Standing Ground(スタンディング・グラウンド)は、アイルランド出身のデザイナーMichael Stewartが2022年にロンドンで設立したブランドです。旧版の記事には「アイルランド・ダブリン出身」「2024年LVMH Prize Grand Prize受賞」という記述がありましたが、一次情報を確認したところ、どちらも事実と異なることが分かりました。Stewartの出身地はダブリンではなくアイルランド西部クレア州の小さな町キルキシェン(Kilkishen)で、2024年のLVMH Prizeで実際に受賞したのはGrand Prize(最高賞)ではなく、この年に新設されたSavoir-Faire賞でした。同年のGrand Prizeを受賞したのはスウェーデンのデザイナーEllen Hodakova Larssonによるブランド「Hodakova」で、Karl Lagerfeld賞はDuran Lantinkが受賞しています。本稿ではこうした点を一つずつ確認し直しながら、Standing Groundの歩みと現在地をお伝えします。
創業者Michael Stewartと創業経緯
Michael Stewartは、アイルランド西部クレア州の東部に位置するキルキシェンという小さな町の出身です。この一帯は、古代の巨石遺構が点在するビュレン(Burren)と呼ばれる石灰岩地帯に近く、Stewart自身が幼いころから見て育った風景でもあります。彼は地元のリムリック美術デザイン学校(Limerick School of Art and Design)で学んだのち、アイルランドの小売企業Kildare Villageが新設した若手デザイナー支援制度「Kildare Village Fashion Bursary」の第1回受給者に選ばれ、そこで得た支援を足がかりにロンドンのRoyal College of Art(RCA、英国の主要な美術・服飾系大学院)の修士課程に進学し、2017年に修了したと報じられています。旧版の記事にあった「Royal College of Art MA Fashion修了」という表記については、複数の一次情報を確認しても正式な専攻名までは確定できなかったため、本稿では単に「RCAの修士課程」という表記にとどめています。
ブランド名「Standing Ground」は、Stewartの地元近くに点在する立石(スタンディングストーン)にちなんで名付けられました。彼は英語圏メディアの取材で、こうした立石について「まるである時代から別の時代へと足を踏み出そうとしている人の姿のようだ」と語っており、太古の石が今も現在の風景の中に立ち続けているという感覚が、ブランドの根底にある発想だと説明しています。旧版の記事には「Irish文化の中核を成すケルト系の伝統工芸と彫刻の構造美に深い関心を抱き」という抽象的な記述がありましたが、実際にはこの立石という具体的なモチーフが出発点になっていたことが、一次情報からうかがえます。
2022年、RCA修了から数年を経てStewartは自身のブランドStanding Groundをロンドンで立ち上げました。デザイナーLulu Kennedyが主宰する若手支援の枠組み「Fashion East」に見出され、2022年9月のロンドン・ファッション・ウィークで、2023年春夏コレクションとしてデビューしています。このデビューコレクションは、あばら骨や腰骨のラインを繊細なスプライス(切り替え)で覗かせ、ビーズをあしらったループやタックでプロポーションに変化をつけるという、身体そのものを設計図にするようなアプローチが特徴でした。海外のファッションメディアはこのシーズンのStanding Groundを「そのシーズンのロンドン・ファッション・ウィークで最も名前を覚えておくべき存在」として取り上げており、デビューの時点からすでに強い注目を集めていたことがうかがえます。旧版の記事にあった「2022年に英国ロンドンで立ち上げたハウス」という創業年自体は結果として大きくは外れていませんでしたが、ダブリン出身という前提や、その後の展開に関する記述の多くは裏付けが取れなかったため、本稿ではあらためて確認できた事実のみで構成しています。
ブランド名「Standing Ground」は、Stewartの地元近くに点在する立石(スタンディングストーン)にちなんで名付けられました。
ブランド美学 — 彫刻的シルエットとアナログな手仕事
