Post Archive Faction(PAF)は、2018年に韓国・ソウルでDongjoon LimとSookyo Jeongの二人によって設立されたメンズウェアブランドです。旧版の記事には、Sookyo Jeongについて「Head Designer」で「建築(architecture)の専門的背景を持つ」という記述がありましたが、複数の一次情報を確認したところ、Jeongの学歴は建国大学校(コンクク大学校)での衣裳デザイン(コスチュームデザイン)専攻であり、建築を学んだとする記述の裏付けは見当たりませんでした。また、ブランド内部の記録(guz_brand)ではJeongの役職を「チーフ・プロダクト・オフィサー」としていましたが、2021年のHypebeast Korea版インタビューでは「デザインと生産を統括する責任者」という肩書きで紹介されており、いずれの記述も部分的にしか実態を捉えていませんでした。さらに旧版が「2022年に開始した」としていたスイスのランニングブランドOnとの協業についても、実際には2021年頃にパリで縁がつながり、2023年6月に最初のコレクションが披露されるという、より段階的な経緯があったことが確認できました。本稿ではこうした点を一つずつ確認し直しながら、PAFというブランドの現在地をお伝えします。
Dongjoon LimとSookyo Jeong、二人の創業者
PAFの共同創業者であるDongjoon Lim(イム・ドンジュン)は、1992年にソウルで生まれ、弘益(ホンイク)大学校で産業デザイン(インダストリアルデザイン)を専攻しました。弘益大学校は韓国国内でも有数の芸術・デザイン系大学として知られ、Lim自身、大学で学んだ人体測定や機能性最適化といった工業デザインの方法論を、後にファッションの設計思想へ転用していくことになります。旧版の記事は在学期間を「2012年から2016年」と具体的に記していましたが、この年数の範囲を裏付ける一次情報は確認できなかったため、本稿では専攻内容のみを事実として扱っています。
卒業後のLimは、IT企業やファッション関連の現場でプロダクトデザインに関わる仕事をこなしながら、海外の美術学校への留学資金を貯めるという、当初はごく実務的な動機からアパレルの製造・販売を始めたと、複数の韓国語メディアが伝えています。もともとファッションそのものへの強い情熱から出発したわけではなく、副業として始めた服づくりに次第にのめり込んでいき、競争心が芽生えるかたちで本格的なブランド化に至ったという経緯は、旧版の記事にあった「大学卒業後、自身のファッションブランド立ち上げへと方向転換した」という単線的な説明よりも、実際にはやや紆余曲折を経たものだったとうかがえます。
共同創業者のSookyo Jeong(チョン・スギョ)は、建国大学校で衣裳デザインを学んだのち、2018年にLimと共同でPAFを設立しました。旧版の記事はJeongを「Head Designer」とし、建築の専門的背景を持つ人物として紹介していましたが、確認できた複数の情報源はいずれも衣裳デザインという学歴を伝えており、建築を学んだとする記述の裏付けは見当たりませんでした。2021年のHypebeast Korea版インタビューでは、Jeongの肩書きは「デザインと生産を統括する責任者」として紹介されており、ブランド内部の記録にある「チーフ・プロダクト・オフィサー」という表記とも、旧版の「Head Designer」という表記とも、重なる部分はありつつ完全には一致しない、実態に近いニュアンスの肩書きだと考えられます。
Limは、Onとのコラボレーションに関する公式インタビューのなかで、自身を「ミレニアル世代の独学者」と表現し、韓国の中学・高校の制服、そして約2年間の兵役を通じて、人生の半分近くを「制服(ユニフォーム)」を着て過ごしてきたと語っています。この制服体験こそが、PAFの設計思想である「ユニフォームからマルチフォームへ」という発想の原点になったと、ブランド自身が説明している点は、旧版の記事にはなかった重要な背景だといえます。
ブランドの認知が海外へ一気に広がった出来事としてよく語られるのが、設立からわずか2ヶ月ほど後に起きた、米国の人気ラッパーKendrick Lamarによる着用です。人気テレビ番組『Saturday Night Live』にPAFのアイテムを着て出演したことが話題を呼び、韓国国内よりも先に海外のファッション関係者のあいだでブランド名が知られるようになったと、複数のメディアが伝えています。まだ立ち上げたばかりの韓国発ブランドが、こうした海外セレブリティの着用をきっかけに国際的な注目を集めるという流れは、後述するLVMH Prizeへの選出やOff-Whiteとの協業にもつながっていく、PAFの初期の歩みを象徴する出来事だといえます。
