Luke Meier というデザイナー
Luke Meier はカナダ系米国人のデザイナーで、1985 年生まれです。父はスイス系カナダ人、母は英国系カナダ人で、トロントで育ちました。ファッションへの関心は高校時代から始まり、当時のスケートカルチャー、ヒップホップカルチャー、そしてミニマルなドイツ語圏のメンズウェア (Helmut Lang や Jil Sander) の三軸が、後年のデザイン哲学の源泉となります。
トロント大学を経てニューヨークでファッション業界に入り、Supreme のニューヨーク店舗で経験を積みました。
軍服モチーフを現代の技術素材で再構築する設計思想が明確で、複数国の素材を組み合わせる調達体制によるつくりの丁寧さも支持されています。ミリタリー由来の無骨さが前面に出るため、装いの幅を広げたい方には選ぶアイテムが限られる場合があります。
軍服モチーフを現代の技術素材で再構築する設計思想が明確で、複数国の素材を組み合わせる調達体制によるつくりの丁寧さも支持されています。
Supreme での 5 年間 (2006-2011)
Luke Meier は 2006 年から 2011 年まで、Supreme のクリエイティブディレクター兼デザイナーとして在籍しました。Supreme は 1994 年に James Jebbia がニューヨークで創業したスケートウェアブランドで、Meier の在籍期間中に NIKE、Vans、Comme des Garçons、Levi’s、Stüssy などの主要メゾン・コラボを次々と実現し、ストリートウェアとラグジュアリーモードの距離を縮める歴史的な役割を果たしました。
Meier 自身はインタビューで、Supreme での 5 年間を「ストリート文化と高品質生産の両立を、業界レベルで実証するための長期実験」 と述懐しています。この経験が、後の OAMC におけるクラフトマンシップと現代ストリート感覚の融合の出発点となりました。
2013 年 OAMC 共同創業と「Over All Master Cloth」 の意味
2013 年、Luke Meier は Supreme 退任後、ビジネスパートナーの Arnaud Faeh と共同で自身ブランド OAMC をスイスで立ち上げました。Faeh は Carhartt WIP の初代クリエイティブディレクターとして 2006 年から在籍し、欧州ストリート文化におけるワークウェアの再構築を主導してきた人物です。
Meier がクリエイティブディレクター、Faeh がブランド全体のビジネス運営を担う役割分担で、Lausanne 郊外を拠点に運営が始まりました。
ブランド名「OAMC」 は「Over All Master Cloth」 の頭文字で、米国 1920 年代から 1950 年代のワークウェアブランドが製品タグに記した、職人による上質生地への敬意を表す表現を引用したものです。Meier と Faeh はこの表現を選んだ理由を「労働者の制服の素材として培われたテキスタイルの伝統に、デザイナー個人ではなくブランド全体を仕えさせる姿勢を表したかった」 と説明してきました。
Lucie Meier との結婚と協業関係
Luke Meier はデザイナー Lucie Meier (旧姓 Lucie Bohuon) と結婚しています。Lucie Meier はパリ生まれのフランス人デザイナーで、Christian Dior、Maison Margiela、Balenciaga での実務経験を経て、Luke と協業する関係を築いてきました。
2017 年、Lucie と Luke の二人は Jil Sander の共同クリエイティブディレクターに就任しました。Jil Sander 本人が引退後、複数の後継者を経て、二人が共同主任を担う体制が確立しました。OAMC は Luke 個人のブランドとして並行運営される独立した事業体ですが、Lucie が素材選定やコンセプト議論で関与する事例があり、二人のデザイン感性が緩やかに混ざり合う関係が継続しています。
軍服モチーフと技術素材の融合
OAMC の核となるデザイン哲学は、軍服モチーフと現代の技術素材の融合です。Meier 自身は元米軍兵士の遺族との対話や、戦後の世界各国の軍払い下げ作業着のリサーチを定期的に実施しており、軍服が持つ機能性・耐久性・無装飾性を、ラグジュアリーモードの素材で再構築する手法を継続的に磨いてきました。
中軸となるアイテムは、Field Jacket (米軍 M-65 の現代解釈)、Smock Coat (英国軍 SAS 系)、Cargo Pants (テクニカルナイロン仕様)、Crewneck Sweater (重量感のあるメリノウールニット)、そして Combat Boot (ヴィブラム・ソール採用) です。素材は、イタリアの高密度ナイロン (Sportek)、ポルトガルの heavy weight cotton、英国の Harris Tweed、日本の岡山産デニム、スイス国内のメリノウールニットを組み合わせる独自分散調達体制を取ります。
季節別の発表サイクルと商業面の哲学
