S.S. Daley(エスエス・デイリー)は、英国リバプール出身のSteven Stokey-Daley(スティーヴン・ストーキー=デイリー)が2020年に立ち上げたロンドン発のメンズウェアハウスです。旧版の記事は、2022年の受賞歴を「LVMH Karl Lagerfeld Prize」と紹介していましたが、複数の海外メディアの報道を確認したところ、これは誤りでした。正しくはLVMH Prize本賞(グランプリ)の受賞であり、同年のKarl Lagerfeld Prizeは史上初めて2ブランドで分け合う形となり、ERLとWinnie New Yorkが受賞しています。また、出身大学での専攻を「University of Westminster MA Menswear」としていた記述も、正しくはBA(学士)のFashion Design課程であり、大学院のメンズウェア専攻という学歴は確認できませんでした。本稿では、こうした点を一次情報で確認し直しながら、S.S. Daleyの歩みと現在地をお伝えします。
創業者Steven Stokey-Daleyと創業の経緯
Steven Stokey-Daleyは英国リバプールの出身で、ロンドンのUniversity of Westminsterでファッションデザインを学びました。在学中にはAlexander McQueenとTom Fordのメンズウェアチームで経験を積んだと海外メディアは伝えています。旧版の記事にあった「University of Westminster MA Menswear修了」という記述は、複数の一次情報を確認するかぎり裏付けが見当たらず、正しくはBA(学士)課程のFashion Design(Honours)であり、2020年に卒業しました。同大学の発表によれば、最終学年のコースはAndrew Groves教授が指導にあたっていたとされており、同校のファッションデザイン課程は英国のロンドン・ファッション・ウィーク公式スケジュールに学生コレクションを送り出してきた実績を持つ教育機関としても知られています。
卒業制作として発表したコレクション「The Inalienable Right」は、英国のパブリックスクール(私立の寄宿学校)に通う少年たちの同性間の親密さや、そこに漂う独特の軽薄さをテーマにしたもので、E.M. Forsterの小説『モーリス』を参照点のひとつとして制作されたと、ブランドの公式サイトや海外メディアは紹介しています。この卒業コレクションが、のちにブランドの美学の出発点になりました。
2020年、Stokey-Daleyは大学を卒業した直後に自身のブランドS.S. Daleyを立ち上げます。折しも英国では新型コロナウイルスの影響で最初のロックダウンが敷かれていた時期で、海外メディアの報道によれば、彼はリバプールの実家からブランドの立ち上げ作業を進めていたとされています。同年2月にはロンドン・ファッション・ウィークのランウェイでデビューを飾り、その後は生産体制の一部をリバプールと英国各地に築きながら、発表の拠点はロンドンに置くという体制で歩みを進めてきました。旧版の記事にあった、彼の生い立ちを特定の階級と結びつける記述については、裏付けとなる一次情報が見当たらなかったため、本稿では採用していません。
Forbesのプロフィールによれば、S.S. Daleyは2021年の秋冬シーズンを最後に、いったん自社ECを含む直販(D2C)事業を停止し、卸売り(ホールセール)中心の展開に切り替えたと紹介されています。急成長にともなう生産キャパシティの制約や、限られた人員体制のなかで品質を保つための判断だったと推測できますが、この経緯自体を明言した一次情報までは確認できませんでした。いずれにせよ、S.S. Daleyが大量生産型のブランドではなく、海外の一部セレクトショップを主な販路とする小規模な体制を続けてきたことは、複数の情報源を通じて共通して確認できる事実です。
旧版の記事は、2022年の受賞歴を「LVMH Karl Lagerfeld Prize」と紹介していましたが、複数の海外メディアの報道を確認したところ、これは誤りでした。
ブランド美学 — 英国エリート階層の制服を書き換えるテーラリング
S.S. Daleyのデザインを特徴づけているのは、ボート部の集うレガッタやクリケットの試合、パブリックスクールの制服文化といった、英国の上流階級・エリート層の周辺にある服飾コードを研究し、それを現代的でジェンダーの境界を越えた衣服へと書き換えていく手法です。硬直したアッパークラスの男性像を、海外メディアの評では「見事にモダンで、両性具有的な衣装」へと転換させていると表現されています。Stokey-Daley自身のリサーチには、E.M. Forsterの『モーリス』に加えて、Evelyn Waughの小説『ブライヅヘッド・リヴィジテッド』も参照点として挙げられており、英国の特権階級と、その内部にあるクィアなアイデンティティというテーマが、初期から一貫して作品の底流にあります。
