Stefan Cooke(ステファン・クック)は、Stefan CookeとJake Burtの2人が2018年にロンドンで立ち上げたメンズウェアブランドです。アーガイル柄のニットや、破れやほつれを写実的に描き込んだトロンプルイユ(騙し絵)のシャツが代名詞で、”退屈”とも言われがちな英国の定番アイテムを、素材と縫製の精度だけで塗り替えていく手法に特徴があります。旧版の記事には、2021年にLVMH Prizeのファイナリストに選ばれたという記述や、米国メトロポリタン美術館のコスチューム・インスティテュートに作品が永久収蔵されたという記述がありましたが、公式サイトなどの一次情報を確認したところ、LVMH Prizeのファイナリスト選出は正しくは2019年で、Met Museumへの収蔵については裏付けとなる一次情報を確認できませんでした。本稿ではこうした点を一つずつ確認し直しながら、Stefan Cookeの歩みと現在地をお伝えします。
創業者2人と創業経緯 — Central Saint Martinsとライム・リージスの夏
Stefan CookeとJake Burtは、ロンドンのCentral Saint Martins(CSM)のMA Fashionコースで出会いました。在学中、Stefan Cookeはテキスタイル(素材加工)を専門に学び、Jake Burtはウィメンズウェアとパターンカッティングを専門に学んでいたとされ、卒業後にそれぞれの専門性を持ち寄って一つのブランドを立ち上げるという流れが、Stefan Cookeというブランドの土台になっています。2017年2月、CSMのMAファッションショーで発表したStefan Cookeの卒業コレクションは、アーガイル柄のセーターやロールネック、オーバーコートといった、ともすれば”地味”と評されかねない英国の定番アイテムを、写実的な写真プリントを伸縮性のあるエラスティック素材に施すことで視覚的な錯覚を生み出す手法で再解釈したもので、この年のCSM MAファッションショーでL’Oréal Professionnel Creative Awardの共同受賞者に選ばれました。
創業までの経緯には、もう一つよく知られたエピソードがあります。CSMのMAコースへの進学にあたって、Stefan CookeはCSM側の奨学金を得られましたが、Jake Burtは奨学金を得られませんでした。学費のための融資を避けたいというJake Burtの事情を受けて、Stefan Cookeは母親と兄弟とともに、英国南部ドーセット州ライム・リージスにあった空き店舗のシーフロント・カフェを、その夏のあいだ丸ごと改装して営業したと報じられています。この夏の共同作業が、8年以上続く二人の協働関係の出発点になったとも語られています。Jake Burt自身は英国南部の出身で、両親が営むマーケットの屋台を手伝いながら育ったとされ、店づくりや商いへの土地感覚は、この生い立ちに根差しているようです。Stefan Cookeについては、2018年当時の業界誌のインタビューで英国南部クロウリー出身と伝えられています。
2018年1月、Stefan CookeとJake Burtは、ロンドン・ファッション・ウィーク・メンズの”MAN”枠(ロンドンの若手支援団体Fashion Eastと当時のTopmanが共同運営していたショーケース)で、Art School、Rottingdean Bazaarとともにランウェイデビューを果たしました。Fashion Eastはこれまでにも、JW Anderson、Martine Rose、Charles Jeffrey Loverboyといったデザイナーの最初の本格的なランウェイの機会を提供してきた育成団体で、Stefan Cookeもこの列に加わったかたちです。デビューコレクションでは、カットアウトを施したタンクトップ、写真をプリントしたテーラリング、パースペックス(アクリル樹脂)を使ったアクセサリーなどが披露され、業界誌からは早くも次のシーズンが注目される存在として取り上げられています。旧版の記事は創業を”2018年”としており、この点は一次情報とも一致しています。ただし、旧版が二人の関係を”1980年代英国生まれ”という共通点だけでまとめ、Jake Burtの役割を単に”経営者”としていた点については、実際の役割分担(Stefan Cooke=テキスタイル、Jake Burt=パターンカッティングとウィメンズウェア)を踏まえると、やや単純化した紹介だったといえます。
Stefan Cookeについては、2018年当時の業界誌のインタビューで英国南部クロウリー出身と伝えられています。
ブランド美学 — トロンプルイユと”退屈”の再解釈