OAMC は年 2 シーズン (SS と AW) の標準的な発表サイクルを採用していますが、Pre-collection と Resort の追加展開は意図的に拒否しています。Meier はインタビューで「コレクション数を増やすことは、デザイナーが時間をかけてリサーチする可能性を縮める。私たちは速度ではなく深さを選んだ」 と説明しています。
同一アイテムを複数シーズンにわたって継続生産する手法を取り、顧客が長期的な視点で OAMC のワードローブを構築できる選択肢を提供しています。これは OUR LEGACY や Camiel Fortgens と並んで、ヨーロッパ独立系メンズブランドの「Slow Fashion」 アプローチの実装例として参照されてきました。
主要店舗と顧客層
OAMC は直営店を持たず、世界各地のセレクトショップとオンライン EC で取扱されています。SSENSE (グローバル EC)、MATCHESFASHION (グローバル EC)、Mr Porter (英国 EC)、Dover Street Market (ロンドン、東京、北京、LA、Paris、Ginza)、Browns (ロンドン)、Antonioli (ミラノ)、L’Eclaireur (パリ)、End Clothing (ニューカッスル)、Hatch (大阪)、Edition (青山)、Maidens Shop (恵比寿) などが主要取扱店です。
顧客層は、衣服を哲学的・思想的アプローチで選ぶコレクター層、建築家、編集者、芸術監督、そして「Quiet Luxury」 を主軸とする現代メンズ顧客に分かれます。
著名な着用者
公の場で OAMC を着用した著名人には、Brad Pitt、Frank Ocean、Kanye West (Ye)、Justin Bieber、Tyler, The Creator、Lewis Hamilton、Pharrell Williams、A$AP Rocky、Drake、 Kendrick Lamar などが含まれます。
特に Brad Pitt が 2020 年代の映画プロモーションや公の場で OAMC を継続的に着用したことで、ブランドの認知が映画業界とハリウッド分野にも広がりました。
ヴィンテージ古着市場での OAMC の見方
OAMC は中古市場で安定した流通量を持ち、特に Field Jacket と Smock Coat はコレクター層の継続的な需要があります。中古価格帯は、Field Jacket が 40,000 円から 110,000 円台、Smock Coat が 50,000 円から 130,000 円台、Cargo Pants が 25,000 円から 60,000 円台、Crewneck Sweater が 20,000 円から 50,000 円台、Combat Boot が 35,000 円から 85,000 円台で取引される事例が観察されます。
タグは「OAMC」 ロゴ刺繍と、生産国表示が「Made in Italy」 「Made in Portugal」 「Made in Japan」 の三つに分散します。コレクター層は 2013 年から 2017 年までの創業初期 Made in Italy ロットを特に高評価する傾向があり、二次流通でも他年代より一段高い価格が付きます。
サイズ表記は欧州式 (44 から 52 のメンズ) で、軍服モチーフのため概ね表記通りのサイズで問題ありませんが、Field Jacket は意図的にゆったり目のフィット感を持つ場合があります。
Jil Sander 期 (2017-) との並列運営
Luke Meier と Lucie Meier が Jil Sander のクリエイティブディレクターを 2017 年に就任して以降、Meier の二つのブランドは並列運営される独自構造を維持してきました。Jil Sander 側がドイツ系ミニマリズムを継承するレディース・メンズ両方のラグジュアリーモードを担い、OAMC 側が Luke 個人の軍服モチーフとストリート文化への関心を継続する役割分担です。
業界批評では、この並列運営を「クリエイティブディレクターが自身ブランドを並行運営する珍しい事例」 として高く評価しており、Jonathan Anderson (Loewe と JW Anderson)、Phoebe Philo (Céline と Phoebe Philo) と並ぶ近代モード史の重要な事例として記録されつつあります。
同時代の「Quiet Luxury」 メンズと OAMC の位置づけ
同時代で並べやすい Quiet Luxury 系メンズブランドは、Lemaire (Christophe Lemaire と Sarah-Linh Tran)、Margaret Howell (英国)、The Row (Olsen 姉妹のメンズライン)、Loro Piana (LVMH 傘下のイタリアン・ラグジュアリー)、そして Auralee (岩井良太の日本ブランド) です。
これらと並べたときの OAMC の独自性は、Luke Meier の Supreme 出身という背景が常に作品に潜む点と、軍服モチーフを明確に主題化する姿勢にあります。他の Quiet Luxury 系がカジュアル化したミニマリズムを掲げる中で、OAMC は「過去の労働者と軍人の制服から学ぶ」 という具体的な対象を持つことで、独自の歴史的厚みを保ち続けています。