旧版の記事は在学期間を「2012年から2016年」と具体的に記していましたが、この年数の範囲を裏付ける一次情報は確認できなかったため、本稿では専攻内容のみを事実として扱っています。
ブランド美学 — 工業デザインの方法論をファッションへ
PAFというブランド名は、「Post(~の後)」「Archive(記録、保管庫)」「Faction(派閥、集団)」という三つの単語を組み合わせた造語です。ファッション業界の既存のアーカイブや慣習を後にする、という自己定義的な意味合いを持つと同時に、後述するRight・Center・Leftという政治的スペクトラムになぞらえた設計思想とも呼応する名称になっています。
PAFのデザイン言語について、フィレンツェのメンズウェア展示会Pitti Uomoの公式紹介では、非対称な構造(アシンメトリー)、しわ加工(クリンクリング)、そして重厚なパネル使いという三つの要素が挙げられています。Limが大学で学んだ工業デザインの手法、すなわち人体の測定データや機能性を数値的に検討しながら量産を前提に構造を設計するという発想を、ファッションの伝統的な美意識と組み合わせるという独自路線が、PAFのコレクションを支える中核にあります。
旧版の記事は、この設計思想を「Deconstruction、Futurism、Industrial Design(工業デザイン)の三軸」と表現していましたが、こうした三分類そのものを裏付ける一次情報は見当たりませんでした。確認できたのは、PAFが工業デザインの方法論をファッションに応用しているという事実そのものであり、本稿ではその点に絞って紹介しています。
Pitti Uomoの紹介にある「しわ加工(クリンクリング)」は、生地にあえて不規則なしわや凹凸を持たせる加工を指し、平面的なパターンでは生まれない立体感を作り出す手法です。「重厚なパネル使い」は、一枚の生地では表現しきれない厚みや層を、複数のパネルを組み合わせることで作り出す構造設計を意味します。いずれも量産効率や機能性を数値的に検討する工業デザインの発想と、手仕事に近いテクスチャーへのこだわりという、一見相反する要素を両立させようとする姿勢の表れだと理解すると、PAFの服が持つ独特の重量感や存在感の理由が見えてきます。
シーズンではなく「シリーズ」、そしてRight・Center・Leftという設計思想
PAFは、多くのファッションブランドが採用する春夏(SS)・秋冬(FW)というシーズン区分を用いていません。On公式サイトに掲載されたLimへのインタビューによれば、PAFは伝統的なシーズンではなく「シリーズ」という単位でコレクションを重ねており、同インタビューの時点(2023年)で7つの主要コレクションを発表してきたと説明されています。実際、ブランドのコレクションには5.0、6.0、7.0といった数字が付されており、旧版の記事やguz_brand側の記録にある「3.0、4.0、5.0という数字バージョンで発表する」という説明は、この点においてはおおむね裏付けが取れています。
一方で、旧版の記事はRight・Center・Leftという枠組みを、「Right(Fundamental Model)」「Center(Bridging Model)」「Left(Radical Model)」という三本の独立した製品ラインとして紹介していました。しかしLim自身がOn公式インタビューで説明しているのは、Rightが保守的な視点、Leftが急進的で実験的な視点、Centerがその中間に位置するという、政治的なスペクトラムになぞらえた設計上の物差しです。同じアイテムやコレクションを、この物差しに沿って作り分けるという発想であり、旧版が描いていたような固定的な三本の製品ラインという説明よりも、コレクションごとに繰り返し適用される可変的な設計思想として理解するほうが実態に近いといえます。
Off-White、District Vision、On — 広がるコラボレーション
PAFはこれまで、複数のブランドとのコラボレーションを重ねてきました。Pitti Uomoの公式紹介ページでは、故Virgil Abloh率いるOff-White、アイウェアブランドDistrict Vision、そしてスイスのランニングブランドOnとの協業が、PAFの代表的なコラボレーション実績として挙げられています。旧版の記事にあった、Virgil Abloh本人がPAFに注目していたという記述は複数の海外メディアの記述とも整合しますが、実際にはOff-Whiteとのコラボレーションという、より具体的な協業関係にまで発展していたことが確認できました。
