Bianca Saunders(ビアンカ・サンダース)は、2017年にロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)のメンズウェア修士課程を修了したのと同じ年に、ロンドンで自身の名を冠したブランドを立ち上げたデザイナーです。旧版の記事には「1990年代初頭生まれ」「2022年にLVMH Prizeファイナリスト」「ジャマイカ系移民第二世代」といった記述がありましたが、複数の一次情報を確認したところ、生年は1993年、LVMH Prizeファイナリストに選出されたのは2022年ではなく2021年、家族構成もロンドン生まれの両親を持つ世代であることが分かりました。既存のguz_brand側の記録は、ANDAM Awardの詳細や教育歴の一部を比較的正確に押さえていた一方で、キングストン大学在籍という重要な経歴が本文側には欠落していました。本稿ではこうした点を一つずつ確認し直しながら、Bianca Saundersの歩みと現在地をお伝えします。
創業者Bianca Saundersと創業経緯
Bianca Saundersは1993年、英国ロンドン南東部のカトフォード(Catford)で生まれました。フランス語圏メディアの記述や複数の英語圏インタビューによれば、彼女の家族はジャマイカにルーツを持つ大家族で、祖父母の世代がジャマイカから英国へ渡り、両親はともに英国生まれというカリブ系英国人の家庭です。6人きょうだいの一人として、両親と祖父母、親戚が身近にいるルイシャム(Lewisham)地区で育ちました。母親は美容師、父親は左官業を営んでおり、自営業者としての両親の働き方が、Biancaが自分のやりたいことに進む後押しになったと本人が語っています(現在は父親がブランドのビジネスマネージャーを務めています)。旧版の記事にあった「ジャマイカ系移民第二世代」という表現は、祖父母の代に移住し両親が英国生まれである点を踏まえると正確とは言えず、本稿では採用していません。
教育面では、まずラヴェンズボーン大学ロンドン(Ravensbourne University London)で応用美術のディプロマ課程を修了し、その後キングストン大学(Kingston University)でファッション・ガーメントデザインを学び2015年に卒業しました。旧版の本文はキングストン大学への言及を欠いていましたが、これは複数の一次情報で確認できる経歴です。続いてロイヤル・カレッジ・オブ・アートのメンズウェア修士課程に進み、2017年に修了しています。在学中にはGucciが支援するオンラインイベント「Guccifest」でコレクションを発表する機会も得ました。RCA修了と同じ2017年、Biancaは自身の名を冠したレーベルを正式に立ち上げ、ロンドンを拠点に活動を始めます。
創業当初のBiancaは、在学中から手がけていた黒人男性の身体性を主題にした作品づくりを、そのままブランドの出発点としました。家族写真やロンドンで育つカリブ系コミュニティの日常風景から着想を得るという制作姿勢はRCA在学中から続くもので、これが後年まで一貫する「自身のルーツを起点にコレクションを組み立てる」という方針の原型になっています。ブランド設立からわずか1年でBFCの支援を受けるに至った背景には、こうした個人的な物語性と、テーラリングの技術的な精度を両立させた作品づくりが評価された経緯があります。
ブランドとしての最初の大きな認知は2018年に訪れました。英国ファッション評議会(British Fashion Council、BFC)が新進デザイナーを選ぶ「ワン・トゥ・ウォッチ」にBianca Saundersが選出され、BFCのNEWGENプログラムの支援も受けるようになります。以降、ロンドン・ファッションウィーク・メンズで複数シーズンにわたり発表を重ね、2020年時点では4シーズン連続の出展という実績を積んでいました。同年、Bianca SaundersはForbes誌の「30 Under 30」(英国版、26歳の年)にも選出され、翌2020年代前半にかけて英国メンズウェアの新世代を代表する存在として評価を固めていきました。
在学中にはGucciが支援するオンラインイベント「Guccifest」でコレクションを発表する機会も得ました。
ブランド美学 — 黒人男性性と流動的シルエット
Bianca Saundersのデザインを貫くテーマは、黒人男性の身体とその周囲にまとわりつく固定観念を、テーラリングという手法を通じて問い直すことです。フランス語版Wikipediaや複数のインタビュー記事によれば、彼女のコレクションは「見慣れたものを見慣れないものにする(making the familiar unfamiliar)」という発想のもとに作られており、家族写真や1960年代の英国のルードボーイ・カルチャー、ジャマイカのダンスホール文化、ロンドンのガリー・クイーン(gully queen)と呼ばれるコミュニティといった、彼女自身のルーツに深く結びついた文脈を出発点として作品を組み立てる姿勢が一貫しています。
