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Marine Serre(マリーン・セル)— 三日月ロゴとRegeneratedが刻む、パリ発フューチャーウェアの軌跡

ヴィンテージデニムの縫い目をクローズアップした写真(Marine Serreの「Regenerated」ラインが古いデニムなどを組み替えて作るリサイクル素材の手法のイメージ)

Marine Serre(マリーン・セル)は、2017年にパリで自身の名を冠したブランドを立ち上げたフランスのデザイナーです。三日月をモチーフにしたロゴと、デッドストックやヴィンテージ素材を組み替えて作る「Regenerated」ラインで知られ、同じ2017年にはLVMH Prizeを史上最年少の25歳で受賞しています。旧版の記事には、2016年にHyères Festivalのグランプリを受賞したという記述や、ベルギー・アントワープのRoyal Academy of Fine Artsで修士課程を修めたという記述がありましたが、いずれも一次情報では裏付けが取れませんでした。本稿では、こうした点を一つずつ確認し直しながら、彼女の歩みとブランドの現在地をお伝えします。

生い立ちとテニスから服飾への転身

Marine Serreは1991年12月13日、フランス南西部コレーズ県のブリーヴ・ラ・ガイヤルド近郊の小さな集落に生まれました。少女時代の彼女が打ち込んでいたのはファッションではなくテニスで、複数のインタビュー記事によれば競技選手として本格的なレベルに達していたとされています。プロを志すほどの道のりでしたが、怪我や事故によってその道が絶たれ、進路を服飾へと切り替えることになりました。

この競技出身という経歴は、単なる若いころのエピソードにとどまりません。AnOther誌のインタビューでは、身体を機能的に守り、動かすための装いという発想が今も設計の根底にあると語られており、ライクラ素材で身体のラインを浮かび上がらせるボディスーツや、運動性能を意識したシルエットには、テニス選手時代に培った身体感覚がそのまま息づいていると見ることができます。ファッション教育を受ける前に、まず自分の身体をどう動かすかという視点を持っていたことが、のちのFuturewearという発想につながっていったとも考えられます。

服飾に転じたのちは、リモージュ近郊にあるシテ・スコレール・レイモン・ローウィという学校で応用美術を学んでいます。旧版の記事にあった「1991年フランス生まれ」という記述自体は正しかったものの、その後の教育歴については実情と異なる部分が含まれていたため、次の章で改めて整理します。

旧版の記事にあった「1991年フランス生まれ」という記述自体は正しかったものの、その後の教育歴については実情と異なる部分が含まれていたため、次の章で改めて整理します。

服飾を学んだ道のり — マルセイユとラ・カンブル

Marine Serreはまずマルセイユで2年間、服飾の技術系の課程に進みました。その後、ベルギー・ブリュッセルの名門校ラ・カンブル・モード(La Cambre Mode(s))に進学し、5年間のプログラムを経て2016年6月に最優秀の成績で卒業しています。旧版にあった「2009年から2014年までラ・カンブルに5年在籍し、続けて2014年から2015年にかけてアントワープ王立芸術アカデミーの修士課程で学んだ」という記述は、複数の一次情報を確認したかぎり出典が見当たりませんでした。ラ・カンブルでの5年間の在籍と2016年卒業という時期は複数の媒体で一致していますが、アントワープでの修士課程についてはどの資料にも記載がなく、本稿では採用していません。

卒業制作として発表したコレクションは、パリのセレクトショップThe Broken Armや、Dover Street Marketといった目の肥えたバイヤーの関心を集めました。若手デザイナーが在学中や卒業直後に大きな賞を総なめにする例は少なくありませんが、Marine Serreの場合はここからの1年で一気に業界の注目度を高めていくことになります。

2016年の卒業から2017年の飛躍 — Hyères、ANDAM、そしてLVMH Prize

2017年、Marine Serreの卒業コレクション「Radical Call For Love」は、南仏の登竜門であるHyères国際ファッション・写真フェスティバルの最終選考に残り、ギャラリー・ラファイエットが提供する副賞を獲得しました。旧版の記事では「2016年4月にHyères Festivalのグランプリを25歳で受賞した」と具体的に記述していましたが、この点は年も賞の内容も事実と異なります。フランスの複数のファッションメディアによれば、彼女はHyèresの最終選考に残ったファイナリストの一人であり、全体のグランプリではなくギャラリー・ラファイエットの副賞を得たにとどまります。同じ2017年にはANDAM賞の候補にも挙がっていましたが、最終的により大きな結果を残したのはLVMH Prizeでした。