素材面では、フランス産のリネンや、家具の張地(アップホルスタリー)に使われるような重厚なテキスタイル、さらにはアンティークのテーブルクロスをアップサイクルして仕立てに用いる手法が知られています。ハンドスモッキング(手作業による細かい寄せ縫い)や刺繍といった手仕事の装飾も、S.S. Daleyの衣服を特徴づける要素です。ブランドの公式説明によれば、英国内で地域調達した天然繊維を用い、環境負荷を抑えたものづくりを志向しているとされています。
海外メディアのインタビューでStokey-Daley自身は、自らの作風を「過剰なまでにキャンプ(camp、大げさで演劇的な美意識)な世界が、超男性的な統治機構のなかに入り込んでいくようなもの」と表現しています。小さな町の保守的な空気と、英国エリート層が持つ独特で異質な世界という、彼が育つなかで感じ取ってきた対照を、特定の政治思想を礼賛するのではない形で作品に落とし込もうとしている点も、複数のインタビューを通じて語られました。2021年秋冬コレクションは、パブリックスクールという閉じた社会のなかにある親密さと権力構造をテーマにしたと海外メディアで紹介されており、家具用の生地から仕立てたレガッタ風のトレンチコートや、クリケットキャップを思わせるディテールでポケットを留めたウールシャツなど、英国の余暇文化を素材の選び方から作り替えるアプローチが続いています。
ハウスの代名詞のひとつがインターシア編みのニットで、スコットランド産のラムウールを用い、袖にグラフィックなモチーフをあしらったセーターやカーディガンとして展開されています。派手なロゴを主張するのではなく、編み地そのものの図案や、リブ使いのシルエットで語る作風は、Savile Rowに象徴される英国式テーラリングの伝統を踏まえながらも、堅苦しさを脱臼させるようなユーモアを漂わせている点が特徴です。麦わらのカンカン帽(ボーターハット)や花柄のディテールといった小物も、こうした英国的な余暇の情景を思わせるアイテムとして繰り返し登場します。
代表アイテムと著名人着用 — 「Golden」から出資者となったHarry Stylesまで
S.S. Daleyの名を世界的に知らしめた最初の出来事は、2020年10月26日に公開されたHarry Stylesのミュージックビデオ「Golden」です。旧版の記事はこの着用の年を「2021年」としていましたが、複数の海外メディアの報道によれば、映像の公開日は2020年10月であり、年の記述が誤っていました。スタイリストのHarry Lambert(ハリー・ランバート)が、大学を卒業したばかりのStokey-Daleyの卒業コレクションから、「Hall Tennant」という名のシャツと「Sebastian」という名のトラウザーズを選び、Harry Stylesに着せたことがきっかけとされています。白い襞のあるシャツは、先述のEvelyn Waughの『ブライヅヘッド・リヴィジテッド』を思わせるスタイリングだと海外メディアで評され、ヴィンテージのカーテン地から仕立てられた花柄のトラウザーズは、映像の公開直後に完売したと伝えられています。旧版の記事は、こうした着用の経緯を「友人関係を介した拡散」のように紹介していましたが、実際にはスタイリストHarry Lambertとの縁が発端であり、当時のStokey-Daleyと Harry Styles本人に個人的な面識があったことを示す一次情報は確認できませんでした。急増した注文をさばくため、Stokey-Daleyは祖母の伝手で近隣の縫製職人たちの協力を集め、年末までにシャツとトラウザーズを仕上げたというエピソードも海外メディアで紹介されています。
2021年9月には初めての単独ランウェイショーを開催し、Anna Wintourがリハーサルを訪れたと大学側の発表資料は伝えています。この時期の着用者にはHarry Stylesのほか、俳優のSir Ian McKellenやJosh O’Connorの名前が挙がりました。同じ2021年には、英国ファッション評議会(BFC)が新進デザイナーを支援する枠組みNEWGENの対象にStokey-Daleyが選ばれ、同年はPriya AhluwaliaやPaolo Carzanaといったデザイナーも同じ支援を受けています。