意匠面での特徴は、体にまとわりつくようなドレープと、生地をひねって縫い合わせる「ツイスト・シーミング」と呼ばれる独自のカッティング技法です。これによって、伝統的な男性服のシルエットを保ちながらも、着る人の体の動きに応じて布が絡みつくような、通常のテーラリングにはない緊張感を生み出す効果を狙っています。ジェンダーの境界を意識的に揺さぶる姿勢も特徴で、マスキュリンなシルエットのなかにフェミニンとされてきたディテールを取り込む一方、着用モデルには黒人男性を中心に据えるという方向性を貫いてきました。ブランド初期は男性のみを対象にした展開でしたが、その後ウィメンズのラインも手がけるようになり、対象を広げながらも中核となるテーマは変えないという姿勢を保ってきました。
こうした制作姿勢の根底には、黒人男性がまとう衣服が、しばしばステレオタイプ化されたイメージを通じてしか語られてこなかったという問題意識があります。Bianca Saundersのコレクションは、威圧的とも柔弱とも決めつけられない、揺らぎのある男性像を提示することを狙っており、テーラリングという伝統的で保守的なイメージの強い技法をあえて選び取ることで、その揺らぎをより際立たせる構成になっています。派手な装飾やロゴ主張に頼らず、カッティングそのものの操作で意味を語るという姿勢は、ブランドが一貫して評価されてきた理由の一つです。
この美学がもっとも広く評価されたのが2021年です。フランスの若手デザイナー支援制度ANDAM Award(1989年設立、Alexander McQueenやViktor & Rolfなど多くのデザイナーを支援してきた賞)のグランプリを、Bianca Saundersが受賞しました。賞金30万ユーロに加え、バレンシアガのCEOセドリック・シャルビによる1年間のメンタリング、Googleによるデジタル化支援、Swarovskiのプライベートショールーム利用、ギャラリー・ラファイエットでの販売計画支援などが付随する主要賞で、英国人デザイナーとして初、かつ黒人英国人デザイナーとして初のANDAM受賞という点でも大きく報じられました。同じ2021年には、応募約1,900件のなかから9人に絞られるLVMH Prize for Young Fashion Designersのファイナリストにも選ばれました(受賞はConner IvesとNensi Dojakaら同年のファイナリスト内の別デザイナーで、Bianca自身はファイナリスト止まり)。旧版の記事にあった「2022年LVMH Prizeファイナリスト」という記述は年が誤っており、正しくは2021年です。
ANDAM Award以降も評価は途切れることなく続いています。2023年には英国ファッション評議会が主催するThe Fashion Awardsで、新設カテゴリー「New Establishment Menswear」(ロイヤル・アルバート・ホールで開催)の初代受賞デザイナーの一人に選ばれ、同年のBusiness of Fashion誌「BoF 500」(世界のファッション業界を動かす人物リスト)にも名を連ねました。翌2024年には、英国ファッション評議会とGQ誌が共同で運営する「BFC/GQ Designer Fashion Fund」の受賞者に選出され、事業拡大のための賞金10万ポンドと、上級レベルのビジネスメンタリングを獲得しています。旧版の記事にはこうした2023年以降の動きへの言及が一切なく、本稿で新たに追加しました。
代表アイテム・意匠
Bianca Saundersを象徴するアイテムは、ゆったりとしたダブルブレストのテーラードジャケットと、幅広のトラウザーを組み合わせたセットアップです。肩まわりにゆとりを持たせながらも、袖やウエスト部分にツイスト・シーミングを加えることで、静止した状態でも布に動きを感じさせる仕立てになっているのが特徴です。シャツにおいても同様の手法が用いられ、通常のシャツのパターンをひねって再構成した「ロウ・バック・シャツ」のように、背面のカッティングだけで印象を大きく変えるデザインが繰り返し登場します。