2017年6月、フランスの複合ラグジュアリーグループLVMHが主催するLVMH Prize for Young Fashion Designersの発表がパリのフォンダシオン・ルイ・ヴィトンで行われ、およそ1,200件の応募のなかから最終候補まで残った数名のなかで、Marine Serreが25歳でグランプリを受賞しました。これは同賞の歴代受賞者のなかでも最年少での受賞と伝えられています。副賞は30万ユーロの支援金と、LVMHグループの専門家チームによる1年間のメンタリングです。審査員にはKarl Lagerfeld、Maria Grazia Chiuri、Nicolas Ghesquière、Jonathan Anderson、当時Célineを率いていたPhoebe Philoといった顔ぶれが名を連ね、授賞式の壇上でトロフィーを手渡したのはRihannaでした。

Balenciagaでの経験と自身ブランドの立ち上げ

ラ・カンブル在学中から卒業前後にかけて、Marine SerreはSarah Burton率いるAlexander McQueen、Maison Margiela、Raf Simons在任時のDiorといったメゾンで研修を経験しました。さらに卒業コレクションが評判を呼んだことをきっかけに、当時Balenciagaの指揮を執っていたDemna Gvasaliaの目に留まり、有期契約のデザイナーとしてパリのアトリエに約1年間籍を置いています。旧版の記事は、この時期の経験先を「Maison Margiela、Alexander McQueen、Balenciaga」とまとめて紹介するにとどまっていましたが、Diorでの経験や、Balenciagaでの立場が研修ではなく契約デザイナーだった点は補って理解しておきたいところです。

そして2017年、LVMH Prizeの受賞と同じ年に、Marine Serreは自身の名を冠したブランドをパリで正式に立ち上げました。ランウェイデビューは翌2018年2月のパリ・コレクションで、卒業からわずか2年足らずでの独立ブランド始動という、かなり駆け足のキャリアだったことがわかります。

独立を支えた追加の支援 — 2020年のANDAM Family Fund Award

LVMH Prize以降も、Marine Serreは資金面での外部支援を段階的に受けてきました。新型コロナウイルスの影響で世界のファッション業界が打撃を受けた2020年、フランスの若手支援制度ANDAMは例年のコンペティション形式を見送り、過去の受賞者・最終候補者のなかから支援先を選ぶ特別編の「ANDAM Family Fund Award」を実施しています。この特別編でMarine Serreは20万ユーロの支援金を得ており、同時期にはY/Projectを率いるGlenn Martensも同じ枠組みで15万ユーロの支援を受けました。パンデミック下で卸売網が打撃を受けるなかでも、若手デザイナーとして独立経営を継続するための下支えになったと位置づけられる出来事です。

三日月のロゴと「Futurewear」という哲学

Marine Serreを一目で見分けられるようにしているのが、三日月をモチーフにした連続柄のロゴです。このモチーフは2017年の「Radical Call For Love」で初めて登場しました。このコレクション名自体、2015年のパリ同時多発テロと2016年のブリュッセル同時テロを受けたものだったと伝えられており、三日月は再生や再出発を象徴する図像として選ばれています。三日月は特定の文化に限定されない古い象徴である一方、イスラム文化との結びつきが最も強い図像でもあり、Marine Serre自身はDazedのインタビューで「私たちにとって月とは、境界を越えること、混ざり合うこと、自由であることを信じる象徴であり、旗であり、言語であり、比喩でもある」と語っています。

ブランドが掲げるもう一つのキーワードが、彼女自身の造語である「Futurewear」です。これは気候変動や社会不安といった不確かな未来に対応するための機能性と、過去の技術や素材への敬意を組み合わせた考え方で、スポーツウェアに由来する身体に密着するシルエットと、リサイクル素材を組み合わせる手法の両方を貫く軸になっています。歴史を踏まえてこそ本当の意味での未来志向になれるという発想は、彼女がインタビューで繰り返し語ってきた考え方です。

「Regenerated」ライン — リサイクル素材を軸にした事業設計

Marine Serreを語るうえで欠かせないのが「Regenerated」ラインです。おおよそ2020年春夏コレクションのころから、各シーズンの最低でも半数程度をデッドストック生地やヴィンテージのシルクスカーフ、古いデニムなどを組み替えて作る手法へと切り替えてきました。年によって比率は変動しており、2022年秋冬コレクションでは再生素材が70%、認証済みのサステナブル素材が22%で、合わせて9割超が何らかの形でサステナブルな素材だったと報じられています。2025年秋冬ショーでは、アップサイクル製品が5割、残り5割は認証済みの再生繊維で構成されていたと伝えられました。デッドストック素材の調達と加工には70人を超えるスタッフが専従で携わっているとされ、単なるスローガンではなく実際の生産体制として根付いていることがうかがえます。

