設計思想 — ベニス・ビーチの太陽の下、米国西海岸のノスタルジー
ERLは、2018年にEli Russell Linnetz(1990年米国ロサンゼルス生まれ、映画監督・写真家・デザイナー)が米国カリフォルニア州のベニス・ビーチで立ち上げた、比較的新しいハウスです。ハウス名「ERL」は創業者の名前「Eli Russell Linnetz」の頭文字を取った略称で、創業者個人の世界観をそのまま押し出す命名でした。
ハウスを象徴するのは、米国西海岸のベニス・ビーチの太陽の下で育った創業者のノスタルジーです。Eli Russell Linnetzは若いころからベニス・ビーチで暮らし、1970年代から1980年代の米国西海岸のサーフィンとスケートの文化、ロサンゼルスの映画的な視覚表現に深く触れる青年期を過ごしました。ERLは、こうした米国西海岸の記憶を現代の紳士服の意匠として組み立てる手法で、欧米の現代を代表する若手の独立系ハウスの一つとして8年にわたって築き上げられてきました。
Eli Russell Linnetzのもう一つの顔は、俳優・映画監督としての歩みです。10歳のときにディズニー映画『ラマになった王様』でキャラクター「ティポ」の声優を務め、15歳で劇作家David Mametに自ら連絡を取り、その舞台・映画・テレビ作品の制作を手伝う機会を得ました。その後USC School of Cinematic Artsで脚本を学び、Kanye West(現Ye)の楽曲「Famous」「Fade」のミュージックビデオ、Lady Gagaのラスベガス公演「Enigma」、Kanye WestのSaint Pablo Tour、複数回のSaturday Night Liveのパフォーマンス映像などを手がける映像作家としての地位を確立しました。創業時のERLは、Eliの映像作家としての視覚言語を、紳士服のハウスの意匠に翻訳する手法で立ち上げられています。
経歴の節目として、2022年にはフランスの高級服飾ハウスDior(LVMH傘下)のKim Jones(1979年英国ロンドン生まれ、当時のDior紳士服の指揮者)が、ERLとの共作「Dior x ERL」を発表しました。同年、Eli Russell LinnetzはLVMH Prizeのファイナリストに選出され、Karl Lagerfeld特別賞も受けています。2021年にはGQ誌のBreakthrough Designer of the Yearを受賞し、ERLは2021-22年に米国メトロポリタン美術館の展覧会「In America: A Lexicon of Fashion」にも出品されました。創業からわずか数年で名だたる美術館の展示に選ばれたことは、ハウスの世界観が単なる一過性のトレンドではないことを示す評価となりました。
代表的な意匠は、米国西海岸のサーフィンとスケートの文化を翻訳したスウェットとパーカー、極端に大きなシルエットのスポーツウェア、スパンコールを多用したジャケット、ハート型のロゴを施したスウェット、ロサンゼルスの映画的な視覚表現を翻訳したプリントの作品などです。
創業から現代まで — ERLの歩み
1990-2018 Eli Russell Linnetzの子役時代からKanye Westとの映像制作まで
Eli Russell Linnetzは1990年に米国ロサンゼルスで生まれました。10歳のとき、ディズニーのアニメーション映画『ラマになった王様』(2000年)でキャラクター「ティポ」の声優を務めています。15歳のとき、劇作家David Mametに自ら連絡を取り、その舞台・映画・テレビ作品の制作に携わる機会を得ました。子役として業界に入り、10代のうちから著名な劇作家のもとで現場経験を積むという歩みは、後年の映像作家としてのキャリアの土台になったと考えられます。
その後Eliは、USC School of Cinematic Arts(米国カリフォルニア州ロサンゼルスの映画教育機関)で脚本を学びました。2010年代前半からKanye West(現Ye)の楽曲「Famous」「Fade」のミュージックビデオを手がけ、Lady Gagaのラスベガス公演「Enigma」、Kanye WestのSaint Pablo Tour、複数回のSaturday Night Liveのパフォーマンス映像なども制作し、若手の映像作家としての地位を2010年代後半までに確立しました。MTV Video Music AwardsのBest Director部門にもノミネートされています。音楽映像・ライブ演出・テレビ番組という複数の映像領域を横断してきた経験が、のちにERLの服作りにおけるビジュアル・ストーリーテリングの厚みにつながっています。
2018 創業 — ベニス・ビーチで自身のハウスを立ち上げる
2018年、Eli Russell Linnetzはベニス・ビーチで自身のハウスERLを立ち上げました。創業時の事業はベニス・ビーチの小さなアトリエで、Eli本人が手がけた紳士服から始まる小規模な営みでした。
創業時のERLの意匠は、1970-1980年代の米国西海岸のサーフィンとスケートの文化、ロサンゼルスの映画的な視覚表現を、現代の紳士服の世界観として組み立てる手法で、欧米の業界誌で徐々に取り上げられる存在となっていきました。既存の服飾教育を経ていない映像作家という出自だからこそ生まれた、意匠への独自の距離の取り方も注目されました。2021年にはGQ誌のBreakthrough Designer of the Yearを受賞し、ERLは2021-22年に米国メトロポリタン美術館の展覧会「In America: A Lexicon of Fashion」にも出品されています。
2022 Dior x ERLの共作とLVMH Prize
2022年5月、フランスの高級服飾ハウスDiorのKim Jones(当時のDior紳士服の指揮者)が、ERLとの共作コレクションを米国ロサンゼルス・ベニス・ビーチのウィンドワード・アヴェニューで発表しました。