ニットウェアもブランドの重要な柱で、ポロシャツやセーターにジャマイカのカラーやレゲエ文化を思わせるグラフィックをさりげなく落とし込んだアイテムが人気を集めてきました。近年はレザーのボンバージャケットやデニムアイテムも展開の幅を広げており、2024年から2025年にかけてのパリ・ファッションウィーク・メンズのシーズンでは、ポルトガルの製靴業界団体APICCAPSおよびVALUNIとの協業によるシューズの開発、多分野で活動するアーティストShanti Bellとの協働による舞台美術を伴うショー、William Blakeの作品に着想を得たテート美術館とのカプセルコレクションなど、単独のアイテム開発にとどまらないコラボレーションを重ねています。2026年7月にはクリエイティブエージェンシーThe Midnight Clubとの協業による2027年春夏コレクションの発表も予告されました。
発表の舞台にも変化が見られます。ブランド初期はロンドン・ファッションウィーク・メンズを主な発表の場としてきましたが、フランス・オートクチュール・モード連盟(FHCM)が公開しているコレクション履歴によれば、2024年6月の2025年春夏コレクション「The Hotel」以降、パリ・ファッションウィーク・メンズの公式カレンダーでコレクションを発表する体制に移行しています。2025年1月には2025年秋冬コレクション「Dichotomy」をパリで発表し、拘束と解放のあいだの緊張感をテーマにしたセットデザインが業界メディアで取り上げられました。ロンドンで育まれたブランドが、キャリアを重ねるにつれてパリの舞台に活動の軸足を広げていく過程は、Bianca Saundersというブランドの成長を測る一つの指標といえます。
どんな人に似合うか
Bianca Saundersが似合うのは、定番のテーラードジャケットに少し違和感のある動きを加えたい人です。オーバーサイズのダブルブレストジャケットは、それ単体で十分に存在感がありながら、ツイスト・シーミングという控えめな技巧によって「よく見ると普通ではない」という印象を与えるため、派手なロゴやカラーリングに頼らずに個性を出したい人との相性が良いブランドといえます。黒人男性の身体性というテーマを軸にしたブランドですが、ジェンダーの境界を意識的に揺さぶる意匠のため、シルエットの操作そのものに関心がある人であれば性別を問わず楽しめる作りになっています。
一方で、明確に体にフィットするクラシックなテーラリングを求める人には、Bianca Saundersのゆとりを持たせたシルエットはやや大きく映るかもしれません。その場合は、ニットのポロシャツやレザーの小物など、テーラードアイテムに比べて価格帯も控えめで、シルエットの操作が少ないアイテムから試してみると、ブランドの世界観に触れる入り口として扱いやすくなります。ロンドンのカリブ系コミュニティの文脈やダンスホール文化に関心がある人にとっては、単なる一着としてだけでなく、その背景にある物語ごと楽しめるブランドです。
新品での購入を考える場合は、公式サイトの取扱店舗一覧に掲載されているSSENSEやパリのギャラリー・ラファイエットが主な選択肢になります。国内の正規取扱店は限られているため、実店舗で試着してからサイズ感を確認したい人は、海外通販サイトのサイズガイドを事前にチェックしておくと失敗が少なくなります。オーバーサイズを基調にしたシルエットのため、普段の号数で選ぶと想定より大きく見える場合があり、サイズ表の実寸(着丈・身幅)を確認したうえで選ぶことをおすすめします。国内で正規店を探すよりも、海外通販や委託販売プラットフォームを軸に検討したほうが、実際に選べる型番の幅は広くなるでしょう。
中古市場での位置づけ
Bianca Saundersは量産型のブランドではなく、シーズンごとの生産数自体が限られていることもあり、日本国内の中古・古着市場での流通量は現時点でまだ多くありません。取り扱いはSSENSEやギャラリーラファイエットといった海外のセレクトショップ・百貨店が中心で、国内では正規取扱店が限られるため、状態の良い個体を探す場合はフリマアプリやVestiaire Collectiveのような海外の委託販売プラットフォーム、青山・原宿・代官山周辺のインポートセレクト系の古着店を横断的にチェックする必要があります。
タグやディテールを見分ける際は、ダブルブレストジャケットの袖口やウエスト部分に施されたツイスト・シーミングの縫製精度が一つの目安になります。生地をひねって縫い合わせる工程は通常のテーラリングよりも手間がかかるため、縫い目のねじれが不自然にゆるんでいたり、生地の張りが均一でなかったりする場合は、経年による型崩れの可能性を考慮したほうがよいでしょう。ANDAM Awardを受賞した2021年前後の作品は、ブランドの知名度が国際的に高まった節目にあたるため、この時期以降のシーズンのアーカイブピースは今後さらに評価が定まっていく可能性があります。中古で購入する際は、出品者が明記しているシーズン名やコレクション名を手がかりに、公式サイトのルックブックやFHCM(フランス・オートクチュール・モード連盟)のアーカイブと照らし合わせて確認すると安心です。