Standing Groundの服作りを特徴づけているのは、身体そのものを起点にしたドレーピングと、彫刻に近い構造感を持つコルセットワークです。Stewart自身の言葉を借りれば、着る人の身体の上で布を成形していく「作り手の手の跡」を残すことを重視しており、古代の遺構や遺物が持つ時間の重なりと、未来的な発想を同時に纏わせるような、時代を超えた佇まいを目指しているといいます。実際にブランドを紹介する記事の多くが、Standing Groundの服を「時間を超越した」という言葉で形容しており、単なる過去志向のロマンティシズムでも、単なる未来志向のミニマリズムでもない、両者を橋渡しするような感覚がこのブランドの核にあることがうかがえます。立石という古代の遺物を出発点にしながら、シルエット自体はきわめて現代的なコルセットワークで組み上げるという二重性こそが、Standing Groundを他の若手デザイナーと分けている点だといえるでしょう。
もう一つの大きな特徴が、制作工程における徹底したアナログ主義です。Stewartはインタビューで「アトリエにコンピューターは一台もなく、すべてがアナログだ」と明言しており、パターンの展開から仮縫いに至るまで、デジタルツールに頼らない手作業を貫いていると語っています。既製のパターンをサイズ展開して量産するのではなく、着る人それぞれの身体の凹凸に向き合いながらドレープとコルセットワークの形を決めていくという、ブランド自身が公表しているものづくりの方針とも重なる作り方です。ロンドン中心部のザ・ストランド沿いにアトリエを構え、複数のスタッフとともに一着ずつ身体に合わせて仕立てていくという体制は、量産を前提とした多くのインポートブランドとは異なる、オートクチュールに近い作り方だといえます。旧版の記事にあった「ニュージーランド産メリノとイタリアBiellaの混紡」「一着14-18時間の手仕上げ」といった具体的な生産体制の描写については、裏付けとなる一次情報が確認できなかったため、本稿では採用していません。
代表アイテムとLVMH Prize — 2024年に受賞したのは何か
Standing Groundを象徴する意匠は、身体のラインに沿って構造的に組み上げられたコルセット付きのドレープドレスです。フロアレングスのシルエットに、コルセットによる立体的な構造と、流れるようなドレープを組み合わせた一着は、複数の海外メディアで繰り返し取り上げられる代表作になっています。
2024年、Standing Groundは業界内での評価を一気に押し上げる出来事に恵まれました。フランスの服飾コングロマリットLVMHが主催するLVMH Prize(2014年に始まった若手デザイナー支援の賞)の第11回にあたるこの年、新たに設けられた「Savoir-Faire賞」の最初の受賞者にStewartが選ばれたのです。この賞は、卓越した技術と職人性を持つ若手デザイナーを称えるために新設されたもので、Standing Groundは賞金20万ユーロに加え、LVMH傘下の専門家チームによる1年間のメンタリング、そして刺繍工房Maison Vermontとの協業による次シーズンの装飾支援(5万ユーロ相当)を受けています。旧版の記事とブランド側の既存記録の両方に「LVMH Prize Grand Prize受賞」という記述がありましたが、この年のGrand Prizeはスウェーデンのブランド「Hodakova」を率いるEllen Hodakova Larssonが受賞しており、Standing Groundが受賞したのは別枠のSavoir-Faire賞だったことが、LVMH公式および複数の海外メディアの報道から確認できます。なお、同年のもう一つの副賞であるKarl Lagerfeld賞は、Duran Lantinkが受賞しています。
2024年のLVMH Prizeは、18か国から集まった20組のセミファイナリストのなかから、4月23日にAubero、Duran Lantink、Hodakova、Marie Adam-Leenaerdt、Niccolò Pasqualetti、Paolo Carzana、Pauline Dujancourt、Standing Groundの8組がファイナリストとして選出され、同年9月10日にパリのフォンダシオン・ルイ・ヴィトンでコレクションを発表するという流れで進みました。Grand Prize、Karl Lagerfeld賞、Savoir-Faire賞という3つの異なる賞が同じ授賞式で同時に発表される仕組みのため、報道の見出しだけを追うと「LVMH Prizeを受賞した」という一文だけが独り歩きし、どの賞を受賞したのかという肝心の部分が曖昧なまま伝わってしまうケースが少なくありません。旧版の記事とブランド側の既存記録に共通して見られた誤りも、こうした賞の構造の複雑さが背景にあったのではないかと推測されます。
Savoir-Faire賞という名称のとおり、この受賞はStanding Groundの規模の大きさや商業的な成功を評価したものというより、コルセットワークとドレープを組み合わせた手仕事の精度そのものが評価された結果だといえます。実際、Stewartはこの受賞以降も量産路線には進まず、プライベートクライアント向けのオーダーメイドやレッドカーペット向けの一点物を中心にした制作体制を維持してきました。