Regeneratedラインの服は、元になる古着やデッドストック生地が一点ずつ異なるため、同じ柄や配色の商品が基本的に存在しない一点物になります。この「二つと同じものがない」という性質は、量産型のファストファッションとは対極にある価値観として、業界誌でもたびたび取り上げられてきました。

代表的なアイテムと著名人の着用

ブランドの代名詞といえるのが、三日月柄をプリントしたストレッチ素材のボディスーツです。第二の皮膚のように身体に沿うシルエットが特徴で、BeyoncéはビジュアルアルバムBlack Is King(2020年)の複数のシーンでこのシリーズを着用し、2023年のRenaissance World Tourでもカスタムメイドの一着を発注したと報じられています。ほかにもKylie JennerやA$AP Rockyといった顔ぶれが私服として着用していることが確認できます。

もう一つ見逃せないのが、2020年2月のパリ・コレクションで発表されたフェイスカバーです。新型コロナウイルスへの警戒が世界的に高まり始めていたまさにそのタイミングで、三日月柄のマスクやバラクラバを含むコレクションを発表したことになり、結果としてOff-Whiteのマスクと並んで、その年のうちに最も話題になった「ファッションマスク」の一つに数えられることになりました。あらかじめコロナ禍を見越して企画されたわけではなく、あくまでブランドが従来から取り組んできた身体保護というテーマの延長線上にあった点も、当時の記事では合わせて紹介されています。

2020年代後半の動き — Under Armour、ルーヴル美術館、そして経営再建

2025年10月、Marine Serreはソウルの梨泰院・漢南洞エリアに、世界初となる路面単独旗艦店「Marine Serre Hannam House」を開業しました。韓国のファッションプラットフォームMusinsaと組み、イギリスのデザイン事務所Sybariteが手がけたこの店舗は、住宅のような佇まいを持たせた内装が特徴です。韓国は中国、日本、アメリカと並ぶブランドの主要市場の一つとされており、単独旗艦店の第一号にこの土地を選んだこと自体に、ブランドの戦略的な意図が読み取れます。

2026年に入ってからは、ルーヴル美術館とのコラボレーションカプセル「THE GRACE OF TIME」を発表しました。モナリザをモチーフにしたドレスは制作に420時間を要したと伝えられ、あわせてルーヴル美術館のショップに眠っていたお土産のTシャツやキーホルダーを裁断・再構成したアップサイクルの限定カプセルも展開しています。さらに2026年6月には、スポーツブランドUnder Armourとの初のコラボレーションカプセル「Marine」を発表しました。2000年代のUnder Armourのベースレイヤーをモチーフに、三日月ロゴとUAのロゴを組み合わせたプリントを配し、当時のスニーカー「UA Proto Speed II」を復刻するなど、創業30周年を迎えたUnder Armour側にとっても節目のコラボレーションとなりました。パリでは期間限定のポップアップも開かれました。

一方で、2026年7月にはMarine Serreの運営会社がフランスの裁判所の管理下で経営再建の手続きに入ったことが複数の業界メディアで報じられました。取引先からの支払い遅延や、アメリカを中心とした百貨店・卸売網の縮小、世界的な高級品需要の減速などが重なり、資金繰りが厳しくなったことが理由として挙げられています。創業からおよそ10年、従業員は50人規模とされるこの会社は、事業を継続しながら新たな出資者を探している段階です。ブランド側はクリエイティブな独自性と国際的な支持は損なわれていないとコメントしていますが、今後の展開がどうなるかは本稿の執筆時点では見通せません。中古市場でMarine Serreを探す読者にとっても、供給体制や正規の販売網が今後どう変化するかは、注視しておいて損のないポイントだといえるでしょう。

どんな人に似合うブランドか

Marine Serreが似合うのは、身体のラインを隠すよりも、あえて見せるシルエットを楽しみたい人です。三日月柄のボディスーツやレギンスは主張が強いアイテムなので、単体で着るというよりは、シンプルなコートやブレザーの下から覗かせるくらいの組み合わせのほうが、街着として取り入れやすくなります。サステナビリティという言葉を重く捉えすぎず、結果として一点物の服に袖を通すことになる、という気軽さで向き合える人にも向いているブランドだといえます。

