設計思想 — ジャマイカと英国の血統を紳士服で語る、11年の独立系ハウス
Wales Bonnerは、2014年にGrace Wales Bonner(1990年英国ロンドン生まれ、ジャマイカ出身の父と英国人の母を持つ)が英国ロンドンで立ち上げたハウスです。Central Saint Martins(英国の服飾教育機関、ロンドン芸術大学の一つ)を2014年に卒業してすぐの創業で、自身の血統と英国サヴィルロウの伝統的な仕立てを組み合わせる手法で知られる、英国の現代を代表する紳士服デザイナーの一人となりました。
ハウスを象徴するのは、Grace Wales Bonnerの自身の血統への探求を紳士服の意匠として組み立てる手法です。卒業直後の2015年1月、ロンドンの新人発掘プログラムFashion Eastで発表したデビューコレクション「Ebonics」は、黒人男性性のステレオタイプによらない官能的な描写を打ち出し、英国の服飾業界誌で大きく取り上げられました。ジャマイカ系の血統(Windrush Generation、1948年から1970年代初頭にかけて英国へ移住したカリブ海系英国人の世代を指す呼称)に連なる服装、サヴィルロウの伝統的な仕立て、そして英国の黒人現代美術家(Lubaina Himid、Hurvin Anderson、Lynette Yiadom-Boakyeなど)との共作や引用を組み合わせる手法で、「黒人の文化と紳士服の出会い」を体現するハウスとして11年にわたって築き上げてきました。
経歴の節目として、2016年にGrace Wales Bonnerはフランスの服飾持株会社LVMHが主催する若手デザイナー支援制度LVMH Prizeを受賞しました。前年の2015年には英国British Fashion AwardsでEmerging Menswear Designerを受賞しており、この2年続きの評価が、欧米の服飾業界誌で大きく取り上げられる契機となります。2023年には英国BFC/GQ Designer Fashion Fundを受賞、2024年のBritish Fashion AwardsではBritish Menswear Designer of the Yearを受賞し、英国の現代を代表するデザイナーとしての地位を不動のものにしました。
共作の代表作として、2020年1月に発表したコレクション「Lover’s Rock」でAdidasとの協業を開始しています。Adidasの定番シューズSambaをWales Bonnerの感性で再構築した一足は、欧米とアジアのスニーカー愛好家のあいだで現代を代表する協業スニーカーの一つとして繰り返し取り上げられ、Wales Bonnerの名前を世界中に広げる契機となりました。
創業から現代まで — Wales Bonnerの歩み
1990-2014 Grace Wales Bonnerの英国ロンドンとCentral Saint Martins
Grace Wales Bonnerは1990年に英国ロンドンで生まれました。父はジャマイカ出身、母は英国人で、Graceは自身の血統の文化的な意義への関心を若いころから抱いていました。
Graceの家庭は、英国のジャマイカ系移民の世代を指す「Windrush Generation」(1948年に移民船Empire Windrush号が英国に到着したことに由来し、1970年代初頭までに英国へ渡ったカリブ海系英国人の世代を指す呼称)に連なります。Graceは2011年にCentral Saint Martins(英国の服飾教育機関、ロンドン芸術大学の一つ)へ入学し、2014年に紳士服専攻で学位を取得しました。卒業コレクション「Afrique」はL’Oréal Professionnel Talent Awardを受賞し、英国の服飾業界誌で取り上げられています。
2014-2015 創業とデビューコレクション「Ebonics」
2014年、Grace Wales Bonnerは英国ロンドンで自身のハウスWales Bonnerを立ち上げました。翌2015年1月、ロンドンの新人デザイナー発掘プログラムFashion Eastの枠で、デビューコレクション「Ebonics」を発表します。黒人男性性のステレオタイプによらない官能的な描写を打ち出したこのコレクションは、創業初期のハウスの世界観を決定づけるものとなりました。
創業時のハウスの世界観(ジャマイカの血統と英国サヴィルロウの伝統的な仕立ての組み合わせ、英国の黒人現代美術家との共作と引用)は、創業当初から英国の服飾業界誌で繰り返し取り上げられる存在となりました。
2015-2016 British Fashion AwardsとLVMH Prizeの連続受賞
2015年11月、Wales BonnerはBritish Fashion AwardsでEmerging Menswear Designerを受賞しました。翌2016年6月には、フランスの服飾持株会社LVMH(Bernard Arnault率いる、Louis VuittonやDiorなどを傘下に持つ)が主催するLVMH Prizeを受賞しています。
LVMH Prizeの受賞で、Wales Bonnerはフランスから30万ユーロの賞金とLVMHの経営陣による1年間の指導の機会を得ました。この2年続きの受賞で、Grace Wales Bonnerは欧米とアジアの服飾業界誌で大きく取り上げられる存在となっていきます。
2020 Adidasとの協業開始
2020年1月、Wales Bonnerはコレクション「Lover’s Rock」の発表にあわせてAdidasとの協業を開始しました。
協業の代表作は、Adidasの定番シューズSambaをWales Bonnerの感性で再構築した一足です。欧米とアジアのスニーカー愛好家のあいだで現代を代表する協業スニーカーの一つとして繰り返し取り上げられ、続くシーズンでも新色・新モデルが発表され続けています。