なかでも継続的に展開されているのがOnとの協業です。On公式サイトのインタビューによれば、両者の縁は2021年頃、パリで知人を介してLimがOnのチームに紹介されたことから始まり、スイスへの視察を経て、2023年6月にパリのOnショールームで最初のコレクション「Current Form 1.0」が披露されました。実際の商品としての発売は2024年に入ってからで、以降もCurrent Form 2.0(2024年)、2.0+(2025年)と続き、2026年にも新作が発表されるなど、複数年にわたって継続しているコラボレーションです。旧版の記事にあった「2022年に協業を開始した」という記述は、この段階的な経緯を単純化しすぎたものだったといえます。
LVMH Prizeセミファイナリストと、Pitti Uomoゲストデザイナー
PAFは2021年、LVMH Prizeのセミファイナリスト(準決勝進出)に選出されました。LVMH Prize公式サイトでも「Dongjoon Lim, SEMI-FINALIST OF THE 2021 LVMH PRIZE」として紹介されており、この年は世界各国から集まった約1,900のブランド応募のなかから、20のセミファイナリストが選ばれたと報じられています。設立から3年というタイミングでのこの選出は、PAFが国際的な評価を得る大きな契機になりました。なお旧版の記事は、同年の最終選考について「Nensi DojakaがKarl Lagerfeld Special Prizeを、Christopher John Rogersが本賞を受賞した」としていましたが、実際に本賞を受賞したのはNensi Dojaka自身であり、Christopher John Rogersは最終候補にとどまって受賞には至っていません。Karl Lagerfeld Prizeを受賞したのはColm Dillane、Rui Zhou、Lukhanyo Mdingiの3名でした。この部分の受賞結果は本稿の主題からは離れますが、旧版の記述は事実と異なっていた点として付記しておきます。
また2025年6月には、フィレンツェで開催されたPitti Uomoの第108回展示会にゲストデザイナーとして招かれています。旧版の記事は「Pitti Uomo Guest Designerに招かれた経歴を持つ」とだけ紹介し具体的な年を示していませんでしたが、実際には比較的最近、2025年の出来事です。同展示会の公式紹介では、PAFは世界75店舗で取り扱われているとされ、SSENSEやDover Street Market、そしてソウルの直営フラッグシップストアなどが名を連ねています。日本国内でも、Nubian Tokyoやcherry(福岡)といったセレクトショップの取扱いページで実際にPAFの商品ページを確認でき、欧州のHAVNやSlam Jamと並んで、PAFの流通網が着実に広がっていることがうかがえます。
ソウルの直営フラッグシップストア
PAFは2022年5月1日、ソウル・中区(チュング)にあるダサン路(Dasan-ro)の一角に、初の直営フラッグシップストアを開業しました。海外の複数のファッションメディアが報じているところによれば、この店舗はもともとPAFの製品を数年にわたって縫製してきた工場をそのまま店舗に転用したもので、韓国のインテリアスタジオStudio Unravelとの共同設計により、以前の工場の面影を残しながら、白壁と光沢のある床、天井の可動レールを組み合わせたミニマルな空間に仕上げられています。旧版の記事は「店舗の設計はLim自身が担当した」としていましたが、実際にはStudio Unravelとの共同設計であったことが、複数の情報源で確認できました。
どんな人に似合うブランドか
PAFが似合うのは、既製服の型そのものを問い直すような、構築的でテクニカルなシルエットを好む人です。非対称なカッティングやしわ加工、重厚なパネル使いといった意匠は、シンプルなミニマルウェアとは一線を画す存在感を持ちながらも、Rightに近いアイテムを選べば、日常のコーディネートに無理なく馴染みます。工業デザインの発想を出発点にしたブランドという背景に惹かれる人にとっても、PAFは掘り下げがいのあるブランドだといえます。
一方で、Leftに近い実験的なアイテムは、着用のハードルが高く感じられることもあります。その場合は、まずRightに位置づけられる比較的着用しやすいアイテムや、Onとの協業スニーカーから距離を縮めていくのも一つの方法です。ロゴの主張よりも構造そのもので語るブランドなので、テクニカルウェアやアーカイブファッションに関心がある人であれば、初めての一着からでも手応えを感じやすいはずです。ソウルという都市の文脈やK-fashionの動向に関心がある人にとっても、PAFは追いかけがいのあるブランドの一つといえます。ブーツやローファーのようなオーソドックスな靴にPAFのボトムスを一本足すだけでも、全体の印象を大きく変えられるので、テクニカルウェアに慣れていない人でも小さく試しやすいブランドだといえます。
