韓国・ソウル発祥の K-Eyewear
Gentle Monster は 2011 年にソウルで創業しました。創業者は韓国人の Kim Han-kook (김한국) で、ブランドは現在も親会社 IICOMBINED (アイアイコンバインド) という韓国のクリエイティブ持株会社の下で運営されています。IICOMBINED は Gentle Monster を主力としつつ、化粧品ブランド Tamburins (タンバリンズ、2017 年創業)、ファッションブランド Nuderoom (2019 年創業) などを傘下に持つ多角的なホールディングスです。
2010 年代の韓国アイウェア市場は、欧米輸入ブランド (Ray-Ban、Oakley、Persol、Linda Farrow など) が中心で、韓国国内発のアイウェアブランドはほぼ存在しませんでした。Kim Han-kook はこの状況を「アジア人の顔骨格に最適化した独自フィットの欠如」 「アイウェアを単なる視力補正ではなく芸術表現として扱う場の不在」 と捉え、両者を同時に解決するブランドとして Gentle Monster を始動しました。
アジア人の骨格に合わせたフィット設計と彫刻的なフレーム形状を両立させ、独自路線を貫くアイウェアブランドです。個性の強いデザインが多く、控えめなメガネを好む方には主張がやや強く感じられる場合があります。
アジア人の骨格に合わせたフィット設計と彫刻的なフレーム形状を両立させ、独自路線を貫くアイウェアブランドです。
創業初期の「Asian Fit」 とアバンギャルドなフレームデザイン
Gentle Monster の創業初期の最大の独自性は、アジア人の顔骨格 (鼻梁が低く、頬骨が広い特徴) に合わせた「Asian Fit」 の設計でした。欧米ブランドのフレームは鼻パッドが小さくテンプル幅が狭いため、アジア人が長時間着用すると鼻周りに違和感が残る課題が広く指摘されていました。
Gentle Monster は、鼻パッド形状の独自開発、テンプル幅とフロント幅のバランス調整、レンズ形状の彫刻的なシェイプの組み合わせで、アジア人にフィットしつつ世界市場でも個性的な視覚的存在感を持つアイウェアを開発しました。
2014 年 BLACKPINK Jennie 着用とブレイクスルー
Gentle Monster のグローバル認知の決定的な瞬間は、2014 年から 2015 年にかけて YG エンタテインメントの新人ガールズグループ BLACKPINK のメンバー Jennie が、デビュー前後の SNS と公の場で Gentle Monster のサングラスを継続的に着用したことでした。
YG エンタテインメントは Kim Han-kook と密接な関係を構築し、BLACKPINK の他に G-Dragon (BIGBANG)、CL (2NE1)、iKON のメンバーたちも Gentle Monster を継続着用しました。K-Pop ファンの世界的拡散を通じて、Gentle Monster は短期間で東南アジア、中華圏、北米、欧州に認知を広げました。
体験型店舗の独自設計哲学
ブランドの最も独特な要素は、各旗艦店を巨大なインスタレーション空間として運営する独自の店舗設計哲学です。Gentle Monster の店舗は、商品を陳列するためのスペースではなく、展示美術のような空間体験を提供する場として設計されています。
ソウル弘大の旗艦店「Haus Dosan (ハウス・ドサン、2021 年開業)」 は、6 階建てのビル全体を巨大なロボットアートと光のインスタレーションで埋め尽くした空間で、訪問者は店舗内を移動するだけで現代美術館を経験するような演出が施されています。明洞、NYC SoHo、ロンドン Selfridges、北京三里屯、上海芮欧百貨、ドバイ Mall of the Emirates、東京・表参道 (2019 年開業) の各店舗でも、独自のインスタレーションが季節ごとに更新される運営方式です。
アイウェアのコレクションとシリーズ展開
Gentle Monster の主要コレクションは、サングラス、メガネフレーム、そして近年のスマートグラス (2024 年 Huawei との協業) に分かれます。シリーズは「My Ma」 「Tilda」 「Roko」 「Mun」 「Ghost」 「Side By Side」 など、固有名と造語を組み合わせた名前で展開されます。