2023-2024 BFC/GQ Designer Fashion FundとBritish Menswear Designer of the Year
2023年、Wales BonnerはBFC/GQ Designer Fashion Fundを受賞しました。翌2024年のBritish Fashion Awardsでは、British Menswear Designer of the Yearを受賞しています。
英国の現代を代表するデザイナーとしての地位を不動のものにする連続受賞で、Grace Wales Bonnerは英国黒人の若手デザイナーから、英国服飾を代表する指揮者の一人へと歩みを進めました。
2025 Hermès メンズウェア クリエイティブディレクター就任
2025年10月、Grace Wales BonnerはフランスのHermèsメンズウェアのクリエイティブディレクターに就任しました。1988年から同職を務めてきたVéronique Nichanianの後任で、大手ラグジュアリーハウスのデザインを率いる初のブラック女性デザイナーとなります。ロンドンの小さなアトリエから始まったハウスの創業者が、パリの老舗メゾンの舵取りを任されるまでの11年は、英国服飾史における独立系デザイナーの到達点のひとつとして受け止められました。Hermèsでの最初のコレクション発表は2027年1月の予定で、自身のハウスWales Bonnerは並行して継続すると発表されています。
Wales Bonnerを作った人々
Grace Wales Bonner(創業者、2014-現在)
1990年英国ロンドン生まれ、ジャマイカ出身の父と英国人の母を持つデザイナーです。Windrush Generationに連なる家庭に育ち、自身の血統の文化的な意義への関心を若いころから抱いていました。2011年から2014年までCentral Saint Martinsで紳士服を学び、卒業コレクション「Afrique」がL’Oréal Professionnel Talent Awardを受賞。2014年に自身のハウスWales Bonnerを立ち上げ、2015年にデビューコレクション「Ebonics」を発表しました。2015年British Fashion Awards Emerging Menswear Designer、2016年LVMH Prize、2023年BFC/GQ Designer Fashion Fund、2024年British Menswear Designer of the Yearと連続して評価を受け、2025年にはHermèsメンズウェアのクリエイティブディレクターに就任した人物です。
主要アイテム — Wales Bonnerの語彙
紳士服のスーツ・ジャケット
英国サヴィルロウの伝統的な仕立てを土台とするラインです。ジャマイカの血統に連なる意匠と組み合わせる手法で、Wales Bonnerのハウスとしての世界観を体現する中軸のアイテムとなっています。テーラリングにビーズ刺繍やクロシェ編みといった手仕事の装飾を重ねる手法も、デビューコレクション「Ebonics」以来一貫して見られる特徴です。
Wales Bonner × Adidas Samba
2020年から続くAdidasとの協業ラインです。定番シューズSambaをWales Bonnerの感性で再構築した一足は、シーズンごとに新色・新モデルが展開され、欧米とアジアのスニーカー愛好家のあいだで発売のたびに大きな話題を呼んでいます。
中古市場でのWales Bonner
Wales Bonnerの中古市場は、複数の軸で形成されています。紳士服のスーツ・ジャケット、Wales Bonner × Adidas Sambaのスニーカー、これらが日本国内でも取引されています。
日本ではフリマアプリ、メルカリ、Vestiaire Collective、ZOZO USED、それから原宿・渋谷・青山の古着店での流通が中心です。Sambaコラボは発売のたびに品薄になりやすく、中古市場では定価を上回る価格帯で取引されることも珍しくありません。相場は出品状況で変動するため、購入時は個別に最新価格を確認することをおすすめします。
まとめ — 11年の歩み、Central Saint Martinsから紳士服とHermès就任まで
Wales Bonnerの歩みを11年でまとめると、次のような節目に整理できます。1990年にGrace Wales Bonnerが英国ロンドンでジャマイカ出身の父と英国人の母のもとに生まれ、2011年から2014年までCentral Saint Martinsで紳士服を学びました。2014年に自身のハウスWales Bonnerを立ち上げ、2015年にデビューコレクション「Ebonics」を発表、同年British Fashion Awards Emerging Menswear Designer、翌2016年LVMH Prizeと連続して評価を受けました。2020年からはAdidasとの協業でSambaを世界に広げ、2023年BFC/GQ Designer Fashion Fund、2024年British Menswear Designer of the Yearを受賞し、2025年にはHermèsメンズウェアのクリエイティブディレクターに就任しています。
中古市場では紳士服のスーツ・ジャケットとWales Bonner × Adidas Sambaを軸に日本国内でも取引され、英国の現代を代表するハウスとして支持を集めてきました。Wales Bonnerの11年に及ぶ歩みは、「ジャマイカと英国の血統を紳士服で語る若きデザイナーが、サヴィルロウの伝統と黒人の文化的な引用を組み合わせ、Hermèsのクリエイティブディレクターにまで上り詰めた事例」として、今後も参照され続けるはずです。











