OUR LEGACY(アワーレガシー)は、2005年にスウェーデン・ストックホルムで生まれたメンズウェアブランドです。創業者はJockum Hallin(ヨックム・ハリン)とChristopher Nying(クリストファー・ニング)の2人で、2007年に第三のパートナーとしてRichardos Klarén(リチャードス・クラレン)が加わり、現在まで続く3人体制になりました。旧版の記事には、ブランドの拠点であるKrukmakargatanの店舗を「Gamla Stanの南端、1850年代の煉瓦造の建物」と紹介する記述や、Stüssyとの協業を2021年、Stone Island Shadow Projectとの協業を2022年とする記述がありましたが、いずれも一次情報では裏付けが取れませんでした。本稿では、こうした点を一つずつ確認し直しながら、OUR LEGACYの20年とその現在地をお伝えします。
イェンショーピンのアイスホッケーから始まった友情
Jockum HallinとChristopher Nyingは、スウェーデン南部の街イェンショーピンでジュニアのアイスホッケーを通じて出会いました。当時13歳前後だったとされ、実力の高かったNyingが年上のチームへ引き上げられ、そこにHallinが所属していたことがきっかけになったと伝えられています。Hallinは子どものころに地元の店で職業体験をした経験を持ち、2人とも1990年代のスケートボードやハードコア音楽のシーンに親しみながら育ちました。旧版が「ティーンエイジャー時代にアイスホッケーを通じて出会った」とだけ簡潔に記していた点は大枠として誤りではありませんが、出会った具体的な年齢や、その後いったん疎遠になってから再会したという経緯までは、一次情報で裏付けられる範囲を超えるため、本稿ではあえて踏み込んでいません。
ブランド名として掲げた「OUR LEGACY」という言葉には、上の世代から受け継いだものを、自分たちの時代と生活に合わせて作り替えるという意味が込められているとされています。Hallinはグラフィックデザイナーとしての仕事やファッション関連のエージェンシー運営を経験し、Nyingはファッションコミュニケーションを学びながら彫刻や絵画、グラフィックデザイン、写真など複数の表現分野に取り組んでいました。2人の背景の違いが、のちのブランドづくりで役割分担のような形に働いていったと見ることができます。
ブランド名として掲げた「OUR LEGACY」という言葉には、上の世代から受け継いだものを、自分たちの時代と生活に合わせて作り替えるという意味が込められているとされています。
音楽Tシャツから始まった2005年の船出
OUR LEGACYの最初の商品は、バンドのマーチャンダイズから着想を得たTシャツのラインでした。デザインはNyingの父親の自宅スタジオでプリントされ、生産はイタリア・フィレンツェで行われたと伝えられています。2人はサンプルを車に積み込み、コペンハーゲンやオスロへ自ら足を運んで営業をかけ、コペンハーゲンのStormや、ヨーテボリのNK Mens Trend、さらには東京のBeams International Galleryといった店舗で早い段階から取り扱いが始まりました。旧版にあった「ストックホルムのレコード店Pet Soundsで取扱ってもらう形で世に出た」という記述は、複数の一次情報を確認したかぎり出典が見当たらず、本稿では採用していません。実際の初期の道のりは、北欧の主要都市を自ら回って店を口説き落とすという、地道な営業活動の積み重ねだったようです。
2007年、それまでストックホルムでAcne Studiosの営業を担当していたRichardos Klarénが、第三の共同経営者として合流します。2008年春夏には、Tシャツにとどまらないメンズウェアの本格的なコレクションを初めて発表し、トラウザーズやニット、テーラリング、コートといった幅広いアイテムへと展開範囲を広げました。ブランドとしての土台が固まったのは、まさにこの3人がそろってからの数年間だったといえます。
「馴染みと異質のあいだ」— ブランドが掲げる美学
OUR LEGACYが繰り返し語ってきたのが、「familiar and irregularの接点」に立つという姿勢です。見慣れたはずのメンズウェアの型を土台にしながら、生地の選び方や仕立ての細部で少しずつ違和感を仕込み、着る人が思わず二度見してしまうような服を作るという考え方です。フォーマルな仕立ての語彙と、ワークウェアやミリタリー由来のラフな要素を同じコレクションの中で行き来させる作り方は、創業から一貫して変わっていません。
