キコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)は、ブルガリア生まれのデザイナー、キコ・コスタディノフ本人の名前を冠して2016年にロンドンで誕生したファッションブランドです。作業着やユニフォームが持つ機能的な構造を、彫刻のような立体感のある前衛的な仕立てへと組み替える作風で知られ、メンズウェアとしてスタートしたのち、双子デザイナー姉妹が指揮する婦人服ラインも展開するようになりました。アシックスとの継続的なスニーカー協業や、婦人服ラインの人気バッグなど、複数の顔を持っている点もこのブランドの特徴です。この記事では、ブランドの成り立ちからデザイナーの経歴、代表的なアイテム、中古で選ぶ際の注意点まで、順を追って整理します。
ロンドン発、働く服と前衛の交差点
キコ・コスタディノフというブランド名を聞いてまず思い浮かぶのは、作業着や制服が持つ実用性への強いまなざしです。ポケットの配置や補強のステッチ、体の動きに合わせた裁断といった、もともとは労働のために生まれたディテールを丁寧に拾い上げ、それを一度解体してから、彫刻的ともいえる立体的なシルエットへと再構成していく手つきに、このブランドらしさが表れています。素材選びも作風を支える要素のひとつで、綿や麻の丈夫な生地、光沢を抑えたテクニカルファブリック、ワークウェアを思わせるツイルなどが多く使われ、色調は土や砂を思わせるアースカラーや、深く沈んだブルー、生成りに近いオフホワイトが中心になりがちです。派手な主張をする配色ではなく、素材の質感と裁断の妙で見せる方向性だと言えます。
ユニフォームや労働着への関心は、単なる意匠の借用にとどまりません。ボイラースーツのような一体型のシルエットや、白衣を思わせる襟の作り、道具を収めるための大きなポケットなど、機能から発想された形をあえてファッションの文脈に持ち込み、実用と前衛のあいだに独自の緊張関係をつくり出しています。メンズウェアで培われたこの構築的な視点は、後年に始まる婦人服ラインにも受け継がれ、キコ・コスタディノフというブランド全体を貫く芯になりました。
もうひとつ見逃せないのが、装飾を足し算するのではなく、構造そのものを見せる引き算的なアプローチです。切り替えの位置や芯地の使い方、パーツどうしの継ぎ目といった、通常なら隠される部分をあえて意匠として立たせることで、服の作られ方そのものが表現の一部になっています。派手なロゴやプリントに頼らず、裁断と構造だけでブランドを認識させるという方向性は、キコ・コスタディノフを一目で見分けるための手がかりにもなっています。
派手なロゴやプリントに頼らず、裁断と構造だけでブランドを認識させるという方向性は、キコ・コスタディノフを一目で見分けるための手がかりにもなっています。
キコ・コスタディノフというデザイナー
デザイナーのキコ・コスタディノフは1989年、ブルガリアで生まれました。出身都市については公式にあまり語られておらず、ブルガリアの地方都市の近郊で育ったと語られています。16歳のとき、家族とともにロンドン南東部へ移住したことが、その後のキャリアの出発点になりました。ロンドンという街で多様な文化やストリートのスタイルに触れて育った経験は、のちの作風にも色濃く反映されていると考えられます。
コスタディノフはロンドンの名門校セントラル・セント・マーティンズ(Central Saint Martins)でファッションデザインを学び、メンズウェアを専攻する修士課程を2016年に修了しました。在学中の2013年には、早くもアメリカのストリートブランドStüssyと「Displacement」というコレクションで協業を果たしており、学生の立場でありながら実際のブランドと組む機会を得たことになります。さらに2015年には、Stüssyの35周年を記念したカプセルコレクションと、ニューヨークのセレクトショップDover Street Market New York向けのコレクションを手がけました。在学中からこれだけの実績を積んでいたことは、コスタディノフの実力が早くから業界に認められていたことを物語っています。
学生の身でありながら実在するブランドと組む機会を重ねて得たことは、コスタディノフの手がける服がすでに実務レベルの完成度を備えていたことを示しています。在学中に積んだこうした経験は、修士課程を修了してすぐに自身の名前でブランドを立ち上げるという決断を後押しした土台になったと考えられます。
2016年のデビューと駆け上がりの数年
キコ・コスタディノフが自身の名を冠したブランドとして本格的にデビューしたのは2016年6月のことです。ロンドンのメンズファッションウィークにあたるLondon Collections: Menの場で、2017年春夏コレクションを発表し、独立したデザイナーとしての一歩を踏み出しました。セントラル・セント・マーティンズを出たばかりの若手でありながら、すでにStüssyとの協業実績を携えてのデビューだったことも、このブランドの立ち上がりを特徴づけています。