Stefan Cookeのデザインを特徴づけているのは、Stefan Cookeが手がけるテキスタイル加工の技術と、Jake Burtが手がけるパターンカッティングの精度を組み合わせ、”サブバージョン(型破り)””ノスタルジー””アイロニー””贅沢さ”という言葉で説明される世界観です。CSMの卒業コレクションで披露されたアーガイル柄のセーターは、遠目には伝統的な編み込みのニットに見えますが、近づいて見ると柄の一部が”ネガティブスペース(何もない部分)”として編み込まれた透かしになっており、見る角度や距離によって印象が変わる仕掛けが施されています。同様に、Trompe-l’œil(トロンプルイユ、フランス語で目を欺くという意味)の手法を使ったトラウザーやシャツは、デニムなど別の衣類の写真を伸縮性のあるエラスティック素材にプリントすることで、あたかも別の服を重ね着しているかのような視覚的な錯覚を作り出しています。
この手法の背景には、地味で見過ごされがちな英国の定番アイテムのなかにこそ美しさを見出すという設計思想があります。アーガイル柄のセーターやロールネック、オーバーコートといった、”退屈”と評されかねない英国メンズウェアの型を出発点に選び、そこに視覚的なユーモアと精密な技術を注ぎ込むことで、既存の型を壊すのではなく、型そのものの内側から書き換えていくというアプローチです。旧版の記事にあった”安全ピン”を思わせる意匠についての言及は、本稿で確認した複数の一次情報のなかには見当たらず、実際にブランドの代名詞として繰り返し紹介されているのは、アーガイル柄の透かし編みとデニムのトロンプルイユプリントの2つでした。
Stefan Cooke自身がインタビューで語った言葉として伝えられているのが、”800ポンドで売ろうとしている一着の価値を変えられる、たった一つのポイントは生地そのものだ”という考え方です。派手なロゴやシルエットの主張よりも、生地の選定と加工にこそ価格に見合う説得力を持たせるべきだという発想は、Stefan CookeとJake Burtが自分たちのブランドを最初から立ち上げるつもりではなく、”こんなことができたら面白いだろうね”という半ば夢想のような会話から少しずつ具体化していった経緯とも重なります。ハンドクラフトへのこだわりは、パターンカッティングを担うJake Burtの側にも共通しており、二人がそれぞれの専門性を持ち寄って一つの意匠に落とし込んでいく共同作業のプロセスそのものが、ブランドの世界観を支えているといえます。
代表アイテムと受賞歴 — H&M Design AwardからLVMH Prizeまで
Stefan Cookeというブランド名が国際的に知られるようになった最初の大きな出来事は、2018年のH&M Design Awardです。H&Mグループの公式発表によれば、この年のH&M Design Awardは世界各国から選ばれたファイナリストのなかからStefan Cooke(個人名)が選出され、賞金2万5,000ユーロと、スウェーデン・ストックホルムのH&M本社での6か月間のインターンシップ、あるいはこれに代わる助成金2万5,000ユーロが贈られました。旧版の記事もこの2018年という受賞年を正しく記載しており、この点は一次情報と一致していました。
Stefan CookeとJake Burtは、この受賞に先立つ2018年1月のランウェイデビューの時点で、ロンドンの若手デザイナー支援団体Fashion Eastの支援も受けています。翌2019年には、英国のファッション産業団体British Fashion Council(BFC)が運営する若手支援制度BFC NEWGENの支援先に選出されました。同じ2019年、フランスの複合企業LVMHが主催する若手デザイナー向けの賞LVMH Prizeでは、公式サイトのStefan Cookeのプロフィールページが”2019年LVMH Prizeのファイナリスト”と明記しています。旧版の記事は、このファイナリスト選出を”2021年”としていましたが、公式サイトの記載を確認するかぎり、正しくは2019年です。旧版にあった、米国ニューヨークのメトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートの主任学芸員Andrew Boltonの支援を受け、2022年から2024年にかけて作品が同館に永久収蔵されたという記述についても、本稿で確認した公式サイトや複数の業界メディアの記事のなかに、これを裏付ける記述は見当たりませんでした。具体的で説得力のある記述に見えるものの出典が確認できなかったため、本稿ではこの記述を採用していません。