2012年春夏に発表した「a CONSTELLATION within」というコレクションは、ブランドにとって一つの転換点だったと位置づけられています。ジオメトリックな柄やペイズリー、裏毛素材の使い方、リラックスしたテーラリングを軸にした内容で、それまでの北欧的なミニマリズムから一歩踏み出し、より実験的な方向へ舵を切ったコレクションでした。同じ年には、ストックホルムの新しいフラッグシップ店をJakobsbergsgatanに構えており、これが現在まで続く旗艦店になっています。旧版にあった「Krukmakargatanの店舗が現在も旗艦店」という記述は誤りで、Krukmakargatanの店は2008年前後に構えた最初の店舗であり、2012年のJakobsbergsgatan移転にともなって役目を終えています。所在地についても、Krukmakargatanが位置するのはストックホルム旧市街Gamla Stanではなく、Södermalm地区です。
生産についても、Nyingたちが公式に説明している内容と、旧版の記述にはずれがありました。実際にはおよそ9割をポルトガルの工場で、残りをイタリアで生産しているとされ、旧版にあった「トルコの織元」という記述は確認が取れませんでした。素材調達の面では、北欧の繊維業界団体STICA(Scandinavian Textile Initiative for Climate Action)に加盟し、2022年からCO2排出量の記録を続けているという事実も確認できています。
デザインの進め方についても、Nyingたちはインタビューのなかで独自のこだわりを語っています。多くのブランドが季節ごとのムードボードから着想を始めるのに対し、OUR LEGACYはまず生地そのものと色の組み合わせを起点に据え、そこからシルエットを組み立てていく手順を取っているとされています。初期のコレクションは「プレップな要素と北欧的なミニマリズムの折衷」と評されることが多く、本人たちはこの位置づけに必ずしも納得していなかったようですが、当時発表したグレーの霜降りスウェットシャツのように、スポーツウェア由来の何気ないアイテムを上質な文脈に置き直す手つきは、初期から一貫して評価されてきたポイントです。
代表アイテム — Box Shirt、Third Cut Jeans、Camion Boot
OUR LEGACYを象徴するアイテムとしてまず挙げられるのが「Box Shirt」です。肩線を大きく落とし、胸ポケットを一つだけ配した、その名の通り箱型のシルエットが特徴で、コットンやコーデュロイ、シーズンごとに異なる生地で作り替えられ続けています。旧版はこのアイテムを「1970年代の北欧労働者のシャツと英国のEdwardian Smockを参照した」と紹介していましたが、この由来を裏付ける一次情報は見当たらず、本稿では採用を見送りました。装飾を削ぎ落としたシルエットそのものが評価されているアイテムだと理解しておくのが実情に近いといえます。
もう一つの柱が「Third Cut Jeans」です。ハイライズから太腿にかけてテーパードし、裾に向けてわずかに広がる独自のシルエットで、イタリア製のセルヴィッジデニムを顔料染めで仕上げるほか、デジタルプリントを施したバリエーションも展開されています。旧版にあった「70s Cut Jeans」という名称や、Levi’s 646やWrangler、岡山のデニム産地、米国Cone Mills、トルコBossaの生地を使うという記述は、いずれも実在の商品名・調達先と一致せず、本稿では採用していません。実際に確認できるのは、Third Cutという名称のもとで、素材と加工のバリエーションを毎シーズン切り替えているという点です。
フットウェアでは、スクエアトゥのシルエットが目を引く「Camion Boot」が定番になっています。Vibram製のアウトソール、YKKのサイドジップ、ポルトガル製のイタリアンレザーを使った作りで、シルエットの強さと歩きやすさを両立させたアイテムとして評価されています。このほか、肩を落としたオーバーサイズの「Borrowed Shirt」、ウール素材でボクシーな見え方に仕立てた「Heusen Shirt」、起毛感のあるウールを使う「Mohair Cardigan」も、ブランドを代表するアイテムとして毎シーズン形を変えながら継続的に展開されています。
WORK SHOPという実験の場
2016年、OUR LEGACYはストックホルムの旧ガレージを改装した「WORK SHOP」という実験的な空間を開きました。ここでは、過去シーズンの余剰生地やサンプルを自社チームが手作業でリメイクしたコーナーのほか、旧作の在庫を扱うデッドストックコーナー、100年前のミリタリーシャツやHelmut Lang、Maison Margielaのアーカイブピースを展示販売するコーナーなどが同居し、店舗であると同時に創作の現場として機能しています。店内には染め直し用の洗濯機やスプレー缶も置かれ、客がその場で生地の加工過程を目にすることができる仕組みです。旧版が「2017年開始」としていた点は年がずれており、実際の開始は2016年です。