デビューからわずか半年後の2016年12月には、大きな知らせが続きました。英国の老舗レインウェアブランドMackintoshが、新しいライン「Mackintosh 0001」のクリエイティブディレクターにコスタディノフを起用すると発表したのです。翌2017年には最初のコレクションが披露され、伝統的なゴム引きコートの技術と、コスタディノフらしい構築的な裁断を組み合わせたラインとして注目を集めました。こうした老舗ブランドとの協業は、若いデザイナーの評価を一気に押し上げる出来事になりました。
Mackintoshは英国で長い歴史を持つレインウェアの名門であり、その新ラインの舵取りを任されたことは、まだキャリアの浅かったコスタディノフに対する業界からの信頼の厚さを物語る出来事でした。伝統的なブランドの技術と、新進デザイナーの構築的な視点を組み合わせる座組みそのものが、当時のファッション業界における新しい試みのひとつだったと言えます。
2019年には、ファッション界の登竜門として知られるLVMHプライズのセミファイナリストにコスタディノフの名前が挙がりました。最終的な受賞には至らなかったものの、業界屈指のコンペティションで有力候補として名を連ねたこと自体が、当時まだ若かったブランドの評価の高さを示す出来事だったと言えます。デビューからここまでのわずか数年で、コスタディノフは学生上がりの新人から、業界内で確かな地位を持つデザイナーへと駆け上がりました。
アシックスとの協業が変えた景色
キコ・コスタディノフというブランドを語るうえで欠かせないのが、日本のスポーツブランドであるアシックスとの協業です。両者の関係は2017年に発表されたスニーカー「GEL-Burz 1」から始まりました。ランニングシューズとして培われてきた技術的な土台を、コスタディノフらしい未来的なフォルムへと組み替えたこのモデルは、ワークウェア寄りだったブランドの世界観に、テクニカルスポーツというもうひとつの軸を加えることになりました。
GEL-Burz 1をきっかけに始まったアシックスとの関係は一過性のもので終わらず、その後も長期にわたって続いています。両者の積み重ねは2023年11月、協業ラインとして正式に始動した「Novalis」という形に結実しました。単発のコラボレーションで終わらせず、継続的なラインへと発展させた点は、キコ・コスタディノフとアシックスの関係が単なる話題づくりではなく、互いのものづくりへの信頼にもとづいていることをうかがわせます。中古市場でもこのアシックス協業スニーカーは特に人気が高く、状態の良い個体は見つけ次第の判断が必要になることも珍しくありません。
スポーツブランドとファッションデザイナーの協業自体は珍しいものではありませんが、キコ・コスタディノフとアシックスの関係は、単発の話題づくりに終わらず、年単位で積み重ねられてきた点に特徴があります。ランニングという実用の領域で磨かれてきた技術に、デザイナー側の造形的な視点を組み合わせることで、機能とデザインのどちらかに偏らないプロダクトが生まれ続けています。
双子姉妹が率いる婦人服ライン
キコ・コスタディノフのもうひとつの顔が、メルボルン出身の双子姉妹、ラウラ・ファニングとディアナ・ファニング(Laura & Deanna Fanning)が指揮を執る婦人服ラインです。ふたりはともにセントラル・セント・マーティンズの出身で、コスタディノフ自身と同じ学び舎で経験を積んでいます。2018年にこのラインを率いるデザイナーとして起用されることが発表され、翌2019年には最初のコレクションが発表されました。
ファニング姉妹が手がける婦人服ラインは、メンズウェアで培われた構築的な視点を土台にしながらも、独自の柔らかさや曲線的な要素を加えることで、ブランド全体に新しい表情を与えています。中でも代表的なアイテムに育ったのが、非対称の曲線を特徴とするバッグ「Trivia(トリヴィア)」です。左右非対称でありながら不安定さを感じさせないバランスの取れたフォルムは、婦人服ラインを象徴するアイテムとして広く知られるようになりました。
婦人服ラインが確立されたことで、キコ・コスタディノフはメンズウェア専業のブランドという枠を超え、ひとつのハウスとして複数の視点を持つに至りました。ふたりのデザイナーに一定の裁量を委ねる体制は、ブランド全体の色を単一のデザイナーだけに依存させない仕組みでもあり、結果としてメンズとレディースそれぞれの個性が保たれています。
実用性を重視するメンズラインの発想と、曲線的なデザインを得意とする婦人服ラインの感性が、同じブランドの中で共存している点は、キコ・コスタディノフというブランドの奥行きを示しています。中古市場でTriviaバッグを探す際は、金具の変色や持ち手のコーティングの剥がれなど、経年による細かな変化を確認しておくと安心です。
2024年以降の広がり