もっとも大きな転機となったのが、2022年6月7日、パリのルイ・ヴィトン財団で発表されたLVMH Prizeの結果です。Jonathan Anderson、Kim Jones、Maria Grazia Chiuri、Nicolas GhesquièreやStella McCartneyらが名を連ねる審査員団のもと、S.S. DaleyはLVMH Prize本賞(グランプリ)を受賞し、賞金30万ユーロと、LVMH傘下メゾン(Louis Vuitton、Dior、Fendi、Givenchy、Loewe、Kenzoなど)から1年間のメンタリングを受ける権利を得ました。審査員団にはこのほかDelphine Arnault、Sidney Toledano、Nigo、Jean-Paul Claverie、Silvia Venturini Fendiといった顔ぶれも名を連ねており、この年は第9回目にあたるLVMH Prizeの開催でした。授賞式ではCate Blanchettが本賞のプレゼンターを務めています。同じ年、賞金15万ユーロのKarl Lagerfeld Prizeは初めて2ブランドで分け合う形が採られ、Eli Russell Linnetzが手がけるERLと、Idris Balogunが手がけるWinnie New Yorkが受賞しました。旧版の記事が「2022 LVMH Karl Lagerfeld Prize」としていたのは、この2つの賞を混同した誤りであり、Stokey-Daleyが受賞したのはあくまで本賞のほうです。同じ2022年には、英国ファッション評議会が主催するThe Fashion Awardsで、新進デザイナーを称えるBFC Foundation Awardも受賞しました。
2023年9月13日には、ロンドン・ファッション・ウィークで初めてのウィメンズウェア・コレクションを発表し、メンズウェアのハウスとして出発したブランドの表現の幅を広げました。2024年1月には、イタリア・フィレンツェで開催されるメンズウェアの祭典Pitti Immagine Uomoの第105回展でゲストデザイナーに指名され、Fortezza da Bassoで単独ランウェイショーを行っています。このショーの直後にあたる2024年1月11日、Harry StylesがS.S. Daleyに少数株主として出資したことが複数の海外メディアで報じられました。出資額は非公開ながら、直販(D2C)事業の強化と持続的な事業拡大を目的とした資本参加だと伝えられています。Harry Stylesは「Golden」以来S.S. Daleyの愛用者として知られてきましたが、単なる着用者から出資者へと関係を深めた点は、ブランドの歩みを語るうえで欠かせない出来事です。同じ2024年には、英国ファッション評議会財団が贈るQueen Elizabeth II Award for British Designも受賞しています。
どんな人に似合うブランドか
S.S. Daleyが似合うのは、伝統的な英国式テーラリングを土台にしながらも、堅苦しさをそのまま引き受けるのではなく、どこかユーモラスに着崩したい人です。インターシア編みのニットや、フリルやスモッキングをあしらったシャツは、一枚で存在感を放つため、シンプルなパンツやコートと組み合わせて主役として着るという選び方が向いています。レガッタやクリケットといった英国の余暇文化に由来するモチーフに惹かれる人や、文学的な参照を服に見出すことを楽しめる人にとっても、相性のよいブランドだといえます。
一方で、無地でミニマルな装いを好む人には、S.S. Daleyの装飾性や物語性はやや過剰に映るかもしれません。その場合は、装飾を抑えたシャツや、単色のトラウザーズといった比較的シンプルなアイテムから試してみると、ブランドとの距離感がつかみやすくなります。ジェンダーにとらわれない着こなしを楽しみたい人にとっても、メンズウェアから出発しつつウィメンズウェアへと表現の幅を広げてきたS.S. Daleyは、選択肢の多いブランドのひとつです。
価格帯としては、決して手が届きやすいブランドではありません。もっとも、インターシア・ニットや装飾を抑えたシャツなど、比較的取り入れやすい単価のアイテムから、フルルックのテーラリングまで幅がある構成になっているため、まずは一枚を日常のコーディネートに差し込むところから試すという楽しみ方もできます。英国のレガッタやクリケットといった余暇文化に馴染みが薄い読者でも、映画や文学のなかの英国的な情景を思い浮かべながら選ぶと、単なる柄物としてではなく、背景のある一着として受け止めやすくなるはずです。
中古市場でのS.S. Daleyの位置づけ
S.S. Daleyは、2020年創業という若いブランドでありながら、ホールセール(卸売り)中心の展開と小ロットの生産体制を続けてきたため、市場に出回る絶対数がもともと多くありません。そこにHarry Stylesの着用や出資という話題性、LVMH Prize受賞という業界内での評価が重なったことで、初期のインターシア・ニットや「Hall Tennant」「Sebastian」のようなシグネチャーアイテムを中心に、海外のコンサイメントプラットフォームや古着店で個体を探す動きが続いています。日本国内ではまだ流通量自体が限られていますが、英国的なテーラリングを軸にした古着を扱う店舗や、海外の委託販売サイトを経由して入手するのが主な選択肢になります。旧版の記事にあった具体的な中古価格帯の記述は、裏付けとなる一次情報が確認できなかったため、本稿では採用していません。