WORK SHOPというレーベルは、他ブランドとのコラボレーションの受け皿としても機能してきました。なかでも継続してきたのがStüssyとの協業で、2020年春夏シーズンに始まって以降、複数の巻数を重ねながら現在も続いています。旧版にあった「2021年開始」という記述は1シーズン分ずれていたことになります。2023年11月には、これまで他ブランドとの協業にほとんど応じてこなかったEmporio Armaniとの協業が実現し、レザーコートやシアリングのジャケット、コーデュロイのトラウザーズなどを組み合わせたコレクションをDover Street Marketの店舗を通じて展開しました。この協業は好評を受けて2025年春夏には規模を広げ、ウィメンズウェアにも展開が及んでいます。旧版にあったStone Island Shadow ProjectやReisertとの協業という記述は、いずれも一次情報で確認できず、本稿では採用していません。
国際展開と、セレクトショップでの評価
OUR LEGACYはVans Vaultとの協業を2017年から2018年にかけて展開したほか、Stüssyとの協業ではDenim Tearsを交えた三者による限定コレクションも実現しています。店舗展開の面では、2014年にロンドンでもフラッグシップ店を構え、ストックホルムとロンドンを軸にしながら、韓国ソウルにも複数のショップインショップを持つ体制を築いてきました。LVMHの出資が発表された時点では、世界でおよそ200前後の卸先を抱え、価格帯は150ユーロから1,500ユーロほどの範囲に収まるとされており、なかでもアメリカ市場が売上の中心になっているという説明もなされています。2018年には、ブランドのこれまでの活動をまとめた書籍「Self_Titled: A Book About Our Legacy」も出版されており、ファッションショーよりも写真や出版物を通じてブランドを語るという、初期から続く姿勢がうかがえます。
LVMHの出資と、事業としての急成長
2024年11月、フランスの複合ラグジュアリーグループLVMHでブランドへの出資を担う部門、LVMH Luxury Venturesが、OUR LEGACYの少数株式を取得したと発表されました。2022年のAimé Leon Doreに続く、LVMHにとって近年2件目となるメンズウェアブランドへの出資です。公表された数値によれば、2023年6月期の売上高は前年から80%増の3,000万ユーロに達しており、Hallin自身も複数年にわたって売上が倍増を続け、健全な収益性を確保できていたと語っています。この出資をきっかけに、パリでは2025年後半を目安にフラッグシップ店の開設が予定されているほか、ニューヨークや東京、ロサンゼルス、上海、香港といった都市への出店計画も明らかにされました。旧版にあった「直営店を持たずセレクトショップでの取扱拡大に徹する方針」という記述は、この2024年以降の動きと食い違うため、本稿では改めています。
Klarénは現在、ブランドのCEOとして経営全体を統括する立場にあるとされ、Hallinはクリエイティブとブランドの方向性を、Nyingは素材開発を中心に担ってきたと伝えられています。Klarénが合流する前にAcneで営業畑を歩んでいた経歴は、卸先の開拓や小売との関係づくりという、いま担っている経営面の役割の土台になっていると見ることもできます。3人の役割分担は創業から現在まで大きく崩れておらず、いずれも今もブランドに在籍しているという点は、旧版の記述と変わりません。3人がそろってBusiness of Fashionの「BoF 500」に選出されている点も、複数の情報源で確認できています。
日本での展開 — 2025年、渋谷PARCOに国内初の直営店
OUR LEGACYは長らく、伊勢丹新宿店メンズ館やACRMTSMといった取扱店を通じて日本の顧客と接点を持ってきましたが、2025年6月13日、渋谷PARCO2階に国内初となる直営店をオープンしました。LVMHの出資後に打ち出された国際展開のなかでも、東京は早い段階で直営店を構えた都市の一つにあたります。北欧発のブランドが中古市場でも一定の人気を保っている背景には、こうした正規販路の拡大によって新品の流通量が増え、結果として二次流通に回るアイテムも増えていくという構図があります。
ショーの見せ方にも変化が出てきています。かつては伝統的なランウェイ形式を避け、写真集やSNS動画を通じてコレクションを伝えるスタイルを好んでいましたが、近年はパリ・ファッションウィークでのランウェイショーを継続的に行うようになり、2026年1月にも2026年秋冬コレクションを発表しています。前シーズンの2025年秋冬では、ハート型の金具をあしらった「Burning Heart」ベルトをはじめとするベルト類がスタイリングの主役に据えられ、オーバーサイズのテーラリングを腰まわりで引き締める着こなしが話題を呼びました。