中古市場でのPost Archive Factionの位置づけ
中古・古着市場におけるPAFは、2018年の設立からまだ日が浅いこともあり、流通量自体は限定的です。ただし、非対称な構造やテクニカルな素材使いといった意匠上の特徴は、ヴィンテージやアーカイブファッションを扱う層からの関心を集めやすく、状態のよい個体はコレクター的な視点で取引される傾向があります。設立初期にあたる2018年から2020年ごろの個体は、まだ生産数自体が限られていた時期に重なるため、状態のよいものは相対的に見つけにくい部類に入ると考えられます。旧版の記事には円単位の具体的な中古価格帯が記載されていましたが、裏付けとなる一次情報が確認できなかったため、本稿では採用していません。
タグを確認する際は、ブランドロゴの刺繍や「Made in Korea」の表記に加えて、Right・Center・Leftのいずれの区分に属するアイテムかを見分けておくと、実験性の度合いや着用のしやすさの見当がつけやすくなります。また前述の通り、PAFはOnとの協業スニーカーやOff-White、District Visionとのコラボレーションも展開しているため、中古で探す場合はこうしたコラボレーションアイテムかどうかもあわせて確認しておくとよいでしょう。数字が付されたコレクション名(5.0、7.0など)がタグや商品説明に記載されている場合は、おおよその発表時期を推測する手がかりになります。
よくある疑問
Post Archive FactionのRight・Center・Leftとはどういう意味ですか
Rightが保守的で着用しやすい視点、Leftが急進的で実験的な視点、Centerがその中間という、政治的なスペクトラムになぞらえた設計上の物差しです。旧版の記事にあったような、三本の独立した固定的な製品ラインというよりは、コレクションごとに繰り返し適用される可変的な考え方として理解しておくのが実態に近いといえます。
PAFはシーズンごとに新作を発表していますか
春夏・秋冬という一般的なシーズン区分ではなく、5.0、7.0といった数字を付した「シリーズ」という単位でコレクションを重ねています。On公式サイトのインタビュー時点(2023年)で7つの主要コレクションが発表されており、以降も継続的に新しいシリーズが発表されています。
Sookyo Jeongの役職や経歴について、なぜ情報源によって説明が異なるのですか
英語圏の複数メディアでは「Head Designer」、ブランド内部の記録では「チーフ・プロダクト・オフィサー」、2021年のHypebeast Korea版インタビューでは「デザインと生産を統括する責任者」と、メディアによって肩書きの表現が異なります。共通しているのは、Jeongが建国大学校で衣裳デザインを学んだのち、Limと共に2018年からデザインと生産の両面を統括してきたという点で、本稿ではこの共通部分を軸に紹介しています。
PAFはどこで買えますか
ソウルの直営フラッグシップストアのほか、公式オンラインストアで販売されています。海外ではSSENSEやDover Street Market、HAVN、Slam Jamといったセレクトショップでの取扱いが確認でき、日本国内でもNubian Tokyoやcherry(福岡)といったセレクトショップの商品ページでPAFの取扱いを確認できます。中古で探す場合は、フリマアプリや古着店、海外の委託販売プラットフォームが主な選択肢になります。
まとめ
Post Archive Factionの歩みを一次情報で確認し直すと、弘益大学校で産業デザインを学んだDongjoon Limと、建国大学校で衣裳デザインを学んだSookyo Jeongが、2018年にソウルで立ち上げたブランドが、工業デザインの方法論とRight・Center・Leftという政治的スペクトラムの発想を組み合わせながら、シーズンではなく数字を付したシリーズという独自の単位でコレクションを重ねてきたことが見えてきます。旧版の記事にあったSookyo Jeongの建築的背景やOnとの協業開始年、ソウル店舗の設計担当者、そして2021年LVMH Prizeの最終受賞結果に関する記述は、一次情報を確認するかぎり事実と異なるか出典が確認できなかったため、本稿であらためて整理しました。2021年のLVMH Prizeセミファイナリスト選出、Off-WhiteやDistrict Vision、Onとのコラボレーション、そして2025年のPitti Uomoゲストデザイナー就任といった実績も含めて、Post Archive Factionという韓国発ブランドの現在地を踏まえたうえで、中古でのアイテム選びに役立ててみてください。