着用実績としては、米国の歌手Beyoncéがコバルトブルーのドレスを公の場で着用したほか、俳優Tilda SwintonやFlorence Pugh、スーパーモデルNaomi Campbellらが複数の機会にStanding Groundを身につけたと報じられています。旧版の記事にあった「Park Hyung-sik」や「BLACKPINKメンバー全員」の着用実績については、個別の裏付けとなる一次情報が確認できなかったため、本稿では採用していません。
2026年7月には、Standing Groundにとってさらに大きな節目が訪れました。パリ・オートクチュール・ウィークの公式カレンダーに、独立系のアイルランド人デザイナーとして初めて名を連ね、パリのアイルランド大使館を会場にコレクションを発表したのです。約30ルックからなるこのコレクションは、コルセットとドレープを組み合わせたフロアレングスのガウンを中心に、青・緋色・エメラルド・ライラック・オレンジ・イエロー・黒・グレーといった鮮やかな色使いでまとめられ、テーラリングを効かせた黒のパンツスーツも一部含まれていました。なかでも注目を集めたのが、アイルランドの伝統的なレース技法カリックマクロス・レースを使った一着で、複数のアイルランド人職人が長い時間をかけて手掛けたというこのドレスは、スーパーモデルKristen McMenamyが着用してランウェイを歩いています。会場にはVogue編集長Anna Wintourも姿を見せており、アイルランドの手工芸をパリの舞台に持ち込んだ試みとして、複数の海外メディアで大きく報じられました。
どんな人に似合うブランドか
Standing Groundが似合うのは、量産型のロゴブランドとは異なる、身体の構造そのものを見せるような一着を求める人です。コルセットによる立体的な構造と、流れるようなドレープを両立させたシルエットは、パーティーやレッドカーペットのような非日常の場面でこそ本領を発揮するタイプの服だといえます。派手なロゴ主張ではなく、素材の扱いとパターンの精度そのもので語る服を好む人にとっては、数少ない選択肢の一つになるはずです。
一方で、Standing Groundはもともとカジュアルなデイリーウェアを主戦場にしているブランドではないため、街着として気軽に取り入れたいという人にはやや距離のあるブランドかもしれません。その場合は、後述する中古市場での流通事情も踏まえたうえで、まずは写真や映像資料でシルエットの特徴を確認し、自分の求める場面に合うかどうかを見極めてから探し始めることをおすすめします。彫刻的な構造美やオートクチュール的な手仕事に関心がある人にとっては、量産ブランドでは得られない緊張感のある一着に出会える可能性があるブランドです。
デビューコレクションで見せたような、あばら骨や腰骨のラインをスプライスで覗かせる際どいプロポーションの服が好きな人にも向いています。露出そのものを目的にするのではなく、身体の構造を布の切り替えで可視化するという発想は、単なるセクシーさとは違う知的な緊張感を服にもたらしており、コンサバティブになりすぎない大人の装いを探している人の選択肢としても機能します。逆に、身体のラインを強調しすぎない服を好む人にとっては、Standing Groundのコルセットワークは主張が強く映るかもしれません。その場合は、パンツスーツのようなテーラリング寄りのアイテムから距離感をつかんでいくのも一つの方法です。
中古市場でのStanding Groundの位置づけ
Standing Groundを中古市場の視点から見るときにまず押さえておきたいのは、このブランドがもともとプライベートクライアント向けのオーダーメイドやレッドカーペット用の一点物を中心に据えており、大量生産のレディ・トゥ・ウェア(既製服)ラインを主戦場にしているブランドではないという点です。旧版の記事には「彫刻的ジャージドレスは中古市場で8万円から25万円」といった具体的な価格帯の記述がありましたが、こうした数字を裏付ける一次情報は確認できず、本稿では採用していません。実際には、Beyoncéが着用したドレスのようなセレブリティ着用歴のある一点物や、パリでのオートクチュール発表で披露されたような特注色の強い作品ほど、そもそも二次流通市場に出回ること自体が稀だと考えるのが実情に近いといえます。