「California Couture」と呼ばれたこのコレクションは、スケートウェアとテーラリング、90年代のカルチャーを混ぜ合わせた内容で、ピンクのコーデュロイやシアーなモヘアのニット、波をかたどったクリスタルと貝殻をあしらった刺繍、モール糸をあしらったニットなどが披露されました。ビーチ沿いのウィンドワード・アヴェニューに組まれた特設ランウェイの背後には、波がうねるようなデザインの濃紺の壁が立てられ、ネオンのヤシの木の看板が掲げられました。Kid Cudi、Winnie Harlow、Brooklyn Beckham、Tommy Hilfigerらがゲストとして参加しています。Kim Jonesは、Diorを異なる角度から見つめ直してもらうためにLinnetzを起用したと語っており、パリの高級服飾ハウスがロサンゼルスの海辺で発表会を開くという組み合わせ自体が異例の出来事として報じられました。同年、Eli Russell LinnetzはLVMH Prizeのファイナリストにも選出され、Karl Lagerfeld特別賞を受けています。
2020年代の継続的な拡大と独立経営
2020年代に入ってからもERLは、一貫してEli本人による独立経営を続けています。欧米の主要な服飾持株会社(LVMHやKeringなど)の傘下に入らず、米国の現代を代表する若手の独立系デザイナーの一人としての立ち位置を一貫して保ってきました。
ハウスは紳士服の事業を中心としつつ、Dior x ERL(2022)のような大手メゾンとの共作を通じて、映像作家としてのキャリアと服作りを地続きに展開する独自の事業の構造を続けています。ミュージックビデオやライブ演出の現場で培った物語る力を、シーズンごとのコレクション発表そのものに持ち込むという姿勢も、ハウスの一貫した特徴です。
ERLを作った人々
Eli Russell Linnetz(創業者、2018-現在)
1990年米国ロサンゼルス生まれ、映画監督・写真家・デザイナーです。子役として『ラマになった王様』(2000年)の声優を務め、15歳で劇作家David Mametのもとで映画・舞台制作を経験した後、USC School of Cinematic Artsで脚本を学びました。子役から劇作家の助手、映画教育、そして映像作家へという回り道は、既存の服飾教育を経ていないデザイナーとしての独自性にもつながっています。Kanye Westの「Famous」「Fade」のミュージックビデオやLady Gagaのラスベガス公演などを手がける映像作家として活動し、2018年にベニス・ビーチでERLを立ち上げています。2021年GQ誌Breakthrough Designer of the Year、2022年Dior x ERLの共作とLVMH Prizeファイナリスト・Karl Lagerfeld特別賞受賞など、映像と服作りの両輪でキャリアを築いてきた人物です。
代表アイテム — ERLの語彙
米国西海岸のサーフィンとスケートの文化を翻訳したスウェットとパーカー
ハウスの代名詞となった作品です。米国西海岸のサーフィンとスケートの文化を翻訳したスウェットとパーカーで、極めて大きなシルエットと米国の「Surf Punk」的な視覚を組み合わせています。ヴィンテージのスウェットのような色落ちやダメージ加工を意図的に施したものも多く、着古された感触そのものを新品の状態から作り込む手法が特徴です。
スパンコールを多用したジャケット
ハウスのもう一つの代表作です。スパンコールを多用したジャケットで、ロサンゼルスの映画的な視覚表現を翻訳した、欧米の若手愛好家のあいだで参照される一着です。舞台衣装や音楽映像の演出を手がけてきた創業者らしい、日常着の枠を超えた華やかさが際立つラインでもあります。
中古市場でのERL
ERLの中古市場は、複数の軸で形成されています。米国西海岸のスウェットとパーカー、スパンコールのジャケット、Dior x ERLの共作アイテム――これらが日本国内でも少しずつ取引の裾野を広げています。
日本国内ではフリマアプリ、メルカリ、Vestiaire Collective、ZOZO USED、それから原宿・渋谷の古着店での流通が中心です。Dior x ERLの共作アイテムは、Diorという高級服飾ハウスと若手インディペンデントブランドの一度きりの共作という性格上、生産数自体が限られており特に希少性が高く、中古市場でも高値で取引される傾向があります。相場は出品状況によって大きく変動するため、購入時は個別に最新価格を確認することをおすすめします。
まとめ — 子役から映像作家、そしてベニス・ビーチのハウスまで
ERLの歩みをまとめると、次のような節目に整理できます。1990年にロサンゼルスで生まれたEli Russell Linnetzは、子役・David Mametの助手・USC School of Cinematic Artsでの脚本学習という異色の経歴を経て、Kanye WestやLady Gagaの映像制作を手がける映像作家となりました。2018年にベニス・ビーチで自身のハウスERLを立ち上げ、2021年のGQ賞、2021-22年のメトロポリタン美術館出品を経て、2022年にはDior x ERLの共作とLVMH Prizeファイナリスト・Karl Lagerfeld特別賞という節目を迎えています。
中古市場では米国西海岸のスウェットとパーカー、Dior x ERLの共作アイテムを軸に日本国内でも取引され、映像と服作りという二つの領域を横断する米国の現代を代表するハウスとして支持を集めてきました。ERLの歩みは、「子役から映像作家を経てハウスを立ち上げた人物が、ベニス・ビーチのノスタルジーという個人的な原風景を一つの世界観にまで育て上げた事例」として、今後も参照され続けるはずです。