逆に、毎シーズン同じ型番を安定して買い足したいタイプの人には、Regeneratedラインの一点物という性質はやや扱いにくく映るかもしれません。その場合は、比較的定番として展開されている三日月柄のジャージー素材のアイテムから試してみるのが現実的な入り口になります。三日月モチーフをあしらったアクセサリー類のように、価格・サイズ感ともに比較的取り入れやすい小物も展開されているため、まずは面積の小さいアイテムから試すという選び方も無理のない入り口になるでしょう。

中古市場でのMarine Serreの位置づけ

Marine Serreの中古流通を考えるうえで押さえておきたいのは、Regeneratedラインの服がそもそも量産されていない一点物として世に出ている、という点です。新品で店頭に並ぶ数自体が少ないため、フリマアプリや古着店、Vestiaire Collectiveのような海外の委託販売プラットフォームで見つかる個体は、ブランドが掲げる循環というコンセプトにもっとも近い形で服と出会う手段の一つだと捉えることもできます。

真贋を見極める際にまず確認したいのは、三日月ロゴのプリントや刺繍の精度です。ロゴは商標として保護されている図像でもあるため、輪郭のにじみや配置のずれが目立つ個体には注意が必要です。あわせて、ケアラベルの縫い付けや裏地の始末など、コレクションブランドらしい仕立ての丁寧さが感じられるかどうかも判断材料になります。三日月柄のジャージー素材のボディスーツやレギンスは比較的まとまった数が生産されてきたアイテムのため中古でも出会いやすい一方、Regeneratedラインの一点物のドレスやアウターは個体ごとに柄や生地の組み合わせが異なるぶん、極端に安い価格で「一点物のRegenerated」と称して出品されている場合は、購入前に販売元の実績や鑑定サービスの利用を検討したほうが安心です。

もう一つ意識しておきたいのが、フェイスマスクやバラクラバといった2020年前後に話題になったアイテムの扱いです。当時は世界的な需要の高まりを受けて類似デザインの模倣品も出回った経緯があるため、こうしたアイテムを中古で探す場合は、素材の質感やロゴの位置がシーズンごとの正規ラインナップと矛盾していないかを合わせて確認しておくと安心です。2026年に入ってからの経営再建のニュースを踏まえると、当面は正規の販売チャネルの動向も含めて情報を追いながら、中古での選択肢を検討していくのが現実的な向き合い方だといえるでしょう。

よくある疑問

Marine SerreはLVMH傘下のブランドですか

いいえ、Marine Serreは現在も独立して運営されているブランドです。2017年のLVMH Prize受賞は、LVMHグループが若手デザイナーに贈る支援金とメンタリングのプログラムであり、出資や株式取得を伴うものではありません。受賞歴があることと、資本関係があることは別の話として理解しておく必要があります。

三日月のロゴにはどういう意味が込められていますか

三日月は多くの文化や宗教に共通して見られる古い象徴ですが、なかでもイスラム文化との結びつきが強い図像です。Marine Serreは2015年のパリと2016年のブリュッセルで起きた同時多発テロを受けて発表したコレクションで、再生や再出発の象徴としてこのモチーフを採用しました。デザイナー自身は、境界を越えること、異なる文化が混ざり合うこと、自由であることを表す言語のような存在だと説明しています。

2026年の経営再建のニュースは、ブランドの終わりを意味しますか

そう断定できる段階ではありません。フランスの裁判所の管理下での再建手続きは、事業を続けながら資金繰りを立て直し、新たな出資者を探すための枠組みであり、ブランドとしての営業自体は継続しています。ただし、出資者探しがどのような結果になるかは本稿の執筆時点では未確定であり、今後の一次情報を追いかけていく必要があるテーマです。

まとめ

Marine Serreの歩みを振り返ると、テニス選手を志した少女がマルセイユとブリュッセルで服飾を学び直し、卒業からわずか1年でLVMH Prizeという大きな評価を得て、その年のうちに自身のブランドを立ち上げるという、かなり圧縮されたキャリアだったことが見えてきます。三日月のロゴとRegeneratedラインという二つの軸は、彼女がテロという社会的な出来事や気候変動への危機感といった、時代の空気を色濃く反映させながら育ててきたものです。2026年に入ってからはルーヴル美術館やUnder Armourとの協業で創造性を示す一方、経営面では再建の途上にあるという、光と影が同時に存在する局面を迎えています。中古でMarine Serreのアイテムを探すときは、こうした背景を踏まえたうえで、一点物としての価値やロゴの精度を丁寧に見極めながら、自分に合う一着を選んでみてください。

編集方針について — この記事は GUZ FASHION 編集部のIMPORT BRANDカテゴリの編集方針に沿って制作されています。

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