日本国内での知名度という観点では、Bianca Saundersはまだ黒人系メンズウェアやロンドンの新進デザイナーに詳しい層を中心とした認知にとどまっており、一般的な古着チェーン店の店頭で頻繁に見かけるブランドではありません。むしろ、インポートセレクト系の古着店やオンラインの委託販売サービスのなかで、ロンドンやパリの新進デザイナーズブランドを専門的に扱う出品者から見つかるケースが中心になります。2023年のNew Establishment Menswear受賞や2024年のBFC/GQ Designer Fashion Fund受賞といった直近の評価の高まりを踏まえると、今後は国内での認知や流通量も緩やかに広がっていく可能性がありますが、現時点ではまだ黎明期にあるブランドとして捉えておくのが実情に近いでしょう。
よくある疑問
Bianca Saundersは何年に創業したブランドですか
2017年です。ロイヤル・カレッジ・オブ・アートのメンズウェア修士課程を修了したのと同じ年に、ロンドンで自身の名を冠したレーベルを立ち上げました。旧版の記事にあった「創業から9年」という表現は2026年時点ではおおむね妥当な年数ですが、本稿では創業年そのものを明記する形に整理しています。
ANDAM AwardとLVMH Prizeはどちらも受賞したのですか
受賞したのはANDAM Awardのみです。2021年にANDAM Awardのグランプリを受賞していますが、同じ2021年に選出されたLVMH Prize for Young Fashion Designersについては、9人のファイナリストの一人にとどまり、最終的な受賞者ではありません。旧版の記事にあった「2022年LVMH Prizeファイナリスト」という年の記述は誤りで、正しくは2021年です。
中古でBianca Saundersを選ぶときに注意すべき点はありますか
まず、ダブルブレストジャケットやシャツに施されたツイスト・シーミングの縫製状態を確認することをおすすめします。生地をひねって縫い合わせる技法は通常のテーラリングよりも複雑なため、着用による型崩れが縫い目の緩みとして表れやすい部分です。あわせて、出品されているシーズン名やコレクション名を公式のルックブックと照らし合わせ、国内での流通量がまだ多くないブランドであることを踏まえて、信頼できる出品者や委託販売プラットフォームを選ぶと安心です。
Bianca Saundersはどこの国のブランドですか
英国、ロンドン発のブランドです。デザイナー本人はロンドン南東部のカトフォードで生まれ育ち、ブランドの拠点も一貫してロンドンに置かれています。一方で、2024年以降のコレクション発表の舞台は、ロンドン・ファッションウィーク・メンズからフランス・パリのパリ・ファッションウィーク・メンズへと移っており、拠点は英国、発表の場はフランスという体制になっている点は押さえておくとよいでしょう。ジャマイカにルーツを持つ家庭で育った背景から、コレクションの意匠面ではカリブ海文化の影響が色濃く反映されていますが、ブランド自体の国籍としては英国発という位置づけになります。中古で個体の製造時期を確認する際も、ロンドン発表期(2018年から2024年前半まで)とパリ発表期(2024年後半以降)という区分けを一つの目安にすると、コレクションの背景を把握しやすくなります。
まとめ
Bianca Saundersの歩みを一次情報で確認し直すと、1993年にロンドン・カトフォードでカリブ系英国人の家庭に生まれたBiancaが、ラヴェンズボーン大学とキングストン大学、そしてロイヤル・カレッジ・オブ・アートのメンズウェア修士課程で学び、2017年の修了と同時に自身のブランドを立ち上げ、2018年のBFC「ワン・トゥ・ウォッチ」選出とNEWGENの支援を経て、2021年にANDAM Awardのグランプリを受賞し、同年LVMH Prizeのファイナリストにも選ばれるという歩みをたどってきたことが見えてきます。その後も2023年のNew Establishment Menswear受賞、2024年のBFC/GQ Designer Fashion Fund受賞と評価を重ね、発表の舞台もロンドンからパリへと広げてきました。旧版の記事にあった生年や「ジャマイカ系移民第二世代」という家族構成の説明、LVMH Prizeの年に関する誤りは、一次情報を確認するかぎり事実と異なっていたため、本稿であらためて整理しました。黒人男性の身体性と流動的なシルエットを軸にしたツイスト・シーミングの技法、そしてポルトガルの製靴団体やアーティストとのコラボレーションといった近年の広がりも含めて、Bianca Saundersというブランドの現在地を踏まえたうえで、中古でのアイテム選びに役立ててみてください。