近年の動きとしては、2023年9月、英国のレザーグッズブランドMulberryとのコラボレーションが話題になりました。Mulberryが運営する中古バッグの再流通プログラム”The Mulberry Exchange”から提供された27個のヴィンテージバッグを、Stefan CookeとJake Burtが”Bows(リボン)””Swing(スイング)””Braid(組み紐)””Slash(スラッシュ)”という4つの意匠コードで一点物に組み替えるという企画で、デッドストックのレザーやラグビーシャツをリメイクした大きなタッセルなどが使われました。このコレクションは、2023年9月のロンドン・ファッション・ウィークで発表されたStefan Cookeの2024年春夏コレクションのランウェイでサプライズ発表されています。同時期には、ボタンとストラップだけで留める小さなバッグが、当時営業していたセレクトショップMatches Fashion経由で発売から4時間で100個完売するなど、SNSでの話題性も獲得しました。
直近では、2024年にBFCとVogueが共同運営する新人デザイナー支援基金”BFC/Vogue Designer Fashion Fund”のショートリストにAhluwalia、Chopova Lowena、Clio Peppiatt、Knwlsらとともに名を連ね、同年のThe Fashion Awardsでは”New Establishment Menswear”部門のノミネートを受けています。2025年9月には、ロンドン・ファッション・ウィークでSpring/Summer 2026コレクション”illusion ascends(イリュージョン・アセンズ)”を発表し、写真家Amy Arbusが1980年代のニューヨーク・ダウンタウンで撮影したストリートスナップに着想を得た、ミリタリージャケットとウールのタキシードトラウザーを組み合わせるスタイリングなどが披露されました。会場はロンドン・レスタースクエア近くの書店Tenderbooksが選ばれ、ランウェイ形式ではなく、来場者がその場で受注できる展示形式のプレゼンテーションになっている点も、大規模なショーを開かない近年のStefan Cookeらしい発表の仕方だといえます。
取り扱い店舗としては、ロンドン・銀座・ロサンゼルス・ニューヨークに展開するDover Street Marketをはじめ、香港のJoyce、韓国のHan Styleなど、アジアを含む複数のセレクトショップでの展開が報じられており、ロンドンを拠点にしながらも国際的な販路を築いてきたブランドです。近年では、SNS上でA$AP RockyやKendrick Lamarといったアーティストが私服でStefan Cookeを着用したことも話題になっており、ハイファッションの文脈だけでなく、ストリートやヒップホップの文化圏からも一定の関心を集めている点も、このブランドの特徴の一つです。
どんな人に似合うブランドか
Stefan Cookeが似合うのは、英国の伝統的なメンズウェアの型が好きでありながら、そのままの姿では物足りないと感じている人です。アーガイル柄のセーターやテーラードシャツといった、一見するとオーソドックスなアイテムのなかに、近づいて見ないとわからない仕掛けが仕込まれているという楽しみ方は、パッと見の主張よりも、着る人自身が意匠の由来を語れるという満足感を重視する人に向いています。
一方で、遠目にもわかりやすいロゴやシルエットの主張を求める人には、Stefan Cookeの控えめな仕掛けはやや伝わりにくく映るかもしれません。その場合は、視覚的な錯覚がわかりやすく現れるトロンプルイユのシャツやトラウザーから試してみると、ブランドの手法が直感的に理解しやすくなります。Mulberryとのコラボレーションのように、既存のアイテムをリメイクして一点物に仕立てるという発想に惹かれる人にとっても、Stefan Cookeは相性のよいブランドだといえます。
中古市場でのStefan Cookeの位置づけ
中古市場という視点でStefan Cookeを見るときにまず押さえておきたいのは、このブランドが大量生産を前提にしていない、ワークショップ規模の生産体制で運営されている点です。トロンプルイユのプリントやアーガイルの透かし編みは、いずれも手の込んだ技術を要する意匠であり、シーズンごとの生産数自体が限られています。そのため、日本国内のフリマアプリや古着店でStefan Cookeそのものを頻繁に見かけるという状況ではなく、流通の中心は英国や欧州のセレクトショップ、あるいはVestiaire Collectiveのような海外の委託販売プラットフォームになっているのが実情です。旧版の記事にあった、ニットやシャツ、トラウザーそれぞれの具体的な中古価格帯(円単位の金額)については、裏付けとなる一次情報が確認できなかったため、本稿では採用していません。