どんな人に似合うブランドか
OUR LEGACYが似合うのは、きれいめな装いをベースにしながら、どこかに崩れた要素を一つだけ効かせたいという人です。Box Shirtのようにシルエット自体で語るアイテムは、テーラードなトラウザーズと合わせても野暮ったくならず、ジーンズと合わせればラフな抜け感を演出できます。ハート型のバックルを使った「Burning Heart」ベルトのように、遊び心のあるアクセサリーが定番として存在している点も、まじめすぎない着こなしを求める人には向いているブランドだといえます。
反対に、ロゴを前面に出したわかりやすい主張を求める人にとっては、OUR LEGACYの控えめな見え方はやや物足りなく映るかもしれません。その場合は、まずCamion Bootのようにシルエットそのものが個性を持つフットウェアから取り入れると、ブランドの言語に馴染みやすくなります。派手な柄物よりも、シルエットの崩し方で個性を出したいという人に向いているブランドだと考えておくとよいでしょう。
中古市場でのOUR LEGACYの位置づけ
中古でOUR LEGACYを探すときにまず見ておきたいのが、内側の生産国タグです。ブランドの生産の大半はポルトガルで行われているため、「Made in Portugal」の表記が基本になり、残る一部はイタリア製という表記になります。Camion BootのようなフットウェアであればYKKのジップやVibramのソールの刻印、Box ShirtやHeusen Shirtのようなシャツであれば縫製の始末や生地の風合いを確認すると、状態や年代の見当をつけやすくなります。
もう一つの目安がフラッグシップ店の変遷です。2012年のJakobsbergsgatanへの移転を境に、ブランドはより実験的な方向へ舵を切っているため、古着として出会うアイテムがそれ以前の落ち着いたコレクションのものなのか、それ以降の柄物や裏毛使いが目立つコレクションのものなのかを見分ける材料として、店舗の変遷を頭に入れておくと役立ちます。WORK SHOPのラインは、もともと一点ごとに仕上げが異なるリメイク品として作られているため、同じ型番でも個体差が大きく、色や加工にばらつきがあること自体を前提に選ぶ姿勢が求められます。2024年のLVMH出資と2025年の日本直営店開業を経て、今後は新品の流通量そのものが増えていく可能性が高く、中古市場に出回るアイテムの幅も広がっていくと見られます。真贋を確認する際は、リベットに刻印されたブランドロゴや、Third Cut Jeansのステッチワークの精度まで見比べておくと安心です。
よくある疑問
OUR LEGACYはLVMH傘下のブランドですか
いいえ、LVMHが取得したのはあくまで少数株式であり、経営権を握る買収ではありません。Hallin自身も、これまで通りの運営を続けながら、出資によって道具箱が少し大きくなったという言い方で説明しています。ブランドの独立性やクリエイティブの方向性は、引き続き創業者3人が握っているというのが実情です。
創業者3人は今も全員在籍していますか
はい、Jockum Hallin、Christopher Nying、Richardos Klarénの3人とも、2024年のLVMH出資時点でブランドの経営陣として名を連ねており、退任したという情報は確認できません。Klarénは現在CEOという立場で、経営面の統括を担っているとされています。
Box ShirtとThird Cut Jeansはどちらから手に取ればよいですか
初めての一着としては、シルエットの個性がわかりやすいBox Shirtが選びやすい入り口になります。すでに手持ちの服にラフな要素を足したい場合は、テーパードから裾にかけて広がるThird Cut Jeansを合わせてみると、ブランドらしい着こなしのバランスがつかみやすくなります。
まとめ
OUR LEGACYの歩みを振り返ると、イェンショーピンのアイスホッケーで出会った2人の少年が、音楽Tシャツという小さな一歩からスタートし、Richardos Klarénの合流を経て、20年をかけてLVMHの出資を受けるブランドへと育っていった軌跡が見えてきます。旧版の記事にあった店舗の所在地や協業年、代表アイテムの名称に関する誤りは、本稿で一つずつ確認し直しました。2025年には日本国内に初の直営店を構え、これから中古市場に出回るアイテムの層もさらに厚くなっていくことが見込まれます。Box ShirtやThird Cut Jeans、Camion Bootといった代表アイテムの見分け方を押さえながら、自分に合う一着を探してみてください。