日本国内でStanding Groundを中古で探す場合、選択肢になるのはVestiaire Collectiveのような海外の委託販売プラットフォームや、一部のハイブランドを扱う国内セレクトショップ、フリマアプリでの個人間取引などが中心になります。ただし、前述のとおりこのブランドは量産ラインを持たない分、市場に出回る個体数自体が他のインポートブランドに比べて少ない点は、探す前に理解しておいたほうがよいでしょう。むしろ、Standing Groundの服は「頻繁に見つかるもの」としてではなく、「見つかったときには相応の背景を持つ一点物である可能性が高いもの」として向き合うのが、このブランドらしい中古との付き合い方だといえます。
状態を見極める際には、コルセット部分の骨格(ボーニング)が歪んでいないか、ドレープ部分の縫製に緩みが出ていないかを確認するとよいでしょう。手作業でパターンを展開しているブランドの性質上、同じ型番でも個体差が出やすく、購入前の実物確認やサイズの実寸チェックがとりわけ重要になります。真贋の面では、量産ブランドのようにタグの型番だけで判断するのが難しいため、販売元がどこから仕入れた個体なのか、来歴がある程度説明できるかどうかを確認できる販売経路を選ぶと安心です。海外のセレブリティ着用歴がある個体であれば、着用時期の報道写真と照らし合わせることも、真贋判断の一つの手がかりになります。
よくある疑問
Standing Groundは本当に2024年のLVMH Prize Grand Prizeを受賞したのですか
いいえ、正確には異なります。2024年のLVMH Prize Grand Prize(最高賞)を受賞したのはスウェーデンのブランドHodakovaを率いるEllen Hodakova Larssonで、Standing Groundが受賞したのはこの年に新設されたSavoir-Faire賞です。賞金20万ユーロと1年間のメンタリング、刺繍工房Maison Vermontとの協業による装飾支援を受けています。同年のKarl Lagerfeld賞はDuran Lantinkが受賞しました。
Michael Stewartはダブリン出身のデザイナーですか
いいえ、正確にはアイルランド西部クレア州のキルキシェンという町の出身です。旧版の記事にあった「ダブリン出身」という記述は、複数の一次情報を確認するかぎり事実と異なります。ブランド名「Standing Ground」は、彼の地元近くに点在する古代の立石にちなんで名付けられました。
中古でStanding Groundを選ぶときに注意すべき点はありますか
まず、このブランドがもともと大量生産のレディ・トゥ・ウェアを中心にしていない点を理解しておくことが重要です。市場に出回る個体自体が少ないため、見つかった際にはコルセット部分の骨格の歪みやドレープ部分の縫製状態を実物で確認し、来歴をある程度説明できる販売経路を選ぶことをおすすめします。
Standing Groundは日本の店舗で購入できますか
本稿執筆時点で、国内に公式の直営店や取扱店があるという一次情報は確認できていません。Stewart自身がプライベートクライアント向けの受注制作やレッドカーペット向けの特注を中心に活動してきた経緯を踏まえると、現時点では海外の百貨店やセレクトショップとの取引、あるいは委託販売プラットフォームを通じた入手が主な経路になると考えられます。今後パリ・オートクチュール・ウィークへの参加が続けば、取り扱いの窓口が広がる可能性はありますが、この点は今後の動向を注視する必要があります。
まとめ
Standing Groundの歩みを一次情報で確認し直すと、アイルランド西部クレア州キルキシェン出身のMichael Stewartが、地元の立石という具体的な原風景を出発点に、2022年にロンドンでブランドを立ち上げ、コルセットとドレープを組み合わせた彫刻的なシルエットとアナログな手仕事を貫いてきたことが見えてきます。2024年に受賞したのはLVMH Prize Grand PrizeではなくSavoir-Faire賞であり、この点は旧版の記事とブランド側の既存記録の両方に共通していた誤りでした。BeyoncéやTilda Swinton、Florence Pughといった着用実績を重ねながら、2026年7月にはパリ・オートクチュール・ウィークの公式カレンダーに独立系のアイルランド人デザイナーとして初めて名を連ねるまでに至っています。中古市場では、量産ラインを持たないという事情から個体数自体が少ないブランドですが、だからこそ見つかった一着には相応の背景がある可能性が高いという視点を持って、探してみる価値があるブランドだといえます。2022年のFashion Eastデビューから、わずか2年でのLVMH Prize Savoir-Faire賞受賞、そして2026年のパリ・オートクチュールデビューという歩みは、量産や規模拡大ではなく、一着ごとの手仕事の精度を積み重ねる方向でキャリアを築いてきたデザイナーの軌跡として、今後も注視する価値があるといえるでしょう。