中古でStefan Cookeを探す際に注意しておきたいのは、トロンプルイユのプリント面の状態です。写実的な写真プリントは、伸縮性のあるエラスティック素材の表面に施されているため、洗濯やクリーニングの方法によっては、プリントの発色や質感が劣化しやすい部分でもあります。購入前には、プリント部分のひび割れや色あせがないかを確認しておくと安心です。また、Mulberryとのコラボレーションのように、既存の他ブランドの製品をStefan Cookeが組み替えて一点物として仕立てたアイテムも存在するため、タグの表記や販売元の説明を確認し、どちらのブランドの製品として扱われているものかを見極めることも大切です。ワークショップ規模の生産という背景を踏まえると、こうした一点物・少量生産のアイテムほど、真贋の見極めに販売元の説明が重要になってきます。
もう一つの入手経路として押さえておきたいのが、Jake Burtがロンドンの自社スタジオ1階で不定期に営業している”Jake’s”です。二人が週替わりで手がける一点物や、アーカイブのサンプル、交流のあるクリエイターの作品などを扱う、ギャラリーのような小さな店舗で、土曜日の営業がInstagramで告知されるという運営形態が伝えられています。ここで扱われるのは基本的に新品のサンプルや一点物ですが、Stefan Cookeというブランドが大量生産のリテールとは異なる距離感で自分たちの作品と向き合ってきたことがうかがえる場でもあり、ブランドの背景を理解しておくと、フリマアプリや古着店で個体を選ぶ際の判断材料も増えます。国内で実物を確認できる機会自体が少ないぶん、購入前に生地の質感やプリントの精細さを画像でよく確認しておくことをおすすめします。
よくある疑問
Stefan CookeがLVMH Prizeのファイナリストに選ばれたのは何年ですか
LVMH Prize公式サイトのStefan Cookeのプロフィールページによれば、正しくは2019年です。旧版の記事にあった”2021年”という記述は、一次情報を確認するかぎり誤りでした。
Jake Burtの役割は経営者ですか、デザイナーですか
Jake Burtは、Stefan Cookeとともにブランドを共同創業したデザイナーの一人です。CSMのMAコースではウィメンズウェアとパターンカッティングを専門に学んだとされ、Stefan Cookeが手がけるテキスタイル加工と組み合わさって、ブランドの意匠を形作ってきました。旧版の記事は役割を”経営者”とだけ紹介していましたが、実際にはデザイン面でも中心的な役割を担っている人物です。近年は、ロンドンの自社スタジオの1階で”Jake’s”という不定期営業のセレクトショップも手がけています。
中古でStefan Cookeを選ぶときに注意すべき点はありますか
トロンプルイユのプリント部分の状態(ひび割れや色あせの有無)を確認することが第一です。生産数自体が限られているブランドのため、国内での流通量は多くなく、海外の委託販売プラットフォームやセレクトショップ経由での入手が中心になる点も踏まえておくとよいでしょう。Mulberryとのコラボレーションのような他ブランドとの共同制作アイテムは、タグの表記を確認して、どちらのブランドの文脈で扱われている製品なのかを見極めることをおすすめします。
Stefan CookeのMulberryコラボレーションはどこで手に入りますか
2023年のコラボレーションは、ヴィンテージバッグ27個を一点物にリメイクしたという性質上、そもそも同じ個体が複数存在しないアイテムです。発表当時にMulberryの店舗やオンラインストアで販売されたのち、現在流通しているとすれば、その後の転売や委託販売という経路が中心になります。価格帯やタグの表記も一点ごとに異なるため、購入を検討する場合は、販売元にどのバッグを土台にした個体かを確認しておくと安心です。
まとめ — Central Saint Martinsから2018年創業、8年の現在地
Stefan Cookeの歩みを一次情報で確認し直すと、Central Saint Martinsで出会ったStefan CookeとJake Burtが、2017年の卒業コレクションでの評価を経て2018年にロンドンでブランドを立ち上げ、同年のH&M Design Award、2019年のBFC NEWGEN支援とLVMH Prizeファイナリスト選出という節目を重ねながら、アーガイル柄の透かし編みとトロンプルイユのプリントという独自の意匠を育ててきたことが見えてきます。旧版の記事にあった”2021年LVMH Prizeファイナリスト”という記述や、メトロポリタン美術館への作品永久収蔵という記述は、一次情報を確認するかぎり事実と異なるか、裏付けが確認できなかったため、本稿であらためて整理しました。2023年のMulberryとのコラボレーションや、2024年のBFC/Vogue Designer Fashion Fundショートリスト、2025年のSpring/Summer 2026コレクション”illusion ascends”まで、ワークショップ規模の生産体制を保ちながら独立経営を続けてきたStefan Cookeの現在地を踏まえたうえで、中古でのアイテム選びにも役立ててみてください。