中古で状態を見極める際には、量産品を前提にしたチェック項目だけでなく、素材そのものの特性を踏まえておくとよいでしょう。ハンドスモッキングや刺繍を施したシャツ、家具用のアップホルスタリー生地やアンティークのテーブルクロスを使った一点物に近いアイテムは、量産品とは異なる縫製やコンディションの個体差が出やすい傾向にあります。インターシア・ニットについては、スコットランド産ラムウールという素材の特性上、毛玉や型崩れの有無を確認しておくと安心です。ブランドが小ロット生産を続けてきた背景を踏まえると、サイズ展開自体が限られているシーズンもあるため、実寸を確認したうえで選ぶことをおすすめします。あわせて、S.S. DaleyはNET-A-PORTERのような海外の大手セレクトショップでも取り扱われてきたブランドです。新品を扱う販路が海外の限られたプラットフォームに集中してきたぶん、日本国内での正規流通は少なく、中古であっても入手経路そのものが海外に偏りやすいという事情も踏まえておくとよいでしょう。
よくある疑問
S.S. Daleyが受賞したのはLVMH Prizeの本賞ですか、それともKarl Lagerfeld Prizeですか
本賞(グランプリ)です。2022年6月7日に発表されたLVMH Prizeで、S.S. Daleyは賞金30万ユーロとLVMH傘下メゾンからのメンタリングが伴う本賞を受賞しました。同じ年のKarl Lagerfeld Prizeは初めて2ブランドで分け合う形が採られ、ERLとWinnie New Yorkが受賞しています。両者は名称も賞金額も異なる別々の賞であり、旧版の記事にあった「Karl Lagerfeld Prize受賞」という記述は誤りでした。
Harry StylesとS.S. Daleyの関係は、着用だけですか
いいえ、着用にとどまりません。2020年公開の「Golden」でスタイリストHarry Lambertを介して着用したのが最初の接点で、その後も長くS.S. Daleyの愛用者として知られてきましたが、2024年1月にはHarry Styles自身がブランドに少数株主として出資したことが海外メディアで報じられています。着用者から出資者へと関係が発展した点は、S.S. Daleyの歩みを語るうえで重要な出来事です。
S.S. Daleyはメンズウェアだけのブランドですか
創業時はメンズウェアを軸にしたハウスとしてスタートしましたが、2023年9月にロンドン・ファッション・ウィークで初めてのウィメンズウェア・コレクションを発表しており、現在はメンズウェアとウィメンズウェアの両方を手がけています。もともとジェンダーの境界を越えた表現を志向してきたブランドの成り立ちを踏まえると、自然な展開だといえます。旧版の記事は男性デザイナーによる男性向けの服という枠組みだけでS.S. Daleyを紹介していましたが、こうした展開の経緯まで含めて理解しておくと、ブランドの現在地がより立体的に見えてきます。
まとめ
S.S. Daleyの歩みを一次情報で確認し直すと、リバプール出身のSteven Stokey-Daleyが、University of WestminsterのBA課程で英国のパブリックスクール文化を題材にした卒業コレクションを制作し、2020年のロックダウン下でブランドを立ち上げてから、わずか数年でLVMH Prizeの本賞受賞と、Harry Stylesからの出資獲得という2つの大きな節目を迎えたことが見えてきます。旧版の記事にあった「Karl Lagerfeld Prize受賞」という誤り、「MA Menswear」という学歴の誤り、Harry Styles着用の年の誤り(2021年ではなく2020年)は、いずれも一次情報を確認するかぎり事実と異なっていたため、本稿であらためて整理しました。英国のレガッタやクリケットに由来する服飾コードを、文学的な参照とともに書き換えていくというブランドの美学、そして「Hall Tennant」シャツや「Sebastian」トラウザーズ、インターシア・ニットといった代表アイテムの成り立ちを踏まえたうえで、中古でのアイテム選びに役立ててみてください。ホールセール中心の小規模な生産体制を続けてきたブランドであるだけに、一着ごとの背景を知っておくことが、数少ない流通個体に出会えたときの満足度にもつながるはずです。