2024年3月、キコ・コスタディノフは東京の原宿(神宮前)に日本旗艦店を開きました。日本ではこれまでもDover Street Market Ginzaや各地のセレクトショップで取り扱いがありましたが、単独の旗艦店を構えたことで、日本のファンにとってブランドとの距離はさらに近くなりました。同じ2024年にはロサンゼルスにも店舗を開いたと報じられており、ロンドン発のブランドとして、アジアとアメリカの双方に拠点を広げる動きが進んでいるようです。
原宿という土地は、国内外のストリートブランドやセレクトショップが集まるエリアであり、そこに単独の旗艦店を構えたことは、日本市場をブランドが重要な拠点のひとつとして位置づけていることのあらわれでもあります。ロサンゼルスの店舗展開と合わせて考えると、ロンドンで生まれた小さなデザイナーズブランドが、十年に満たない期間のうちに複数の大陸に拠点を持つまでになったことになります。
2025年に入ってからは、New Era、Beats、Levi’sといった名前との協業が相次いで発表されたと報じられています。スポーツキャップやオーディオ機器、デニムという異なる分野のブランドと組む姿勢からは、アシックスとの協業で培った、機能を持つプロダクトを自分たちの視点で組み替えるというやり方を、幅広い領域に応用しようとする意図が読み取れます。さらに2026年初頭には、Crocsとの初めての協業が披露されたと報じられており、ロンドンに新しい旗艦店を構える計画も報じられています。ロンドン発の小さなブランドとして始まったキコ・コスタディノフは、今も拠点と協業の幅を広げ続ける現在進行形のブランドです。
代表的なアイテム
キコ・コスタディノフのメンズウェアを象徴するのが、ワークウェアの機能性を前衛的な仕立てで再構築したジャケット類です。ボイラースーツやミリタリーウェアを思わせる大きめのポケット、体の動きを妨げない立体的な袖の構造、綿や麻を使った丈夫な生地など、実用性を土台にしながらも、シルエット全体には彫刻的な緊張感が宿っています。中古で見かける機会が多いのもこうしたジャケット類で、素材の風合いや裁断の妙を確かめながら選ぶ楽しさがあります。
丈の長さや衿の形、留め具の種類までモデルによって幅があり、同じジャケットというカテゴリーの中でも一枚ごとに個性が異なります。中古で探す際は、写真だけでは伝わりにくいポケットの立体感や生地の張りを、可能であれば実店舗で確かめておくと失敗が少なくなります。
もうひとつの代表的なアイテムが、アシックスとの協業によって生まれたスニーカーです。前述の「GEL-Burz 1」から始まり、現在は「Novalis」ラインへと発展した一連のモデルは、ランニングシューズとしての機能的な土台を保ちながら、コスタディノフらしい未来的で有機的なフォルムを与えられています。ソールのボリュームやアッパーの分割パターンなど、ディテールを見比べるだけでも作り手の意図が伝わってくるアイテムです。中古市場でも人気が高く、状態の良いものは比較的早く動く傾向があります。
アッパーとソールで素材や色を切り替えるパターンが多く、履くたびに新しい発見があるのも人気の理由のひとつです。サイズ感はモデルによって差があるため、中古で購入する際は実寸を確認したうえで選ぶことをおすすめします。
ジャケットとスニーカーという、一見すると対照的なふたつのカテゴリーが同じブランドの中で共存していることこそ、キコ・コスタディノフというブランドの持ち味です。服とシューズのどちらから入っても、労働着由来の機能性と前衛的な造形という同じ思想に行き着く構成になっています。
キコ・コスタディノフが似合う人、向く着こなし
キコ・コスタディノフは、シルエットそのものに存在感があるため、過度に飾り立てなくても一枚で印象をつくれる服が多いブランドです。ワークウェア由来の実用的なディテールを楽しみたい人や、素材の質感と裁断の妙を重視するタイプの古着好きには特に向いています。逆に、王道のきれいめスタイルやミニマルな装いを崩したくない人にとっては、ジャケットの立体的なボリュームがやや主張が強く感じられるかもしれません。
着こなしの面では、コスタディノフ自身のメンズラインであれば、無地のロングスリーブやシンプルなパンツと合わせて、アイテム自体の構造を主役にする組み方が似合います。逆にアシックス協業のスニーカーは、テクニカルな見た目を活かして、カジュアルなセットアップやワークパンツと合わせるとバランスが取りやすくなります。婦人服ラインのTriviaバッグのように曲線が印象的なアイテムは、直線的でかっちりした装いに添えることで、曲線と直線のコントラストを楽しむ着こなしにもつながります。ブランドそのものが持つ緊張感を、自分のワードローブの中でどう活かすかを考える過程も、キコ・コスタディノフを着る楽しみのひとつです。
スーツスタイルのようにかっちりとした場に合わせるブランドというよりは、日常の装いの中でひとつだけ強い個性を効かせたいときに向いています。全身をキコ・コスタディノフで固めるよりも、ジャケットやバッグなど一点を主役に置き、他のアイテムをシンプルにまとめるほうが、服の構造そのものが持つ説得力を引き立てやすくなります。
