品です。
革のオーバーサイズジャケット
ハウスの代表的な革製品です。大きなシルエットの肩と袖、柔らかな革質、控えめな金具の意匠で、欧米とアジアの女性愛好家のあいだで支持を集める一着です。Scarf Jacketが冬の代名詞だとすれば、こちらは春や秋も含めて季節を問わず着られるハウスのもう一つの顔として位置づけられています。
中古市場でのTotême
Totêmeの中古市場は、複数の軸で形成されています。Toteme Scarf Jacket、革のオーバーサイズジャケット、大きなシルエットのデニム――これらが日本国内でも比較的近年から取引されています。
日本国内ではフリマアプリ、メルカリ、Vestiaire Collective、ZOZO USED、それから東京・青山や表参道の古着店での流通が中心です。なかでもScarf Jacketは特に人気が高く、中古市場でも高値で取引される傾向があります。カラーバリエーションやウール素材の風合いによっても好みが分かれやすいため、状態の良い個体は見つけ次第検討するのがおすすめです。相場は出品状況によって大きく変動するため、購入時は個別に最新価格を確認することをおすすめします。
まとめ — 二人の出会いから、ストックホルムでのQuiet Luxuryの代表格まで
Totêmeの歩みをまとめると、次のような節目に整理できます。1983年生まれのElin Klingと1981年生まれのKarl Lindmanは、ニューヨークで働くなかで出会い、2014年に結婚すると同時に同地でTotêmeを共同で立ち上げました。2016年に拠点をストックホルムへ移し、2019年に最初の旗艦店をオープン。2021年ごろに登場したToteme Scarf Jacketが2022年に世界的な看板商品へ育ち、2020年代の「Quiet Luxury」思潮のなかで代表的なハウスの一つとして参照されるようになりました。ブロガーとアートディレクターという、いずれもデザイナー教育を正面から受けたわけではない二人が育てたハウスという出自も、Totêmeを語るうえで欠かせない背景です。
中古市場ではToteme Scarf Jacketと革のオーバーサイズジャケットを軸に日本国内でも取引され、北欧発の現代を代表する高級婦人服ハウスとして着実に支持を集めてきました。Totêmeの歩みは、「ニューヨークで出会った二人が、ストックホルムを拠点に据え直し、一枚のスカーフ・ジャケットで世界的な認知を勝ち取った事例」として、今後も参照され続けるはずです。