特に「Tilda」 シリーズは、米英の俳優 Tilda Swinton との 2017 年からの継続的なコラボレーションで開発されたシリーズで、Swinton 個人の Edward Scissorhands 風な視覚アイデンティティを反映した angular で大胆なフレーム形状を特徴とします。「Maison Margiela × Gentle Monster」 (2018 年、2020 年)、「Alexander Wang × Gentle Monster」、「Moncler × Gentle Monster」 など、主要ファッションメゾンとのコラボシリーズも継続発表されています。
著名な着用者
公の場で Gentle Monster を着用した著名人には、BLACKPINK Jennie、Beyoncé、Rihanna、Tilda Swinton、Jennifer Lopez、Cardi B、Kim Kardashian、Bella Hadid、Kendall Jenner、Pharrell Williams、A$AP Rocky、坂本龍一、河瀬直美、Lana Del Rey、Lily-Rose Depp などが含まれます。
特に Beyoncé が 2018 年から複数の公の場で Gentle Monster の Tilda シリーズを着用したことは、ブランドの認知を米国メインストリーム市場と R&B 業界に拡大する転機となりました。
Tamburins と Nuderoom の派生事業
親会社 IICOMBINED は、Gentle Monster の成功をベースに 2017 年に化粧品ブランド Tamburins を、2019 年にファッションブランド Nuderoom をそれぞれ立ち上げました。Tamburins は香水、ハンドクリーム、リップオイル、ヘアミストなど ハイエンドコスメを展開し、ジャズミン、ローズ、ナルシス、ヴァニラといった単一花の香水を主力としてきました。
Tamburins の店舗もまた、Gentle Monster と同様の体験型インスタレーション空間として運営されており、ソウル江南区の旗艦店「Tamburins Flagship」 は、芸術美術館に近い設計で訪問者を集めています。
グローバル展開と販売チャネル
Gentle Monster の販売チャネルは、世界中の旗艦店 (ソウル弘大、明洞、東京・表参道、北京三里屯、上海芮欧百貨、ロンドン Selfridges、NYC SoHo、ロサンゼルス、ドバイ、香港尖沙咀)、公式オンラインストア (gentlemonster.com)、Net-a-Porter (グローバル EC)、Mr Porter (英国 EC)、SSENSE (グローバル EC)、Dover Street Market (主要都市) などです。
直営店比率が高く、自社ブランド・コントロールを最大化する方針が業界の他のアイウェアブランドと一線を画しています。Luxottica グループに依存する多くの欧米ブランドと異なり、Gentle Monster は IICOMBINED 内で完全な独立生産・販売体制を維持しています。
ヴィンテージ古着市場での Gentle Monster の見方
Gentle Monster のサングラスとメガネフレームは、二次流通市場でも安定した流通量を持ちます。中古価格帯は、定番のサングラスが 12,000 円から 35,000 円台、Tilda シリーズが 25,000 円から 60,000 円台、Maison Margiela コラボや限定モデルが 35,000 円から 90,000 円台、スマートグラス (Huawei コラボ) が 30,000 円から 70,000 円台で取引される事例が観察されます。
タグ箱には「Gentle Monster, Made in Korea」 表記が標準で、レンズには「GM」 の刻印、テンプルには 4 桁の型番が刻まれています。コレクター層は 2011 年から 2014 年までの初期 Made in Korea ロットを特に高評価する傾向があり、二次流通でも他年代より一段高い価格が付きます。
同時代のアイウェアブランドとの位置づけ
同時代で並べやすいアイウェアブランドは、Linda Farrow (1970 年創業、英国)、Oliver Peoples (1986 年創業、米国)、Akoni Group のラグジュアリー・ブランド群、そして近年の独立系 Jacques Marie Mage (2014 年創業、米国)、Akila (2015 年創業、米国)、PROJEKT PRODUKT (2014 年創業、韓国) です。
これらと並べたときの Gentle Monster の独自性は、創業 14 年で世界 17 ヶ国に直営店舗を展開し、しかも各店舗が現代美術館に近い空間体験を提供する点にあります。多くのアイウェアブランドが「商品の良さ」 で勝負する中で、Gentle Monster は「ブランドそのものを芸術作品として運営する」 という新しい産業モデルを実現しました。