中古でキコ・コスタディノフを選ぶときのポイント
キコ・コスタディノフは国内での取り扱いが広がってきたとはいえ、まだ店頭で頻繁に見かけるブランドとは言えません。中古で探す場合は、RAGTAGや2nd STREETといった大手古着チェーン、メルカリなどのフリマアプリを中心に探すのが現実的です。実店舗であれば実際に生地の厚みや裁断の立体感を確認できる利点があり、フリマアプリであれば出品点数の多さから掘り出し物に出会える可能性がある一方、状態の見極めは写真と説明文だけが頼りになります。
状態確認では、ワークウェア由来の丈夫な生地であっても、ポケット口や肘、股上まわりなど、体の動きが集中する部分の摩耗は必ずチェックしておきたいところです。アシックス協業のスニーカーであれば、ソールの減り具合や剥がれ、アッパーの素材ごとの劣化差にも注意が必要です。婦人服ラインのバッグは、金具の変色や持ち手部分のコーティングの剥がれが状態を左右しやすいポイントになります。
比較的新しいブランドであるだけに、状態の良い個体が中古市場に出回ることも多いですが、その分だけ人気の高いモデルは相場が動きやすい傾向もあります。実勢価格は状態や品番によって幅があるため、複数の店舗やアプリで見比べながら、タグの表記やブランドロゴの縫製など、細部の作り込みを確認して選ぶことが安心につながります。取り扱いが少ないブランドだからこそ、購入前に一度実物を確認できる店舗を頼る、あるいは実績のあるショップから選ぶといった慎重さも大切です。
取り扱い店舗がまだ限られているブランドだからこそ、真贋を見分ける目に自信が持てない場合は、鑑定サービスを設けている大手の古着チェーンや、真贋保証を明示しているフリマアプリの制度を活用するのも有効な方法です。タグの書体やロゴの位置、縫製の均一さなど、細部の作り込みを公式の情報と見比べる習慣をつけておくと、選ぶ際の安心材料が増えます。
よくある疑問
まず読み方についてですが、Kiko Kostadinovは「キコ・コスタディノフ」とカタカナ表記されるのが一般的です。検索するときは「キココスタディノフ」と続けて入力しても、多くの場合は同じブランドの情報にたどり着けます。
どこの国のブランドなのかという疑問もよく聞かれます。デザイナーのキコ・コスタディノフ自身はブルガリア生まれですが、16歳で家族とともにロンドン南東部へ移り住み、セントラル・セント・マーティンズで学んだのちにロンドンでブランドを立ち上げているため、拠点としてはロンドン発のブランドと理解するのが自然です。
レディースはあるのかという点については、婦人服ラインが存在します。メルボルン出身の双子姉妹、ラウラ・ファニングとディアナ・ファニングが2018年に起用され、2019年から婦人服のコレクションを発表しています。メンズと同じ構築的な視点を土台にしながら、独自の曲線的な要素を加えたラインで、バッグのTriviaのように単体で人気を集めるアイテムも生まれました。
アシックスとのスニーカーはいつから続いているのかという質問には、2017年の「GEL-Burz 1」が最初で、そこから現在の「Novalis」ラインまで長く関係が続いていると答えられます。日本で店舗はあるのかについては、2024年3月に東京の原宿に旗艦店が開かれたほか、Dover Street Market Ginzaや各地のセレクトショップでも取り扱いがあります。
最近はどんな協業をしているのかという質問には、2025年にNew Era、Beats、Levi’sとの協業が相次いで発表されたと報じられ、2026年初頭にはCrocsとの初めての協業も披露されたと報じられていると答えられます。ロンドンに新しい旗艦店を構える計画も伝えられており、活動の幅は今も広がり続けているようです。
まとめ
キコ・コスタディノフは、ブルガリア生まれでロンドン育ちのデザイナーが、作業着やユニフォームの機能性を前衛的な仕立てで再構築するところから始まったブランドです。セントラル・セント・マーティンズ在学中からStüssyとの協業で実績を積み、2016年のデビュー直後にMackintosh 0001のクリエイティブディレクターに就任するなど、駆け上がるように評価を高めてきました。アシックスとの協業スニーカーは2017年から現在の「Novalis」まで続く長期的な関係に育ち、双子デザイナー姉妹が率いる婦人服ラインはTriviaバッグという代表的なアイテムを生み出しています。2024年の原宿旗艦店開店を経て、今も拠点と活動の幅を広げているこのブランドは、機能と前衛のあいだで揺れる緊張感そのものを楽しむブランドだと言えます。中古で出会うときは、ワークウェア由来のディテールとテクニカルな素材の状態を丁寧に見極めながら、自分なりの一着や一足を探してみてください。










